AUTOMATONライター陣が選ぶ「ゲーム・オブ・ザ・イヤー 2021」
今年2021年を振り返る、AUTOMATONの年末企画第5弾。これまで、各ライターのトラウマエピソード、小規模開発作品、スキマ時間に遊んだゲーム、ベスト短編と企画を分けて掲載してきた。年末最後の企画となる本稿では、1年の総括として各ライターの個人的なゲーム・オブ・ザ・イヤーを紹介する。あわせて、最後にAUTOMATON全体としてのゲーム・オブ・ザ・イヤー 2021を発表しよう。全体GOTYは、ライター陣の投票により決めたものだ。
『HADES』
――総合的な完成度の高さに感服
開発元・販売元:Supergiant Games
対応機種:PC/PS4/PS5/Xbox One/Xbox Series X|S /Nintendo Switch
『HADES』は、冥界の神ハデスの息子ザグレウスを主人公とするローグライク・アクションゲーム。ギリシャ神話をモチーフにした作品だ。ザグレウスは地下の冥界暮らしに辟易し、親戚でもあるオリュンポスの神々がいる地上への脱出を決意。何人たりとも冥界から脱することは叶わないが、彼はめげずに家出を繰り返す。
本作は、この手のジャンルとしては物語要素がかなり充実していることが特徴的だ。家族愛や人々の絆が大きなテーマとして存在し、地上への道中やハデスの館にてさまざまな人物と出会うなかで、ザグレウスの、また周囲の人々の物語が少しずつ展開していく。本作では、これを繰り返しプレイさせる原動力としており、上手く成功したといえる。
ギリシャ神話というと小難しい世界観に感じるかもしれないが、本作では神々などを親しみやすいキャラクター像に置き換えており、カジュアルに楽しめる。一方で、何気ない言動がギリシャ神話に忠実であったりもし、間口を広げながらも巧みなアレンジである。さらにセリフ量がとにかく膨大。プレイするたびに新たな展開を見ることができ、飽きることなく周回プレイを重ねられるのである。
ゲームプレイ面はというと、ローグライクアクションとしてオーソドックス。尖った部分が少ないともいえるが、その代わりひとつひとつの要素が非常に丁寧に作られている。たとえば、ちょっとした障害物をダッシュですり抜けられるなどストレスのない操作性は、同ジャンルのほかの作品をプレイした際にふと気づかされる。敵の攻撃に理不尽さを感じない点も同様。言い換えれば、プレイの上達を実感できる部分だ。
武器はバリエーションが豊富で、道中ではさまざま強化が可能。どの武器とどのように組み合わせるのか、一点集中的に強化していくかなど、とれる戦略の幅が広い。運が良ければ超強力な武器に仕上がることもあるが、基本的にはどれが正解ともいえず、上手くバランス調整されているおかげで多様なプレイスタイルを試せる。こうした部分からも、何回もプレイする価値があると思わせてくれる。
また本作は、難易度を上げる方向への調整機能が充実しており、やり込みがいがある。一方で、アクションが苦手な人向けには、道中で死ぬたびに被ダメージ量が少しずつ減っていくという、シンプルだが効果的なかたちで対応。注目したいのは、ゲーム画面上に難易度を下げていることを示す表示がないこと。ファンに一種の後ろめたさを感じさせないデザインであり、懐の深さを感じさせる。
本作は革新的なゲームではないかもしれないが、ひとつひとつの要素のクオリティが素晴らしく、総合点がとにかく高い作品であった。作品としての魅力をより引き立てている、ゲームのクオリティに見合ったリッチなビジュアルや、個性豊かなキャラクターたちを上手く表現したボイスも見逃せない点だ。本作は日本語版の発売が今年であったため、今回選出させていただいた。
by. Taijiro Yamanaka
『New ポケモンスナップ』
――詳しくなくても、好きでいいんだ。
開発元:バンダイナムコスタジオ
販売元:株式会社ポケモン
対応機種:Nintendo Switch
恥ずかしながら、私は歴代『ポケモン』を初代しかプレイしていない。旅行先のポケモンセンターにはつい立ち寄ってしまうくらいにはポケモンのことが好きなのだが、「ポケモン同士を戦わせる」という根幹のシステムがどうしても合わなかったのだ。ポケモンたちとはバトルよりも、日常を共にすることで関わりたい。だから前作『ポケモンスナップ』には幼いながら夢中になったし、『名探偵ピカチュウ』などポケモンとの生活が垣間見える作品が好きだ。本作は前作『ポケモンスナップ』の根幹部分はそのままに、現代の技術でアレンジを加えることで正統進化を遂げている。そして何より、テレビの前でワイワイ遊んでいた“あの頃”までも私に思い出させてくれた。少し個人的な話が多くなるが、“個人”GOTYということでお許しいただきたい。
直近のシリーズ作品こそプレイしていないものの、私の夫はかつて個体の厳選などをするようなやりこみトレーナーだったそうだ。前述のとおり歴代シリーズにあまり触れていない私にとって、本作では知らないポケモンも多かった。しかし私のプレイ風景は夫が興味津々で眺めており、初出作品や進化元など、被写体のポケモンについて解説する良きナビゲーターとなってくれた。ときおりコントローラーを交代しつつ進めていったのだが、本作は誰かのプレイを見ていても楽しい。かつて友人の家で騒ぎながら『ピカチュウげんきでちゅう』や前作『ポケモンスナップ』を遊んだときのような懐かしい気持ちになった。
また、歴代のポケモンについて詳しくないことから、プレイ前の私は「ポケモン好き」を名乗ることにどこか引け目を感じていた。オタクがよく陥る「それほど詳しくないのにオタクと名乗っていいのか」という葛藤に近い心情だ。しかし、本編ラストのリタのセリフで私のポケモンとの付き合い方も肯定してもらえたように思う。リタ曰く、イルミナポケモンが姿を現してくれたのは私がポケモンのことを大好きだったから。私を童心に帰し、今のあり方も肯定してくれた懐の深い本作に、感謝を込めて個人GOTYとしたい。
by. Aki Nogishi
『モンスターハンターライズ』
――変わるものと変わらないもの
開発元・販売元:カプコン
対応機種:Nintendo Switch
非常に期待値と注目度の高いゲームであり、実際にその期待に応えてくれる上質なアクションゲームであった。筆者の『モンスターハンター』シリーズとの付き合いは短く、2018年発売の『モンスターハンター:ワールド』からだ。さすがにカプコン史上もっとも売れたタイトルだけあって、周りの人に合わせるかたちでしぶしぶ購入したことを記憶している。モンスターの生態や広大なフィールドの魅力から結果的に大好きなゲームとなったが、一方で人気の割には不便な要素が多いゲームであることにも驚いたのだった。
そして本作『モンスターハンターライズ』はというと、遊びやすさが徹底されている作品となっていた。新たに登場したオトモガルクに乗って高速で移動でき、翔蟲による新アクションで空中を駆け、移動はすこぶる快適だ。マップも複雑過ぎず、いい塩梅に立体的。オトモガルクに騎乗したまま砥石も使えるなど、至れり尽くせりの便利さだ。さらに本作は新アクション鉄蟲糸技で火力の高い必殺技を繰り出すこともできる。モンスターのモーションもある程度分かりやすくなっているなど、ある面においては易化したといえそうだ。
しかしアクションゲームとしての芯は変わらずにいてくれたと思う。筆者にとっての『モンスターハンター』の楽しさの1つは、武器に習熟すること。もう1つはモンスターの攻撃を見切ることだ。14種類ある武器はどれも操作体系が異なり、自在に扱うにはそれなりに練習が必要。さらにモンスターの当たり判定はどうなっているのか、咆哮はどのタイミングで発生するのか、予備動作と攻撃の対応関係などなど研究し甲斐がある。カジュアルでありなおかつ、プレイヤーの技術の伸びしろを感じさせる。次はもっと被弾を減らそう、時間を短縮できるのではないかなど、上達するための動機もしっかり存在していた。
もちろん基本的には気軽に遊べる作品であり、フレンドとだらだら話しながら遊べることもコミュニケーションツールとしてありがたい。この点については、コロナ禍さえなければ携帯ゲームの利点をもっと発揮できたはずで、もったいなさも若干ある。中学生や高校生が部室で『モンスターハンター』を遊ぶ風景は今でも存在するのだろうか。
最後になるがハック&スラッシュ的なアイテム集めの中毒性もあり、存分に楽しませてくれた作品だった。そしてシリーズのいつもの魅力と進化の両方を見せてくれた。買い渋っていたNintendo Switchの購入を決意させたゲーム、という意味でも個人的な思い出に残る作品である。
by. Kaisei Hanyu
『ENDER LILIES: Quietus of the Knights』
――すべてが高水準にまとまったソウルライク2Dアクションの秀作
開発元:Live Wire, Adglobe
販売元:Binary Haze Interactive
対応機種:PC/PS4/PS5/Xbox One/Nintendo Switch
『ENDER LILIES: Quietus of the Knights』はいわゆるソウルライク・メトロイドヴァニアに分類されるゲームだ。『Salt and Sanctuary』、『Hollow Knight』、『Momodora: 月下のレクイエム』あたりを想像してくれればほぼ間違いないだろう。退廃的な世界観や雰囲気はどの作品にも共通しているが、日本の作品らしく主人公が少女という点では『Momodora』はかなり近いと言える。『Momodora』では少女本人の戦闘力がかなりのものであったが、『ENDER LILIES』の主人公であるリリィは独力での攻撃能力はほぼもたず、スタンドのような存在を召喚して攻撃するスタイルとなっている。
しかし侮るなかれ、この召喚による攻撃やスキルはどれも非常にレスポンシブで使いやすいだけではなく、なんとこの少女、(とあるスキルを習得するまでは)ヘッドスライディングによる見事な回避も見せてくれる。このヘッドスライディング、硬直も短く無敵時間も長ければ敵mobをすり抜けることも可能であり、ソウルライクゲームとしてはかなり優秀な主人公といえるだろう。少なくとも『DARK SOULS II』の主人公よりはこの少女のほうが強い。そしてこのリリィの快適な操作性と分かりやすい敵の攻撃予兆のおかげで、本作は全体的にマイルドな、しかし間違いなく噛みごたえはあるアクションゲームに仕上がっている。
その操作性の良さに限らず、『ENDER LILIES』は全体的に「優等生」という単語にふさわしいタイトルだ。仮にゲームを構成する各要素の評価をレーダーグラフにしたら綺麗な正多角形になるに違いない。「悲劇」をテーマにしつつもどちらかというと登場人物たちの善性に焦点を当てたストーリーや、ソウルライクとしては若干甘めながらもやり込みの余地は十分に残した難易度にしても、とにかく多くの人に楽しんでもらえるようにという工夫と努力、柔らかさを感じさせる作品だ。同ジャンルの先達となるヒットタイトルや、インスパイア元となるタイトルたちを参考に丁寧に作られたゲームなのだろう。
実を言うと個人的にはこういった優等生な作品よりも、自分のやりたいことをただ追求しただけのタイトルや、ワンアイデアで勝負してくるような尖ったインディータイトルの方が好みだ。『ENDER LILIES』は間違いなく秀作であるが、奇作ではない。斬新なゲームシステムや予想外の展開があるわけではなく、Steamページを見て「こういうゲームかな」と想像した通りのものが高品質に提供される、そういうタイトルだ。しかしだからこそ、そして全体選出GOTYが数年に一度レベルの「奇作」である今年だからこそ、本作のようなゲームが、自分が選ぶGOTYにはふさわしいのではないかと、強くそう感じている。PCゲーマーなら一度は聞かれたことがあるであろう「Steamセールでオススメのゲームある?」のような質問に安心して挙げられるタイトルがあるとすれば、今年のそれは間違いなく本作だ。
by. Mizuki Kashiwagi
『Before Your Eyes』
――新たな物語の読み解き方
開発元:GoodbyeWorld Games
販売元:Skybound Games
機種:PC
『Before Your Eyes』は、独自のシステムで脚光を浴びたアドベンチャーゲームである。主人公は死者の魂だ。死後の世界へ行くため、渡し守が先導する船に乗り込んでいる。しかし、無事に死後の世界へ渡るためには、自身の人生を語って聞かせなくてはならない。生涯を振り返るべく、主人公の魂は過去へ送り込まれ、さまざまな記憶を追体験することとなる。そこで本作が利用するのは、PCに取り付けられているウェブカメラ。カメラでプレイヤーの顔を認識し、「まばたき」を認識することで物語が進んでゆく。
物語を味わう手段は、時代によってさまざまなメディアで定義されてきた。もっともクラシックな手段は読書だろう。自身の目で文字を辿り、ストーリーを追いかける。読者は、好きなところで立ち止まって思索にふけってもよいし、何なら一度巻き戻って物語を辿りなおしてもいい。読者が自由にスピードを制御できる、いわば能動的な体験だ。
これに対して、映像は対となる体験だ。基本的に映像は、一定のスピードで進行する。録画機器などの登場により程度に差はあるものの、とくに映画館での視聴は傾向が顕著で、鑑賞者は座席に固定され、とめどなく流れ込んでくるストーリーを受け止めることを強制される。読書に対して、映像は受動的な体験といえるだろう。
これらを踏まえると、ゲームは複合的な体験だ。テキストを読み進める箇所もあれば、長時間にわたるカットシーンが占めることもある。あるいは、自身でプレイして動かさなくてはならないときもあり、超能動的ともいえるかもしれない。もともとゲームは、物語の体験手段として特別な立ち位置にあるメディアだ。
『Before Your Eyes』は、さらにそこに新しいルールを登場させた。まばたきをすると、場面が切り替わる。それはプレイヤーが望もうと望むまいと、目を瞑ってしまえば物語が進んでしまうということだ。たとえもっと同じ場面を見ていたいと思っても、無意識にまばたきをしてしまえば否応なしに次のシーンへ移り変わってしまう。ここでは、ゲームの側は物語の進行を強制していない。ただプレイヤーは、自身の生理的な動作により、完全に物語の進行を制御することもできない。
数々の走馬灯を尻切れトンボにしながら、プレイヤーは前に進むことを余儀なくされる。それは、「たとえどれほど居心地のいい記憶でもずっと留まってはいられない」というテーマとも響きあっている。身体を通じて訴える、新しいメディア体験を生んだ『Before Your Eyes』をGOTYに推したい。
by. Yuki Kurosawa
『The Artful Escape』
――好きな音を共有し、受け入れてくれる空間
開発元:Beethoven and Dinosaur
販売元:Annapurna Interactive
対応機種:PC/Xbox One
辛い一年だった。毎週のように足を運んでいた音楽ライブは、徐々に開催の兆しを見せ始めているが、完全には戻っていないし、戻るかもわからない。陰鬱とした日々に、幼い頃の好奇心も出てこなくなった。そんな中で出会ったのが『The Artful Escape』だ。
片田舎の青年Francis Vandettiは、伝説のフォークソングミュージシャンである叔父の影を丁寧になぞり、同じような音楽を奏で、周囲もそれを期待していた。だが、Francisが心から求めていたのは耳を刺すエレキギターのロックな音だった。突拍子もないが、突然宇宙人が現れて、Francisを宇宙の彼方へ連れて行き、「君はなにになりたいのか」と問う。サイケデリックな銀河の果てで出会うのは、想像の範疇を遥かに超えた存在だった。独特なオシャレが絶対的な権力を持つ集落から、見たこともない草木が生い茂る湿地帯まで、ロケーションはさまざま。そこに住まうエイリアンは、文化、暮らし、価値観も地球のものとはまるで違う。理解すら痴れ言と思える世界を前に、Francisは自分自身の存在と、なりたい自分を見つめ直す。
そんなトンデモナイ宇宙の果てで唯一共有できるのは、グッドミュージックだった。その音に聞き惚れることができればそれで良い。好きな音を共有する空間がここにはある。光り輝くギターをかき鳴らし、好きな音を大きな音で奏でれば、街には灯りが点り、世界は色めき立つ。ここが本作の肝に思える。心の底から愛するもの、気持ちの良いものを全力で奏で、共有することができる。これほど“ライブ感”のあるゲームに出会ったことはない。
By. Sakutaro Okano
『It Takes Two』
――心繋げる、真心こもったゲーム
開発元:Hazelight Studios
販売元:Electronic Arts
対応機種:PC/PS4/PS5/Xbox One/Xbox Series X|S
まず、私事が多くなることをお許し願いたい。本作を語る上では「誰と遊んだか」が大変重要だと考えるからだ。筆者には小学生の娘がいる。この娘は、出不精かつとある事情で心の健康面がなかなか芳しくない父、すなわち筆者のもとに産まれてしまった。あまり行楽や行事にも連れて行ってもらえない。娘の一度しかない幼少期に、貴重な体験をたくさんさせてやれなかったことを、筆者は後ろめたく悔い続けている。どうにか、娘と一緒に思い出を作りたい。そんな風に思っているさなかに、パンデミックが訪れた。外出への障壁はさらに高くなった。
そこに現れたゲームが『It Takes Two』である。本作は2人プレイ専用タイトルだ。協力しなければクリアはおろか、1ステージ進むことも難しい。相談しつつ「いっせーの」と息を合わせて乗り越えるギミックが、豊富に配置されている。つまり、一緒に操作するだけではなく、意思疎通も必要になるシステムなのだ。また、印象深く作り上げられた各ステージには、ゲームの進行とは関係ない“遊び”が大量に散りばめられている。ふたりで興味を惹かれた小さなオブジェクトやミニゲームの数々も、思い出として蓄積していく。
本作はシングルプレイ対応ではなく、最初から2人プレイ専用として設計されている。そのため、ふたりでしか味わえない喜びや楽しさを最大限高めるよう開発されているのだ。そして、筆者がなにより本作開発チームに感謝したいのは、ゲームプレイが隅々まで丁寧に作り込まれている点だ。小学生の娘でも楽しく遊べる快適さがあったからこそ、共に大切な時間を過ごせた。友人や恋人同士、または家族との大切な時間が豊かになるよう、真心が込められていると感じた。ふたりの楽しい時間を妨げるものはなにもなかった。丹精込めて作り上げられたゲームプレイが、親子に胸躍る大冒険をさせてくれたのだ。
『It Takes Two』が気づかせてくれたのは、「どこであろうと、なんであろうと、大切な人と一緒になにかをすれば思い出になる」という単純なことだった。また、プレイ後は娘が不思議とよく話しかけてくれるようになった。一緒に大冒険をすると、やはり少し仲良くなるものらしい。しばらく遠出には連れて行ってあげられそうもないが、ゲームなり散歩なり、なんでも一緒にやってみようと思う。とりあえずは、時間ができ次第また一緒に『It Takes Two』を遊ぼうと約束している。大切な人や仲のよい人との過ごし方として、是非おすすめしたい作品だ。
by. Seiji Narita
『月姫 -A piece of blue glass moon-』
───リメイクによってより強い輝きを放つ、TYPE-MOONの原点
企画・制作元:TYPE-MOON
販売元:アニプレックス
対応機種:PS4/Nintendo Switch
『月姫 -A piece of blue glass moon-』を、個人的なGOTYに選ぶ理由はシンプルである。本作を遊んでいた40時間あまりの一時が、今年もっとも楽しい時間の一つだったから。作り込まれた演出と情動を煽る劇伴、感情を彩る声の表現。それらも相まって紡ぎ出された新生『月姫』の世界には、知っているのに知らない、興奮と驚きが詰まっていた。
本作は、『月姫』のリメイク版に相当するものだ。月の表側を描いた本編において、ノベルゲームとしての枠組みやストーリーは、原作を踏襲している。フローチャートの実装でプレイが快適になっても、ヒロインの不興を買ったり、謎の3択に失敗したりすれば、あっけなく即死する。直死の魔眼で死の線を見て、人知れず夜の街で吸血鬼たちと対峙した物語も、大筋においてはそのままといっていいだろう。では、本作がボイスや演出を追加し、グラフィックを変えただけの作品なのかといえば、それはまったく違う。
原作との違いとしては、まず説得力が増した点が挙げられる。本作では、細やかな演出と美麗なグラフィックの数々によって、絵的に情景が表現されている。ヒロインたちは次々に表情を変化させ、時に愛らしく、時に怖ろしく、感情豊かに。バトルシーンではアクションが動的に表現されており、躍動感のあるシーンから生死を分ける那由の瞬間まで、緊張と迫力が宿っている。さらに視覚情報が大幅に増えた結果、主人公である遠野志貴の思考が理解しやすくなった。志貴は直死の魔眼を発現してしまったために、特異な死生観を持っている。それが彼の魅力であり、『月姫』の魅力の一つでもあるが、残念ながらプレイヤーは魔眼をもっていない。状況が視覚的に表現されることで、死の線が見えなくても彼の心情がわかりやすくなり、没入感が増していた。特にホテルでの1シーンには、すべてを納得させる破壊力がこめられていたように思う。
もう一つ、シナリオが再構築された結果、『月姫』の骨子はそのままに魅力が引き上げられている。改めて説明するまでもないが、『月姫』は同人時代のTYPE-MOONが制作し、世間的に大きく評価された作品だ。なので、少なくともストーリーは、元の時点で完成されたものなのだと思っていた。しかし本作では、謎の教師ノエル先生などの新キャラや新たな展開の数々によって、既存のキャラクターやストーリーが一層強い輝きを放っていた。罪悪感に殺される姿には心を揺さぶられたし、贖罪を求める姿には憐憫を誘われた。知っている流れの中に、新たな魅力と感動が待ち受けていた。総じて、リメイクによって魅力が高められていたわけだ。
原作の『月姫』が好きだったり、ほかのTYPE-MOON作品が好きだったりするのなら、クオリティは保証するので是非本作を遊んでほしい。そして、それなりに遠い月の裏側の到来まで、共に苦しんでほしい。
by. Keiichi Yokoyama
『LOST JUDGMENT:裁かれざる記憶』
――八神隆之でしか描けない物語
開発元・販売元:セガ
対応機種:PS4/PS5/Xbox One/Xbox Series X|S
いじめ。今もなお世界中に存在する社会問題をテーマに、鋭利なシナリオを描ききる。ゲーム冒頭の目を覆いたくなるほどの惨状から、龍が如くスタジオの並々ならぬ意気込みが伝わってくるようだった。
本作のようにセンシティブなトピックを扱う作品を咀嚼するには、プレイヤーとしても相応のエネルギーを要する。長編であればなおさらで、シリアス一辺倒な展開では多少なりとも気疲れしてしまう。本作ではそうした気疲れを感じさせまいと、多才な主人公の八神や、人情味あふれる相棒の海藤を中心としたコミカルなシーンが差し込まれ、物語の展開にメリハリが付けられている。決して本筋から逸脱することのない絶妙なシナリオバランスは、桐生一馬という人物を描いていく中で培われたものだろう。加えて、舞台となる神室町・異人町に散りばめられた多数のアクティビティが箸休めの役割を果たし、プレイヤーのペースで物語が追えるよう配慮がなされている。
本作では、現職警官の痴漢事件を発端にさまざまな事件が巻き起こる。エンターテインメント作品として事件解決の糸口を示すうえで、いわゆるご都合主義な展開はつきものといえるのかもしれない。本作も例外ではなく、そうした展開がまったくなかったかと問われると、首を縦に振れない。しかしながら本作では、弁護士の資格をもつ探偵という八神の経歴を活かし、法を熟知する者の視点から事件の謎が紐解かれていく。加えてハッキング能力や電子工作に長けた九十九など、八神と同様に特殊な経歴をもつ仲間たちの力を借りるというかたちで、より現実味を帯びた推理が展開される。総じて、極力プレイヤーが物語の整合性に対して違和感を覚えることのないよう事件の真相へと導かれるのだ。そしてあえてリアリティを欠いた側面に、臨場感ある調査パートや手に汗握るバトルパートなどが組み込まれ、ゲームという媒体でしか成しえないサスペンスストーリーへと昇華させている。
チャプターごとの新たな謎に惹きつけられるシナリオ構成。思い描いた筋書きを二転三転させる巧妙に仕掛けられた伏線の数々。“堂島の龍”ではなく八神隆之でしか描けない、完成度の高い“正義”を問う物語は、本年もっとも心に突き刺さった。
『Returnal』
――ループ・オブ・ザ・イヤー
開発元:Housemarque
販売元:Sony Interactive Entertainment
対応機種:PS5
今年は、ループ物のゲームを遊ぶ機会が多い一年であった。ループ要素の存在を伏せているタイトルも含めると殊更。そこで2021年は、個人的な「ループ・オブ・ザ・イヤー」という基準でタイトルを選出してみた。ループというコンセプトおよび反復行為が、ナラティブとゲームプレイの両面に作用し、ゲーム体験の向上につながった度合い。そこを起点に考えたとき、自然と『Returnal』という結論に帰着した。
同作は、細かな粗はあるものの、ナラティブとゲームプレイの両面において高い品質を誇り、大衆向けのゲームにおけるタイムループ物の可能性を押し広げた作品である。ナラティブとしては、ギリシャ神話を下地にしつつ、登場人物であるテイア/セレーネ/ヘリオスを巡る表層的な意味合いでのタイムループと、主題としての深層的な意味合いのループ。このふたつを並列することで、遊び手の思考・考察欲を刺激する構造を生み出している。ゲームプレイとしては、ローグライク/ローグライトというサブジャンルの枠組みの活用、ならびに、反復行為による技術・知識の向上を報いるシビアなアクション。これらとの高い親和性を発揮している。
演出面では、派手な視覚情報が先に印象に残りがちだが、聴覚情報の提供においても秀でた作品である。戦闘時の状況把握に欠かせない秀逸なサウンドデザインと、主人公の声を演じたJane Perry/小山茉美の演技は、年間最上級のクオリティ。作品を通して、ときに密やかに、ときに盛大に流れる「(Don’t Fear) The Reaper」は、今でも耳にこびりついている。DualSenseコントローラーのアダプティブトリガーとハプティックフィードバック、Tempest 3Dオーディオと、次世代機の新機能を存分に活用し、PS5の準ローンチタイトルとしての役割をしっかりと果たしている点も好印象。「ループの年」と個人的に捉えている2021年の作品群のなかで、総合力が高く、トーンの統一性があり、とりわけ充足感のあるループ体験を届けてくれた。
by. Ryuki Ishii
『ファイナルファンタジー14』「暁月のフィナーレ」
―――人の営みとその未来
開発元・販売元:スクウェア・エニックス
対応機種:PC/PS4/PS5
旧版発売から10年。諦めることなく積み上げた実績は2019年に発売された「漆黒のヴィランズ」にて大きく花開いたが、『ファイナルファンタジー14』(以下『FF14』)「暁月のフィナーレ」はそれをやすやすと超えてきた。まさに成立自体が奇跡ともいえる、長期運営型ゲームの集大成として相応しい、MMORPGだからこそ可能な唯一無二の物語体験をプレイヤーに提供することに成功した。
今年は特に話題となった「ゲームは有害である」という風評が流れるなか、プレイに膨大な時間を要するものの手元に何も残らないMMORPGはその被害を受けやすい。結果、MMORPGは特に遊ばないほうが良い、時間を浪費するゲームと呼ばれることもある。だが見方を変えれば、個々人の人生に寄り添うゲームであるといえる。本作を通じて出会った人がいる。本作を通じて挑戦できたことがある。本作があったからこそ今がある。逆に本作を通じて嫌なことがあった人もいるだろう。ケンカ別れを経験した。コミュニティが瓦解したなどなど、人生必ずしも良いことばかりではない。
だがそれでも『FF14』を継続して遊んでくれている。そんなプレイヤーひとりひとりの自発的な姿勢を素材として、良かった思い出、悪い思い出を含め、今生きている1人の人間の物語として仕上げきった開発陣の手腕には言葉が出なかった。ゲームを遊ぶという行為それ自体をここまで肯定し、「ありがとう」とまで言ってくれる作品はそうない。
確かに本作で追加された新たな施策に関していえば、粗が目立つ結果となってしまったことは否めない。初めからそう作られていないものに対して、形を維持したまま他ジャンルのゲームデザインを組み込もうとすれば、遊びとしては歪んでしまう。追従システムに関しても、好きなキャラクターとそうでないキャラクターの間でプレイヤーのモチベーションが上下してしまうのは必然といえる。「歩くこと以外が出来なくなる」仕様も、多彩な活動ができる本作とは体験の噛み合わせが悪い。
そうした点を考慮しても、本作を通じてもたらされる体験が陰りを見せることはない。メタバースやARなど、現実と仮想が融合を見せる昨今。「暁月のフィナーレ」は物語を通じてその未来の片鱗を提示する。たとえ生活の場を仮想に移しても、人が憎しみ合い、罵り合うことは避けられない。絶望の無い場所など存在しない。それでも聞いて。感じて。考えることを止めぬかぎり、人は歩んでいけるだろう。2400万人を超えて存在する、世界中の冒険者がそうであるように。
長期運営型MMORPGであるという点を活かし、現実と仮想という枠組みを超えた、人の営みとその未来を提示する『FF14』「暁月のフィナーレ」に私は2021年個人的ゲーム・オブ・ザ・イヤーの冠を捧けたい。
『ラチェット&クランク パラレル・トラブル』
――次世代
開発元:Insomniac Games
販売元:Sony Interactive Entertainment
対応機種:PS5
次世代ゲーム。テクノロジーは進み、グラフィックは美しくなり、ロードも短くなった。レイトレーシングも可能になり、4Kの60fpsで動くゲームも増えてきた。しかしそれらはあくまでパフォーマンスやグラフィックレベルの話。ゲームプレイについては従来作品の路線を引き継いだものがほとんどである。それが悪いというわけではない、ただ、筆者がこれまでPS5で、ゲームプレイに次世代を感じたのは、本体に同梱された『ASTRO’s PLAYROOM』ぐらいだった。そして自分でも何をもって次世代のゲームプレイとするか言語化できずにもいた。しかし2021年6月、ついに答えが見つかった。『ラチェット&クランク パラレル・トラブル』が教えてくれたのだ。
『ラチェット&クランク パラレル・トラブル』は、「ラチェット&クランク」シリーズ最新作。ジャンルはアクションゲームだ。ラチェットとリベットをダブル主人公とし、ドクター・ネファリウスとの戦いが描かれる。同作はとにかくPS5の性能や特徴を果敢に引き出している。高精細なビジュアルは、単に豪華なものには留まらず、モデルやテクスチャは世界観構築や没入感に、エフェクトは爽快感に直結。ローディングの進化により、離れた場所でも瞬時のワープが可能に。またいずれの入力に対しても、DualSenseはこれまでにない立体的な振動や音声などを通じてプレイヤーにフィードバックを送り続ける。目と耳と手に、これまで感じたことがなかったような爽快感の波が、つねに送られてくるのである。一方で、贅沢な演出や次世代技術を誇張しすぎることなく、中だるみしないように贅肉は削られ、丁寧に設計されている。本作をプレイ中は、絶え間なく楽しさが感じられたし、その体験はクリアまで一切途切れることもなかった。
本作をプレイしたことで、筆者にとっての次世代とは、突き詰めるところ、新たな技術によってこれまで感じたことのない体験を提供してくれることなのだろう、と理解した。『ラチェット&クランク パラレル・トラブル』は、これまで感じたゲームの楽しさを拡張し、さらにそれらを技術で洗練させることで、プレイヤーにとって新たな体験を提供することに成功している。間違いなく、PS5だからこそ生まれたゲームであり、PS5を代表するゲームである。物語にも起承転結があり、アクセシビリティ面も充実。唯一気がかりだったプレイ中のクラッシュ問題もアップデートで解消されたという。減点方式で考えればマイナスポイントはほぼない。総合力という点では、ゲーム史上の中でもトップクラスの傑作。ゲーム・オブ・ザ・イヤーの冠に相応しい逸品である。
惜しむらくは、PS5の本体が国内で十分に流通していない点。発売から1年経過も、半導体不足の問題からか、日本ではなかなかPS5が買うことができない。プレイできなければ、その楽しさを味わうことはできない。2022年は『ラチェット&クランク パラレル・トラブル』を、数多くのプレイヤーが体験できる年になることを望む。
by. Ayuo Kawase
以上がライター・編集員の個人的な2021年GOTYである。次ページでは、AUTOMATON全体としてのGOTYを発表する。