「Steamへの集団訴訟に関するお知らせ」が一斉に届き、世界中の開発者が困惑していた。裁判の進展で“知らぬ間に原告”に
今月7月上旬に国内外のゲーム開発者・パブリッシャーに向けて「Valveを相手取る米国における集団訴訟」に関する連絡がメール・郵便にておこなわれ、話題となっていた。

今月7月上旬に、国内外のゲーム開発者・パブリッシャーに向けて「Valveを相手取る米国における集団訴訟」に関する連絡がメール・郵便にておこなわれていた。条件を満たす開発者・パブリッシャーは自動的に訴訟の原告となっているようで、希望者に辞退するかどうかを選ばせるための連絡であった。
事の発端は2021年にさかのぼる。デベロッパーのWolfire Gamesは同年4月、Valveを相手取り米国ワシントン州西部地区連邦地方裁判所にて集団訴訟(クラスアクション)を提起していた。同スタジオは、Valveが独占禁止法および不正競争防止法に違反していると主張。メーカーがSteamにて作品を販売した際にValveに支払う、いわゆる“ストア税”とも呼ばれる手数料が売上の30%も設定されている点や、メーカーがSteamと他ストアの両方でゲームを販売する際に、Steamより低い販売価格や有利な条件を設定してはいけない規約を導入している点などについて違法であると訴えていた。
同訴訟は裁判所によりいちどは棄却された(関連記事)ものの修正訴状の提出が許可され、2022年5月には修正訴状の一部の請求のみを認めるかたちで訴訟が継続。その後Dark Catt Studiosが提起していた類似の訴訟と統合された。
辞退しなければ自動的に原告に
そして2024年11月には裁判所により本件が集団訴訟として認められ、Wolfire GamesとDark Catt Studiosが原告代表に決定。2017年1月28日から2024年11月25日までの期間に、Valveに手数料を支払った開発者・パブリッシャーが原告側の範囲として決定された。拠点が米国になくとも、米国の消費者向けにゲームを販売した開発者・パブリッシャーは対象となっているようだ。対象は3万2000人(社)にのぼるとみられている(Law360)。
そうしたなかで今年7月上旬より、国内外の開発者・パブリッシャーに向けて本訴訟に関するメールあるいは郵便が送られていたようだ。国際郵便が送られてきたといった報告もみられる。
メール・郵便には専用サイトへのリンクが記載されており、リンク先から集団訴訟の原告から辞退するかどうかを選べる内容になっていた。裏を返せば、先述した原告の条件を満たしていれば、辞退しない限り国内外問わず自動的に集団訴訟の原告に含まれるようだ。もしWolfire GamesとDark Catt Studiosが勝訴して損害賠償がおこなわれれば、分配された賠償金を受け取ることが可能とみられる。ただし敗訴すれば、今後同一の内容での訴訟を米国にて提起することができなくなるわけだろう。
いずれにせよ、突然「訴訟」に関する穏やかではないメールが届いた点には困惑する反応も寄せられていた。スパムメールかどうかを疑う開発者も見られ、国内外で波紋を広げていた様子だ。Steamに特に不満がなく、訴訟に参加する気はないと表明する開発者も散見される。ちなみに3D Realmsの共同創設者であり、『Duke Nukem』シリーズなどを手がけたベテラン開発者のGeorge Broussard氏は、メールがスパムではないとして開発者にチェックを呼び掛けていた。
業界の“ストア税”の変化
Valveを相手取り、2021年より継続している集団訴訟。なお違法性が主張されている請求項のひとつである手数料に関しては、AppleやGoogleもそれぞれが運営するApp Store、Google Playストアにて30%として設定している。ただしAppleでは2020年より(関連記事)、Googleでは2021年より(関連記事)、それぞれ年間収益100万ドル以内(約1億5000万円・現在のレート)の事業者の手数料が30%から15%に引き下げられる規定が設けられている。
またEpic Gamesストアでは今年6月より、対象となるゲームの年間売上が100万ドルに達するまでは手数料が無料化。100万ドルに到達後に、従来どおり収益の12%の手数料が発生するようになった(関連記事)。かつて30%が業界水準であった“ストア税”も変容を見せている。
対するSteamでも収益に応じて手数料が変化する制度が2018年より導入されたものの、こちらは収益が基準よりも大きいと手数料の割合が低下する仕組み。具体的には対象となるゲームのSteamにおける収益が1000万ドルに達すると25%に、5000万ドルに達すると20%に引き下げられる。上述したサイトとは異なり、売上が大規模なゲームのみが恩恵を受けられる仕組みと言える。
とはいえSteamで展開されるゲームの大部分は上述したような売上に届かないとみられ(関連記事)、販売されている多くのゲームから売上の30%が手数料として引かれているのが実情だろう。今回の訴訟の行方次第では、Steamの運営方針にも変化が訪れるかもしれない。