『Apex Legends』は従業員の過労を避けるため、週次アップデートを行わない。『フォートナイト』とは異なる運営方針

『Apex Legends』が週次でコンテンツ追加を行わないのは、従業員の過労を避けるためだと、『Apex Legends』の開発元RespawnのCEO Vince Zampella氏は語る。

Apex Legends』の開発元として知られるRespawn EntertainmentのCEO Vince Zampella氏が、同作において『フォートナイト』のような、1~2週間ごとのコンテンツ追加アップデートを行わない理由を語った。4月23日、米国ロサンゼルスにて開催された「GamesBeat Summit」のパネルセッションに登壇したZampella氏は、コンテンツの追加は数か月ごとのシーズン単位で行うよう、開発当初から計画していたと説明。理由としては、開発スタッフに健全な生活を送って欲しいという想いがあるからだと述べている。

 

Quality of Lifeを考慮

Zampella氏は、『Apex Legends』においても『フォートナイト』のような週間ペースでのコンテンツ追加を求める声が多いと前置きした上で、「開発チームの過労は避けたいんだ。配信を急ぐことでコンテンツの品質を下げたくもない」と語っている。その前提を維持した上で、まずは開発リソースをバグ修正やプレイ体験の改善に当て、それからコンテンツを追加していく予定であるとのこと。『Apex Legends』の運営についてZampella氏は、「大量の弾丸ではなく1発の爆弾」をシーズンごとに落とすと表現している。ただ、コンテンツ配信の優先順位やペース、シーズンの長さについては、まだ試行錯誤している最中だという。

どう運営を進めていくのか社内で議論が進められている段階であることから、ここ最近はプレイヤーとのコミュニケーションが少なめになっていたと説明。そのためコミュニティでは不満が溜まりつつあるが、今後はよりコミュニケーションを活発にし、透明性を改善していきたいと述べている。なおシーズン1についてはコンテンツが少なすぎたと感じており、シーズン2ではより多くのコンテンツを提供するとのことだ。

パネルセッションでは他作品との比較も話題にのぼり、『フォートナイト』がソーシャルプラットフォーム寄りのゲームであるのに対し『Apex Legends』はコア向けのゲームであるという違いや、『フォートナイト』よりも『PUBG』『Call of Duty:Black Ops 4』のブラックアウトモードから来るプレイヤーの方が多いといった印象を述べている。また余談ながら、「どの地域からのアクセスが多いですか」との質問に対しては、「今どうなっているかはわからないけれど、ローンチ当初のプレイヤー分布図を眺めていて、マダガスカルで1人だけプレイしているのを見つけて驚いたのを覚えているよ」と語っている。

 

怒涛のアップデートで突き進む『フォートナイト』

※『フォートナイト』では昨年に続き、「アベンジャーズ」とのコラボ企画を実施予定

Zampella氏がパネルセッションに登壇した同日には、『Apex Legends』と同じ基本プレイ無料のバトルロイヤルゲーム『フォートナイト』の運営元Epic Gamesについて、現・元従業員の証言をもとにした告発記事が公開された(関連記事)。開発チームは土日返上のほぼノンストップで働き続けており、週100時間以上の労働を継続的に行なっている者もいると報じられている。

調査会社SuperDataによる『フォートナイト』の2018年推定収入は、他作品を寄せ付けない10億ドル(約1120億円)。その力強い運営力によりEpic Gamesの企業評価額は50億~80億ドルにまで押しあがった(関連記事)。だが、累計プレイヤー数2億人を超える超大作を維持し、週間ペースで発展を続ける上では、犠牲も払われているのだと考えさせてくれる報道内容であった。

怒涛のアップデート頻度によりプレイヤーを楽しませ続ける『フォートナイト』。比較的控え目のアップデート頻度とともに運営される『Apex Legends』。同じバトルロイヤルゲーム、同じ基本プレイ無料モデルでも、異なる運営方針を掲げていることが分かる。

 

インフルエンサーを囲い込みロケットスタート

2月4日に発売された『Apex Legends』は最初の3日間で累計プレイヤー数1000万人、1か月で累計プレイヤー数5000万人に到達。このロケットスタートを受けて、EAの株価は作品の発売から3日間で16%上昇した。調査会社SuperDataによる推定初月収入は9200万ドル(約103億円)にも及ぶ(ESPN)。なお同月の『フォートナイト』の推定収入は3億ドル(約336億円)である。

『Apex Legends』においてはインフルエンサーの囲い込み戦略が採用され、NinjaことTyler Blevins氏に100万ドル(約1.1億円)が支払われたと報じられている(Reuters)。これはNinja氏の月間収入の倍以上のオファーとのこと。そのほかshroudことMichael Grzesiek氏やDr.DisrespectことHerschel Beahm氏など、これまでバトルロイヤルゲームやマルチプレイFPSを配信してきたストリーマーを複数取り込んでいった。

同作のリードプロデューサーであるDrew McCoy氏は当時、「私たちは、ゲームに興味のある人であれば『Apex Legends』の話題から逃れられないような日をつくりたかったのです。その日に、世界規模のイベントが起きているような感覚を生み出したかったのです」「人々が『Apex Legends』を目にするよう、欧州、ラテンアメリカ、北米、韓国、日本と、世界中のストリーマーにゲームを配信してもらったのです」と述べている。極めて優秀なインフルエンサー・マーケティングにより、EA/Respawnの狙いどおり『Apex Legends』は一気にその名を広めていった。

 

健全運営でどこまでいけるのか

だが人工的に生み出されたTwitch人気には限界があり、人気ストリーマーたちがゲームを去り出した3月以降はTwitch視聴者数が急減していった(関連記事)。今では安定した人気を誇る『フォートナイト』が首位に戻っている。もちろん、契約終了後も『Apex Legends』を配信し続けることはできたはず。その点、先述したDr.Disrespect氏は度々『Apex Legends』の未来を憂う発言を繰り返している。氏は本作について、面白いゲームではあるが、不評なアップデートにより人気が廃れていったPC版『H1Z1』(現『Z1 Battle Royale』』)と同じ運命をたどりかねないと語っている。

Dr.Disrespect氏自身が『Apex Legends』を遊ばなくなった理由としては、「面白いゲームだけど、未完成品のような感じがするんだ。デモを遊んでいるような感覚に近いよ。好きだけど、デモ版を長時間遊ぶことはできない。だから完成品が欲しいんだ。複数のマップ、沢山のレジェンド。ゲームでより多くのことが起きていて欲しいんだ」と感想を述べていた(Dexerto)。

2月4日に配信が開始されてから『Apex Legends』に追加されたのは、新武器と新レジェンドそれぞれ1種。バトルパスの報酬内容についても、『フォートナイト』といった他作品と比べて満足度が低いとの指摘があがっている。ゲーム内ストアの商品ローテーションも、日に日に新商品が投入される『フォートナイト』とは違い週次ペースで、回転速度が異なる。

毎日長時間ゲームをプレイし続ける人気ストリーマーを含め、継続的に遊んでもらえるようプレイヤーをとどめるには、もっと多くのコンテンツが、品質改善が、チーター対策が必要。とくに『フォートナイト』という巨頭がとんでもない速さと量のコンテンツアップデートを繰り返している現在では、プレイヤーから求められるスピード感やコンテンツ量の水準は高まっている。

だが『フォートナイト』と同じペースでアップデートをかけることは難しいし、Respawn自身もそうするつもりはない。ゆえに『フォートナイト』のようなスピード感のある運営を『Apex Legends』に期待するのは酷だろう。とはいえ、アップデート頻度の低さはプレイヤー離れにも繋がる。開発チームとして持続可能なゲーム運営を目指すRespawnは、長期的に見て果たしてどのような結果を残すのだろうか。

Ryuki Ishii
Ryuki Ishii

元・日本版AUTOMATON編集者、英語版AUTOMATON(AUTOMATON WEST)責任者(~2023年5月まで)

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