『フォートナイト』の成功は、終わりなきデスマーチに支えられていた。土日返上で行進を続けるライブサービス時代の申し子

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海外では近年、『Anthem』を手がけるBioWareの開発難航と過酷な労働環境関連記事)、『League of Legends』のRiot Gamesにおける性差別文化(関連記事)といったゲーム業界に蔓延る問題が、現・元従業員による告発記事として続々と暴かれていっている。告発者は企業の機密情報をリークしていることもあり、こうした報道には眉をひそめる読者もいる。一方で、上述したBioWareとRiot Gamesのように、記事の公開を受けて指摘対象となった企業が改善に向けた取り組みを発表するケースがあるのも事実。告発記事はゲーム業界に確かな影響を与えてきた。

そしてこのたび、海外メディアPolygonが、現在のゲーム業界を代表する作品のひとつフォートナイト』の運営会社Epic Gamesに関する告発記事を公開した。Polygonは数か月間にわたり、マネージャー職を含む現従業員および元従業員を対象としたインタビューを実施。そこから得られた証言から、とどまることを知らない『フォートナイト』の人気や、膨大な収益、ライバルを寄せ付けない圧倒的なゲームの更新速度は、何か月にもわたる過酷なデスマーチ(Crunch)により支えられていると結論付けられている。

 

休むのは現実的ではない

絶えず更新され続けるライブサービスゲームの行進譚

匿名という条件のもとインタビューに応じたEpic Gamesの現・元従業員たちは、週70時間労働、従業員によっては週100時間労働が当たり前であると答えている。長時間労働は明確には強制されておらず、いつでも休んでいいと言われているものの、与えられた業務量と納期を考えると、現実的には休める環境ではなかったとのこと。職を失いたくなくば、死の行進に参加せざるを得ない。「土曜日に休むと、罪悪感を覚えるんだ。こんな働き方を強要されているわけではないけれど、こうでもしないと仕事が終わらない」。また、土日に休んだことで納期に間に合わなかった従業員は、解雇されていったという。ただ、残業代はしっかり払われていたとのこと。

Epic Gamesも、長時間労働自体は否定していない。100時間を超える過重労働については、「極めて稀なケース」であるとして、発生した際には再発防止のため対策を取っているという。また過酷な労働に対処すべくチーム規模の急速な拡大、計画策定過程の改善、夏期・冬期の2週間にわたる強制休暇など、さまざまな方面から手を打っている説明している。ゲームの週次アップデートも、途中から2週間スケジュールに切り替わっ。問題意識を持ち対策を取っていること、また告発報道に真っ向から回答している姿勢は評価できるだろう。しかしながら告発者の多くは、そうした施策を持ってしても、スケジュールの過酷さはさして変わらなかったと語っている。

QAやカスタマーサポートのコントラクター(業務請負人も、明言こそされないが、実質的な長時間労働の強要により健全とは言えない労働環境下で働いてきたという。1日の労働時間が8時間に達した時点で、残業が必要か上司に確認を取ると、当たり前だろというような顔で見られると、Polygonに語る者もいる。始めのうちはカスタマーサポートとして12040件の問い合わせに対応していたが、作品の急激な人気上昇にともない、1人あたりの対応件数が1200件に膨れ上がり、稼働時間が長くなっていったと説明する者もいる。

また、長時間労働を拒むコントラクター首を切られていくとのコメントも寄せられている。多くはそれを暗黙の了解として理解したうえで働いている。この点についてもEpic GamesPolygonにコメントを寄せており、コントラクターの契約期間は通常612か月で、「契約更新は、納品物の品質や、特に納期が重要となる状況において間に合わせられるように働く意志があるかどうか」を基準に判断していると説明している。またコントラクターの平均残業時間は週5時間未満であるとも主張している。

 

終点のないプロジェクト

サバイバルキャンペーン「世界を救え」として始まった『フォートナイト』

AAA級タイトル開発における、労働環境関連の告発は目新しいものではない。ただゲームの完成という明確な区切り目のある大型タイトルとは異なり、『フォートナイト』のような長期運営、それも週次ペースでアップデートを行っているライブサービス型のゲームには終点がない。終わりなきデスマーチを行進することになる。それは一部の従業員にとってかなりのストレスとなったようで、Polygonの取材に応じた従業員のひとりは、「最大の問題は、絶え間なくゲームをアップデートし続けなくてはいけないことです。会社の上層部は『フォートナイト 』の人気を1日でも長く維持することを求めています。競争相手が増えつつある今の状況では、特にそうです」答えている。

またEpic Gamesは以前より、こうしたライブサービス型タイトルの長所として、プレイヤーのフィードバックに応じて素早く軌道修正したり、求められているコンテンツをすぐに提供できることだと伝えてきた。それは開発チームからすると、短期スパンで何度も予定変更を繰り返しながら、1日単位で休むことなく明確な結果を出し続けることを意味する。

 

クランチーな人生

Epic Gamesでの業務は確かに過酷かもしれないが、上述したように告発者も残業代は出ていたと述べているほか、かなり高額な給与・ボーナス、キャリアアップのチャンスなどが与えられていたとも添えられている。長時間勤務の多い「クランチーな人生Crunchy life」ではあるが、ほかの企業では到底得られないような莫大なサラリーが待っている。デスマーチに終わりはないが、「ボーナスをもらえるまで頑張ろう」と割り切って働く者も多いという。財力のある企業だからこそ、成し得る技だろう。

Polygonにコメントを寄せたEpic Games、バトルロイヤルモードの爆発的人気はEpic Games自身の予想を大幅に超えるものであり、ゲームのさらなる成長のため、そしてゲームの勢いを維持するため、開発規模を急速に拡大してきたと述べている。『フォートナイト』が2017年にリリースされてからフルタイム勤務の従業員の人数は2倍にまで増加。「増員にあたり制限となるのは財務的要因ではなく、優秀な従業員を探し出戦力化する速度」であると説明している。

ただ、お金だけですべてが解決するはずもなく、最初は平気だった従業員も、長時間労働により徐々にイライラし始め、ある日職場を去りそのまま二度と姿を現わすことなく消えていく。告発者のひとりは、そんなケースを複数見てきたと話している。これはゲーム業界に限らずとも、読者の中にも身近で似たような状況に出くわした方は少なからずいるのではないだろうか。

 

ライブサービスの代償

『レッド・デッド・リデンプション2』

Epic Gamesに長年務める告発者の中には、『フォートナイト』が成功する前はここまで激しい労働環境ではなく、必要な時だけ残業していたと述べる者もいる。単純に準備期間が月単位から日単位にまで圧縮されたため、長時間労働は避けられなくなる。次のアップデートで実装する新コンテンツ・新機能は次々と公表されていくため、逃れることはできない。

Epic GamesCEOであるTim Sweeney氏はかつて、短いスパンでプレイヤーのフィードバックに応えられるライブサービス型のゲームは、ゲーマーと開発者の双方にとって最善の選択であり、かつて同社が手がけていたような売り切り型のゲームはもう作らないと語っていた(関連記事)。『フォートナイト』の成功ぶりを見ると、それはプレイヤーとして、そして収益を追い求める企業として十分に説得力のある言葉であり、今でもその正しさ実践され続けている。今回の告発者コメントの中にも、確かにリリース初期は「グローバル規模のオンラインゲーム運営」という、企業としての新しい挑戦にモチベーションを高めていたと語るものがあった。だが時が流れるにつれて、エンドレスなデスマーチが待っているという現実が、重くのしかかってい

ゲーム業界では近年、BioWareRockstar GamesTelltale GamesCD Projektといった大手デベロッパーに関するデスマーチ(Crunch)告発が増えつつあり、ゲーム業界として労働組合・ユニオン結成を呼びかける運動強まってきている。201812月には英国初のゲーム業界ユニオン「Game Workers Unite」が誕生した(Rock Paper Shotgun)。特に正社員ではないコントラクターは立場がかなり弱く、その様子は今回の告発でも垣間見れる。労働組合・ユニオン発足に向けた運動、そして次々と公開される告発記事。これらの流れから、今後Crunchは、ますます許容されにくい文化になっていくのではないだろうか。

今回指摘対象となっEpic Gamesは、その圧倒的なゲーム運営力により、全世界のゲーマーを現在進行形で魅了し続けている。先日には、『Apex Legends』の登場により一時期3位にまで落ちていた『フォートナイト』のTwitch視聴者数ランキング、再び首位に戻ったと報じられたばかり。世界規模のムーブメントになるほど多くの人々に、継続的に愛されている。だが、『フォートナイト 』流のゲーム運営が果たして「開発者」にとっても最善と言えるのか、立ち止まって考えさせてくれる告発内容ではあった。少なくとも現時点では、開発者にとって最善の運営方法であると、すんなりと肯定できる段階には達していないのかもしれない。

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