恐竜サバイバル『ARK: Survival Ascended』開発者、「Unreal Engine 5.7は特効薬だ」と新バージョンを称賛。“最適化不足”のイメージ払拭なるか
Unreal Engine 5.7では大幅なパフォーマンス向上が報告されており、『ARK: Survival Ascended』の開発者もこれを評価している。

Epic Gamesは11月12日、Unreal Engine 5.7をリリースした。同バージョンでは大幅なパフォーマンス向上が報告されており、『ARK: Survival Ascended』を手がけるStudio Wildcardの共同設立者もこれを評価。2026年3月に実戦投入する計画を明かしている。海外メディアWccftechが伝えている。
Unreal Engine(以下、UE)はEpic Gamesが開発するゲームエンジン。フォトリアルな美麗グラフィックが特徴で、大手スタジオを中心に多くのプロジェクトで採用されている。Unityと並んで業界標準ともいえるゲームエンジンだ。2022年4月に正式リリースされた最新メジャーバージョンであるUnreal Engine 5(以下、UE5)では、高解像度の3Dモデルを高速でレンダリングする仮想化ジオメトリ技術「Nanite」や動的なグローバルイルミネーションおよび反射を実現する「Lumen」といった新機能を搭載。さらなる品質向上や開発の効率化をもたらしている。

そんなUE5の新バージョンであるUnreal Engine 5.7(以下、UE5.7)が今年11月にリリースされた。UE5.7ではまず、新たにNaniteを用いた植生レンダリングシステム「Nanite Foliage」が導入。Assemblies/Skinning/Voxelsという3つの統合システムを組み合わせて、アニメーション付きの草木を高いフレームレートで描写することが可能となった。そのほか、UE5.2からテストが開始されたプロシージャルコンテンツ生成フレームワーク(PCG)が製品版に移行。細かな変更も多く含まれる大規模なアップデートとなっている。
PCゲームのベンチマーク動画を投稿するYouTubeチャンネルMxBenchmarkPCは、Scans Factoryが制作したデモプロジェクト「Venice – Italian City」を、UE5.4およびUE5.7でテスト。解像度や天候などの条件を変えながら比較している。投稿者によると、UE5.7ではGPU パフォーマンスが最大25%向上。GPUの消費電力が上昇し、GPUリソースをより有効に使えるようになっているという。さらにCPUでは最大35%の大幅なパフォーマンス向上が見られ、カクつきが減るとともにフレームレートが安定しているとのこと。また画質の面では、Lumenのノイズ低減の改善はわずかながら、反射の品質とパフォーマンスが向上しているという。
ところで、UE5は高品質なグラフィックなどが注目を集める一方、パフォーマンス面での課題も存在する。特にUE5製のゲームは最適化不足が問題視される作品が多く、最適化不足の原因がUE5にあるとする憶測も一部ユーザー間には根付いている状況だ。こうした反応に対しては、Epic GamesのCEOであるTim Sweeney氏が、開発の順序に原因があるとする反論をおこなっていた(関連記事)。
そんな最適化不足に苦しんだ代表的な作品が、『ARK: Survival Ascended』だ。同作は、2017年に正式リリースされた『ARK: Survival Evolved』をUE5で再構築した作品。2023年10月より早期アクセス配信が開始されるも、主に最適化不足やサーバーの不具合を理由として評価を大きく落とし、改善に向けた対応に追われていた(関連記事)。そして今回、UE5.7における改善点について、『ARK: Survival Ascended』を手がけるStudio Wildcardの共同設立者であるJeremy Stieglitz氏が、Wccftechの取材に答えた。

現在では少しずつ評価を取り戻しつつある『ARK: Survival Ascended』について、Stieglitz氏はパフォーマンスの向上が大きな要因だと話している。同作では現在UE5.5を使用しているが、UE5.7を用いたビルドもテスト中で、2026年3月にエンジンのアップグレードを予定しているとのこと。UE5.6での改善も含めると、おおよそ30%から40%のパフォーマンス向上が期待できるそうだ。同氏はUE5.7でNanite Foliageが実装されたことにより、既存のマップのパフォーマンスが約30%向上しているといい、「as close to a magic bullet(まるで特効薬だ)」と発言。(アップデートが)純粋に得でしかないレアなケースであるとして、UE5.7を評価している。
ただしUE5.7はUEが抱える問題をすべて消し去るわけではない様子。Stieglitz氏いわく、UE5におけるカクつきには2つの要因があるという。1つ目は特に『ARK: Survival Ascended』において顕著なパターンで、アクタ(オブジェクト)の生成処理がマルチスレッド化されていないことが原因であるという。『ARK: Survival Ascended』のようなオンラインゲームでは、新しいエリアに建てられている巨大な拠点などのデータも受け取ってすぐロードしないといけない一方で、UE5はネットワーク経由のアクター生成とマルチスレッド処理を苦手としているとのこと。そのため、大量のアクタをまとめて受け取った際にはどうしてもカクつきが発生してしまうようだ。

対して、ワールドのバックグラウンドでの読み込みに原因があるパターンも存在。UE製ゲーム特有の問題としては、シェーダーキャッシュに関連したものが挙げられるという。事前にシェーダーコンパイルをおこなわない場合、中間コードからその場でシェーダーコードを生成することになり、このGPU固有のリアルタイム処理がPCのフリーズを招く可能性があるそうだ。とはいえ、『ARK: Survival Ascended』のようにコンテンツが膨大すぎる場合には、時間がかかりすぎるという点で事前コンパイルが現実的ではない模様。UE5の初期からはかなりの改善が見られているというが、すべてのシェーダーを事前コンパイルしない限りは、ある程度のカクつきは付きまとうとStieglitz氏は考えているそうだ。
最適化の難しさが指摘されることも多いUEだが、UE5.7では大幅なパフォーマンスの改善が報告されており、状況の改善に期待が寄せられている。今回はUE製ゲームとして苦しいスタートを切った『ARK: Survival Ascended』の開発者から、UE5.7への期待と、依然として残るUEの課題が語られた。なおStudio Wildcardは、2028年のリリースを目指す続編『ARK 2』の新要素を『ARK: Survival Ascended』にてテストしていく方針も明かしている(関連記事)。ゲームエンジンの改良とともに歩む作品の開発の行方にも注目だ。
『ARK: Survival Ascended』はPC(Steam)/PS5/Xbox Series X|S向けに早期アクセス配信中だ。
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