パブリッシャー付いてない、大規模宣伝されてないゲームも良作いっぱい。AUTOMATONが選ぶ、2024年よかった国産小規模開発ゲーム11本
ゲームエンジンの普及に伴い、個人でもゲームがリリースしやすくなっている。たくさん面白いゲームが世に出ているわけだ。パブリッシャーが付き、しっかりマーケティングされた商業ゲームの面白いゲームを触るのもいいが、個人(あるいは小規模チーム)開発者がパブリッシャーを付けず出したゲームも面白いものが多い。そうしたゲームをキュレーションするのも、ゲームメディアだからこそできる機能のひとつだろう。
ということで、年末企画として「パブリッシャーがついていない/発売時点でついていなかった小規模開発であろうゲーム」を表彰するコラムを掲載する。「日本国内の生まれであろう」「発売時点でパブリッシャーがついていなかった(のちについたものも対象)」「小規模開発っぽい雰囲気がある」といった、あくまで弊誌独自のざっくりとした条件であるが、そういった条件に当てはまる今年発売のゲームから、そのジャンルに強い著名人をまじえたライター陣の心に残ったものをご紹介する。素晴らしいゲームを見つける機会のひとつになれば幸いだ。
「夏の夜はやがて明け、恐怖は切なさに変わる」
開発元・販売元:ナツミカン
対応機種:PC(Steam/BOOTH/PLiCy/ふりーむ!)
初回プレイ時間:5時間
『ミッドナイトシンドローム』は、女子高生3人が町で起こる怪奇現象を調査していくホラーアドベンチャーだ。山と海に囲まれた自然豊かな田舎町・神舞町(かみまいちょう)の高校に通う藤田ぽんず、猫屋巴美、霧下繭香の3人は、軽い気持ちで深夜の学校へ忍び込みこっくりさんを試すことに。しかしその日を境に、3人の周りで奇怪な出来事が起こるようになる。
RPGツクールMVで制作された本作は、「探索パート」と「調査パート」に別れたマップ探索型アドベンチャーであるが、立ち絵をはじめオリジナル素材が随所に使われている。調査パートで噂話を収集すると手描き風の文字と可愛らしいイラストが手帳に書き込まれたり、シーンによっては美麗な一枚絵が挿し込まれることもある。1話完結のエピソード形式だが、エピソードごとに異なるゲームシステムや演出が取り入れられていて、非常にこだわりを感じる作りだ。
3人のキャラクターもとても魅力的だ。人気者だがどこかドライな転校生のぽんず、好奇心旺盛でトラブルメーカーな後輩の猫屋、クールで近寄りがたい雰囲気をもつ繭香。絵に描いたような仲良しというわけでもなく、しかしなんとなく馬が合っているように見えるこの3人の軽妙なやりとりは、ホラーである本作の暗くなりがちな物語に絶妙なマイルドさを与えてくれている。
女子高生3人が主人公という設定やタイトルからピンときた方もいると思うが、本作は往年の名作ホラーアドベンチャーの影響を多分に受けている。彼の作品がそうであったように、女子高生たちのリアルな日常の光も影も曝け出す、単なるオカルトものの枠に留まらない作風だ。そして、怪奇現象を通して3人の深い友情に収束していく様子は、まさしくジュブナイルの輝きを放っていた。
本作はSteamほかにて無料で配信中。BOOTHのみ投げ銭verとして有料販売もされている。また、設定資料集やグッズの販売、作者による短編アニメーションおよび猫屋と彼女が所属する超常現象解明部の面々が活躍する次回作も制作中という、本編配信後も精力的な活動が行われている。本作をプレイしたあとは、そちらもチェックするといいだろう。
by. ロッズ
「“カチッとハマる”、ひらめきパズル」
開発元・販売元:stone
対応機種:PC(Steam/itch.io)
初回プレイ時間:1時間半
少し変わった趣向の脱出ゲームを遊んでみたいなら、『HER TREES:THE PUZZLE HOUSE』がおすすめだ。本作にはアイテムが存在せず、部屋のなかにあるオブジェクトをタッチして個別にパズルを解いていく構造となっている。イメージとしては、脱出ゲームのフォーマットをとったミニパズル集だと思えば良いだろう。
パズルの内容としては、物を動かして組み合わせるとパスワードが発見できるので、その都度入力して完了していくというもの。直感とひらめきに重きが置いてあり、「この部分が繋がりそう」だとか「ここを重ねるとぴったり合うな」など、ジグソーパズルや積み木をしていて得られるようなカチッとはまるフィット感を手探りで導き出していく。そうやって物を正しく組み合わせると、いつのまにか目の前にパスワードが浮かび上がっている。このひらめきが解に繋がった瞬間がとても気持ちいい。
本作をプレイするのに特別な知識はいらないし、計算やメモも取らなくていい。言語も必要なく、アルファベットが分からなくても5までの数字が理解できていれば大丈夫だ。全編モノクロのアートスタイルであるためパズルに色彩由来の解法はなく、また音を使った解法もない。最初から好きなパズルにアクセスできるので、詰まったら後回しにして別のパズルに挑戦するといったアプローチもできる。いつでも段階的にヒントを見ることが可能で、どうしても解けない場合は答えを見ることも可能だ。落ち着いた音楽と手描きの絵の効果もあって、ストレスフリーな設計とアクセシビリティに長けた非常に「居心地の良い」脱出ゲームとなっている。
HER TREESシリーズの2作目にあたる本作だが、物語的に続いているようなことはないので、今作から遊んでもまったく問題はない。しかし前作は無料で配信されているので、パズルの手触りを確認するために前作から遊んでみるのも良い選択だと思う。itch.ioではスマホでブラウザプレイ可能な体験版も配信されているので、まずは実際に触ってみて、本シリーズのハイセンスさと面白さを直に味わってみてほしい。
by. ロッズ
「好奇心に殺される、高純度の恐怖体験」
開発元・販売元:れんたか(rentaka)
対応プラットフォーム:PC(Steam)
初回クリア時間:6時間
『失踪した友人の部屋に残されていたゲーム』は、隠された情報を探って奇妙なゲームの謎に迫る、モキュメンタリー系統のホラーゲームである。本作ではタイトルどおり、失踪した友人のパソコンに残されていたという不可解なゲームを遊んでいく。ゲーム内には5つのステージが内包されている。殺風景な空間で女の写真が迫ってくるFPSや、女に追われながら落とし物を探すマンションのパート、草原で謎のタスクをこなすシーンなど、チープであると同時に異常な気味の悪いステージばかりが用意されている。本作ではステージ終了条件が明示されていないので、プレイヤーはそうした統一感のないステージを遊んでクリア条件を模索。そしてゲームから隠された情報を見つけ出し、謎を解き明かしていくのだ。2019年頃にネット上で考察されていたというゲームには何が隠されているのか。ひたすら不気味で恐ろしい、静かな恐怖が繰り広げられる。
得体のしれない不気味さが好きだ。わからないものは恐ろしい。同時に、不可解で奇妙なものには強く惹かれる。恐ろしい異常の裏側には何があるのか、怖いのに知りたくて仕方がない。ネタバレになるので詳細は控えるものの、本作にはそういった謎を追いかける探求の面白さと、じっとりとした恐ろしさが詰め込まれていた。知れば知るほど不気味さが増していくのに、チープで不可解なゲームの謎を追うのが止められなかった。ホラー作品の登場人物たちは、明らかな異常の中を立ち止まらず進んでいくが、彼らもきっとこんな気持ちなのだろうと思った。謎を追う作品としては、導線が丁寧に用意されており、次の目標がわかり易い。またジャンプスケアやチェイスは非常に限定的。不気味で異常な世界一つで、正面から恐怖を感じさせてくる。まだまだ知名度こそ低いものの、モキュメンタリーホラーとして、2024年のゲームとして磨き上げられた珠玉の恐怖をぜひ体験してほしい。
by. Keiichi Yokoyama
「小さくとも本格的な、直球のローグライク」
『滅ぼし姫』
開発元・販売元:ステッパーズ・ストップ(Steppers’ Stop)
対応プラットフォーム:PC(Steam)
初回クリア時間:1時間程度
『滅ぼし姫』は、100歩進んだ先でラスボスを倒す、ノンフィールドなローグライクRPGである。本作では主人公の少女アヤメが1歩進むごとに、敵やモンスターとの戦いや、宿や店の施設など、ランダムなイベントが発生する。そうしたランダムイベントが発生する中を100歩進み、選択を繰り返した先でラスボスの討伐を目指すのだ。ただしアヤメの旅路には、強力なボスも含めて多くの困難が待っている。HP回復手段も限定的であり、ゲーム開始直後の時点では消費アイテムか施設に頼り切りになる。慣れないうちはラスボスにたどり着くどころか、最初の数十歩で力尽きるてしまうだろう。
そこで本作では的確な判断によって、ランダムな状況を切り抜けていく。アヤメにはMPを消費するスキルや消耗品の弾丸など、強力な行動が用意されている。敵のHPを削ると攻撃力も下がる仕様も含めて、上手く立ち回るとリソースの消耗を抑えられる。またアヤメは、レベルアップごとにランダムなスキルやパッシブ効果をもつアビリティが習得可能。売ると強敵と強アイテムが出現するようになるしおりなどは、扱いを誤ると自滅につながるものの、上手く使うと効率よく経験値やお金が稼げる。本作ではランダムな状況の中で細かな選択を繰り返し、どうにか強くなってボスを倒すわけだ。なお本作は、『雪道』『シェフィ』などを手がけてきたポーン氏の最新作となっている。
本作は小さい中へ、個人的にローグライクに求めている要素が多く詰め込まれていた。強スキルを引けた時の高揚感や、不運な時のどうしようもなさ。難易度変化タイミングを自分で決める仕組みや、一見マイナスなアイテムなどによる多くの悩ましさ。ウェイトなしでサクサク進む快適なプレイングも含めて、時に運にも左右される、最初からノンストップな厳しい難易度での試行錯誤を重ねる攻略には、クリアまで一気に遊ばせる力があった。
by. Keiichi Yokoyama
「ザ・令和倉庫番」
開発元・販売元:muratsubo Games
対応機種:PC
初回プレイ時間:72時間
『Baba is You』以降、パズルゲーム界で一気に「メタギミック」が流行り始めたと感じている。メタギミック自体は『Baba is You』が発明した概念というわけではないと思うが、『Baba』における実装と提示があまりにも美しすぎて多くのパズル作者に影響を与え、今では定番のオモチャとなっている。そもそもメタギミックとは何か?厳密な定義は難しいが、「一見パズルに関係ないと思われていたゲーム上の要素がパズルに絡んでくる」現象と言っていいだろう。一番分かりやすい例だとステージ選択画面そのものがパズルになっていたり、ゲームのUI要素がパズルに絡んできたりと言ったやつである。いまやただの倉庫番ゲームも、インタラクト不能な外壁に囲まれた小さな箱庭だけを考えれば良いものではなくなってきているのだ。
『マクスウェルのパズルな悪魔』の作者であるmuratsubo氏は、『Patrick’s Parabox』のもっとも有名なカスタムレベルパックのひとつである「Infinitesimal 」の作者であり、まさにこういった「メタギミック」に魅せられたパズル作者の一人と言えるだろう。そしてそんなmuratsubo氏が仕上げた本作品は、『Baba』から始まり『Patrick’s Parabox』『Recursed』『Squishcraft』と言ったゲームの流れを汲んだ上に全部乗せにした「現代メタ倉庫番の集大成」的な作品だ。
本作のスピード感は凄まじく、ほかのゲームであれば最終盤に登場するようなギミックがワールド3からすでに登場し始め、そこからさらに加速していく。ギミックが登場した次の瞬間にはもう応用が要求されていく。「もうこんなにゲームぶっ壊しちゃっていいの!?」となること請け合いだ。ゲーム自体の難易度とボリュームも凄まじく、アップデートで問題が追加されていくため長期的に取り組むのが良いだろう。とはいえ難しいだけではなく、最近はヒント機能も実装され入口もしっかりと整備され始めている。まさに現代倉庫番の魅力、難易度、驚き、そしてスピード感が詰まった作品なので、「Steamでオススメのパズルゲームは?」と聞かれたらしばらくは迷わずにこれを答えるだろうというくらいにはオススメだ。
by. Mizuki Kashiwagi
「性癖よりどりみどりみたいな側面もある」
『REDNEG ALLSTARS SWING-BY EDITION』
開発元・販売元:あうとさいど
対応機種:PC/Nintendo Switch
初回プレイ時間:16時間
2024年はSTGがおそろしく豊作な年であった。過去の名作たちはPCに移植され、インディーでは『夕暮れの楽園と赤く染まる天使たち』と『DEVIL BLADE REBOOT』といった作品がSteamでも非常に高い評価を受けた。そして今回紹介するのは、これらの作品の影に隠れながらも、負けず劣らずの魅力を放つ『REDNEG ALLSTARS SWING-BY EDITION』という作品だ。
本作は『コスモドリーマー』『ライクドリーマー』といったSTG作品で知られるサークル「あうとさいど」の最新作となっており、2019年にリリースされたフリーゲーム『REDNEG ALLSTARS』のリメイク版だ。そして本作の最大の特徴は、同サークルの過去作品などのキャラが総出演する「ボスラッシュ」型のSTGだということだ。
最近のSTG作品はどれもジャンル初心者へのとっつきやすさを強く意識しているものが多く、前述した2作品も例外ではない。詳細はここでは省くが、どちらの作品も初心者が遊びやすいようシステム面から良く工夫されている。しかし、従来型のSTGの魅力を伝えんとするが故にこういった作品では改善できない問題がひとつある。それが「道中のパターンを覚えるのが面倒くさい」ということだ。分かりやすい例として、筆者の知人に『東方』シリーズのうち『文花帖』とその派生作品だけはやり込めたという人はかなり多い。ボス戦だけやりたいという気質の人は想像以上に多いのだ。
『REDNEG』の1周クリアは大体20分前後であり、一般的なSTGと比べて特に短いというわけではない。ただ内容が全てボス戦であるというだけである。そういう点でも、『東方文花帖』のような完全な面クリア型の作品と、5~6ステージ通しの一般的なSTGの中間的作品として、この『REDNEG』を強く推したい。もちろんSTGとしてのクオリティも申し分なく、ややボム強めのバランスやオートボムシステム、敵弾の視認性の高さや高難易度も含めたモードの豊富さもあり、万人にオススメできるSTGとなっている。最後に、「あうとさいど」作品の見逃せない特色として登場する女の子のデザインが非常に特徴的だったりもするが、これについて本稿では一旦置いておくことにしよう。
by. Mizuki Kashiwagi
「カードゲームを通して誘う新たな世界への旅」
開発元・販売元:パルソニック
対応機種:PC
初回クリア時間:約10時間
『鏡のマジョリティア』は、いわゆる「言語解読」ゲームだ。大抵の場合、このジャンルにおいてプレイヤーに要求されるのは「異世界の言語」の解読ではあるが、本作にて求められるのはオリジナルTCG(トレーディングカードゲーム)のゲームルールを構成する、専門用語たちの理解である。「国産ホビーアニメ」の文脈をなぞりながら展開される本作のゲームプレイは、その文脈ゆえに国産ゲームとして高い独自性を持ち、同時に、言語が持つ機能とその面白さについて、私達の過去を追憶するという形で強い共感を伴いながら、分かりやすく認識させてくれる。
そもそも言語とは、単に情報を交換するだけのツールではない。個々人が持つ世界への解釈を表明するツールであり、よって、新たな言語を習得することは、新たな世界への扉を開けるということでもある。そうして目の前に広がった新世界には、いつだってドキドキとワクワクが満ちているものだ。
カードゲームの専門用語を理解することで、ゲームそのものへの認識が、言語解読ゲームからカードゲームアドベンチャーへと変わっていく。ゲームルールを客観視していたプレイヤーはやがて、文字通り主人公として主観的な視点に降り、その世界でしか味わえないTCGに集中する。プレイヤーの中には、作中の問題に既知の言語を当てはめ、それが可能であること自体に強く興奮した人もいるだろう。言語を理解することで、その世界を外側から眺める者から、その世界に生きる者になる。世界は言語の重なりで成立していることを知ることができる。『鏡のマジョリティア』はTCGに触れたことがなくてもぜひプレイしてほしい作品である。
by. Takayuki Sawahata
「意外に奥深さもある寿司あつめ麻雀」
開発元・販売元:Rita Mizuhara
対応機種:PC(Steam)
初回クリア時間:1プレイ(3局)5〜10分程度
本作は、寿司を使った麻雀風ゲームだ。CPU対戦および最大3人でのオンライン対戦に対応。25種類各4貫 の寿司が収録され、これを麻雀牌のように扱い3人で対局をおこなう。基本的には2貫5組の組み合わせを作ると上がることができ、寿司ネタの取り合わせによってさまざまな役が成立。リーチやドラ(おすすめネタ)など麻雀らしい要素もある。同じ寿司ネタを集めるだけのシンプルさや、フリテンがないといった辺りからは、ドンジャラ風ともいえるかもしれない。
寿司を使ってプレイするという点については、見た目に楽しいだけでなく、ゲーム性にも関係している。対戦相手からリーチがかかった際に、引いてきた寿司ネタが当たりそうだと思ったら、食べてしまうことができるのだ。さまざまな効果をもつサイドメニューを注文できる、寿司店っぽい表現もある。ただし、これらは際限なくおこなえるわけではなく、またお金を支払う(持ち点が減る)ため、戦略的に活用することが求められる。
本作は、今年8月に早期アクセス配信が開始され、ユーザーレビュー評価はなかなか好評。手軽に楽しめるだけでなく、役の種類が豊富であったり、場に出された寿司ネタや使用サイドメニューから対戦相手の手を読んだり、また上述した戦略性など奥深さもある。ただ、プレイヤー数があまり多くないのか、野良ではマッチングしにくい状況にある(現在ランダムマッチ機能は停止)。それでも開発者は精力的にアップデートを続けており、コンテンツは徐々に拡充。また、この記事が公開される頃にはスマホ版もリリースされているはず。いつかこの寿司店が繁盛することを願い、陰ながら応援している作品なのである。
by. Taijiro Yamanaka
「ひとかけらの言葉を積み重ねていきたい」
開発元・販売元:SCIKA
対応機種:PC(Steam)
初回プレイ時間:5時間
『Inverted Angel』は突然アパートを訪ねてきた見覚えのない自称彼女の女性と、インターホン越しに会話をするというアドベンチャーゲーム。本作は「Kawaii Future Mystery」というジャンル名どおり、女性との会話を通して「彼女は何者なのか?」「なぜ自分は彼女を覚えていないのか」などの謎を突き止める推理ゲームに分類される。しかしミステリーといっても提示された選択肢から答えを推測するのではなく、プレイヤーが思考して直接キーボードで解答することが求められ、その結果で物語が枝分かれしていくのが特徴的だ。
ゲームのサイクルは周回を繰り返していくことで、彼女に対する輪郭がプレイヤーの内に出来上がっていき、それが最終ルートで結実するという形。恋愛・SF・サスペンスなどさまざまなジャンルを横断するが、最後までプレイを続けられたのはひとえにコミカルで衒学的な彼女との会話がただ楽しかったからだ。ちなみに筆者のお気に入りのエンディングは「Chocolate Hideout」と「Cheesecake Hallucination」だ。今後アップデートで追加シナリオが実装予定とのことだが、今からどのようなシナリオが読めるのか楽しみである。
本作の印象的なセリフとして「言葉にできることなんて、考えてることのほんのひとかけら」が存在するが、ゲームライターとして特に実感のある言葉として捉えられた。実際に本原稿も『Inverted Angel』について語りたいことがたくさんあったのに、いざ800字以内のテキストとして書き起こしてみると、試行錯誤の末にこぼれ落ちていった感想のほうが多いという無念がある。しかし、言葉にしてみないとそもそも相手に伝えることはできない。だからこそライターとして、これからもひとかけらを積み上げていき、より感情や思考を形にできるように精進したいと思えたタイトルだ。
by. Yuuki Inoue
「残り香のように深い余韻を残すデンシノベル」
開発元・販売元:超水道
対応機種:PC/スマートフォン(無料ブラウザゲーム)
初回プレイ時間:1時間
創作ユニット「超水道」の新作デンシノベル『short HOPE long Peace』は、ヘビースモーカーの大学生・桜田若葉が煙草を厭うサークルの後輩・江向から告白されるシーンから展開。なぜ煙草が嫌いな江向が若葉に告白したのかという疑問をフックにして物語が進行していく。愛煙家の彼女と嫌煙派の彼氏の人生と関係の行く末がテンポよく描かれ、1時間のプレイとは思えないほどの深い余韻を残すシナリオが味わえるのが魅力だ。
超水道の掲げる「デンシノベル」というゲームスタイルは、公式サイトによると文庫本とビジュアルノベルのあわいを目指した媒体とのこと。本作も文庫小説をモチーフにしたレイアウトの効果で、ページをめくって文字を読むという自らの読書体験を想起させる興奮と、ビジュアルノベル特有のテキストとグラフィックがBGMとともに随時レスポンスされる心地よさが両立している。
超水道がゲームの“読み心地”を意識したのは最近からではなく、活動初期からスマートフォン特化のUIを構築。最近では2023年リリースの『ghostpia シーズンワン』のNintendo Switch版は、HD振動とジャイロ操作によるプレイヤーへのフィードバックを実装しており、文字を読むだけではないインタラクティブな体験が可能だ。そうした読み物としての付加体験が没入感を促して、逆説的にテキストを読むというノベルゲームの原始的な面白さを強調しているのが超水道のタイトルである。「次はどんな体験ができるのか」と現在開発中の『ghostpia シーズンツー』や、本作のような新作デンシノベルの完成がただただ待ち遠しく思えた一作だった。
by. Yuuki Inoue
「製品として完成度が高い」
開発元・販売元:MONO ENTERTAINMENT
対応機種:PC(Steam)
初回クリア時間(3クラスクリア):4時間
個人開発系、あるいはインディー系といえば、「尖っている」という認識をもたれがち。プロダクトとしての粗はあるものの、作家性が出ていたり大きな長所があったり。しかし『Clock Rogue』には粗がない。パブリッシャーのいない規模のタイトルながら完成度が群を抜いている。
『Clock Rogue』は「体内時計で戦うローグライク」と銘打たれている。システムはその名のとおり。時計の中に各行動のタイムラインが存在し、体内時計をたよりにその行動を選んで敵と戦っていく。デッキ構築ゲームのカード選択を「体内時計で決める」といえば想像しやすいかもしれない。
誤解を恐れずいえば、本作は「他に類を見ないほど独自性があるゲーム」ではない。また「100時間遊べるゲーム」でもない。だいたい5時間程度遊べば満足できるだろう。しかしながら、とにかくまとまっている。デッキ構築に体内時計を混ぜ込むというアイデアがうまく落とし込まれているほか、タイムラインは自分でカスタマイズでき奥深さもある。1秒以内に得意な行動を集中させるといったビルド構築も可能。またタイムライン上で2つ行動を重ねることができる。作りが丁寧で巧みだ。ゲームバランスもちょっと易しいぐらいだが、歯ごたえがありちょうどいいヒリつきがある。さらにすごいのが、クラスが3種類あること。能力とビルドが違うキャラが3人用意されているのだ。2Dビジュアルもアニメーションも質良く操作感も仕上がっている。隙がない。
自分も開発の勉強をしているので、アイデアを組み上げちゃんと実装する難しさはよくわかる。だからこそ、これだけまとまった製品が出ることには驚く。開発元のMONO ENTERTAINMENTは講談社とゲームを出しているのでただのアマ集団ではないのは考慮しないといけないが、それにしても面白いアイデアを高いレベルの製品として仕上げる職人技に感銘を受けた。個人的に今年は個人開発のレベルがぐんと上がったと感じる年であったが、特にその傾向を感じるゲームであった。
by. Ayuo Kawase