ゲームのエゴサ自動化ツール「Oreo(オレオ)」をパブリッシャーが実際使ったみて得たものは何か?「なんとなくバズってる気がする」という雑マーケ観測からの脱却
AIQVE ONEがサービス運営をおこなっているSNS自動監視ツール「Oreo(オレオ)」。同ツールでは、X(旧Twitter)の投稿やSteamのユーザーレビューが対象になっており、SNSに投稿されるユーザーからの反応を一覧化してチェックしたり、特定キーワードの設定によりバグの自動検知が可能だったりとゲーム業界向けのツールになっている。なお、月額無料のフリーミアムプランも問い合わせ不要で利用可能である。
しかしながら、実際どういう状況でこのツールが役立つのだろうか?今回は、弊社アクティブゲーミングメディアのパブリッシングブランドPLAYISM所属のプロデューサーに実際にOreoを利用してもらったのち、AIQVE ONEの担当者とのフィードバックの場でインタビューをおこなった。本稿ではOreoの機能説明や使い方の紹介とともに、ゲームパブリッシャーがどのようにユーザーの反応をチェックして取り入れているのかをうかがった。
パブリッシャーの負担軽減とユーザー反応の定量化の両立
――自己紹介をお願いします。
飛澤正人(以下、飛澤)氏:
Oreo開発責任者の飛澤です。Oreoはもともとモリカトロンの中島(秀之)さんというスーパープログラマーが原型を作り、それをAIQVE ONEが引き継いで機能追加しながら運営している状況です。
薬師神直也(以下、薬師神)氏:
AIQVE ONEのQAセールスエンジニアリング部部長の薬師神です。おもにお客様に対してのアカウントセールスをおこないつつ、サービス導入の提案をさせていただいています。
藤沢海(以下、藤沢)氏:
AIQVE ONEにてOreoの広報・マーケティング担当をしている藤沢です。業務としてはサイト制作をおこなっており、今後Oreoの具体的な使い方を紹介するブログ記事やコンテンツを増やしていきたいと思っています。よろしくお願いします。
エゴサ自動化ツール
――まずは、Oreoはどういうツールなのかご説明お願いします。
薬師神氏:
OreoはX(旧Twitter)のポストやSteamレビューを対象とした、「人力のエゴサはもうやめよう」がコンセプトのSNS自動監視ツールです。最近はお問い合わせ窓口に直接フィードバックするユーザーが少なくなっています。その代わりにユーザーはSNSに投稿します。SNSの投稿の中には、即時性が高く見逃してはならない情報が多くあります。そんなSNSに投稿されるユーザーからの情報をサービスの改善に活用してほしいという目的で開発しております。あとは人力でエゴサをすると膨大な時間が割かれてしまいますが、Oreoを利用することにより、ほかの業務にも集中できるというサイクルを作ることができるツールになっています。
――エゴサは、やりはじめると信じられないくらい時間が消えますよね。
薬師神氏:
現在ゲームタイトルに対するSNSの投稿は、各パブリッシャーなどの担当者がそれぞれチェックしていると思いますが、人の手だと重要な投稿を見逃してしまうこともあるため、Oreoを使用して正確かつ効率的に情報を収集しませんかとサービスを案内させていただいていますね。
――とはいえ実際どう使うのかは見えづらいので、弊社アクティブゲーミングメディアのパブリッシングブランドPLAYISMで、Oreoを使わせていただきました。PLAYISMの村林さんからOreoをどういう風に活用したか教えていただければ。
村林小百合(以下、村林)氏:
PLAYISM所属のプロデューサー村林です。パブリッシュタイトルの契約や予算立てをおこないつつ、担当タイトルの進行管理、プロモーションやマーケティングに関連した業務を主にしています。今回はOreoをXのポストとSteamレビューの2点を中心に活用しました。
――普段、エゴサはどういうときにどういう目的でされることが多いですか。
村林氏:
エゴサは、ゲームの情報公開時と発売日を中心にしています。情報公開時はどれだけポストされて、反応がどう展開されていくかをチェックしたいのですが、今まで人力でおこなっていたときは本当に大変だったので、Oreoが投稿をまとめて通知してくれるのはありがたいですね。発売日以降は先ほども話にあったように、ゲームユーザーによるパブリッシャーへの問い合わせが減少傾向かつ、ポストで不具合を報告しているケースが増えているので情報を網羅的に扱えるのはカスタマーサポートの面でも助かりました。
「なんとなくバズった」のイメージ結論からの脱却
――ちなみに初報発表時・体験版配信時・発売時、どのタイミングに一番Oreoが役に立ちましたか。
村林氏:
すべてのタイミングで活躍してくれましたが、初報発表時は今まで存在していなかったタイトルを発表するので、初出しの情報についてどの程度反応があるかを即座に可視化できるのはありがたいですね。PLAYISMは複数のタイトルを同時に発表することも多く、エゴサ対象のタイトルが一気に増えると人力で追うのは大変なので。
――発表時になんとなくSNSが盛り上がっていたという印象だけでは、マーケティングの情報としてはあまり役立ちませんからね。
村林氏:
複数タイトル運用していると、あるインフルエンサーが投稿した1つのポストがバズると、そのゲームがもっとも話題になった感じがします。ただ、実はトータルでチェックするとほかのタイトルのほうが言及回数が多かったなど、反応の定量化を考えるうえでOreoは便利だなと思います。
――今回はどういったタイトルの投稿のチェックに使用しましたか。
村林氏:
コタケクリエイトさんの『8番出口』は、PLAYISMがNintendo Switch版のパブリッシュを担当させていただいたこともあり、多数の反応をいただいたのでOreoで優先的にチェックするようにしました。どういったプレイヤー層がプレイしているのかや、『8番出口』ではどういうことが今流行っているのかがすぐに確認できますね。
――やはり『8番出口』の反応は多かったですか。
村林氏:
『8番出口』はPLAYISMが取り扱っているタイトルのなかでも圧倒的にポストが多く、Oreoの通知が更新され続けているんです。またゲームそのものへの言及だけでなく『8番出口』というミームとして使われていて、改めて驚異的なタイトルだということを改めて感じました。
――エゴサで得られる情報について、ポジティブな反応もあればネガティブな意見も当然あると思いますが、データの優先順位はどういった順番でつけていますか。
村林氏:
情報公開時はポジティブで、発売以降はネガティブな投稿を中心に追っています。ポジティブであれば開発者に「よかったね」とポストを紹介していますし、ネガティブな反応を見つけた場合は担当外のタイトルであれば担当者に伝えたり、私が担当している作品であれば開発者と話し合う材料にしたりしていますね。
藤沢氏:
ツール開発側としては、Oreoを利用してポジティブやネガティブな投稿を見たあと、パブリッシャーがどういった対応を取るのかが気になります。
村林氏:
具体例をあげると、以前PLAYISMがパブリッシュしたとあるタイトルが、ユーザーからネガティブなフィードバックを多数頂戴したことがあり、そのときも担当がOreoを使って情報収集をして、「この部分が指摘されていることが多いから調整しませんか」と開発者と話が進められました。
また人力のエゴサだとネガティブワードの検索が心情的にやりにくい部分もありましたが、Oreoであればネガティブな反応と一緒に寄せられるバグの詳細を追いかけやすくなりました。時にはOreoでバグ報告をされているポストを発見したら、直接リプライで聞くこともあります。
薬師神氏:
Xのネガティブな反応の原因にバグが潜んでいた場合に、ポストのリンクを取得していれば良いですが、埋もれてしまった場合さかのぼるのは難しいので、Oreoを使ってプラットフォームごとに収集した情報を、あとから振り返れる機能は使い勝手が良いのではないかと思います。
――人力でエゴサをしていたときと比べ、Oreoを使うことで実現できたことはありますか。
村林氏:
タイトルへの反応を一覧で見られるので、特定のインフルエンサーのポストなど、なにが盛り上がりの起点なのかが把握しやすくなり、ほかのタイトルにおいてもそういった人にどうやったらアプローチできるかPR方法を考案することができました。
たとえば発売1カ月後に突然売上や反応が増えたと思ったら、あるゲーム実況者さんの配信がきっかけになっていたこともあります。以前は発売後の数日間、PLAYISMの担当者がSNSやSteamレビューに張り付き、買い切り型のタイトルだと1週間ほどを目途にチェックを終えていましたが、Oreoを導入してからは時間が経ってからの投稿もピックアップしやすくなりましたね。
薬師神氏:
ゲームリリース後しばらくしてからポストが伸びるのはあまり考えていませんでしたが、そういったケースもありますよね。我々はどちらかというと運用型ゲームでの利用をイメージしており、そのタイトルについて日々なにかしらの話題がポストされているような想定でした。
たしかに買い切り型のように発売時が一番に話題になるゲームにおいて、リリース後の落ち着いたタイミングでは開発者もパブリッシャーも積極的にエゴサしないと思うので、時間が経ってもタイトル登録をしていればいつでも話題をチェックできる。これもOreoの1つの利点だなと、いまの話を聞いて我々も気づきがありましたね。
――双方に気づきがあったんですね。
村林氏:
最近とあるタイトルを発表したのですが、タイトルをカタカナで検索しても反応が薄いと思ったら、他言語で多数言及されていたというケースがありました。PLAYISMが扱っているタイトルはヨーロッパ言語での投稿も多いのですが、Oreoでは翻訳設定をすれば同一タイトルの表記・言語ゆれを確認できるので、国別の反応をリスト化しやすい利点もありました。たとえば特定の国からの反応が多ければ、その言語へのローカライズを検討したりPR体制を厚くしたりなどの対応もできますから。
薬師神氏:
Oreoはキーワードを多言語で登録できるので、グローバルな市場調査としても使っていただけているのはありがたいです。
飛澤氏:
Oreo開発者としてお聞きしますが、ワードリストの設定で気になったことはありますか。もし疑問があれば答えられればと。
村林氏:
ポジティブな反応をネガティブワードとして拾ってしまうことがあるので、ポジティブワードとネガティブワードの設定についてもう少し知りたいですね。
飛澤氏:
一般的な言葉だけではなく、タイトルごとの特性に合わせて使われるワードを登録したり、重要語にタイトルに応じた不具合の用語を追加したりするとOreoが判定しやすくなります。またPLAYISMさんの場合、ワールドワイドで展開しているタイトルが多いため、重要語やポジティブ・ネガティブワードも、日本語だけではなく英語や中国語などの多言語で設定すると検出がより正確になると思うので、チャレンジしていただければと思います。
――村林さんの話をうかがうと、特にゲームパブリッシャーが活用しやすいツールだなと感じます。
村林氏:
我々のような買い切り中心のパブリッシャーももちろんですが、薬師神さんが先ほど話に出されたようにアップデートを続けながら常にユーザーの反応をチェックしなければならない運営型タイトルとの相性が抜群だと思います。
――運営型タイトルは2週間に1回アップデートされることも多いですが、そのたびにエゴサをしてられないでしょうし、ツールを使って負担軽減をするのは良いですね。
画像認識機能でデータの絞り込みが可能
――事前に村林さんからOreoの画像認識機能の使い方がわからないとうかがいましたが、飛澤さんから説明していただければ。
飛澤氏:
画像認識機能はまず、画像ごとに関連度が存在しています。こちらの関連度はゲームの画像を正のサンプル、ゲーム画面に近いけどゲームそのものではない画像を負のサンプルとしてOreoに学習させることで、投稿された画像がどちらに近いかを調べた数値になります。今回は例として『8番出口』を学習させていますが、たとえば『8番のりば』は同じコタケクリエイトさんのタイトルですが、異なるゲームなので0%と検出されています。そして8番と書いてあるゲーム画面に似た、実際の駅ホームの写真も0%になっていますね。
飛澤氏:
『8番出口』のスクリーンショットを正のサンプル、『8番出口』のポストに貼られがちな画像でゲーム画面ではないもの(実況動画のサムネイルなど)を負のサンプルとして登録して、AIをトレーニングします。トレーニング後はポストされた画像との関連度を調べていくのですが、『8番出口』は人気タイトルなので、1週間範囲だと1万件以上のポストがありますね。
――1週間で1万件以上のポストですか!?
飛澤氏:
すべてのポストをチェックするのは現実的ではないため、ゲームと関係ない画像を関連度に応じたフィルターで弾いていきます。たとえば90パーセント以上の関連度のフィルターかけると1万件ほど表示されていたポストが1000件程度まで減らすことができます。Xの画像付きポストはゲーム画面を載せてバグ報告をする方もいますし、ゲームキャラクターのイラストを描いている人もいらっしゃいます。
グッズの写真を載せている人もおられるので、画像だけチェックしようとするとすべての要素が混じってしまうのですが、画像認識機能を使えばゲーム画面の投稿だけを絞り込むことができるんです。
――最後に村林さんが実際に使ってみて感じた、Oreoへの要望はありますか。
村林氏:
現時点でも満足していますが、Xのコンバージョン率やリアクション率がポスト収集時に表示されたら最高です。
飛澤氏:
コンバージョン率やリアクション率はXのAPIを叩けば見ることは可能ですが、Oreoで収集したデータに対するインプレッションは増えつづけるので、どのタイミングでチェックするかで変化する数字をどう解決するかが課題でしょうか。あと収集すればするほどにXにお支払う料金が増えるのもネックですね(笑)ただ同じような要望は、利用していただいた他社様からも聞かれることがあるので、検討させていただきます。
村林氏:
多分そうしたデータが確認できるのであれば、マーケターはもう少し高額の別プランになったとしても利用する人も結構いるんじゃないかと思います。またワードリストの設定や画像認識機能の使い方など、今回のお話のなかで気づいた事も多かったので、ヘルプや事例紹介が増えたらうれしいですね。
飛澤氏:
ヘルプが完全に充実しているとは言い切れないですし、使い方がわかりにくい機能があることも把握できたため、今後のユーザー利用の増加のためにも頑張ります!
藤沢氏:
我々自身もツール開発者で実際にゲームパブリッシャーがどのような運用をしていて、どのような要望が望まれているのかイメージしにくい部分があるため、今回のフィードバックをもとに今後の開発に活かしていきたいです。
――ありがとうございました。
「Oreo」は、現在サービス展開中だ。月額無料のフリーミアムプランも問い合わせ不要で利用可能である。
[聞き手・編集:Ayuo Kawase]
[執筆・編集:Yuuki Inoue]
[協力:PLAYISM]