人気脱出シューター『ARC Raiders』、「PvEモードほしいorいらない」で議論巻き起こる。PvPvEだから生まれる、ロマンとストレスのせめぎ合い

『ARC Raiders』に「PvE」のみのモードが実装されるべきかについて、熱い議論が繰り広げられている。

ネクソンは10月30日、Embark Studiosが手がける『ARC Raiders』をリリースした。対応プラットフォームはPC(Steam/Epic Gamesストア)/PS5/Xbox Series X|S。本作の一部ユーザー間では現在、「PvE」のみのモードが実装されるべきかについて熱い議論が繰り広げられている。

『ARC Raiders』はPvPvE形式の脱出シューターだ。ソロプレイまたは最大3人でのチームプレイに対応。本作の舞台はARCと呼ばれる謎の機械によって荒廃した未来の地球。プレイヤーは「レイダー」と呼ばれるならず者のガンマンとなり、ARCや敵対するほかのレイダーなどと地表で戦う。戦闘や探索を通じて手にした貴重な物資を、地下居住区「スペランザ」へと持ち帰るのだ。

本作はSteamだけで35万人を超える最大同時接続プレイヤー数を記録するなど、大きな反響を呼んでいる(SteamDB)。本作ではプレイヤーと敵対するARCとの戦闘だけでなく、他のプレイヤーとの戦闘も同時に展開されるPvPvEのゲームプレイが採用されている。ソロプレイとチームプレイのマッチングはできる限り分かれているそうで、特にソロプレイでは偶然出会ったプレイヤーとの交流も発生しやすい作品になっている。

そんな本作は、実は2021年のタイトル発表当初には、PvP要素のない協力型シューターとして開発が進められていた。2023年5月にリリースの延期を告知するとともに、一転してPvPvE脱出サバイバルシューターとして開発が進められることが発表され(関連記事)、ついに発売に至ったという経緯がある。この路線変更の裏には、シンプルにPvEゲーム時代の本作が「面白くない」という判断があったという(PCGamesN)。

PvPvEによるプレッシャー

ただ本作では、PvE専用のモードを実装してほしいといった要望も散見される。とはいえ、PvEモードの必要性についてはユーザー間で意見が割れている様子だ。

たとえばXユーザーのMuaxh03氏はソロプレイで本作を遊んでいるようで、ただクエストをこなそうとしただけなのに、結託したユーザーに連続して遭遇して酷い思いをしたと報告。一方で、その次のマッチでは強敵NPCであるクイーンと戦っているチームに助太刀し、大量のルート品とともに最高の時間を過ごせたという。そうした経験から、同氏は本作が他のプレイヤーがフレンドリーなときが一番楽しいと感じたそうで、PvEを“面白くない”と判断してPvPvEに移行した開発者の考えを理解できないとする胸中を明かした。

『ARC Raiders』をはじめとするPvPvE脱出シュータージャンルの作品では、プレイヤーとの戦闘を撤廃したモードが導入される例も多い。たとえば、たとえば昨年4月に早期アクセス配信が始まった『Gray Zone Warfare(グレーゾーン・ウォーフェア)』では、プレイヤー間での与ダメージが発生しない「JOINT OPERATION」モードが存在。また脱出シューターを代表するタイトル『Escape from Tarkov』では、他プレイヤーとマッチングしない「PvE ZONE」モードが、プロファイルを分けるかたちで実装されている。

『Gray Zone Warfare』

マップを探索し貴重なアイテムを収集しながら脱出するというプロセスに重きを置くプレイヤーにとっては、PvE専用のモードの方が敵対する可能性のあるプレイヤーがいない分気楽にプレイできるという側面があるだろう。ほかにも、たとえば「ワイプ」システムが採用されたPvPvE脱出ゲームではワイプ後の初動に遅れてしまうと、マッチングする周りのプレイヤーがどんどん強くなっていき、時間の経過とともに相対的に不利になっていくという状況に陥る傾向にある。自分のペースでゆっくり進めたいといった要望も想定され、PvPvE脱出ゲームにてPvEモードの需要が一定数存在するのだろう。

戦わないという“選択”

一方でPvEモードの必要性を説くMuaxh03氏に対しては、異議を唱える意見もみられる。PvEモードの実装が、逆に『ARC Raiders』の魅力を損なってしまうという考えだ。

PvPvEスタイルの作品では、ほかのプレイヤーと敵対するかもしれないという緊張感も生じることとなるが、だからこそ「敵対しない」という“選択”をユーザーがとった際に、プレイヤー間に印象的なシーンとして刻まれることとなる。そして『ARC Raiders』の舞台は、プレイヤーであるレイダーを超える圧倒的な脅威としてARCが地表を支配する地球だ。殺伐とした世界観であり、敵対も協力も入り混じる点は作風に則しているだろう。たとえPvPでやられた場面でも本作の世界観ならでは“ドラマ”が生まれる点は、ユーザーから好評を博している。またもしもPvEモードでプレイしていたならば、協力的なプレイングがいわば当たり前のルールとなるため、Muaxh03氏がクイーンと戦闘したマッチで感じたような、他のプレイヤーと協力する幸せは薄れていたのかもしれない。

また、対人要素の有無によってマッチングを分けるという意見についても、友好的なプレイヤーとキルに飢えたプレイヤーの分断に繋がってしまう点での懸念が浮かんでいる。つまり、PvEモードが用意されていたならば、協力プレイを望むプレイヤーはそちらに流れ、PvPvEモードは敵対的なプレイヤーで溢れるのではないかといった考えだ。

そのほか、本作では敵NPCであるARCがかなり強力な存在ではあるものの、敵がNPCだけであれば戦闘における攻略法も早々から編み出され緊張感も次第に薄れていくだろう。他のプレイヤーの介在によって、常に予測できないゲームプレイが展開されることも、本作の持ち味に繋がっているといえる。

なお、先述したとおり脱出シューターにおける「PvE」モード自体には一定の需要も見受けられる。先日Steamでリリースされた見下ろし視点の脱出シューター『エスケープ フロム ダッコフ』は、シングルプレイ専用作品でありながら最大同時接続プレイヤー数は30万人を超え、Steamユーザーレビューでは785件中94%の好評率で「非常に好評」ステータスを獲得している。脱出シューターから、対人戦闘や協力の要素を除いたエッセンスを詰め込まれているほか、先述したような自分のペースで楽しめるといった良さが評価されている作品だ。ひとくちに脱出シューターと言えど、PvPvEとPvEそれぞれに魅力と需要があることもうかがえる。

『エスケープ フロム ダッコフ』

『ARC Raiders』についても、今後PvEモードが実装されないと明言されたわけではなく、要望次第で実装される可能性はゼロではない。とはいえ少なくとも現時点では、自然とユーザー同士の助け合いが引き出されている傾向もみられ、敵を見つけた途端に発砲するようなユーザーは少ないとの報告もある。『Escape from Tarkov』のように他プレイヤーの危険度が極めて高く、かつ敵NPCと他プレイヤーの区別がつきにくいがために殺伐とした環境が築かれているタイトルとはひと味違う持ち味になっているようだ。

『ARC Raiders』にPvEモードを実装すべきかについてはさまざまな意見があるものの、高い人気を博している点も見るに2023年に発表されたPvPvEへの大幅な路線変更が上手くはまり、本作ならではの魅力に繋がっている側面もあるのだろう。とはいえ本作ではワイプが任意制であるなど、先発のPvPvE脱出シューターとは異なるシステムも採用されている。今後プレイヤー間での協力あるいは敵対のバランスがどのように推移していくのかにも注目したい。

『ARC Raiders』はPC(Steam/Epic Gamesストア)/PS5/Xbox Series X|S向けに発売中だ。

Shion Kaneko
Shion Kaneko

夢中になりやすいのはオープンワールドゲーム。主に雪山に生息しています。

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