Annapurna Interactive“スタッフ25人総辞職”の背景が報道される。閉ざされた「部門独立」の道と、食い違う証言
先週各メディアによって伝えられた、パブリッシャー・Annapurna Interactiveの「スタッフ総辞職」について、関係者のものとされる証言を取りまとめた詳細を海外メディア米IGNが報じた。今年始めから今夏にかけての人事や、母体であるAnnapurna Pictures設立者の動きが背景にあったようだ。
Annapurna Interactiveは、米国に拠点を置く映画会社Annapurna Pictures傘下のゲームパブリッシング部門だ。これまで宇宙アドベンチャー『Outer Wilds』や猫アドベンチャー『Stray』、パズルゲーム『Cocoon』といった、高い評価を受けるゲームを数多く世に送り出してきた。
ところが、Annapurna Interactiveの全スタッフ25名について、突如自主退職したとの情報が先週9月13日に報道(関連記事)。退職の事実について、元スタッフ・Annapurna Interactiveいずれの側も認め、業界に衝撃を与えた。今回米IGNが匿名関係者からとされる証言を取りまとめつつ、一連の出来事の背景を伝えている。
事態の始まり
まず、今回のスタッフ大量離脱の直接の発端としては、Annapurna Pictures設立者であるMegan Ellison氏による「介入」があったとされる。複数の証言者によれば、今年3月ごろ、それまで経営から遠ざかっていたEllison氏が突如として復帰の動きを見せた。Annapurnaによれば、Ellison氏の復帰にあたって、それまでPictures側の社長を務めていたNathan Gary氏は、Interactive側の長として異動。加えて、それまでInteractiveの運営を司っていたJames Masi氏を解雇する人事がおこなわれたという。
関係者証言によれば、まずここで綻びが生じることとなったようだ。解雇されたMasi氏に続くように、Gary氏も同社を去ることに。この動きについて、Annapurna側は「Masi氏の解雇に反応して、Gary氏が自主退職した」と主張。一方で関係者は「GaryはMasiと同時に解雇された」と証言し、話に食い違いが見られる。いずれにせよ、Annapurna Interactive設立にも携わったふたりの突然の解雇により、同社のスタッフの間には混乱や不信感が広がったという。また、この解雇に対する抗議のために、少なくともひとりの管理者層スタッフを含む複数名がAnnapurna Interactiveを辞職したとのこと。
米IGNが伝えるところによれば、こうした動きを受けてEllison氏はスタッフたちを交えたオンラインミーティングを実施。解雇・辞職でAnnapurna Interactiveを離れたスタッフを呼び戻す意向を見せ、実際にGary氏とMasi氏を含むすべてのスタッフがふたたびAnnapurna Interactiveに戻ってきたそうだ。
「独立計画」が浮上
一連の出来事を受け、Ellison氏とGary氏のビジョンを両立するため、新たな企業「Verset」としてAnnapurna Interactiveを“独立”させる構想が立ち上がったという。同社の所有権はAnnapurnaとVersetの重役陣で折半され、現在Annapurna Interactiveが請け負っているプロジェクトはすべて引き継ぎ。その売上も両社間で配分される予定だったとのこと。
しかし、その計画にも暗雲が立ち込め、Annapurna Interactiveスタッフらの間にEllison氏への不信感が募っていったようだ。そして夏の初め頃に、かつて同社の立ち上げ参加者で、それまで社を離脱していたHector Sanchez氏が、Ellison氏の肝いりで“ひっそりと”復帰したとのこと。Sanchez氏はAnnapurna Interactiveのスタッフに伏せられたまま、新たなゲーム関連のプロジェクトを手がけることになったという。
突如“蚊帳の外”にされたInteractive部門
さらにSanchez氏は8月になり突然表舞台に出る。同氏はAnnapurna InteractiveおよびNew media部門の社長に任命。その後、Remedy EntertainmentがSanchez氏の古巣であるEpic Gamesとの提携を打ち切り。Annapurnaと新たに提携することが突如として発表された(関連記事)。また、Remedyとの提携にあたっての発表では、Annapurna 「Interactive」についての言及はなく、同部門が“蚊帳の外”にされている様子がうかがえた。実際に、Interactive部門のスタッフたちは、この発表がされる朝まで提携について知らされなかったとのこと。
Annapurna Interactiveスタッフにさらなる不安が広がるなか、決定打と見られる出来事が起こった。Verset設立に向けての話し合いが、打ち切られたのだ。この交渉決裂について、Annapurna側は「Gary氏が契約書に関する相談に反応しなかったため」と主張している。一方で、米IGNは「Annapurna側が引き伸ばしをおこなっていた」とする関係者証言を得ているとのこと。また、同時期にはEllison氏によるInteractive側の経営への介入も激しさを増したとされている。
証言の食い違いがあるため真偽は不明であるが、結局Verset設立には至らなかった。結果としてGary氏やMasi氏など主要スタッフ含む、25人のAnnapurna Interactiveスタッフは8月、連名にて退職願を提出。2週間の猶予期間をもって辞職するとした。スタッフらはその後、Verset設立の検討を含む別の道についてEllison氏に提案したものの、同氏側は関心を示さなかったと証言されている。そうして、先週の「スタッフ総辞職」が起きたかたちだろう。
“全スタッフ”を失ったものの、Annapurna Interactiveは引き続き、デベロッパーとの契約履行に向けて動いていくようだ。同社初の内製ゲーム『Blade Runner 2033: Labyrinth』についても、ゲームディレクター含む開発陣がごっそり離脱したにもかかわらず開発は継続されるとのこと。一方の、離脱した25人のスタッフの動向についても注目したい。