ウクライナ発『S.T.A.L.K.E.R. 2』発売日には「ウクライナ全土のネット回線」が悲鳴を上げていた。プレイヤー殺到にプロバイダーも「無理です」宣言
ウクライナのデベロッパーのGSC Game Worldは現地時間11月20日、『S.T.A.L.K.E.R. 2: Heart of Chornobyl』(以下、S.T.A.L.K.E.R. 2)を発売した(日本国内展開はセガが担当)。発売後すぐさま売上が100万本を突破するなど人気を博す作品だ。そんな本作発売時には、ウクライナ国内全土でインターネットに問題が生じるほどの影響をもたらしていたという。
本作は、サバイバル・ホラーFPS『S.T.A.L.K.E.R.』シリーズの最新作だ。主な舞台となるのは、チョルノービリおよびその周辺の立入禁止区域「ゾーン(The Zone)」だ。プレイヤーはストーカー(S.T.A.L.K.E.R.)と呼ばれる、一攫千金を狙う者たちのひとりとなって、貴重なアーティファクトなどを求め危険地帯に飛び込んでいく。プレイヤーは凶暴なミュータントや「アノーマリー」と呼ばれる存在などのほか、武装した派閥間の争いも切り抜けつつ、広大なオープンワールドを探索することとなる。
本作の開発を手がけるGSC Game Worldはウクライナに拠点を置くスタジオだ。2022年2月からはロシアによるウクライナへの侵攻が開始されたことにより、開発の一時中断などを経ながらも粘り強く開発が進められ、ついに現地時間11月20日に発売に至った。
ウクライナ全土のネットが悲鳴
そんな『S.T.A.L.K.E.R. 2』の発売日にウクライナのオンライン回線に“異常”が発生していたことが報告されていた。ウクライナのメディアITC.uaによると、11月20日の夕方ごろにさまざまな都市でダウンロード速度が悪化したり、ゲームやIPTV(テレビ配信サービス)の動作に問題が生じたりと、ネットワークが不安定な状況になっていたそうだ。ITC.uaの編集部も、身をもってそうした状況に直面したと綴られている。
そして当時、ウクライナのインターネットプロバイダーであるTenetとTriolanが、ネットワークが不安定なことを報告。両者ともに、『S.T.A.L.K.E.R. 2』の発売を原因として伝えている。Tenetは「待望の『S.T.A.L.K.E.R. 2』発売によりダウンロードが殺到して過負荷が発生しており、すべての加入者がインターネット速度低下の影響を受ける可能性がある」と説明。残念ながら同社で対処できる範疇を超えているとして、できるだけ早く安定させると伝えていた。
またTriolanも『S.T.A.L.K.E.R. 2』のリリースへの関心度の高さから、負荷が増大してインターネット速度が一時的に低下していると案内していたという。いずれも現時点では解消されたとみられるが、インターネットに関する問題はウクライナ全土で5~6時間にわたって生じていたとも伝えられている。
なお本作は発売からわずか約1日で売上100万本を突破したことも伝えられており、それとは別にPC/Xbox Game Pass向けにも提供されている。また本作は必要ストレージ容量が約150GBの重量級タイトルであり、特に発売当日には各プラットフォームで相当なデータ量がダウンロードされていただろう。そのためか、ウクライナ国内では各インターネットプロバイダーが悲鳴を上げるほどの影響があったようだ。
ちなみにこのことについては本作のエグゼクティブプロデューサー/クリエイティブディレクターを務めるMaria Grygorovych氏もコメント(Eurogamer)。重要なインフラでもあるインターネットへの影響が国全体で生じたとされる点を大変な事態であったとしつつも、思わず嬉しい驚きを感じる出来事にもなったようだ。そして同氏やスタジオにとってもっとも重要なのは、本作の発売でウクライナのプレイヤーたちに幸せをもたらせたことだという。
本作は、紆余曲折を経ながら開発されてきたタイトルだ。『S.T.A.L.K.E.R. 2』というタイトル自体は、過去の『S.T.A.L.K.E.R.』シリーズを手がけていた旧・GSC Game Worldにより2010年ごろに発表。しかしその後旧・GSC Game Worldは閉鎖され、元GSC Game Worldの開発者らが集まり、2014年には現GSC Game Worldとして正式に復活。2018年には『S.T.A.L.K.E.R. 2』がふたたび発表されるに至った。
しかしその後発売は延期され、2022年2月24日にはウクライナに対してロシアが侵攻を開始。戦火を逃れるため、開発が一時中断されることとなる。開発の行く末が心配されるなか、GSC Game Worldは開発再開を宣言。ロシア軍の攻撃だけでなく、同国を起源とすると見られるサイバー攻撃や脅迫行為を報告しつつも、粘り強く開発を続行した(関連記事)。リリース日についてはさらに複数回延期されたものの、とうとう発売にこぎつけた格好だ。ファンにとって待ち望まれ続けたリリースということもあり、ウクライナでは国内全土のインターネットに問題をもたらすほどの勢いでスタートを切ったのだろう。
再延期はできなかった
ちなみに先述のEurogamerのインタビューでは、GSC Game WorldのCEOであり本作のゲームディレクターを務めたIevgen Grygorovych氏が、スタジオには本作を再延期する体力が残っていない極限状態であったことも伝えている。発売日が設定されるとそこに向かって数か月間にわたる集中的な作業が必要になり、これを何度も繰り返してきたことでもう一度延期できるようなエネルギーは開発チームにまったく残っていなかったという。そのためこれ以上延期してもすべての問題を修正しきることはできないと判断。可能な限り最高の状態としてリリースせれる運びになったそうだ。
GSC Game Worldは本作発売日に声明を投じ、粗が残っていることについて言及。フィードバックに注視して迅速に対応していくことを表明していた。そして11月29日にはさっそくパッチが配信され650以上もの不具合が修正。翌30日、および12月4日にも修正パッチが配信された(関連記事1、関連記事2)。再延期しなかった代わりに、発売後に素早くアップデートを重ねることで磨き上げられているかたちだ。12月中には今後の新コンテンツ追加アップデートのロードマップが効果予定となっており、さらなるブラッシュアップや新たな展開も注目されるところだろう。
『S.T.A.L.K.E.R. 2: Heart of Chornobyl』は、PC(Steam/Epic Gamesストア/GOG.com/Microsoft Store)/Xbox Series X|S向けに発売中だ。PC/Xbox Game Pass向けにも提供されている。