スクウェア・エニックス 齊藤陽介氏ロングインタビュー。『ドラゴンクエスト』から実写ゲームまで、王道と獣道を歩んだゲームプロデューサーの四半世紀

スクウェア・エニックス 齊藤陽介氏ロングインタビュー。エニックスに入社した93年から実写ゲーム時代、『ドラゴンクエスト』『ニーア』シリーズのプロデュース、アイドルグループの育成から趣味の人狼まで、王道と獣道の両方を歩んだゲームプロデューサーの四半世紀を振り返ってもらう。

 

アイドル育成という新たな挑戦

c 2018,2019 SQUARE ENIX CO., LTD. All Rights Reserved.

J:
『DQX』から身を引いて、『DQXI』が落ち着いたあとに「GEMS COMPANY」(*)が発表されたけど、『ユーラシアエクスプレス殺人事件』をやったから「GEMS COMPANY」に繋がったのか、その前からそういう考えを持っていたのか、どっちですか?

*GEMS COMPANY(ジェムズ カンパニー):齊藤氏がプロデュースしている、ディアステージ所属のアイドルグループ。通称「ジェムカン」。現在12人の個性豊かなアイドルが所属している。2018年4月から各自YouTube上で活動を開始。同年8月に齊藤氏のアイドルプロジェクトであることが明かされた。

齊藤:
実写ゲームのことは何も考えてなかったですよ。2015年ごろに初音ミクのニューヨークライブを見たとき、新しい時代がきたと思って電撃が走って、「これをリアルタイムでできたらもっと凄い」と思ったんです。

そのときはまだ『DQX』をやりながら『DQXI』もやってと言われて、『ニーア オートマタ』も作っていたこともあり、頭の片隅に置いていました。そして『DQXI』の開発が終わるタイミングで、スタッフを何人か使って、どこまでリアルタイムでCGを動かせるのか検証したんです。すると意外と動かせることがわかったので、収支を見ないR&Dとしてやりたいと会社に話してプロジェクトを始めたんです。

J:
でも、昔から芸能事務所って面白いよねという話はしていましたよね。

齊藤:
ちょっと違って、生まれ変わったら芸能人のマネージャーになりたいとは話していました。ゲームをプロデュースするのと芸能人をプロデュースするのは同じだなと感じたことがあったから。

J:
実写作品でアイドルを起用した経験が、今のGEMS COMPANYに活かされていたりしないんですか?

齊藤:
活かされていないです。ひとつあるとしたら、キャラ付けのバリエーションですね。実写作品のキャスティングのときも、眼鏡っ娘、ボーイッシュ、神秘キャラ、明るい子といった風に分けていました。GEMS COMPANYでも、12人のキャラを分けるという意味では同じ方法を使っています。

J:
それはいわゆる推しメンができやすい構成ということですか?

齊藤:
はい。たくさん用意していればどこかで刺さる。

J:
では、そのR&Dとしての目的は何ですか?

齊藤:
デジタルのエンターテインメントはゲームだけじゃないということを証明したくて。VTuberという言葉が生まれる前からやっていたので、「なんだみんな考えることは同じじゃないか」と思ってちょっと嬉しかったです。

J:
あれを作ったのは『DQXI』のスタッフ?

齊藤:
そうです。贅沢です。

 

インドネシアで100万再生を達成

J:
最初のころってスクウェア・エニックスの名前を出さずにやっていましたよね。

齊藤:
出さないで彼女たち個人のクオリティやポテンシャルがどれくらいか見ておきたかったんです。オーディションをしたときには、かわいくて一人語りができる子を募集して、700人くらいの中から選びました。

J:
ステルス期間はどれくらい?

齊藤:
4月からスタートして8月発表なので4か月ですね。

J:
そのときにはもう手応えがあったんですか?

齊藤:
ツイッターで5000人くらいフォロワーが付いていて、その中で俺のこともフォローしている人は1人とか2人くらいしかいなくて。それを見て「いけるぞ」と思いました。仮に俺が最初に「アイドルを作ります」と言っても、俺のフォロワーが流れて終わるだけだから。5000人って、フォロワー数としては少ないんだけど、5000人が愛してくれるコンテンツを作れたら強いですよね。5000人が1万円払ってくれたら5000万円になるわけで、今はそういう時代だと思っています。ファンを作るだけでなく、いかに深掘りできる人を作れるかが重要なんです。YouTubeとかも宣伝すると視聴数を一気に増やせることは知っているんですよ。でもそれはファンの質が落ちることに繋がりかねないので、俺が個人的にやりたくないんです。一年経過したので、この後どこかで試験的にやってみたいなとは思いますが。

J:
YouTubeはどれくらい人が集まっていますか?

齊藤:
12人の中で一番チャンネル登録者数が多い子で2万5000人くらいです。全部合わせると、どう低く見積もっても8万人ですね。クリスマスに350人の会場で5回公演をやるんですけど、あっという間に売れ切れました。今後、メジャーCDも出す予定です。それこそ渡辺さんが今ライブエンターテインメントみたいな部署を立ち上げていて、そこと一緒に何かできたらいいなとは思っています。

あとは直接的な利益ではないですが、GEMS COMPANYをはじめてから、ゲームでは取材を受けないようなメディアさんからも取材回数が増えたのは会社として考えれば良いことかなと。

J:
CGで作ったアイドルって国境の垣根がないじゃないですか。

齊藤:
インドネシアで100万再生いったんですよ。日本で5万再生くらいなのに。それがちょっとびっくりでした。

J:
ですよね。だから国内よりも海外の方が可能性があるのかなと思っちゃって。オンラインのいいところって、手応えがすぐにわかるところじゃないですか。だから海外で手応えを感じたときに、商業的な可能性がもうひとつ出てくると思うんです。

齊藤:
まだわからないですけどね。

 

『THE QUIET MAN』のプロデューサーを引き取った

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J:
あと気になっているんですが、『THE QUIET MAN』ってあったでしょ。あれは齊藤さんの流れを汲んでない?結構叩かれてたけど、チャレンジ精神があって俺は凄い好きなんですが。

齊藤:
『THE QUIET MAN』は俺も好きだから、プロデューサーの藤永くんは今うちのチームにいます。もっとやれることはあっただろうなと思ったの。なんとなく気になって見てたんだけど、もったいないなと思うところがいっぱいあって。

J:
いや、あれコンセプトはめっちゃ面白い。ついにスクウェア・エニックスからこういうのが出てきたかと思って感動を覚えたくらい。

齊藤:
ゲームが面白いかどうかではなく、あれを完成させるところまで持っていったことが素晴らしいと思いました。そこを評価しています。

J:
でも、めっちゃくちゃ叩かれたじゃないですか。何がダメだったの?

齊藤:
話を聞いている限りでは、ディレクターがゲームを作りきれなくて、プロデューサーの藤永くんがゲームの中身を作ることになったのがダメだったのかなと。

J:
なるほどなぁ。藤永さんは『THE QUIET MAN』が終わってから異動したんですか?

齊藤:
そうです。ああいう新しいことをやろうとしている人は嫌いじゃないので。『THE QUIET MAN』をもう一回やって貰おうとは全く思っていないんだけど。

AUTOMATONでは『THE QUIET MAN』の藤永健生氏ロングインタビューを掲載している(前編後編

 

遺作は実写タイトルにしたい

ーーまた新たに実写ゲームを作る予定はないんですか?

齊藤:
もちろん、やりたいとは思ってますよ。それこそ、部下にやって貰いたい。舗装はされていないけど、エニックス時代に作った道はまだ残っているので。

ーー齊藤さん自らが実写ゲーム作りに復帰する可能性はありますか?

齊藤:
最後のプロデュース作品は実写タイトルにしたいです。遺作。

J:
それは映画とかではなくゲーム?

齊藤:
うーん、デジタルエンターテインメントとしてです。

ーー「ブラック・ミラー:バンダースナッチ」はどう思いました?

齊藤:
めっちゃいいなと思いました。20年くらい前の、それこそ『ユーラシアエクスプレス殺人事件』のころから、電車を一両貸し切ってやるイマーシブシアター形式のエンタメをやりたいと思っていました。貸し切った車両の中で、役者さんが殺人事件を起こし、そこに乗り合わせた乗客が終着駅までに犯人を当てるんです。

あとパクられてもいいから誰かにやって欲しいのは、複数のストリーミング系サービスが横軸同時展開で同じ世界の物語を始めるというアイデアです。例えばU-NEXTの番組で殺人事件が起きる時刻の隣の部屋の物語が観れて、Netflixの番組では殺人事件が起きた時刻の全く別の場所で何やら意味深な話をしている。AmazonPrimeではまた違う場所でのドラマが始まっている。それら全部を横軸で見ないと何が殺人事件にかかわってくるのかわからないんだけど、普通の環境だと同時には全て観れないので、SNSやらでみんながリアルタイム実況することによって推理できる。そんなマルチチャンネルのザッピングドラマがあったらいいなと。イマーシブシアターはビジネスとしてみると、場所的なキャパシティが上限になっちゃうんだけど、ストリーミングサービスを使った体験であればそうはならないし。あと、例えばホテルを舞台にしたドラマであれば、出資額によって各ストリーミングサービスが確保できるシナリオ・役者が配分されるみたいにできたら面白いなと。

J:
最後、プロデューサーの下心がちょっと出てる(笑)

 

現在も複数のプロジェクトが進行中

J:
『THE QUIET MAN』の藤永さんを引き取っているし、他にも何かやっていますよね。

齊藤:
仕事はめっちゃありますよ。新作だと『バビロンズフォール』(プラチナゲームズ開発)がありますし。

J:
ということは2019年から情報を出していくという話は守れるんですね?

齊藤:
そうそう、それは守る。あとはヨコオさんとやっている『ファイナルファンタジーXIV』の「ヨルハ:ダークアポカリプス」。他にもいくつかのプロジェクトが動いています。今はそれぞれのプロジェクトに現場のプロデューサーがいますが、まだ完全に手放せるほど安泰ではないです。

ーーニコ生でヨコオさんの新作に触れていましたよね。

齊藤:
それは新しいもののうちのどれかです。

J:
やっぱり忙しいですか?

齊藤:
日によりますが、朝10時から夜8時までぶっ続けで会議の日もあります。空いている日もありますが。どちらかと言うと夜の時間が会食や出張などで2か月前から埋まってしまうのがキツいですね。

J:
夜が全部潰れるのはキツいなー。

 

ーーーパート5、人狼や正体隠匿系の非対称マルチプレイゲームに関する話題に続く

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