Steam/PS/Xbox新作アクションRPG『Vampire: The Masquerade – Bloodlines 2』は、箱庭で自分の生き様を見せつける“究極の吸血鬼シミュレーター”だった。夜の街で密かに躍動し、物語を分岐させていく

本作の最大の魅力は、現代社会で生きる「吸血鬼としてのロールプレイ」だ。本作における吸血鬼は、人間の血を飲まないと生きられず、太陽の下では死ぬという明確な弱点がある。

吸血鬼(ヴァンパイア)は世界でも屈指の知名度を誇る怪物の一つだ。人間の血を飲み、超常的な力と不老の肉体をもつ存在。もし彼らが現実にいるとしたら、情報と技術が発展した現代において、どのような暮らしを送ることになるのだろうか。その一端を体験できるぴったりのゲームがある。

Vampire: The Masquerade – Bloodlines 2』はテーブルトークRPG「ヴァンパイア:ザ・マスカレード」を原作とする、一人称視点のアクションRPGだ。舞台となるのは現代のアメリカ・シアトル。プレイヤーは100年の眠りから目覚めたエルダー(長老)ヴァンパイアとなり、吸血鬼の派閥争いや殺人事件といった陰謀渦巻く夜の街で戦っていくこととなる。対応プラットフォームはPC(Steam/Epic Gamesストア/GOG.com)/PS5/Xbox Series X|S

TRPG「ヴァンパイア:ザ・マスカレード」を原作とするゲームは、これまでにいくつも登場しており、本作は2004年に発売されたカルト的人気を誇る作品の続編だ。とはいえ、原作および前作を知らなくても問題はない。筆者自身も前知識がない状態でプレイしたのだが、吸血鬼社会の重厚な世界観や専門用語などはゲーム内でいつでも確認できるため、本作の物語を存分に体験することができた。

そんな本作の最大の魅力は、現代社会で生きる「吸血鬼としてのロールプレイ」だ。本作における吸血鬼は、人間の血を飲まないと生きられず、太陽の下では死ぬという明確な弱点がある。適量の吸血であれば人間は死なないため、バレないよう人間社会に溶け込み、少しずつ生き血を啜りながら生活しているわけだ。本稿ではそうした「吸血鬼シミュレーター」とも呼べる魅力をお伝えしよう。

※本稿はメーカーより提供を受けたSteam版を、PS5コントローラーを使用したプレイにもとづき執筆


箱庭型の現代都市でのリアルな吸血鬼生活

本作は大きく3つのパートに分かれて進行する。もっとも多くの時間を過ごすことになるのが、クリスマスのシアトルを舞台とする箱庭パートだ。吸血鬼が主人公なので時間帯は夜のみだが、ネオンと雪が煌めく美しい街並みが再現されている。街はいわゆるオープンワールドとなっており、建物の中までシームレス。ただし、1km四方にも満たない比較的コンパクトな街であるため、本稿では「箱庭」と表現させていただく。とはいえ建物の密度は高く、収集要素なども用意されているため、探索の楽しみは十分に味わえるだろう。

プレイヤーは、100年の眠りから目覚めた伝説の吸血鬼としてシアトルの街を巡っていく。ダッシュを超える高速疾走、配管などを使った高速壁のぼり、2段ジャンプや滑空など人間離れした機動力を備えている。ただし、彼らは人間がいないと生きられないため、吸血鬼の社会には「仮面舞踏会(マスカレード)の掟」というものがある。要は吸血鬼とバレてはいけないのだ。街には多くのNPCが行き交っており、人の目の届く範囲で不審な動きをすると疑惑メーターが上昇する。一定量溜まると警察が集まって攻撃されるようになり、疑惑メーターが振り切れるとゲームオーバーになってしまう。

そのため、警察から逃げる場合や高速移動したい場合は、路地裏からビルの屋上へ登って屋上伝いに移動することとなる。この屋上間の疾走が非常に爽快。疾走しながらジャンプと滑空することにより数十メートル離れたビルにも届くうえ、仮に屋上に届かなくても多少の壁であればパルクールで屋上まで登ることができるので、ビルが立ち並ぶ現代都市を縦横無尽に飛び回ることができるのだ。街が比較的コンパクトであるためかファストトラベルはないものの、高速移動が気持ちいいのでストレスを感じることはなかった。なお、多少は人に見られても問題ないため、地上から屋上に行きたい場合は路地裏まで疾走しよう。

また、本作では街を歩くすべてのNPCに話しかけることができ、驚くべきことにNPCにもフルボイスが用意されている。とはいえ普通は一言だけの他愛ないセリフだ。R3ボタンを押すとそんなNPCの感情が視覚化され、色が点滅しているNPCが存在する。点滅しているNPCに話しかけると選択肢が表示され、感情を引き出すことができる。楽観的であれば魅了され、暴力的であれば激怒してプレイヤーについてくる。悲観的の場合は恐怖で逃げ出す。その状態で吸血することでスキルツリーを解禁するための能力ポイントを獲得できるのだ。

そして、このNPCとの会話は主人公の衣装も影響する。たとえば、魅了したければ魅惑的な衣装、恐怖を与えたければ威圧的な衣装を着ていると、確実に感情を引き出せる選択肢が表示されるといった具合だ。逆に感情に合わない衣装を着ていると選択肢すら表示されずに会話が一言で終わってしまう。現代の吸血鬼としてNPCに合わせた振る舞いをしながら、人知れず吸血を続けていくのが楽しいのだ。

街には協力者となる吸血鬼も点在しており、吸血して得た能力ポイントを消費してスキルツリーの解禁をおこなっていく。スキルツリーを解禁すると同時に新たな衣装も入手する。また、彼らにはストーリー中の選択肢やサブイベントも用意されており、最終的に恋仲になることも可能だ。報酬が魅力的なので筆者はストーリーそっちのけで吸血し続けることもあった。なお、本作ではスキルを解禁しただけでは使用できず、別途習得する必要があるのだが、そちらは後述させていただく。

箱庭パートでは、屋上を高速で飛び回りながらストーリーイベントをこなしつつ、時にはNPCから吸血する、といった現代に生きる吸血鬼としての体験を存分に楽しめるだろう。

吸血鬼ならではのハイスピードバトル

箱庭パートでのストーリーを進めると、別マップが読み込まれる特定の建物に入ることとなる。いわゆるダンジョン攻略パートだ。ダンジョンは基本的に一本道ながら、吸血鬼の身体能力を活かした高低差のある構造となっており、上下まで見渡しながら注意深く行先を探す必要がある。内部には無数のオブジェクトが細かく配置されているのも特徴で、没入感の高い探索体験を味わえる。時にはホラーゲームのような演出も用意されており、広めのエリアでは敵対勢力とのバトルが発生する。

主人公のバトルアクションとしては、R1連打で素手による通常攻撃コンボ、長押しでガードを破壊する強攻撃ができる。また、高速疾走ボタンは短押しでステップ回避としても機能し、敵の攻撃に合わせて前方回避するとパリィが可能だ。さらに、横回避しながら攻撃すると敵を怯ませるハイキック、しゃがみダッシュしながらジャンプ攻撃でドロップキックなど、基本動作と通常攻撃を組み合わせることで多彩な技を繰り出せる。基礎アクションだけでもパリィを駆使するハイスピードなバトルが楽しめる。

また、吸血鬼らしい基礎能力としてR2ボタンを押すとさまざまな物を「引き寄せ」できる。引き寄せた物は浮いた状態となり、R1ボタンで投げつける。銃器を引き寄せた場合は、1度R1ボタンを押すだけで自動的に全弾撃ち尽くして大ダメージを与えることが可能だ。さらに、引き寄せは人間に対しても作用する。人間は数メートル引き寄せる程度だが、引き寄せることで体勢を崩したり、高所にいる敵は引き寄せて落下死を狙ったりするなど、アイデア次第でさまざまな戦い方ができる。引き寄せを活用して即興の戦略がハマったときの快感は格別であった。

これらのバトルアクションを駆使して、敵の体力を削り切ると吸血可能となり、吸血するとHPおよび後述する吸血ゲージが回復する。また、物を壁に投げれば注意を引くことができ、見つかってない状態で背後から忍び寄れば戦わずとも吸血可能だ。敵に対する吸血は命を奪う行為であり、首を撥ねるなどさまざまなフィニッシュモーションも用意されているため超爽快。ちなみに、撥ねた首も引き寄せることができ、しかも敵にぶつけると大ダメージを与えられる。

序盤や1対1であれば身体能力を活かしたハイスピードな戦いを楽しめるが、後半からは銃器を持った敵が大量に登場し、高所にスナイパーが陣取っているようなシチュエーションも増えてくる。本作では回復アイテムも少ないため、囲まれた状態ではすぐに力尽きてしまうだろう。とはいえ、本作の主人公は伝説の吸血鬼。そういった状況を打破する強力な能力が用意されている。

超常的なスキルを活かした変則バトル

本作ではヴァンパイアならではの強力なスキルを4つセットできる。周囲を吹き飛ばす範囲攻撃や全自動防御といった攻防スキルだけでなく、透明になったり指定地点へワープしたりなど多彩。敵に乗り移って実際に動かして同士討ちさせたり、中には視界内のすべての敵に自殺を命じる、といったほかのゲームではお目にかかれないような能力まで用意されている。

これらのスキルはそれぞれ個別の吸血ゲージがあり、ゲージが満タンまで溜まっていれば発動可能。一度使うとゲージが空になるのでほかのスキルを使うか、吸血してゲージを溜める必要がある。強力なスキルは一度の吸血では満タンまで溜まらないので、連発することはできないわけだ。とはいえ、吸血ゲージを回復するアイテムは多めに落ちてるので、これらのスキルを駆使しながら戦うことが前提の難易度となっている。とはいえ難易度はいつでも変更可能だ。

これらのスキルの習得にも吸血鬼としてのロールプレイが関わってくる。本作の吸血鬼には、暴力が得意、魅了が得意、幻惑が得意といった複数の血族が存在し、主人公は6つの血族から一つを選ぶこととなる。経験値が溜まるとスキルポイントを獲得し、スキルポイントを消費して選んだ血族の能力を習得していくわけだ。とはいえ、主人公は伝説の吸血鬼。先述した吸血鬼に協力してもらうことで選ばなかった血族の能力も解禁されていく。ただし、習得コストは高めに設定されるかたちだ。筆者はクリアまでにすべてのスキルを解禁したものの、習得できたのは半分ほどであった。習得したスキルは容易にリセットできないため、チェックポイントからのロードを活用して使い勝手を確認した方がいいかもしれない。

筆者は魅了を得意とする血族を選んだこともあり、序盤に習得できる「キスして一定時間味方化」する能力がお気に入りであった。後半は隠れながら敵を操って同士討ちさせるステルスプレイを楽しんでいたが、ボス戦など強制的に囲まれるシチュエーションは存在する。そんな時に1人を味方化するだけで、安定して立ち回れるようになるのだ。最後までお世話になった能力であったが、ラスボス戦ではなんとボスすらも味方化できることが判明。つまり、そのほかの能力もボスに対して効力を発揮するため、選んだ血族によってさまざまな戦い方ができるだろう。


現代と過去が交錯しながら選択肢によって変化するストーリー

ダンジョンのボスを倒してイベントが終わると、基本的に現代シアトルを調査する刑事パートへと移行する。いきなり刑事パートと言われても意味が通じないので、先に本作のストーリーの流れについて説明しよう。

本作の世界では、吸血鬼が円滑に生きていくため、政治や警察といった組織のトップに吸血鬼が入り込んでいる。しかし、吸血鬼を狙った連続殺人事件が発生し、吸血鬼社会は混乱の渦中。掟を破って街の破壊を企てる勢力もいるようだ。そんな街で100年ぶりに目覚めたのが伝説の吸血鬼である主人公。しかし、体には謎の印が刻まれており本来の力を発揮できない。しかも、頭の中に記憶喪失の刑事の人格が入り込んでいるという訳が分からない状況だ。これらの謎を解くためにシアトルの有力な吸血鬼に協力することとなり、街の安定を取り戻すべく動いていくわけだ。なお、主人公は男女の選択および軽めのキャラクリが可能だ。

そして本作では登場人物との会話中の選択肢により、ストーリーが変化していくのが魅力となっている。悩むほどの決断が必要なさまざまな選択肢が登場し、その選択が先々のシーンにまで影響していくのだ。最終的には登場人物の生死や街の運命まで変化する。細かい部分では好感度や衣装によって、態度や呼び方などもフルボイスで変わっていく。ダンジョンやラスボスがしっかりと作り込まれていたため、もしかしたら大筋は変わらないのかもしれないが、クリアした際には「自分だけの物語が紡がれた」という感覚が得られた。プレイヤーによってまったく異なるストーリー体験ができるだろう。

そんなストーリーは、要所要所で刑事の記憶を辿る刑事パートへと移行する。刑事も吸血鬼であり、主人公が目覚める直前に連続殺人事件を調査していた記憶だ。刑事は幻惑を得意とする血族であり、刑事パートでは能力を使って証拠や証言を集めていく。記憶の中での調査が一区切りすると、さらに刑事の100年前の記憶へとさかのぼる。現代の連続殺人と同じ手口の殺人事件が100年前にも起こっていたことが判明。しかも、判明する記憶は箱庭パートとダンジョンパートでの出来事と密接に結びついているのだ。過去と現代が交錯しながら、少しずつ全貌が明らかになっていくストーリーには驚くような展開も用意されており、特に後半は中断するタイミングが難しかったほどだ。

ただし、伝説の主人公に対して、刑事はいわば普通の吸血鬼。刑事パートの調査は主人公と同じ現代シアトルの箱庭でおこなうのだが、主人公のように屋上を飛び回ったり、行き交うNPCから吸血したりすることもできず、バトルアクションもない。ダッシュの代わりに早送りする機能はあるものの、主人公に比べてテンポがゆったりしている印象を受けた。なお、本作は周回ごとに異なる体験ができることもあり、今後のアップデートで、2回目のプレイでは刑事パートをスキップできる機能が検討されているとのことだ。

ここまでの箱庭パート、ダンジョンパート、刑事パートが1セットとなっており、本作ではこの流れを繰り返しながら物語が紡がれていく。なお、本作では基本的に一人行動だが、頭の中の刑事が軽い性格をしており、バトルや探索中も頻繁に会話劇が繰り広げられる。この掛け合いも魅力の一つなのでじっくりと聞きながら楽しんでほしい。

本作は現代社会を生きる吸血鬼としての濃密なロールプレイが楽しめる一作だ。吸血鬼ならではのハイスピードなバトルは爽快感があり、さまざまな能力を駆使することで変則的な戦いも可能となっている。そして選択によって変化していく重層的なストーリーは、自分だけの物語を紡ぐ感覚を味わえるだろう。本作は、吸血鬼という存在に新たなリアリティを与えてくれる作品であった。

Vampire: The Masquerade – Bloodlines 2』はPC(Steam/Epic Gamesストア/GOG.com)/PS5/Xbox Series X|S向けに配信中だ。ゲーム内は日本語表示に対応している。

Haruki Maeda
Haruki Maeda

3DアクションRPGと犬をこよなく愛するPCゲーマー。『フォールガイズ』のようなわちゃわちゃ系も大好きです。

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