ゲーム開発者は開発費を回収できているのか。インディー開発者が同業者に問いかける

インディーゲームの開発費というのは、どれくらいの割合で回収できているものなのだろうか。業界関係者ならば気になるであろう問いを、インディースタジオGrey Alien Gamesのゲーム開発者Jake Birkett氏が同業者に向けたTwitterアンケートという形で投げかけた。

長年PC/Mac向けのゲームを開発してきたインディースタジオGrey Alien GamesのJake Birkett氏が11月24日、同業者を対象としたTwitterアンケートを実施。最後にリリースした作品が、開発費(名目賃金含む)を回収できるだけの売上を生み出せたかどうか、三択で問いかけた。選択肢は「全く回収できなかった」「損益分岐点を超えたくらい」「きちんと利益をあげられた」の3つ。投票数は525票であり、「全く回収できなかった」が62%、「損益分岐点を超えたくらい」が18%、「きちんと利益をあげられた」が20%という回答結果となっている。

Birkett氏はブログでもアンケート結果・観測結果を報告。まずアンケート回答者によって趣味/フルタイムの差や開発規模の違いが想定されることや、人によってはアンケートの途中結果を見たいがために適当に回答した可能性があること、回答者によってはコストを正しく計算できていない懸念があること、対象期間を明確にしなかったこと(初動が振るわなくても、長期スパンで見れば回収し終えられる可能性があるため)など、データとして参考にしづらい要因があることを説明したうえで、Birkett氏自身の感想を綴っている(上記問題点は、Twitter上でのBirkett氏と他ユーザーとのやりとりの中でアンケート開始後に明確化されていったものである)。

条件が曖昧な状態で実施されたアンケートとはいえ、合計で38%もの回答者が開発費を回収できたというのは、Birkett氏としては予想外だったという。新参のインディー開発者からすると、62%もの回答者が開発費を回収できなかったと答えたことにショックを受けるかもしれないが、Birkett氏自身はこの数値を肯定的に受け止めているとのこと。ちなみにBirkett氏がこれまで他の開発者と話してきた上での肌感としては、フルタイムの開発者の中で利益をあげているのは10%くらいではないかと述べている。

Grey Alien Gamesが現在開発中の『Ancient Enemy』

近年ではインディーゲームの競争が激化。インディーゲーム市場のレッドオーシャン化が進む現象に「Indiepocalypse(インディーポカリプス)」という造語が設けられたように、業界の現状・将来を憂う声は増えてきている。今年のGDC(Game Developers Conference)でプレゼンテーションをおこなったゲームパブリッシャーNo More RobotsのMike Roses氏は、インディースタジオの7%のみが次回作を作れるほどの収益をあげられると語っていた(関連記事)。上述したBirkett氏が肌感として述べた「フルタイムの開発者の中で利益をあげているのは10%くらい」とそう離れた数字ではない。

インディーゲーム市場の現状・展望を悲観的に捉えているという点では、今回アンケートを取ったBirkett氏自身も同じ。過密化が進むマーケットにおいては、このまま何も変わらなければ開発費を回収できずに終わるゲームが増えていくと予測。予算を削減したり、販売価格を上げたり、開発サイクルを速めたりしない限り、危機的状況を打破することはできないだろうとBirkett氏は語っている。

ちなみにJake Birkett氏自身は、前作『Shadowhand』については開発費を全く回収できなかったという。現在取り組んでいるストラテジーRPG/カードゲーム『Ancient Enemy』に関しては、予算を抑え、タイトなスケジュールを組むことにより、早い段階で利益を出せるよう取り組んでいるとのことだ(同作は2019年早期に発売予定)。

『Shadowhand』

なおBirkett氏は、開発費を回収できなかった、もしくはギリギリ回収できたと答えたアンケート回答者に向けて、「主な原因は何だと思いますか?」という追加質問をTwitter上で行っている。こちらの投稿に対しても複数の開発者からレスポンスが寄せられており、『Epic Battle Fantasy』『Bullet Heaven』といったフラッシュゲームを開発しているMatt Roszak氏は、新作『Bullet Heaven 2』について、プレイヤースキルを重視したゲームに仕上げたため、時間をかけることで誰でも強くなれたアップグレードベースの『Bullet Heaven』ほどプレイヤーを集められなかったと自身の作品を分析。

そのほかJoshua Harler氏(『Super Mighty Ultra Ball』)、Richard Lord氏(『Freak Factory』)、Renegade Applications(『Dream Racer』)、SnoutUp(『Toaster Jam』)、Magic Item Tech(『I Am Overburdened』)、Joe Shanahan氏(『Too Many Cows』)などがBirkett氏の問いに答えており、それぞれ複数の理由をあげているが、共通項として「マーケティング不足・失敗」という点が述べられている。やはり小規模な開発チームとしては、躓きやすいポイントなのだろう。

とはいえ、『Papers, Please』『Return of the Obra Dinn』で知られる個人開発者Lucas Pope氏のように、マーケティングらしい活動を行わず、オリジナリティあふれるゲームに仕上げることに全力を注ぐことでユーザーからの確かな支持を集めている稀有なケースも見られる(Gamastra)。かなりレアな事例ではあるが、過密化が進むマーケットの中でもしっかりと差別化を図れる開発者・作品であれば、必ずしもマーケティングが必要というわけではないことがうかがえる(Lucas Pope氏の場合、市場の過密化が進む前にリリースされた前作『Papers, Please』の成功により、既にある程度の知名度があるという点も考慮が必要だろう)。

『Return of the Obra Dinn』

今回Birkett氏が取ったアンケート自体は条件面で不確かな点が多く参考にしづらいかもしれないが、開発者の多くが関心を抱いているであろうトピックを用いて開発者間での交流の機会をつくるという点でも、興味深い試みではないだろうか。

Ryuki Ishii
Ryuki Ishii

元・日本版AUTOMATON編集者、英語版AUTOMATON(AUTOMATON WEST)責任者(~2023年5月まで)

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