写真撮影ホラー『DreadOut Remastered Collection』には、異国情緒あふれる苛烈な恐怖体験がある。ジャンプスケアされまくる現地観光パワー系恐怖

筆者はインドネシアに行ったことはない。しかし、この日本の冬の湿度28パーセントの室内で、その空気の一端をほのかに感じられるような出来事があった。インドネシア発のホラーゲーム『DreadOut』と『DreadOut: Keepers of The Dark』のリマスターセット『DreadOut Remastered Collection』を遊んだのである。

インドネシアに行ったことはあるだろうか。東南アジア特有のまとわりつくような湿度、素朴な佇まいの家屋、日本ではあまり馴染みのない言葉や文化――土地は一年中温暖で、厳しい四季のある日本とはまったく異なる気候なのだそうだ。

筆者はインドネシアに行ったことはない。それどころか、東南アジアに行ったこともない。しかし、この日本の冬の湿度28パーセントの室内で、その空気の一端をほのかに感じられるような出来事があった。インドネシア発のホラーゲーム『DreadOut』と『DreadOut: Keepers of The Dark』のリマスターセット『DreadOut Remastered Collection』を遊んだのである。

『DreadOut』は、インドネシアの開発グループDigital Happinessが手がける除霊ホラーアクションゲームだ。2014年にPC向けにリリースされ、2016年には続編である『DreadOut: Keepers of The Dark』も発売。今回、1月16日に配信される『DreadOut Remastered Collection』では両方のリマスター版がセットになっており、PS4/PS5/Nintendo Switchで本作の恐怖を体験することができる。

主人公のリンダは、インドネシアの女子高校生だ。修学旅行にやってきた彼女は、5人の友人と教師とともにゴーストタウンに迷い込んでしまう。はじめは何人かで彷徨っていたリンダだったが、探索中に友人や教師は姿を消し、たったひとりでこの不気味な廃墟から脱出することとなる。事態を打開する頼りになるのはスマートフォンだ。光源として使用することもできるほか、カメラ機能で撮影することで怪異を退けることもできるのだ。しかし、カメラを通して怪異を倒していくうちにリンダは霊能力に目覚め、事態は思わぬ方向へと転んでいく。

カメラによる撮影で怪異を退けるシステムは、日本のホラーゲーム『零 ~zero~』シリーズに影響を受けているという。今回、記事執筆にあたって筆者も実際に本作をプレイしたが、確かに当時の日本製ホラーアクションに近い雰囲気が漂っており、どこか懐かしい香りがする。それでいて舞台はインドネシアなので、日本とはまったく違った湿度が漂っている。懐かしさと新鮮さがないまぜになっている空気感は、本作特有のものと言えるだろう。

本作では基本的に、リンダが持つスマートフォンのカメラを用いて困難を切り抜けていく。レンズを通して怪異を攻撃して退散させるほか、道を切り開くための謎解きにもカメラが重要となってくるのだ。カメラ越しにスマートフォンの画面で隠し通路を探したり、特定のオブジェクトを写真に収めることでイベントが発生したり、といった具合である。

リンダには霊的な能力が備わっており、カメラを構えていなくとも“何かあること”を感じ取ることができる。その能力は、画面の端にじんわりと浮かび上がるオーラ「ビジョン」によって表現される。画面端にじわじわと赤いオーラが浮かんできたら、怪異が近くにいることを警戒しなければならない。逆に青いオーラが浮かんできたら、リンダにとって有用ななにかが存在する。それは誰かが残したメッセージや落とし物かもしれないし、カメラを通してしか見えない活路かもしれない。

カメラを構えていなくとも、リンダはビジョンによってその場の異変を感じ取ることができる。しかし、対処をするにはとにかくカメラの力を借りなければならない。当たり前だが、カメラのレンズを覗き込むには一度カメラを構える必要がある。視界は狭まるし、死角も増える。それがたまらなく怖い。ただでさえ真っ暗で息の詰まりそうな状況で、小さな画角内に異変が収まってくれることを祈りながら、縋るような気持ちでシャッターに指を添える。心臓を静かに撫でられているかのような静かな緊張感が、ファインダーを通すだけでぐっと増すのだ。

緩急のついたホラー要素

一般的に、ホラーゲームに内包されている恐怖にはいくつかの種類に分類される。おどろおどろしい雰囲気で精神的に追い詰めてくるタイプや、大きな音や派手な演出で驚かせてくるタイプ、応戦手段の少なさから恐怖を煽ってくるタイプなど、タイトルによってさまざまだ。『DreadOut』シリーズはどちらかというと、あの手この手でプレイヤーをビビらせようとしてくるタイトルだ。廊下を振り向くと黒髪ロングの女性がぽつんと佇んでいるし、真っ暗な道を進んでいると怖い顔をした女性がガタガタ震えながら近寄ってくるし、外を歩いていると突然悲鳴とともに苦悶の表情をした女の顔面が大写しになる。「ジャンプスケア」という単語から連想されるホラー要素は、おおよそ詰まっていると考えていいだろう。

筆者が考えるに、探索を進めるためにカメラを構えなければいけないという本作の特徴は、あまりにもジャンプスケアと相性が良すぎる。プレイヤーはカメラ越しの狭い視界に怖ろしい怪異を捉え、音や動きでこちらを揺さぶってくるのに負けずに立ち向かわなければならない。筆者の都合だけで言わせてもらえば、ゲームシステム的な意味での写真だけでなく、本稿に載せるスクリーンショットも撮影しなければならないのだ。余計に怖いし、操作は忙しい。しかし、こちとらプロである。慣れてしまえば何ということはない――そう自分に言い聞かせながら、何度も悲鳴を上げる羽目になった。

しかし、本作のホラー要素はジャンプスケア一辺倒というわけでもない。例えば廃墟を探索している最中に見かける猫。何の変哲もない黒猫だというのに、こんなところにいるだけでどことなく恐怖を感じてしまうのはなぜなのだろうか。大きな音や派手なホラー演出で驚かせるだけでなく、こうした静かな演出も心にじわりとした闇を落としていくのだ。緩急の付け方に、筆者はプレイしながら舌を巻いた。


インドネシア特有の雰囲気も楽しめる

最後に、『DreadOut』シリーズ特有の世界観の妙についても触れさせていただきたい。本作の舞台はインドネシアだ。プレイすることで、日本に住んでいてはあまり触れることのできない、現地特有の文化を感じ取ることができるのだ。インドネシアならではの要素は空気感や雰囲気といった漠然としたものだけではない。本作に登場する怪異は、インドネシアで伝承されているものが多いのだ。

たとえば、インドネシアではポピュラーな幽霊である「ポチョン」。白い布で包まれ、奇妙にぴょんぴょんと跳ねるような動きでこちらに近寄ってくるポチョンは、『DreadOut』のACT.0から登場する。この白い布は埋葬される際に身体に巻かれたもので、取り除くことで土に還れるのだという。本作では写真に収めることで彼らを成仏させることができる。

なお、遭遇した怪異は「ゴーストペディア」に掲載される。名称や外見のほかにどんな怪異かの解説も書かれているので、それらを読むのも本作の楽しみ方のひとつだろう。特にホラーゲームに慣れた人はインドネシアの文化に触れるつもりで、現地観光的な遊び方をしても面白いかもしれない。

以上、インドネシアの湿り気を感じられるホラーゲーム『DreadOut Remastered Collection』をご紹介した。日本の『零~zero~』シリーズにインスパイアされた直球のホラーゲームは王道ながら、インドネシア独特の文化で味付けされて独特の世界観を作り出している。ホラーゲームに慣れた人も、そうでない人も、インドネシア旅行に行くような気持ちで遊んでみてはいかがだろうか。

DreadOut Remastered Collection』は、PS4/PS5/Nintendo Switch向けに1月16日に発売予定だ。

Aki Nogishi
Aki Nogishi

ポストアポカリプスとドット絵に心惹かれます。AUTOMATONではFF14をメインに担当します。

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