公式日本語対応・極太中世シミュレーション『クルセイダーキングス Ⅲ』は、「人間関係」が楽しい(?)ゲーム。ストレスを抱える盟主としてドロドロ中世で好き勝手生きろ

『CK3』では「息子が不倫スキャンダルで王国大混乱、しかも相手は妹」「跡継ぎとして大事に育てた子どもが、自分の子じゃなかった」なんて波乱が楽しめる。

スウェーデンに拠点を置くゲーム会社Paradox Interactive(以下、Paradox)はさまざまなゲームを送り出しているが、代表的なのは歴史ストラテジーゲームのシリーズだろう。同社の戦略ゲームは他に類を見ないほど多くの要素が盛り込まれており、ファンを惹きつけ続けている。Paradoxの“沼”にハマり、膨大な時間を捧げている人間も少なくない。かくいう筆者もそのひとりだ。

Crusader Kings III(クルセイダーキングス Ⅲ)』(以下、CK3)は、そんなParadoxの看板ゲームのひとつだ。今年の10月29日にPC版向けに配信された大型アップデートで日本を含む東アジア地域がマップに追加され、さらに公式日本語対応もおこなわれた。日本のプレイヤーとして親しみやすくなっており、この機会に同作に興味をもった人もいるだろう。一方で、“パラドゲー”になんとなく敷居の高さを感じ、二の足を踏んでいる人もいるかもしれない。

筆者が本稿で主張したいのは、『CK3』はParadoxの作品のなかでも、ちょっと特殊な立ち位置にいるということだ。純粋なストラテジーゲームとは少し目線が異なっており、RPGに近いところがある。ほかのストラテジー作品のような感覚で遊ぼうとすると、戸惑いがちなタイトルかもしれない。歴史を題材にした作品なのは確かだが、むしろ「“パラドゲー”は歴史に詳しくないと楽しめないのでは」と思っている人にこそ、オススメしたい作品だ。

あえて言い切ってしまうと、本作は戦略を練るゲームではなく、人間ドラマを楽しむゲームなのだ。領土拡張を目指すというより、その過程で生じる人間関係のいざこざやトラブル、挫折や達成した偉業などを鑑賞して楽しむのが目的となる。中世であろうと現代であろうと、人間の感情や欲望というのは大差はない。

もちろん歴史に通じているとニヤリとできる要素があるのは確かだ。中世ヨーロッパや平安時代の日本のファンなら、登場人物の生死や国の興亡で一喜一憂できるだろう。しかし歴史要素は本作の魅力のひとつではあっても、本質的な部分ではないと筆者は考えている。本稿ではそんな『CK3』の魅力を、かれこれ20年ほどParadoxの沼にハマり続けている筆者がお伝えする。

キャラクターの視点で一族の興亡を見守る

まずざっくりとシステムを紹介すると、『CK3』は国や勢力ではなく、キャラクターの視点でプレイする作品となっている。プレイ中にはさまざまなイベントが発生し、戦争で領地を争ったりするだけでなく、個人の視点から中世生活を楽しめる。そして結婚して子どもをもうけ、寿命が来たら嫡子へとプレイヤーキャラクターを交代する。そうして数百年に渡ってプレイを続けながら、一族の興亡を見守っていく。

開始年代として3つの年代が存在し、西暦867年・1066年・1178年の3つのシナリオが用意されている。プレイヤーは自分のキャラを、それぞれの年代を生きる領主たちから自由に選ぶことができる。独立勢力だけでなく、王などに仕える臣下も選択でき、選択肢は膨大だ。さらにキャラクターエディットも可能で、作成した架空の人物をマイキャラクターとしてプレイすることもできる。

キャラクターの選択肢は無数にあるが、途方に暮れる心配はない。本作では各年代と地域ごとに、オススメのキャラがピックアップされているのだ。たとえば867年シナリオのヨーロッパではアルフレッド大王が紹介されている。彼はイングランド史上屈指の名君として名高い人物。外にはヴァイキングと戦って勝利し、内には学問を振興して善政を敷き、イングランド発展の基礎を築いたと伝えられている。オススメシナリオでは、まだ18歳の若きアルフレッドとしてプレイし、中世世界を自由に生きることができる。ここからはアルフレッドでのプレイを通して、本作で味わえる体験の一部をご紹介しよう。

能力も性格も千差万別

史実の業績を反映して、アルフレッドの能力値は極めて高い。『CK3』は膨大な数のキャラクターが登場するゲームであり、867年シナリオではゲーム開始時点で約3万人のキャラクターが存在している。しかしそのなかでも、アルフレッドは全能力値の合計でトップ。世界で一番有能な人物と言っても過言ではない。

しかし、そんなアルフレッドならなんでもできるか、というとそうでもない。それは本作の性格システムが関係している。本作ではすべてのキャラクターに最低3つの性格特性が割り振られており、それに応じてゲーム内の挙動が変わってくるのだ。アルフレッドの性格特性は「正直」「公正」「社交的」「勤勉」の4つ。好人物を体現したような性格だが、本作の舞台は権謀術数うずまく中世。正直で公正というのが常に有利に働くとは限らない。

開始時点のアルフレッドは、兄であるエゼルレッドの臣下というかたちになっている。兄は広大な領土を統治しているが、アルフレッドに与えられている土地はわずか。しかし開始時点では兄には子どもがおらず、アルフレッドが第一後継者ということになっている。兄がなんらかの理由で亡くなれば、アルフレッドが広大な領地を相続できるというわけである。実際史実では数年後にヴァイキングとの戦いで兄が戦死し、アルフレッドが跡を継いで王になっている。

しかし本作でもそう都合よく兄が死んでくれるとは限らない。もし兄に子どもができれば継承権はそちらに移り、アルフレッドが相続できる確率は非常に低くなる。こういった状況を“解決”するため、本作には暗殺コマンドが用意されている。封建制の中世らしく、縁戚に基づく継承権と領地の相続がシミュレートされているため、戦争しなくとも一人か二人暗殺するだけで領土を得られることがあるのが本作の特徴的なところだ。

正直で公正なのが、いいことだとは限らない

しかしここで立ちはだかるのが、先述のアルフレッドの性格である。本作ではキャラクターにストレス値というものがあり、性格に反する行動をさせるとストレスが溜まってしまう。そしてストレスが溜まるとキャラにさまざまな悪影響が生じ、最悪の場合は自殺におよぶこともある。公正で正直なアルフレッドは、兄の暗殺のような陰謀は猛烈に嫌う。実際に計画を練りだすと「こんなことは許されない」と懊悩するイベントが発生し、ストレスがどんどん溜まっていくのだ。

つまり本作では操作中のキャラクターの性格を考慮して、実際にプレイヤーがとる戦略を練る必要がある。言い換えると、ゲームシステムとしてキャラクターになりきって遊ぶロールプレイが推奨されているのだ。ストラテジーゲームにありがちな“神の視点”ではなく、キャラクターの目線を通してプレイするかたちとなり、中世を実際に生きているような没入感が生まれていく。これこそが『CK3』はRPGに近いと言った理由である。

穏やかで平凡な領主生活

今回のプレイでは陰謀は企まず、兄の忠実な臣下としてプレイしてみることにする。各地の騎士を招聘して軍を強化し、攻め寄せてくるヴァイキングと戦いながらイングランドを守る。私生活では妻との仲も良好で、子どもも複数誕生。アルフレッドのストレス値はゼロで、現状の生活に何の不満もないようだ。

しかしプレイヤーとしては少し不満である。兄は長生きし、跡継ぎも生まれてしまっている。イングランド王になるのは絶望的だ。せっかく世界で最も優秀な人物を主人公にしたのに、兄を影から支えた家庭的なナイスガイで終わってしまいそうである。大きなことを成し遂げてみたいが、チャンスが訪れない。

そうして悶々と日々を過ごしているとある日、ローマ教皇にイタリア王になる権利を請求できるという情報が入る。なんでも今のイタリア王は幼年でその座にふさわしくないと教皇は考えており、代わりに王になれる人間を探しているのだとか。アルフレッドは教皇から好感を抱かれており、望むなら王になるお墨付きを得られるという。

個人の好き嫌いで国が動く時代

本作ではすべてのキャラクターが互いに好感度を抱いており、ゲーム内のさまざまな行動の判断に影響を与える。たとえばある国と国の君主同士が仲が悪い場合、戦争が起きる可能性が高まる。そして教皇が特定の人物を嫌っていると、その人物を破門したり、他国に対して侵略許可を与えたりすることがある。宗教が非常に大きな力をもっており、権力者の個人的な好き嫌いで情勢が動くことがあった、中世らしい世界を演出している要素である。

好感度はいろいろな要因で変動するが、同じ性格をもつキャラはお互いに好感をもつ。今回はローマ教皇がアルフレッドと同じ「正直」「勤勉」の性格を持っていたので、互いの好感度がかなり高くなっていた。一方、現イタリア王は「嗜虐的」な性格でローマ教皇から受けが悪く、仲が悪かった様子。教皇に不適任とみなされてしまったわけだ。

しかし教皇から貰ったイタリア王になる許可は、「自力で玉座に就けるなら」という条件付きである。いくら教皇に言われたとしても、現イタリア王がおとなしく王冠を譲るわけではない。つまり実質的に戦争のお墨付きをもらったかたちだ。本作では理由なく他国に宣戦布告することはできず、必ず大義名分が必要になる。国を乗っ取る理由が手に入るのは、非常にありがたいことなのだ。このままイングランドの小領主で人生を終えるよりは、王になる方が面白そうである。教皇に促されるまま、イタリア王国に宣戦を布告することに。

瞬く間に大出世

アルフレッドは軍事能力も非常に高く、戦いには強い。それに妻の実家であるフランス領主もアルフレッドを支持して参戦してくれている。イングランドから船でイタリア北部に上陸し、敵軍を撃破。そのままイタリア王の居城を包囲して攻め落とし、戦争に勝利する。イングランドの小領主が一夜にしてイタリア王になった瞬間である。

いまやアルフレッドは、ウェセックス公爵である兄より階級が高くなっている。『CK3』では自分より高い階級の相手を臣下にはできない。そのため、アルフレッドは自動で兄の元より独立することになる。しかし反乱を起こして無理やり独立したわけではないので、兄との関係は良好なまま。兄との交渉の結果、数日前まで主君だった兄のエゼルレッドを、逆に自分の臣下として従属させることに成功する。そしてアルフレッドはイングランド王にも戴冠し、イタリアとイングランドの大部分を領有する大君主となった。

反乱に対処し「大王」へ

数日のうちに強大化したアルフレッドだが、内部には大きな危険がある。イタリア王国の領土は自分で直接治めているのではなく、現地の諸侯を従えているかたち。しかし諸侯は突然やってきた侵略者であるアルフレッドを快く思っておらず、派閥を組んでの反乱をもくろんでいる。諸侯の総兵力はアルフレッドの軍を大きく上回っているので、実際に反乱が起きれば敗北する可能性が高いだろう。

反乱を起こすかどうかというのも性格によるところが大きく、たとえば野心的な性格のキャラは主君がだれであっても反逆的な振る舞いをする。今回の派閥を見てみると、やはり野心的な性格の人物が主導している。しかしなかには性格的には温厚ながら、個人的にアルフレッドが嫌いなので反乱に参加している人物もいる。他人の性格は変えられないが、好感度を上げることはある程度可能だ。それほど反乱に熱心でない諸侯に狙いを絞り、贈り物などをしかけることで反乱派閥を切り崩すことに成功。力を失った派閥はやがて自然解体となった。

こうしてイタリア王兼イングランド王の地位を守ったアルフレッドは、いつしか史実と同じく大王の異名で呼ばれるようになっていた。しかしそんなアルフレッドにも寿命はある。数百年に渡ってプレイすることになる『CK3』では代替わりもシステムのうちだ。跡を継げる子どもが生きていれば、操作キャラクターを交代してプレイを続行することができる。アルフレッドはやがて亡くなり、息子にプレイキャラを交代することになった。

親と子どもは性格が違う

本作では分割相続が相続の基本となっており、親が死ぬと子どもたちは領地を分け合う。今回はイタリア王の称号が新たな主人公である自分に、イングランド王の称号が弟に渡っている。彼らは互いに独立しており、アルフレッド時代には一つだった国が分裂したかたちとなっている。

このまま続けてもよいのだが、弟にはまだ子どもがおらず、第一継承者は自分である。もし弟が死ねば、イングランド王の称号が自分の元に転がり込んでくる。アルフレッドでプレイを始めたときと似たような構図がふたたび目の前にあらわれているわけだ。しかし大きく違うのは、子どもと親は性格が異なるということだ。今のプレイキャラは「勇敢」で「狂信的」、それに「好色」な人物である。アルフレッドとはあまり似ておらず、暗殺を嫌うような人物ではない。

しかし交友関係をよく見るとこの男、既婚者だが不倫をしている。しかも相手は実の妹である。そんな行動をした覚えはないが、本作ではNPCも独自に生活を送っているので、おそらくアルフレッドが生きている時代から不倫していたのだろう。衝撃の事実に頭がクラクラしてくる。天国の父親は真実を知って、泣いているだろう。

勇敢で好色という彼の性格に偽りない行動とは言える。プレイヤーとしてはある意味感心してしまうが、これが公になってしまうと非常にまずい。不倫や近親者との愛人関係はカトリックでは禁忌である。もしバレてしまえば、大多数の人物の好感度が急落するのは避けられない。教皇からは破門状が届き、家臣たちはこんな変態に仕えたくないと反乱を起こすだろう。

なんとしても隠し通さなくてはならないが、どこかから秘密を嗅ぎつけた人物が脅迫をおこなってきた。金を払って黙らせるが、今度は未婚の妹が妊娠してしまった。絶体絶命だ。もはやイングランド王の弟などどうでもよい。なんとしてもイタリア王の座を守り抜かなくてはならない。名君アルフレッドの時代では考えられなかったような不祥事に頭を抱えつつ、筆者はどうにか次に打つ手を考えるのだった……。

国や勢力ではなく、人間が世界を動かしている

と、このようなかたちでゲームが進んでいくのが『CK3』である。冒頭で歴史に詳しくなくても楽しめると述べたのは、本作の史実人物は原則としてゲーム開始時に存在しているキャラのみで、子どもたちはランダムで生成されるキャラクターだからだ。何代も血を繋ぎながら遊ぶゲームであることを考えると、史実の人物で遊んでいる時間の方が短いとも言える。開始時の人物の史実の背景などを知っていれば脳内で物語を紡ぎやすくなることはあるが、別に知らなくても一向に構わないのだ。

本作の最大の特徴は多様な性格のキャラクターたちと、彼らが織りなすイベントの数々だ。すべてのキャラクターの動きがシミュレートされ、性格や好感度で動きが変わるため、国や勢力ではなく、人間が世界を動かしているという実感がある。無数の領主たちのいずれでもプレイできるうえにキャラメイクもでき、プレイ中には架空の子どもたちがどんどんと生まれ、情勢は動的に変化していく。これこそが『CK3』の魅力であり、すさまじいリプレイ性を生んでいる“沼”の源である。

本作には特定の目的が設定されておらず、ゲームクリアといった概念もない。ときに無冠の英雄が一夜にして王になり、ときにドラマ顔負けのドロドロとした愛憎劇が繰り広げられる。なにをして生きるかはプレイヤー次第であり、思うがままに中世での人生を楽しむことができる。

そして本作にはDLCが多数用意されている。DLCはそれぞれゲームプレイを拡張し新要素を追加するものとなっており、たとえば10月29日にPC版向けに発売されたばかりの「All Under Heaven」は日本や中国に焦点を当てたDLC。同DLCがなくても日本でプレイすることは可能だが、導入すると東アジアの各国に独自システムが導入される。平氏と源氏が派閥を築いて争ったり、中国の官僚たちが試験に合格して出世することを目指したりといった、当時の情勢がより精細に描かれるのだ。

ほかのDLCもそれぞれ、それぞれのテーマに沿った独自システムやイベントを追加するものだ。導入すれば、本作をより深く楽しめるようにはなる。とはいえ本体だけでも十二分に楽しめるため、始めから購入しなくても構わない。たとえば「平安時代の日本の権力闘争を濃厚に楽しみたい」など、特定の目的があれば購入を検討するとよいだろう。本稿で『CK3』に興味をもたれた方は、ぜひ本作で自分だけの物語を紡いでみてほしい。気がつけばあなたも“沼”にハマっているはずである。

『Crusader Kings III(クルセイダーキングス Ⅲ)』はPC(Steam/Microsoft Store)/PS5/Xbox Series X|S向けに配信中だ。ゲーム内は日本語表示に対応している。

Akihiro Sakurai
Akihiro Sakurai

気になったゲームは色々遊びますが、放っておくと延々とストラテジーゲームをやっています。でも一番好きなのはテンポの速い3Dアクションです

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