VRアダルトゲームを手がけるスタジオHolodexxxは、Steam参入の為に『Holodexxx Home』など、3つの作品を開発した。しかしながら、3度に渡りSteam上でのリリースを却下された。度重なる修正をしたにもかかわらず、である。Holodexxxは公式ブログの投稿とKotakuによるインタビューを通じて、Steamのアダルトゲームに対する不透明な審査基準の問題点について語っている。
PCゲーム配信プラットフォームとして圧倒的シェアを誇るSteamは、かつては“一般向け”ゲームのみを扱っていた。しかしながら、近年ではポリシーの変更により、性的コンテンツを含めたセンシティブな要素を含むゲームも取り扱っている。そのため、現在のSteamストアには「性的コンテンツ」「成人向け」といったタグのついたアダルト作品が多く存在する。その一方で、実写ポルノコンテンツなどについては厳しく取り締まられている。
成人向け作品に寛容なitch.ioやDLsiteなどのプラットフォームでは、多くのアダルトゲーム開発者が活動している。Steamの方針転換を受けて、そういったアダルトゲーム開発者たちがSteamに参入する例が年々増加傾向にある。しかし、その審査基準についてはいまだ不透明な部分があるようだ。
「高品質アダルトゲーム開発」を標榜するHolodexxx
Holodexxxは、VRアダルトゲーム開発スタジオだ。itch.io上で作品を公開しているほか、Patreonでファンの投資を募りながら活動している。同社が目指しているのは「人間の完璧なヴァーチャル再現」とのことだ。そのため作風は非常にフォトリアルで、実際の女性と見紛うような作り込みをしている。
Holodexxxの人物3Dモデルに対するこだわりは強く、ゲームの制作過程でも実在のポルノ女優と協力しているそうだ。フォトグラメトリー技術を使って、画像データからリアルなゲーム内モデルを作り上げている。また、Holodexxxは同スタジオのゲームにおいて、実在モデルをどう扱うかを公式サイト内で明確に表明している。「女優の権利に配慮し、売り上げが女優に正当に分配されること」や、「実在モデルの存在するキャラクターが、ゲーム内での暴行など不当な扱いを受けないこと」を同スタジオの理念としているそうだ。
しかしながら、Holodexxxがこだわる実在モデルの存在が、Steamの内部審査基準に抵触した可能性が高いようだ。HolodexxxはSteam参入に向けて、まずはPG-13(13歳以上向け)のテスト作品を制作、Steamの配信審査に提出した。内容は下着を身にまとったモデルがVR空間上で踊るというものだ。踊るキャラクターモデルは、ポルノ女優Riley Reid氏をフォトグラメトリー技術でスキャンして制作されたものだったそうだ。
Steam審査チームとの戦い
1回目の審査結果は却下。Holodexxxの開発者は「Steamではポルノグラフィ動画は許可されていない」という“紋切り型”の説明を、Steamを運営するValveから受け取ったという。同テスト作品には、ポルノにあたらないよう修正を加えた実写映像も含まれていた。その映像が原因だと考えたHolodexxxの開発者たちは、2回目のSteam審査チャレンジに乗り出した。
2作目の『Meet Marley』は、ポルノ女優Marley Brinx氏をキャラクターモデルとして取り込んだ作品だ。VR空間内でMarley氏の3Dモデルを自由に眺められるという内容。今度は実写映像コンテンツを一切廃したため大丈夫かと思いきや、またもやValveからSteamでのリリースを却下される。却下にあたって受け取った説明はまたもや「ポルノグラフィは許可されていない」という紋切り型のものだったという。
しかし、Holodexxxは諦めなかった。開発者はまず、Steam審査チームに何が“ポルノグラフィ”にあたるのか、どういったものならリリースできるのかの基準を問い合わせた。しかしながらValveから寄せられたのは「次の作品を出してくれれば審査します」という返答だけだったそうだ。
Holodexxxの開発者は戸惑いつつも、「却下されるのは、性的コンテンツにフォーカスし過ぎて、ストーリーやゲームプレイ要素が欠けているためではないか」と考えた。そして、Marley氏をベースに作り上げた架空のキャラクターLady Euphoriaを主役に据え、インタラクション要素を強化した作品『Holodexxx Home』を制作。Steam審査に提出して三度目の正直を狙った。
『Holodexxx Home』の内容は、会話やタッチなどのインタラクションが中心。性交渉など真に“アダルト”なコンテンツについては、作中のいち部分を担う程度のバランスになったそうだ。審査に提出して数週間後、催促してやっとHolodexxxがValveから受け取った答えは、「却下」だった。理由はまたしても「ポルノグラフィは許可していない」というものだったそうだ。
Holodexxxは上記の受難を伝えるブログ投稿のなかで、Steamが諸作品を却下した理由についての考察を綴っている。同スタジオが審査落ちの原因としてもっとも有力視しているのが、“実在モデル”の採用だ。同スタジオが提出した3作品はいずれもSteam審査に落ちた。どの作品もそれぞれ違うアプローチをおこなっている。ならば共通する懸念要素は、いずれの作品も「実在の女優から3Dモデルを起こしている」ことだ、と同スタジオは考えたようだ。
開発者が指摘するSteam審査の“問題点”
「Valveは審査上、実在女優をスキャンした3Dモデルを忌避している」というHolodexxxの推測が正しいとすれば、興味深い疑問が持ち上がる。たとえば、実在の人物に限りなく近い3Dモデルを、スキャンを使わずいちから手作りして、「実在モデルをベースにしたキャラクターではない」と言い張った場合だ。“悪魔の証明”にもなりかねない課題を、Valveがどう受け取るかは興味深い。
また、Holodexxxは「『サイバーパンク2077』のようなフォトリアルで性的描写のあるゲームにポルノ女優は出演できないということか?」と指摘している。実際に『サイバーパンク2077』には性交渉シーンを含む恋愛要素があり、ゲーム内では裸体も描写されている。そういった登場キャラクターのひとりが実在の俳優に似ていると話題にもなった(関連記事)。
いずれにせよ、Steam運営元のValveは、HolodexxxやKotakuの問い合わせにも、明確な“ポルノグラフィ”の基準を示さずにいる。Holodexxxが強く懸念しているのは、そういった“不透明な基準”によってアダルトゲーム開発者が苦められることだという。
Holodexxxは今回、Steam審査向けの開発費として約220万円を費やしたとしている。Holodexxxには活動を支える強力なファンベースが存在したため、かかる費用を賄うことができた。しかし小規模な開発元にとって、審査の基準が明白にならないまま、開発費と審査費だけがかさんでいくのは経済的に手痛い。
同スタジオは、Steam審査チームが、現行のガイドラインを恣意的に運用している可能性についても指摘している。たとえば『Casey’s Condo』という別企業が開発した作品の例を見てみよう。こちらは『Holodexxx Home』同様、実在の女優からキャラクターモデルを起こしたアダルトゲームだ。Holodexxxの投稿によれば、『Casey’s Condo』は数年間にわたって「Ready to launch(リリース可能)」という状態になっていたにもかかわらず、突如としてリリース許可を取り下げられた。タイミングとしては、HolodexxxにSteamからリリース却下の連絡が来るわずか3時間前だったというのだ。
また、現行のSteam配信コンテンツガイドラインには、アダルトコンテンツにまつわる禁止事項として「実在する人物の露骨な性的画像」と記述されている。実を言えば、この記述は二転三転していたのだ。現在確認できる範囲では、当初は単に「ポルノグラフィ」と一言だけだった。しかし一単語だけでは広義過ぎたのか、合衆国法典を示して明確に禁止対象のアダルトコンテンツを定義するものに変更された。そしてその後、記事執筆現在の、解釈の余地を残した記述「実在する人物の露骨な性的画像」に落ち着いたという経緯だ。ガイドライン文の変更はHolodexxxの奮闘のさなかにもおこなわれており、Steam審査への不信感を煽る結果となったようだ。
Holodexxxの今回の指摘は、主に推測を基にしている。しかしながら、Steam配信コンテンツガイドラインの解釈の余地に起因して、同スタジオが資金と労力を消耗したことは事実だろう。Valveが性的コンテンツを理由にリリースを却下し、開発者が苦汁を飲んだ例はほかにもある。
男性となり女性を口説くデートシミュレーター、『Super Seducer 3: The Final Seduction』は、全編にわたり実写映像で構成されたゲームだ。過去作についてはSteamで配信されている。しかしながら同作については、強化された性的表現が原因となったのか審査を通過できなかった。同作開発者によれば、幾度も修正を重ねて審査に臨んだものの、具体的に審査の中で問題視されている点はValveから明らかにされなかったそうだ(関連記事)。
すでにSteamのアダルトゲームの扱いをめぐる問題は近年幾度も発生しており、議論も繰り返されている。果たして、Valveは審査のやり方を変更するのだろうか。なお、Holodexxxは記事執筆現在、itch.io上でSteam審査落ちを記念(?)して、「Steamからバンされたよセール」をおこなっている。