オープンワールドFPS・RPG『S.T.A.L.K.E.R. 2』は、「楽しい」とか「楽しくない」とかじゃない、「かけがえのない一喜一憂」をするゲーム。PS5版でぜひ体験してほしいこの残酷世界
実際、このゲームは面白い。しみじみ面白い。本稿は『S.T.A.L.K.E.R. 2: Heart of Chornobyl』の魅力について紹介する記事となっている。

今や有名になったオープンワールドという形式の先駆けとして、唯一無二な体験をもたらしてくれるゲームとして著名な『S.T.A.L.K.E.R.』シリーズの最新作、『S.T.A.L.K.E.R. 2: Heart of Chornobyl』(以下『S.T.A.L.K.E.R. 2』と表記)。だが、恥ずかしながら筆者はシリーズ未経験。「人を選ぶ」という評判も相まって、今の今までプレイしようとは思わなかった。
時は流れて2025年。「そんなあなたにプレイしてほしい」という依頼が舞い込んできた。作中の専門用語も分からない。物語の内容も知らない。あるのは死にゲー耐性だけ。それでも楽しめるのだろうか……。実際、このゲームは面白い。しみじみ面白い。本稿は『S.T.A.L.K.E.R. 2: Heart of Chornobyl』の魅力について紹介する記事となっている。なお、プレイ内容は2025年11月20日に発売予定のPS5版に準拠している。
『S.T.A.L.K.E.R. 2: Heart of Chornobyl』は ウクライナを拠点とするデベロッパーのGSC Game Worldが開発を手掛けたファーストパーソン・シューティングサバイバルホラーゲーム。チョルノービリ(旧名チェルノブイリ)の立ち入り禁止区域「ZONE(ゾーン)」を舞台に、プレイヤーは自身を裏切った人間を探し出すために旅を進めていく。
現在PC(Steam)とXbox Series X|Sに対応しており、国内パッケージ版の販売をセガが担当している。そして、このたび2025年11月20日にPS5版が発売されることとなった。価格は8778円。PS5版における独自の内容として、アダプティブトリガーやハプティックフィードバック、ジャイロ操作といった、DualSenseコントローラーに準拠する機能および、Tempest 3Dオーディオに対応。PS5 Proではレンダリングを中心とした、グラフィックの強化を体感できる。
度数の高い酒が飲みたくなるゲーム体験

筆者が『S.T.A.L.K.E.R. 2』をプレイしてまず感じたのは、難易度の高さだ。サバイバルゲームとして、生き残ることが難しい。そしてこの難しさが、生きていくこと自体が難しい、チョルノービリという寒冷地帯の環境を擬似的な形でプレイヤーに体験させている。冬が長く続き、日照時間が少なく、酒とボルシチのような温かい高カロリー食品が生活に根付いている環境だ。仕事でクタクタになり、帰宅後ホッと一息ついてすぐ、冷蔵庫から酒を1缶取り出したくなる、そんな環境である。
本作の基本的なゲームプレイは昔ながらのオープンワールド形式である。NPCからクエストを受注し、場所を移動して、対象地域で目標を達成。ステータス管理をしてサバイバルしながら、これを繰り返していく。しかし、道中に存在する数々の険しさがプレイヤーの行く手を阻む。その代表的な存在がフィールドに点在している超常現象「アノマリー」である。ZONEの各地では「ねじれた空間」や、「火炎放射する地面」、「湧き出る強酸」、「浮遊する高圧電流」など、摩訶不思議な現象が発生しており、踏み込んでしまえば良くて大ダメージ、悪いと即死する。言ってしまえば、オープンワールド全体が地雷原になっている。

管理が必要なステータスに対し、敵を倒した際に補給できるリソースの乏しさもまた特徴である。本作におけるサバイバル要素は、「飢え」「睡眠」「出血」「被爆」の4種類。それぞれに適した回復方法を通じて管理する必要がある。だが、それらの管理も難しい。そもそもこの世界自体が困窮状態にあるがゆえ、敵を倒しても所有物から十分な資源は得られない。物資の補給はもっぱら金銭のやり取りによって行うことになるが、金策もゲームが進行しないと難しい。睡眠不足に対しては当然睡眠が対処法となるが、この末法世界でどこでも寝られるわけじゃない。ベッドを探さなければならない。
そして、移動中に遭遇する敵が強い。攻撃をしっかり当ててくる。相手も生きることに必死だ。つまり、『S.T.A.L.K.E.R. 2』は移動で物語を紡ぎ、楽しむというオープンワールドゲームでありながら、移動自体にゲームオーバーの多大なリスクが伴うゲームなのである。ここまで読んだ人は思うだろう。そんなゲーム楽しいのか?と。私は言おう。このゲームはテーマパークでもジェットコースターでもない。『S.T.A.L.K.E.R. 2』は「楽しい」とか「楽しくない」とか、そういう尺度で体験するゲームではないのだ、と。

硬いベッドで目覚めたら、持ち物の重量の計算を行いつつ物資の補給を行う。地図を確認し、長旅に対する面倒さと無事の帰還を想いながら拠点を後にする。アノマリーという地雷がどこにあるかを調べながら、恐る恐るZONEを歩み続けていく。盗賊やミュータントとの戦闘は利益がほぼ無いため、ステルスを意識して切り抜ける。うおっ、ヘッドライトが原因で見つかった……。銃も故障してる!数発の弾丸を食らいながら、ようやく到達した目的地。命の危険とお宝が眠る危険地帯だ。お目当てはアーティファクトという、金策にもなる装備品。アノマリーの中にあるのだから色んな意味で堪らない。なんとか回収したと思えば、耳を警報音がつんざく。埃被った色をした空が鮮血のように赤くなっていく。一定時間内にシェルターに入らないと即死する「光熱放射」だ。スタミナを気にしながら必死になってシェルターを探す。回復用の飲料水がもうない、逃げ切れるか……。ギリギリ逃げ切った。コントローラーを机に置き、グラスに目をやる。少し濃い目のウイスキーをちびちび飲む。思わずため息をつく。はぁ、生きてる。死の恐怖に怯え、命にしがみつく圧倒的な没入体験こそ本作最大の持ち味である。
本作の残酷な世界に適応していく

この没入感を生み出すうえで屋台骨となっているのが、本作が持つ独特の雰囲気と、それに適応していくプレイヤー自身の姿である。正義や秩序が存在しないZONEを満たすのは、危険と飢えだ。アノマリーやミュータントといった死そのものが蠢く世界で、登場人物のほとんどは、自分が所属する派閥に利益をもたらすことを目的として活動している。
何か事を成す、敵を打ち倒すというビッグイベントに、「救済」や「勝利」といった大義が存在せず、個人的な事情が物語を一貫している。作品内のアートに関しても爽やかさや晴れ晴れとした印象を持つオブジェクトは血液くらいだ。何もかもが崩壊し、腐敗し、捻れ歪んでいる。こうした要素が相まって、プレイ中、呼び起こされる感情のバリエーションは少ない。ハァ……という深い溜め息か、ニチャァ、という気持ち悪い笑顔くらいである。

筆者は本作のように北国生まれのゲームを何本かプレイしたことがあるが、こうした「抑圧的で」「欲求と葛藤する」というような雰囲気はどの作品においても共通しているように思える。日照時間に乏しい厳冬を耐え、春を待ち望むというライフスタイルと、そこから生まれた文化に依拠しているのだろう。そしてこの独特な雰囲気にプレイヤーは無意識レベルで適応していく。いや、強制的に適応させられる。
というのも、本作が持つゲームルールの影響があまりにも強いためだ。フィールドを移動するゲームにもかかわらず、移動自体にゲームオーバーのリスクがある。厳しい環境を通じて、プレイ自体が自然と捻れていく。襲われているNPCがいれば平然と漁夫の利を狙い、交渉中に相手に暴力を振るうことも厭わなくなる。筆者はプレイ中、むかつく奴をぶん殴って何が悪いんだ、と思うようになり、人間を補給源として観るようにもなった。このような適応はやがて、先述した没入体験を生み出す。ZONEに生きている人間の一人として、まず利益を最優先にすべてを考えていくようになっていく。

総じて、『S.T.A.L.K.E.R. 2』は強烈な難易度と破滅的な世界がもたらす抑圧と葛藤に順応し、適応し、やがて世界の一部となることを楽しむゲームである。決して容赦のないZONEの環境は、プレイヤーにかけがえのない一喜一憂をもたらしてくれる。これこそ人生の宝物だ。
しかしながら、ここまで目を通した読者の中には「難易度の高さに躊躇してしまう」人もいるだろう。確かに本作は決して万人受けしないゲームではあるが、難しさの障壁に怯えるゲームでもない。本作には3種類の難易度設定が存在しており、いちばん低い難易度に設定すれば、死の恐怖はだいぶ和らいでくれる。シリーズものに特有の課題である「前作知識」に関しては、『S.T.A.L.K.E.R.: Legends of the Zone Trilogy』という過去作全部が入ったリマスターパッケージがPS5とNintendoSwitch、Xbox Series X|S、そしてPC(Steam)に対応して発売中だ。
筆者もこれからプレイしてみようと思っている。ちなみに、本作は過去作を知らずとも、世界観について学んでいける作りなので安心してほしい。リリース当初に多かったバグに関しても現在では大いに改善されているほか、今後のアップデート計画も発表済みだ。新要素の導入のほか、大型DLCが予定されている。
また、今回紹介しているPS5版に関しては、アダプティブトリガーやハプティックフィードバックといった、DualSenseコントローラーに準拠する機能や、Tempest 3Dオーディオに対応。手元のコントローラーから無線機越しの声が聞こえたり、銃撃戦の時には銃ごとに異なったトリガーを引く手応えを味わえる。敵に撃たれたり空間に潰されたり、酸に溶かされたりするときもコントローラーがリアルタイムに反応してくれる。没入感マシマシである。コントローラーの操作性に関しても、従来の機能であるエイムアシストに加え、ジャイロ操作が可能。より直感的なエイムによって、スムーズな銃撃戦を楽しむことができる。
唯一無二な体験をもたらしてくれるゲームとして著名な『S.T.A.L.K.E.R. 2: Heart of Chornobyl』は正にいまが遊び時。「独特なゲームに少し抵抗がある」という、かつての筆者のようなゲーマーにこそ、一歩踏み出して遊んでほしい。生きることの難しさと、厳しい環境を前にした人間の興味深い変化、そして「かけがえのない一喜一憂」が詰まったゲームがあなたを待っている。
『S.T.A.L.K.E.R. 2: Heart of Chornobyl』のPlayStation5版は2025年11月20日に発売予定。PC(Steam)とXbox Series X|S版が発売中だ。




