『Anthem』海外にてドロップ率の上昇を求めるボイコット運動が開始。同作の改善を願うファンの声は届くのか
『Anthem(アンセム)』の海外コミュニティにて、ゲームへのログインを一時的にやめるようプレイヤーに呼びかけるボイコット運動が始まった(reddit)。具体的なボイコット期間は3月11日から3月15日までとされている。今回の運動に直接つながった事柄としては、3月9日のアップデート1.0.3適用直前に発生した、装備品のドロップ率に関わる不具合が挙げられる。簡単に言うと、アップデート1.0.3が配信される直前に、開発陣の意図に反してマスターワーク/レジェンダリー装備品のドロップ率が大幅に上昇するという現象が発生していた。ボイコットの発起人であるredditユーザーAfinda氏が開発元に要求しているのは、本作の装備品ドロップ率を不具合発生時のものに戻すことである。
Afinda氏の主張としては、マスターワーク/レジェンダリーのドロップ率が大幅に上昇した状態でようやく、何とか許容できるドロップ率になるというわけだ。そしてマイクロトランザクションによる追加収益を拠り所とした長期運営を計画している本作にとって、もっとも大きな打撃となるのはユーザーがログインしなくなることだろうというのが、Afinda氏の考えである。当該スレッドには3月12日時点で1万以上の賛成票が入っており、すでにKotaku、Polygon、GameStarなど複数の海外メディアが取り上げている。
ユーザーが求めるのは不具合時のドロップ率
マスターワーク/レジェンダリー装備品のドロップ率が低すぎるとの議論は、リリース当初から複数のredditスレッドにて交わされており、同意見のユーザーは多い。またドロップ率に限らずとも、本作はハクスラ要素に関する根本的な問題を複数抱えており、2月には『Diablo III』のゲームデザイナーを担当していたTravis Day氏からも改善案が提示されていた(関連記事)。ちなみにTravis Day氏はローンチ時の『Diablo III』ではなく、Loot 2.0および『Diablo III Reaper of Souls』以降のバランス調整に関わった人物である。
上述したドロップ率が上昇する不具合発生中にも、「意図したものであろうがなかろうが、ドロップ率を元に戻さないでくれ」と懇願するredditスレッドが立ち上がっていた。スレッド主の-Supp0rt-氏は、ストロングホールド「タイラントの坑道」一周で「マスターワークが10個も出たんだ。10個だよ!」と喜びを表現し、「おかげでまたゲームを楽しめるようになった。時間を無駄にするのではなく、ちゃんと成長していると実感できたんだ。5分だけログインするつもりが、8時間徹夜でプレイしちゃったよ。お願いだから、なにを変えたにせよ、元には戻さないでくれ」と述べていた。だが先述したとおり、-Supp0rt-氏を喜ばせたドロップ率の上昇は、すぐに修正されてしまう。
3月9日のアップデート1.0.3では、レベル30に達したプレイヤーに対して、コモン(白)とアンコモン(緑)のレアリティのアイテムがドロップしないようにするという仕様変更が適用された。低レアリティ装備品を除外することで、高レアリティのドロップ率を高めることが狙いであったと考えられる。しかしながら、グランドマスター1のフリープレイで検証を行ったユーザーからは、マスターワークのドロップ率が著しく低下したとの報告が挙がっている(関連記事)。この件について本作のグローバル・コミュニティマネージャーであるJesse Anderson氏は後日、バグによりマスターワークのドロップ率が、開発陣が意図した確率よりも低くなっていたと説明し、3月12日に修正予定であると述べている(reddit)。ドロップ率上昇という不具合の直後に、ドロップ率激減という不具合に直面したユーザーにとって、そのギャップはより顕著なものだっただろう。
なおマスターワークのドロップ率が激減したと報告されたのは、グランドマスター1フリープレイでのドロップ率であり、ストロングホールドは対象になっていない。筆者自身も、グランドマスター1ストロングホールド一周あたりのマスターワーク/レジェンダリーのドロップ数低下は確認できなかった。
I checked with the team and there was indeed a bug that was causing Masterwork Embers to have lower drop rates than intended. Team is working on a fix to get drop rates back up to what they were before the 1.0.3 update. #AnthemGame
— Jesse Anderson (@Darokaz) March 11, 2019
「数か月後」では遅い、楽しみたいのは「今」
本作では、2月28日のアップデートにより、問題点のひとつとして挙げられていた「無意味なインスクリプション(刻印)が付与される」現象は確かに発生しないようになった。だが効果的な刻印が付いた装備品を得られる確率はいまだに極小。そんな現状において、マスターワーク/レジェンダリーのドロップ率自体を絞られると、ユーザーは二重のくじ運に悩まされることになる。時間投資と対価が見合わないという点が不満の素となっている。
BioWareのライブサービス責任者であるChad Robertson氏は、開発陣も現状のドロップ率に満足していないとコメントし、改善を急いでいるが、複雑なルートシステムへの複数の変更を進めるにあたっては、それが実際にどのような影響を及ぼすのか把握しにくいという弊害があると説明。今後数か月のうちに複数の大きな変更を計画しているが、まずは小さな変更から初めていくと述べていた。
In the next few months, we’re expecting to make significant changes, but we’re starting with some incremental ones so we can better navigate that evolution. Our goal is to ensure the best possible player experience.
— Chad Robertson (@crobertson_atx) March 9, 2019
だが、『Anthem』以外の話題作が続々とリリースされる中、果たしてユーザーはゲームが改善されるまで、数か月も悠長に待ってくれるだろうか。本作は他のルートシューター作品だけでなく大型タイトル全般と、有限であるユーザーのプレイ時間を奪い合わなければならない。ユーザーの関心が残っているのか定かではない未来ではなく、今この時点で残っているプレイヤーを楽しませなくてはならないという理屈だ。
同じルートシューターである『Destiny 2』は、リリースから1年後の2018年9月になってゲームシステムの大幅なオーバーホールを適用。同時期に大型DLC「孤独と影」を配信したが、当時のパブリッシャーであったActivisionの業績予想値を下回る結果となり、2019年1月には開発元Bungieとのパートナー契約が解消された。Activisionはゲームの品質自体は褒めていたが、業績という面では手遅れの対応だったのだろう。Activisionは投資家向けの収支報告においてBungieとの決別理由について語った際にも、『Destiny』フランチャイズはActivisionにとって、今後も業績貢献度は低いままであると予想された旨が述べられている(関連記事)。仮に『Anthem』の業績貢献度が想定値を下回り続けた場合、パブリッシャーのElectronic Artsは同プロジェクトに投資し続けてくれるだろうか。
こうした過去事例を見ても、コアユーザーが楽しめる状態になるまで、発売から数か月も待たせるというのは、良策とは言えない。もちろん、ルートシステムの根本的なバランス調整には相当な時間を要するというのは容易に想像できる。ただ、本作において開発陣は図らずも、ドロップ率上昇バグの発生により「やろうと思えば、今すぐにでもユーザーを満足させることができる」ことを実践して見せてしまった。開発陣がやろうと思えればコミュニティが求めているものを提供できると、ユーザーたちは知っているのだ。なにもドロップ率上昇バグが発生したのはアップデート1.0.3直前だけではない。2月22日のDay Oneアップデート配信直後にも似た現象が発生していた(関連記事)。リリースから1か月も経たないうちに、プレイヤーを喜ばせては、その喜びを奪うというパターンを2回も繰り返してきた。今残っているユーザーを楽しませ、本作を延命させるためにも、ドロップ率を再度上昇させるというのは合理的な選択なのかもしれない。ただ、ドロップ率が上昇していたのは、いずれのケースも一日未満の短時間。継続的にドロップ率が上昇した場合の影響はやはり計り知れない。
『フォーオナー』でも起きたボイコット騒動
特定のゲームのコミュニティがボイコットを呼びかけるという事例は初めてではなく、2017年にはUbisoftの剣戟アクション『フォーオナー』がボイコット間近にまで迫っていた(関連記事)。何か特定の不具合が原因となったというよりも、リリース当初のP2P接続、マッチメイキング、キャラクターバランス、マイクロトランザクションなどさまざまな分野における問題に対し、ことごとく運営陣から納得のいく回答を得られなかったという不満がつのり、それがボイコットという形で噴火していた。こちらも2月に発売され、3月にボイコットの呼びかけが始まるという、『Anthem』と似た間隔でコミュニティが動きを見せていた。
ボイコットが呼びかけられた『フォーオナー』と『Anthem』で共通しているのは、いずれもゲームに対するヘイト運動ではなく、その作品を愛し、秘めたる可能性を信じるコアユーザーが多数存在することだろう。現に『Anthem』のハクスラ要素に関する不満を述べるユーザーの中には、『Anthem』を遊び続けたいからこそ指摘しているのだと補足している者も多い。ボイコットを提案したAfinda氏も、同スレッドは誰かを直接攻撃したり非難するための場ではないとし、他のユーザーには分別のある言動を心がけるよう呼び掛けている。
またredditユーザーPeculiarPete氏が立ち上げた別スレッドでも、『Anthem』は悪い状態にあるのは確かだが、開発者も人間であり、ストレスを感じているはずだと理解を示し、開発者には礼儀正しく接すべきだと念を押している。『フォーオナー』のときもそうだが、『Anthem』には他作品では替えられない、独自の魅力が詰まっているとコアユーザーが感じているからこそ、ボイコットという手段を取っているのである。
なお『フォーオナー』のケースでは、ボイコット騒動が始まったあと、開発陣がライブ配信により、ユーザーが不満を抱えている各項目について詳細な現状説明を行うことで、「コミュニケーション不足」という不満をある程度払拭することに成功している。『Anthem』においては、より根の深い問題とも言えるため、ただの現状説明だけではユーザーは満足しないだろう。果たしてEAおよびBioWareはこのボイコット運動をどう受け止めるのだろうか。