心の傷の大掃除。AUTOMATONライター陣が打ち明ける、2022年の「ゲーミング・トラウマ大賞」

今年2022年を振り返る、AUTOMATONの年末企画第1弾。弊誌ライター陣による今年のゲーミング・トラウマエピソードを紹介していこう。もし同じ傷を抱えた読者がおられれば、ともに痛みを分かちあい、新年を迎えようではないか。

今年2022年を振り返る、AUTOMATONの年末企画第1弾。ゲームがプレイヤーにもたらすのは、喜びや楽しさだけではない。真剣にゲームで遊んでいると、時として癒やしがたい心のダメージを負うこともある。犯してしまった失敗、今でも恐ろしい悪意、思い出したくない大恥。本記事では、弊誌ライター陣による今年のトラウマエピソードを紹介していこう。もし同じ傷を抱えた読者がおられれば、ともに痛みを分かちあい、新年を迎えようではないか。

「森はすべてを記憶する」

『原神』

開発元:miHoYo
販売元:HoYoverse
対応機種:PC/PS4/PS5/iOS/Android


「百年の孤独」という小説をご存知だろうか。ノーベル文学賞も受賞したガルシア=マルケスの代表作である。この小説、間違いなく名作ではあるのだが、非常に取っつきづらいことでも有名である。開幕から魔術的リアリズム全開の筆致に面食らうというところもあるのだが、読みづらさに拍車をかけているのは固有名詞(人名)の難解さである。話の焦点となるブエンディア一族には「アルカディオ」という名前の人物が5人くらいいる。「アルカディオII」もいる。そもそも始祖のアルカディオの長男の名前もアルカディオである。次男はアウレリャノというが、アウレリャノはほかにも20人以上存在する。女性名だとレメディオスやアマランタも時代を越えて複数名現れる。とにかく被りが多い上に関係性も覚えづらく、「家系図なしでは読めない」と言われる作品だ。

そして今年、3.0アップデートが来て『原神』にスメールが実装された。世界任務「森林書」を進める自分の脳内には、マコンドの村(「百年の孤独」の舞台)の風景が広がっていた。へえ、アランナラのアランラナはマラーナにやられたナララナをアランラカラリで助けたいからヴァナラーナに行って欲しいんだね。なんて?

異様に目が滑るテキストも問題ながら、クエストの長さもすごい。おそらくメインストーリーの2倍以上の分量があり、余裕で10時間近くかかる。3.0実装直前に開催されたイベント「サマータイムオデッセイ」の演劇クエストをやった時は「これを超えてくることはないだろう」と確信したのだが、1か月と経たずに超えてきた。参りました。

とはいえ、最後まで進めればしっかりと面白かった。これもまた「百年の孤独」に通じるものがある。これほどのコンテンツ量を無料のアップデートで実装してくるmiHoYoには頭が下がる思いだが、プレイヤーの可処分時間にも配慮して、次はもうちょっと手加減してほしいところだ。

by. Mizuki Kashiwagi

「名状しがたき獣」

『The Cycle: Frontier』

開発元:YAGER
販売元:YAGER
対応機種:PC


惑星探索PvPvEのFPS『The Cycle: Frontier』。2022年6月にリリースされ、話題となったことが記憶に新しい。危険で美しい惑星を舞台に、ほかプレイヤーやモンスターから身を守りつつ、物資を集めたり、ミッションを進めたりして、惑星から脱出するゲームである。

本作リリース当初のことだ。初心者の私は惑星をさまよっていた。やっとの思いで脱出地点付近までたどり着き、辺りの物品を漁って帰ろうとしたときのこと。「見慣れない生き物がいる」。名状しがたい、二足歩行する獣がこちらを見ていた。

初期装備の小さな銃で応戦するも、あまりにも硬いその装甲にはばまれる。「こいつは無理だ」。奴の爪に引き裂かれながら、やっとの思いで脱出地点に逃げ帰る。それでも奴はついてきた。脱出船を待つ間逃げ回りながらも私は気付いた。奴は段差を登れない。「怖がって損した」などと考えながらコンテナの上へ避難。油断しきっていた私に向かって奴は口を開き、何かを吐き出した。「遠距離攻撃あるのかよ!」。私は脱出直前に、絶望感に包まれながらダウンすることになった。

奴の名はマラウダー。数多の初心者を泣かせてきた初期マップ最強のモンスターだ。私は先ほど、本稿執筆の取材のため惑星に降り立った。マラウダーの弱点が口内だと知り、もう奴に遅れはとらないだろうと、ほぼ初期装備ながらリベンジマッチをしかけた。冒頭のスクリーンショットは、無残な結果になる寸前、命からがら撮影したものだ。人間はあまりに脆く、あの惑星では油断や慢心など一瞬たりとも許されないのだ。

by. Masayuki Kusano

「ちょ、ぶっちゃけ血圧おかしい」

『JUDGE EYES:死神の遺言Remastered』

開発元:セガ
販売元:セガ
対応機種:PC/PS5/Xbox Series X|S


『JUDGE EYES:死神の遺言Remastered』は、タレントの木村拓哉さん主演のアクションアドベンチャーゲームだ。“キムタクが如く”との愛称で知られる通り、木村さんがとにかく活躍。木村さんのイケメンぷりときたら、辞書で「イケメン」と引いたら「キムタク」と出てきそうな程である。本作では、そんな木村さん演じる私立探偵の八神を操作。チンピラをボコボコにしたり、女性を口説いたりするゲームプレイ要素もある。

この、女性を口説く要素が、筆者にトラウマを残した。筆者が同作をプレイしていたのは、入院中であった。ベッドでノートパソコンを開き、本作コンテンツの網羅へチャレンジ。当然、女性も口説いていかねばならない。キムタクなら「俺じゃダメか?」などと言えば全部解決するかと思いきや、しっかり甘酸っぱい会話を重ねていく必要がある。同コンテンツを進めていると、女性の表情や仕草などが極めて緻密に表現されているのもあり、本当に女性を口説いているような気恥ずかしい気持ちにもなった。そんな気恥ずかしいところに、看護師さんが検査にくるのである。

手際のよい看護師さんのこと、「ちょ、まてよ」と申し上げる暇もなくテキパキと片腕を取り、血圧測定が始まる。そんな時に差し掛かったのはよりにもよって、女性に告白されているシーンだ。「キムタク気取りで女の子口説いてる」と思われそうで恥ずかしすぎて血圧が狂ったのか、エラーが発生し再測定・再々測定が繰り返される。PCを慌てて閉じるのも恥ずかしく、ゲームを進めるのも止めるのも恥ずかしい。今思い出してもおかしな声が出るトラウマだ。

by. Seiji Narita

「船長!空から火薬樽が!」

『Sea of Theives』

開発元:Rare Ltd
販売元:Xbox Game Studios
対応機種:PC/Xbox One/Xbox Series X|S


『Sea of Thieves』は自由に大海原でお宝さがしをするゲーム。PvEでありながら、PvPの要素もあるため、ほかプレイヤーとの遭遇などのランダム性が高いのがウリだ。しかし筆者も、ほかプレイヤーの悪行により心臓が飛び出る思いをするとは思わなかった。

筆者は基本的に一人での航海をしている。そのため、沈没船などを探索する際はみずからの海賊船を海上に放置していくこととなるのだ。稀にほかのプレイヤーに乗船される危険性があるため、時折海上に出てみては辺りを見渡すことは欠かさず、万全を期したはずである。しかしながら、探索という行為は時間を忘れさせてしまうもの。沈没船の宝をすべて自分の船に乗せ、出航しようとした矢先に事件は起きた。「シューッ……」という導火線に火が点く音が鳴る。音を出している物体は、出どころはどこなのか?疑問が脳裏をかすめると同時に、マスト上部から目の前に火薬樽が降ってきたのだ。「バァーン!」という強烈な爆発音とともに、船は大破した。その間、わずか4~5秒のことだ。

万全を期したつもりであったが、思いのほか沈没船探索にのめり込んでしまっていたのだろう。その間にほかプレイヤーが火薬樽を持ち込み、マスト上部に乗り込んでいたようだ。賊はマスト上部から高みの見物で、筆者が宝をせかせかと乗せているところを眺め、起爆の瞬間を今か今かと待ち構えていたのだろう。したり顔で待っていたに違いない。そう思うと、普通であれば怒りが溢れてくるところだ。しかし筆者は、目の前に火薬樽が落ちてくる恐怖とそして、壮絶な爆裂音と共にその日の成果をすべて失ってしまったトラウマだけを植え付けられたのだ。

その日を境に一人航海の合間、どうしてもマスト上部に目がいってしまう。また何処の誰とも知らない賊がいきなりマストからヒョッコリと頭を出し、火薬樽を落としてくるのではないだろうかと……。

by. Mayo Kawano

「気が付けば踊り狂って死んでいた」

『ドラゴンクエストXI 過ぎ去りし時を求めて S』

開発元・販売元:スクウェア・エニックス
対応機種:PC/PS4/Xbox One/Nintendo Switch/Nintendo 3DS


『ドラゴンクエストXI 過ぎ去りし時を求めて S』は筆者が初めてプレイする『ドラゴンクエスト』シリーズの作品だった。あまりこういった王道のターン制コマンドRPGをプレイしていないのもあり、不安と新鮮さの中でストーリーは進んでいった。物語も佳境に差し掛かり、「これから世界を救いに行くぞ」と意気込む……が、ストーリーの本筋とは関係ないサブイベントのボス、「ハッスルじじい・邪」に身の程を弁えさせられた。

「ハッスルじじい・邪」のひょうきんなセリフとリズミカルなBGMを背に、じじいの仲間呼びと「さそうおどり」で筆者の仲間たちはじわじわと削られていき、気が付けばパーティはすでに壊滅状態。陽気なBGMの中パーティが徐々に崩れていく様はまさに絶望。ここまでとんとん拍子でストーリーを進めてきたのもあり、私は目の前の光景を信じられず再戦した。しかし、その試みもむなしく、パーティは数度全滅してしまった。「こんなやつで苦戦するようでは、世界を救うのは無理なのでは?」という不安も芽生えてしまった。

その後の私はというと、インターネットで「ハッスルじじい・邪」について検索をかけていた。攻略法を知って改めて挑戦するとあっけなく勝利。かつて自分を苦しめた難敵を乗り越えた達成感よりも、攻略法を調べてしまった敗北感が一層強かった。「このモヤモヤを抱えたまま世界を救わなきゃいけない」という事実が、まるで指のささくれのように、ひっそりとその痛みで存在感を主張していた。

by. Chen Lichun

「薬!」

『ファイナルファンタジーXIV』

開発元・販売元:スクウェア・エニックス
対応機種:PC/PS4/PS5


筆者は『FF14』のレイドにおいて、いわゆる「早期攻略勢」にあたるプレイヤーである。8月末に実装された「万魔殿パンデモニウム零式:煉獄編」は実装2週間ほどでクリアしたが、そのときの“やらかし”は今でも記憶に残っている。内容としてはシンプルだ。与ダメージが増加するアイテムの使い忘れである。

煉獄編4層のボスはとにかく固かった。公式が数値調整ミスがあったことを認め、実装3週目に緊急アップデートでHPが引き下げられたほど。だが筆者が4層に挑んでいたのはボスがいささか固すぎた時期で、血を吐く思いで前半の火力チェックを乗り切って後半に臨んでいたのである。

筆者のポジションはバリアヒーラーだ。終盤、痛い攻撃が連続してやってくる場面の前には緊張もピーク。頭の中はダメージに備えることでいっぱいで、火力強化用の薬を使用することは綺麗にすっぽぬけていた。結果、敵のHPは残り0.1%のところで削りきれなかった。おそらく自分が薬を割れて(使用して)いたら倒せていた。それに気付いてはいたものの言い出せなかった筆者は、次のトライからは執拗に「薬!」とボイスチャットで呼びかけるBotと化した。ほかメンバーへの注意喚起ではなく、自分への戒めである。なんとかその日にクリアできたから良かったものの、倒せていなかったらと思うとゾッとする。なおこのことはメンバーにも未だに秘密にしていたので、これを読んでいる方がいたらこの場を借りて謝罪をしたいと思いこの文章を書いている。本当に申し訳ありませんでした。

なお、昨年のトラウマ・オブ・ザ・イヤーでお話したヌシ釣りは、1年が経ってもまだその傷が癒えずに挑戦すらしていない。まったく『FF14』というのはトラウマばかりを生むタイトルだ。それでも続けているのは、一緒に遊ぶ仲間に恵まれているからにほかならない。来年も傷を負わされるのかもしれないが、フレンドとともに乗り越えていきたいと思う。

by. Aki Nogishi

「道徳の授業を受けろ」

『エルデンリング』

開発元・販売元:フロム・ソフトウェア
対応機種:PC/PS4/PS5/Xbox One/Xbox Series X|S


『エルデンリング』は、ゲーム全体を通じて、巧みにプレイヤーに悪意をぶつけてくる。しかし、その悪意はどれもある程度オブラートにラッピングされて出てくる。秩序と体裁をもって、悪意を提供してくる。しかしその中で、英雄墓だけは違った。悪意がむき出しに出てくる。あらゆる嫌がらせを組み合わせた悪意が、なんの梱包もされず生に出てくるのである。

筆者が初めて遭遇したのは、辺境の英雄墓。それぞれルールを守りながら嫌がらせをしてくる敵たちに信頼を置いていた頃、ルール無用で一撃轢死(厳密には一撃ではないがたいていは一撃)を仕掛けてきたチャリオットとの出会いは忘れられない。信頼関係の崩壊である。次にたどり着いたのはアウレーザの英雄墓。まさか辺境の英雄墓を進化させた英雄墓があるとは思わなかった。なぜチャリオットを並べる必要があったのか?度の過ぎた嫌がらせを、さらに洗練させるな。そして出会ってしまったゲルミアの英雄墓。何を考えてどのように生きていたら、一撃死トラップと溶岩を組み合わせようと思いつけるのか?「他人の気持ちを考えましょう」と教わったことはないのか?そんな疑問ばかり浮かんだ。その3つが衝撃的すぎたが、ほかの英雄墓も大概である。どの部分をとっても、悪意しか、ない。

英雄墓で大量の屍を量産する中で、考えたことがある。なぜこんな嫌がらせをしたのかと。なぜ英雄墓の存在が許されたのかと。考えれば考えるほど理解が及ばなくなり、気分が悪くなってしまった。人は不可解な悪意に遭遇し、その存在と向き合うと、体調を崩してしまうのである。この原稿を書くために、改めて英雄墓を再訪したが、地下にひらける廊下に出ただけで猛烈に気分が悪くなり、慌ててゲームを終了した。ゲームをクリアしてから半年以上が経つが、今も筆者の心に傷跡を残し続ける『エルデンリング』の英雄墓は、ぶっちぎりのトラウマである。

by. Ayuo Kawase






そのほかのAUTOMATON年末企画はこちら
12月29日〜12月31日にかけて1本ずつ掲載予定。

AUTOMATON JP
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