サバイバルホラー『Cronos: The New Dawn』が怖すぎる“6つのポイント”。ホラーゲーム弱者が苦しみながら挑んだ20時間が快楽へと変わる異常な作り込みとカタルシス
『Cronos: The New Dawn』の怖すぎるポイントをご紹介する。

ポーランドのBloober Teamは、『Layers of Fear』シリーズやリメイク版『サイレントヒル2』の開発元で知られるスタジオだ。リメイク版『サイレントヒル2』の累計出荷本数は200万本を突破しており、ホラーゲームの名手として、Bloober Teamの評価は日増しに高まっているといっていいだろう。そんなBloober Teamの完全新規のIPとして、『Cronos: The New Dawn』が2025年9月に発売された。
『Cronos: The New Dawn』は「妥協のないサバイバルホラー」体験を標榜しており、その質の高さはホラーゲーム専門のアワードである「The Horror Game Awards 2025」でもゲーム・オブ・ザ・イヤー(GOTY)にノミネートされているほどだ。『Cronos: The New Dawn』は2025年の「最恐」ゲーム候補であり、約20時間かけてクリアした筆者もそれには同意する。いや、率直にいって本作は怖すぎるほどだった。本稿では、『Cronos: The New Dawn』の怖すぎるポイントを6つに絞って紹介したい。
1.世界観が怖い
まず第一に、人々の自由や欲望を過度に制限するディストピアの果てに、街が崩壊してしまったポストアポカリプスの世界観が怖い。『Cronos: The New Dawn』の舞台は、架空の歴史を辿ったポーランドだ。本作のポーランドは人間を怪物へと変える謎の疾病によって崩壊してしまっており、かつては数多くの人々で賑わったであろう街並みにはその面影がない。主人公は時間を遡ることのできる「トラベラー」として過去に戻り、人類滅亡を防ぐために街を探索していく。
滅亡を防ぐために過去に戻るという行為は英雄的であるといえるかもしれないが、その戦いは決して華やかではない。人類を救うための戦いでありながらも、道中で戦うモンスターは元々は人間だ。苦しみぬいて死んだであろう人々の無念を思いながらも、主人公も生き残るためにモンスターと化した存在を倒さなければならないことに胸が痛くなる。


疾病が流行する前の社会情勢はもちろん、疾病が爆発的に流行している最中の模様についても市民がメモとして書き残している。それらのメモには市民たちの不安が克明に記されており、異常事態を解決することのできない国家体制への呪詛の言葉も含まれている。未曾有の大災害に巻き込まれた絶望はすさまじいもので、無力感に包まれた人々の叫び声が綴られたメモは真に迫っている。プレイヤーはそれらを読んでいるだけでも、精神的に重苦しく感じられるほどだ。
本来はよりよい社会の実現を目指したはずが、そのことが却って滅亡を促したというのはなんともやるせない。作中において度々挿入される実写風のイベントシーンは、ディストピアが滅亡につながったことをプレイヤーに実感させる。謎の疾病の存在を前提とした滅亡譚はリアルなものとなっており、その描写の数々は恐怖としてプレイヤーの心に残り続けるだろう。


2.探索で迷うのが怖い
道に迷うのも怖かった。『Cronos: The New Dawn』は、目的地までの道のりがかなり迷うゲームだ。ミニマップやクエストマーカーといった便利なものは用意されておらず、目的地へたどり着けるか否かはプレイヤーの記憶に頼る部分が大きいものとなっている。ストーリーの目的地までの距離と方向は大まかに表示されるが、そのルートはプレイヤーが考えなければならない。アイテムのヒューズを集めて機械を稼働させたり、パスコードを入力して施錠されたドアを開けたりと、先へ進むためには複数の場所を行ったり来たりすることも頻繁にある。
負荷の高いシステムだが、サバイバルホラーの探索としてはある種当然なのかもしれない。謎解きはノーヒントというわけではなく、先へ進むために必要なものは道中で目にする市民のメモなどを通じてわかるという巧みなものとなっている。今すべきことは何かを問うゲームデザインは、目的意識をプレイヤーにもたせる方法として優れたものだ。また、目的地への最短ルートを間違えてしまったとしても、その行き止まりでアイテムが手に入るのは助かった。徒労感に終わるのではなく、なんらかのメリットがあることでプレイし続けられる。
サバイバルホラーの探索はかくあるべしと筆者自身に言い聞かせながら探索の試行錯誤を繰り返すも、天井が地面に、地面が天井になる「重力ジャンプ」には苦しめられた。重力ジャンプは未来の叡智をもって滅びの過去に乗り込むSFのロマンがある本作の世界観にはしっかりマッチしているが、方向音痴の筆者を地獄に叩き落とす要素の1つであったのも間違いない。


主人公が訪れる場所はすでに壊滅的な被害を受けた場所がほとんどであるため、明かりの乏しい場所になりがちということも探索を難しくしている。先へ進む方法を思案していると、暗がりからモンスターが出てきて襲われるというのも一度や二度ではない。人間の死体の横を通り過ぎたかと思うと、突如としてモンスターと化して襲いかかってくることもしばしばだ。率直にいうと、モンスターか死体かを見分けることはほとんど不可能といってもいいだろう。だからこそ、終わることのない緊張感をプレイヤーは抱き続けることになるのだ。

3.モンスターが怖い
「オーファン」と総称されるモンスターも怖い。オーファンたちは街のいたるところに生息しており、こちらが隙を見せればすかさず攻撃を仕掛けてくる。主人公は重装備であるため不意を突かれた場合は攻撃の回避が難しいし、ダッシュして逃げようにも動きは機敏ではなく、プレイヤーの焦燥感を掻き立てる。
モンスターとの戦闘を避けることができる場合もあれば、相手を倒さなければ先へ進めないこともある。戦闘を避けて目的地まで駆け抜けたい衝動に駆られるが、それはほとんど悪手だった。次から次へとモンスターがあらわれることで、逃げる場所がなくなってしまう。
敵を1体ずつ確実に倒していく方が安全であり、それを実現できるプレイヤーのスキルが求められる印象だ。また、敵を倒したからといっても油断できない。焼却して処理をしておかないとモンスター同士が互いに融合し、より強力な存在となって再び襲いかかってくる。適切な対策を講じなければ、何度も蘇るモンスターは恐怖そのものだった。

探索時に敵が無限に湧いてくるわけではないものの、行き帰りの間にモンスターが復活することはある。敵がどこにいるのかわからない本作の仕様と合わせて、ときには雑魚敵がラッシュのように押し寄せる後半のストーリー展開は過酷なものだ。オートセーブによってコンティニューしやすいというところは救いでありながらも、情け容赦のない戦いの連続にエンディングを目指す筆者の心は挫けそうになった。
そもそも、敵と対峙していないときすらも怖い。探索時にモンスターの唸り声のようなものが聞こえてくることがあり、それが恐怖心につながってくる。たとえ相手がこちらの居場所に気づいていなくても、その息づかいを聞き続けるのは恐ろしいものだ。通路の角を曲がればモンスターと戦うことになり、逃げようとした主人公を追いかけ回すモンスターの執念に恐れ慄く。とにかく恐怖を掻き立てるサウンドの演出は統一されており、いついかなるときも油断できない体験を支えている。

4.強すぎるボスが怖い
ボス戦はどれもが強敵を相手にするもので、初見で突破できることはなかったと思う。雑魚敵との戦いではときに戦いを回避することも有効となるのだが、ボス戦は殺るか殺られるかという状態に追い込まれる。ボス戦は逃げることができず、問答無用で倒すことを迫られる。地獄のような場所で、プレイヤーにとって死神といってもいい戦闘能力の高さを誇る強敵とタイマンで対決しなければならないといえば、この絶望感を理解していただけるだろうか?
こちらは相手から数発攻撃を食らってしまえばゲームオーバーなのに、対するボスの頑丈さはかなりのもの。こちらの弾薬が尽きるほどの攻撃を叩き込むことで、なんとか勝利することができたというのもしばしばだった。また、なにより、ボスたちはその見た目が怖い。明らかに通常の個体とは異なる巨大な姿をしたボスもいれば、雑魚敵を召喚しまくるボスなども存在する。その生々しくもグロテスクなボス敵に何度も殺されながら攻略の糸口を探っていくこと事態が特定のプレイヤーにとってはダメージとなるだろう。


ホラーゲームが苦手な筆者は行き詰まってしまったときは鬱屈な気分になって落ち込んでしまったし、寝ている間に見る夢のなかでも憎きボスを倒す方法を試行錯誤するという体験をした。理不尽といえるほど難しいわけでなく、作中に散りばめられたヒントを活かせばボスを倒すことのできるというバランス感覚が本作は優れている。ショットガンに相当する武器によるチャージショットで相手を怯ませることができたり、火炎放射器で相手の弱点を浮かび上がらせたりと、ボス戦は工夫次第で相手より有利に立ち回ることが可能。そのことに気がついてボスを圧倒することができるようになると、自分がサバイバルホラーの達人に近づいたような気がして不思議だった。
決して難しいだけでなく、プレイヤーの観察によって攻略方法が見えてくるデザインになっていることには好印象だ。もっとも、プレイヤーが工夫の果てにそうした境地にたどり着くことを予想してBloober Teamがレベルデザインをしていると考えると、それはそれでBloober Teamが怖くなってくる。
5.手に入る弾薬が乏しいのが怖い
ボス戦で弾薬を使い切るほどの死闘が繰り広げられることは先述したとおりだが、本作では入手できる弾薬や回復アイテムなどの数が制限されているのが怖い。限られた資源をやりくりして生き残りを目指すことがサバイバルホラー体験に繋がっているのは間違いないが、とりわけ弾薬がどこまで入手できるかを考えると緊張感が高まってくる。放った銃が敵に当たらなければ無駄になってしまうからだ。
ワークステーションで銃弾を買うことができたし、探索時に銃弾が手に入ることもあるのだが、それらを合わせても銃弾は潤沢にあるわけではない。サバイバルホラーのゲームではあり余る銃弾で敵を倒す爽快感を売りのひとつとしているものも存在するが、本作はあくまでも「妥協のないサバイバルホラー」体験を重視している作品だ。銃弾の節約もプレイヤーの腕前を示すものであり、溜めに時間のかかるチャージショットで敵の急所を撃ち抜くことで敵を倒し、弾薬を節約できたときは、率直にいって自分がうまくプレイできたという高揚感があった。


主人公が一度に持ち運べる武器やアイテムの数には制限がある。それは弾薬も同じであり、一定数の弾薬は別のスロットとして持ち運べるアイテムの種類をさらに制限するものだ。そういう仕組みになっているため、主力とする武器を選定するのには難儀させられた。主人公のスーツや武器は強化要素が存在するが、その見極めも重要となってくる。すべての武器を平均的にレベルアップさせると突出した武器がなくなり、ジリ貧になってしまうと感じた。筆者はもっとも手軽に扱えるハンドガンを主体に強化したが、武器の取捨選択はなかなか上手くいったとおもう。
本作は周回要素が存在しており、すべての武器や防具を最強段階まで強化していくことが可能だ。「すべてを強化すれば楽勝」といえるほど本作はヌルくはないが、RPG的に主人公を強化していけるというのは、殺伐とした探索と戦闘に彩りを与えてくれる。
6.ストーリーはカタルシスがありながらも人間の業が怖い
困難を乗り越えてストーリーをクリアしたときはカタルシスを得られるが、それと同時に人間の業を強く感じるのが怖い。ストーリーをプレイしていくうちに、街が壊滅してしまったのは人間の自業自得であったのではないかという疑問を拭い去ることはできなくなってくる。主人公は使命を全うすることをアイデンティティとしている節があり、そのためならかなり強引な方法も取る。
重要人物の「エッセンス」を抽出するというのが主人公の任務ではあるが、そのエッセンスの抽出はほとんど殺人行為のようなものだ。人を人であらしめる魂や記憶がエッセンスに相当するもので、それを抜き取られた人がどうなるかは序盤からおぼろげながらわかる。主人公が本当に善なる者であるかは序盤はわからないが、「トラベラー」としての信念がありありと感じられるので筆者は次第に主人公に共感を抱くようになった。


主人公とプレイヤーの心が一致するようになった最終盤では、結末に影響するイベントが発生する。本作はマルチエンディングであり、プレイヤーが主人公として選んだ回答が結末に大きく関わる。正直にいうと、序盤の主人公の印象からするとプレイヤーと同一化するような存在になるとは思えなかったが、最後にはプレイヤーの選択としてストーリーに結末が訪れるところは巧みだと感じた。ストーリーテリングとして直接的に語られることが少ないため、考察する余地が残されている。
終始緊張感に包まれる本作だが、猫を見つけたときは心が休まる。主人公も猫が好きなようで、普段からは考えられないほどフレンドリーに猫に話しかける。猫は殺伐とした世界において唯一のこされた癒しといっていい存在だが、どうして猫だけが無事なのかはわからない。もしかしたら猫ではないのかもしれないと考え始めると猫まで怖くなってくるので、深く考えることはやめておこう。

「怖さ」の虜になるほどの中毒性
ホラーゲームもシューターも苦手な筆者だったが、なんとか約20時間かかってクリアすることができた。探索では方向音痴の自分に情けなくなったが、迷いに迷いまくったことで数多くのアイテムを確保できたのは不幸中の幸いだったのかもしれない。弾薬の制限にときには辛さを感じつつも、ほとんどの場面では余裕をもって戦闘に臨むことができた。
ただし、Bloober Teamが「妥協のないサバイバルホラー」体験を目指したという本作のあまりの怖さにプレイをやめようと思ったことが何度もあった。それでもプレイを続けられたのは、本作が持つ独自の突き抜けた世界観が大きかった。ポストアポカリプスとディストピアが融合したかのような世界観によって、主人公がどのような行動をしていくのかに興味を惹かれた。

そうしてたどり着いたエンディングは達成感を覚えた。いまは別のエンディングを見るために、2周目のプレイを始めようかと思っている。正直なところ、初めのうちはあまりの怖さに「終わったら2度とプレイしたくない」と考えていた筆者にとって、自分の心境の変化に驚くばかりだ。もう一度、生きるか死ぬかで思い悩む戦場に身を投じて、あの素晴らしいサバイバルホラーから生還したい。
『Cronos: The New Dawn』はホラーゲームが苦手な者も虜にしてしまうような、極めて完成度の高いホラーゲームだ。ミニマップなしやシビアな弾薬管理など、あえて高難易度のサバイバルホラーを作り上げてユーザーから高評価を受けるBloober Teamが怖い。Bloober Teamは「怖い」という感情がどのようなものかを十全に理解しており、今後もプレイヤーを恐怖のどん底に陥れるようなタイトルを世に送り出すことになりそうだ。
『Cronos: The New Dawn』のPS5/Switch2向けパッケージ版は2025年12月11日に発売予定。価格はPS5版が7920円(税込)で、Switch2版が7950円(税込)。なお、ダウンロード版『Cronos: The New Dawn』はパッケージ版に先駆けて、PC(Steam/Epic Gamesストア)/Switch 2/PS5/Xbox Series X|S向けに発売中だ。
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