『紅の砂漠』は王道ファンタジー大作なのに、妙に“泥臭く人間臭い”。イカサマもプロレス技もある、俗っぽさが生む独特の手触り
『紅の砂漠』は王道ファンタジーとしての顔を持ちながら、その内側には妙に俗っぽく、人間臭い細部が詰め込まれている。

Pearl Abyssは3月20日、オープンワールドアクションアドベンチャー『紅の砂漠』を発売した。対応プラットフォームはPS5/Xbox Series X|S/PC(Steam/Mac App Store)。本作は広大な世界と高精細なビジュアル、そして重厚な物語を備えたファンタジー大作として注目を集めている。プレイヤーは主人公クリフとなり、ファンタジー世界「ファイウェル大陸」を旅しながら、戦闘や探索、数々の事件に向き合っていく。
『紅の砂漠』のトレイラーや概要からまず思い浮かぶのは、美しい景観や派手なアクション、あるいは大仰なスケール感かもしれない。実際、本作にはそうした“大作らしさ”がしっかり備わっている。一方で、今回先行プレイしてみて強く印象に残ったのは、むしろもっと地に足のついた部分であった。NPCの細かな生活感や感情表現、妙に具体的な犯罪要素、そして見た目以上に泥臭い戦闘。王道ファンタジーとしての顔を持ちながら、その内側には妙に俗っぽく、人間臭い細部が詰め込まれている。

高品質なビジュアルや壮大な世界観だけでは終わらない。少なくとも今回触れた範囲では、『紅の砂漠』の面白さはそうした“立派さ”と、どこか世知辛く人間臭い要素が同居している点にあるように感じられた。本稿では、そうした独特の手触りを形作っている要素を紹介していきたい。
王道ファンタジーの世界に、妙に生活感のあるNPCたち
『紅の砂漠』はMMORPG『黒い砂漠』で知られるPearl Abyssが手がける新作オープンワールドアクションアドベンチャーである。舞台となるファイウェル大陸は、魔法やドラゴンが存在する王道ファンタジー世界でありつつ、ロボットのような高度文明の名残も混在する独特な場所だ。主人公クリフは、所属する「灰色たてがみ」が宿敵「黒い熊」に襲撃され壊滅したのを機に、その再建を目指して各地を奔走していく。そして物語は、やがて謎の文明「アビス」にまつわる陰謀へとつながっていく。
こうした設定だけを見れば、本作はかなりまっすぐな王道ファンタジー作品である。王国の陰謀、戦争の気配、世界の危機、失われた仲間たち。そうした大きな物語もきちんと用意されている。だが、実際に世界を歩いていると、それ以上に印象に残るのは人々の暮らしのほうだ。

街には商人や兵士、じゃんけん遊びに興じる子どもたちがいる。街道に出れば、農作業に励む人、馬車を引く人、釣りをする人が当然のように行き交っている。単にNPCが多いというだけではない。動きの種類が多く、人口密度も高い。そのため人々はただの賑やかしではなく、「ここでみんなが勝手に生活している」という感覚がある。実在感と呼ぶべきものが、かなり高い水準で作り込まれている。
しかも、本作の人々はただ綺麗に暮らしているわけではない。酒場では酔いつぶれた者が転がり、裏路地には物乞いがいる。宿屋の2階に上がれば、怪しい賭博が当たり前のように行われている。物乞いに小銭を投げて地域への貢献度を上げることもできるし、各地には盗品商もいる。しかもこの盗品商、変装や鍵といった盗みに役立つ道具を売るだけでなく、交易品や家畜、盗んだ馬車の買い取りまでしてくれるなど、やけに商売の幅が広い。王道ファンタジーの世界なのに、こうした妙に現実的で世知辛い要素がしっかり用意されているのである。


そのなかでもユニークなのが、NPCや各地の動物にまで「親密度」が設定されている点だ。名のある主要人物だけでなく、街の一般人にも数値があり、毎日の挨拶や贈り物によって少しずつ仲良くなることができる。親密度が最大に達すれば、プレゼントや専用クエストが発生する仕組みだ。動物であれば、なでたり餌をやったりすることで一部をペットにして連れ歩くこともできる。
少なくとも現時点では、ロマンスや結婚といった大きなシステムがあるわけではない。それでも、街で見かけた名前のないNPCに妙に愛着が湧き、毎日挨拶をしに通って親密度を上げる、といった行動が可能になっているのは面白い。世界を救う旅の途中で、そんな些細な関係づくりに時間を使えること自体が、いかにも人間臭い。本作の世界は壮大だが、同時に「気に入った相手と仲良くなりたい」という、ごく小さな感情もきちんと受け止めてくれる。

さらに、NPCの人間臭さを強く感じるのがクエスト中のカットシーンだ。本作ではサイドクエストにも比較的しっかりカットシーンが挟まれるのだが、そこでの感情表現が妙に濃い。物を盗まれた農民は苛立ちのあまり近くの物を蹴り飛ばし、仲の良い家畜がいなくなった子どもは地面に転がって駄々をこねる。報酬や経験値のために動くというより、「そこまで騒ぐなら助けるか……」と押し切られるような感覚でクエストを進める場面もある。英雄譚の合間に、こうした感情の濃い小さな出来事が頻繁に差し込まれるのが、本作らしいところだ。

家族同然の存在である灰色たてがみの再建というメインの流れのなかでも、酔っ払いの介抱や仲間同士の喧嘩など、なんとも俗っぽいホームドラマ的なトラブルに対応する場面がある。世界や神話に関わる大きな話を進めながら、同時に身近な揉め事にも巻き込まれる。その振れ幅が、ファンタジー世界をただ神々しいだけの舞台ではなく、人が生きる場所として感じさせている。
英雄なのにコソ泥もする。妙に具体的な犯罪要素
本作のプレイヤーは、数多くの敵をなぎ倒す力を持ち、特別な能力まで備えた英雄的な存在として描かれる。だがその一方で、かなりせこい犯罪行為にも手を染めることができる。この落差もまた、『紅の砂漠』の人間臭さを支える要素のひとつだ。
ホイールメニューから覆面を被れば、友好的なNPCに暴行したり、屋敷に忍び込んで窃盗したりすることが可能になる。特に貴族の屋敷や城内には、高価そうな装飾品やクラフトレシピ本などがそこかしこに置かれており、つい手を伸ばしたくなる。序盤は金策も心もとないため、世界の命運を左右するかもしれない主人公が、壮大な物語の裏でこそこそ盗みを働くことになるのはなかなかシュールだ。

しかも、本作の犯罪要素は単に“なんでも悪さができる”という雑なものではなく、妙に具体的だ。たとえばギャンブルでは、プレイヤーだけでなくNPC側もイカサマを仕掛けてくる。手元に札を隠すといったあからさまな不正が用意されており、ただのミニゲームの域を越えて妙な生々しさがある。馬で畑を突っ切って柵を壊し続ければ器物破損となるなど、罪状の細かさもやけに現実寄りだ。
犯罪を犯すと周囲のエリアが赤く染まり、騒ぎが収まるまで逃げるか隠れる必要がある。見つかればそのまま戦闘になり、抵抗すれば右上には現在の罰金や罪状名が表示され、「暴行」「殺人」といった文字とともに金額がどんどん積み上がっていく。衛兵にタックルされれば馬乗りになって逮捕されるが、タイミングよくボタンを押せばそこから逃れることもできる。この一連の流れはかなり泥臭く、華麗なアクションゲームというより、必死にその場をしのぐ修羅場に近い。

逆に、プレイヤー自身が指名手配犯を追う賞金稼ぎのようなアクティビティも存在する。こちらからタックルして馬乗りになり、殴って証拠を探し出し、拘束して馬に乗せて拘置所まで連行するという、なかなか乱暴な手順である。しかも運搬中、相手は情に訴えたり、取引を持ちかけたりしながら必死に抵抗してくる。善悪がどうこうというより、みんな生き延びるために必死なのだと感じさせる場面だ。
その極めつけが、ギャンブルでNPCのイカサマが露見した際の制裁だ。相手の手が潰されるというダークな描写で、本作の世界には決して綺麗事では済まない側面があるとわかる。こうした要素があるからといって、本作が徹底してダークファンタジーに寄っているわけではない。むしろ王道ファンタジーとしての骨格はしっかり保ったまま、その周辺に妙に後ろ暗く、俗っぽい仕組みがいくつもぶら下がっている。そのアンバランスさが印象に残る。

スタイリッシュに見えて、実際はかなり泥臭い戦闘
戦闘もまた、本作のギャップを象徴する要素だ。映像だけ見れば、派手なエフェクトと多彩なアクションで敵を圧倒していく、かなり華やかなゲームに見える。だが実際に触ってみると、その感触はむしろシビアで、かなり泥臭い。
雑魚敵は一体一体が極端に強いわけではないものの、とにかく数が多い。20人前後に囲まれることも珍しくなく、しかも容赦なく密集して殴りかかってくるため、気を抜くと一気に押しつぶされる。敵に囲まれないよう位置取りを意識しつつ、攻めるべきところではしっかり連続攻撃を入れていく必要がある。ちょっとした拠点戦でも増援が途切れず、戦闘が終わるころには大量の死体が転がっていることも多い。いわゆる無双系の爽快感とは違う、かなり血生臭い消耗戦となっている。

ボス戦になると感覚はさらに変わる。相手ごとに動きや弱点は異なるが、総じて怯みにくく、連撃も激しい。敵のテンポを掴むまでは何度も地面に転がされることになるし、事前に調理しておいた回復アイテムも遠慮なく削られていく。見た目は派手でも、実際のプレイ感覚はかなりシビアで、楽をさせてくれる作りではない。
プレイヤー側のアクションも豊富だが、そのぶん適切な使い分けが求められる。回避だけでは避けきれず、ガードだけではスタミナが尽きる。攻撃もリーチや隙がそれぞれ異なり、あえて強攻撃で怯みを狙うといった判断も必要になる。結果として、ただボタンを連打するだけではなく、相手の動きに応じて択を切り替える読み合いが発生する。泥臭さを土台にしながら、うまく噛み合った瞬間には自然とスタイリッシュに見える。最初から華麗なのではなく、必死に立ち回った結果として格好よくなるのだ。

そして、そんな戦闘をさらに独特なものにしているのが、妙に充実したプロレス技だ。スキルツリーの成長や敵の技の観察によって新たなアクションを覚えていく。内容も回し蹴りや投げのようなシンプルなものから、ラリアットやドロップキックといった豪快な技まで幅広い。剣や鎧を備えた重武装の敵に向かってジャイアントスイングを決める場面などは、格好いいというより、もはやシュール。王道ファンタジーの世界で、ここまで堂々とプロレス技を振り回せるのは俗っぽいと同時に、体術への並々ならぬこだわりを感じる。

とはいえ、こうした体術要素は単なるネタに終わっていない。全体としてシビアで泥臭い戦闘だからこそ、そこに混ざるプロレス技が妙に映えるのだ。汗臭い乱戦のなかで、突然ラリアットや投げ技が飛び出す。その違和感と気持ちよさが同時に成立しているあたりにも、本作の“立派すぎない”雰囲気がある。
王道ファンタジーを支える、俗っぽい作り込み
『紅の砂漠』は、まず間違いなく王道ファンタジー大作として作られている。壮大な物語、重厚な設定、高品質なビジュアル、そして見栄えのするアクション。そうした表向きの強さは本作の大きな武器だ。一方で、今回触れた範囲で印象に残ったのは、むしろその土台を支えている細部のほうであった。
毎日の挨拶で少しずつ上がる親密度。NPCも平然と仕掛けてくるイカサマ。シビアな戦闘のなかで飛び出すプロレス技。こうした要素は、一見すると王道ファンタジーの格好よさから少し外れている。だが、その“少し外れた”俗っぽさがあるからこそ、ファイウェル大陸はただ美しく壮大なだけの舞台ではなく、人が欲を抱え、揉め事を起こし、生活する生きた世界になっている。

もちろん、本作の印象を決めるのはこうした細部だけではないだろう。だが少なくとも今回の先行プレイでは、王道らしいスケール感と、人間臭く俗っぽい作り込みの同居こそが、『紅の砂漠』を強く印象づける要素に思えた。立派なファンタジーでありながら、妙に世俗的でもある。その少しちぐはぐで、だからこそ記憶に残る手触りに注目したいところだ。
『紅の砂漠』はPC(Steam/Mac App Store)/PS5/Xbox Series X|S向けに発売中。
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