中国正規版PlayStation 4のPS Storeが突如サービス停止。その背後にある、中国告発システムの恐怖
PlayStation中国は5月10日、Weibo公式アカウントにて、「システムの安全性向上のためにPlayStation中国オンラインストアを本日を持ってサービス停止する」と告知した。サービス再開の日時は後日改めてお知らせすると報告している。この告知は5月10日午前6時に発表されたものだが、中国PS Storeのサービス停止時間は発表1時間後の午前7時。極めて突然かつ急な発表だった。
今回の中国PS Storeのサービス停止の原因は、未だにわかっておらず、正式な理由説明もないまま。おそらく、今後発表されることもないだろう。しかし、このような急遽な変更は、政府から命令されるケースがほとんどだ。同アカウントはサービス停止の前日、「中国PlayStationのユーザーのみなさん、ルールを守って正しくアカウントをお使いください」という内容の文章を投稿していたが、すぐ削除された。この投稿の内容から推測すると、おそらく中国版PS4が、ほかの地域のストアにアクセスできることが原因で、政府からサービス停止を命じられたのだろう。
ではなぜ、ほかの地域のストアにアクセスできることが、政府に問題視されたのだろうか。その原因は、中国国内向けに正式に発売・発信・運営されるすべてのコンテンツに、中国政府から審査がかけられているからだ(関連記事)。ゲームのみならず、映画、ドラマ、テレビ番組、書籍、ネットライブストリーミングまで、すべてのエンタメコンテンツが検閲の対象になる。中国に向けて発売されたPS4もそのうちの一つだ。そのため、中国正規版のPS4は、ほかの地域で発売されたものと仕様が違う。オンラインストアとサービスは、中国向けの審査済みバージョンのみ提供されているのだ(関連記事)。より多くのゲームを中国市場に向けて正式に発売するために、ソニー中国事業部は大きな努力をしたが(現に中国で正式に発売されたコンシューマゲームソフトの中でも、PS4向けのゲームがもっとも数が多い)、そのコンテンツは世界と比べて比較にならないほど少ないし、大作がほとんどない。
もちろん、このような特別仕様を簡単に「突破」する方法もあるが、やはりある程度の知識が必要だ。削除された上記のWeibo投稿も、おそらくこちらの「突破する」方法を指しているのだろう。中国では、このように“裏技”を使って香港のPS Storeからゲームをダウンロードし遊ぶのがゲーマーの間の暗黙の了解であり、ユーザーたちも裏技を使う前提で正規版のPS4を購入していることがほとんど。正規版のPS4は比較的安いし、アフターサービスなども充実している。
中国正規版PS4の仕様は、2014年の発売当初からほとんど変わってない。なぜ今になって突然、PS Storeがサービス停止されたのだろうか。その原因は明確ではないが、筆者のいままでの経験と事例から推測するに、ユーザーから政府への告発がその原因のひとつとしてあげられる。
PlayStation中国が上記のサービス停止の告知投稿をしてまもなく、「森里荧四」と名乗るユーザーが「告発が成功した!」とWeiboに投稿した。「中国正規版PS4で、ほかの地域のゲームが遊べるようになっている、その中には政府から審査されていない暴力、性的、政治的に問題があるゲームも含まれている」という内容で政府に告発したのだという。彼・彼女は自身でその勝利を讃えた。このアカウントは今では存在していないが、5月10日には多大な注目と批判を受けた。また、このアカウントが消滅したきっかけも、ほかのユーザーからWeiboへの告発だろう。
「ほかの地域のストアを利用できることが原因で、サービスを停止させられた」という考えを裏付ける情報がもう一つある。実はこの中国PS Store停止事件の後、中国正規版のXbox Oneでも似たようなことが発生した。中国正規版Xbox OneもPS4と同じく、ひと工夫をすることで他地域のストアにアクセスできる仕様になっていた。しかしこの機能は、最近のシステムアップデートでブロックされた模様だ。
今回の事件の真相は不透明なままで、今後公表されることもないだろう。今年に入って、ようやく3大コンシューマゲーム機の中国向け正規版が出揃った。中国ゲーム史における新たな時代の到来を予感させたが、これからの未来はさらに不明瞭になる。中国のコンシューマゲーム市場はもともとマイナーだが、これを機にさらにゲーマー数が減ると思われる。中国PS Storeが停止したままでは、コンシューマ機とそのゲームを制作し、販売する企業も減るだろう。ストア停止による弊害は、ゲーム企業だけでなく、ゲーマーも直面しなければいけないものだ。
また、政府の関与については推測の域を出ないとはいえ、今回の事件で中国の「告発システム」の恐ろしさを改めて認識できるだろう。政府機関および役員はゲームに詳しくなくても、またゲームという中国ではマイナーな文化に理解がなくても、このシステムをよく知っている一般人からの告発があれば、すべてを把握できるのだ。また、告発システムを利用する一般人も、国家の法律を守るためではなく、私欲のために使っているだけのケースがほとんどだ。上記の「森里荧四」氏もその一人である。彼・彼女は知名度を上げたいがゆえに告発をしたと認識できる。なぜならこのユーザーは、PS4、Xbox OneそしてNintendo Swtichを告発するアカウントをそれぞれ作って「活躍している」のだ。また、一昨年大騒ぎになった、テンセントが代理し中国で正式に発売する予定だった『モンスターハンター:ワールド』が急遽販売中止になった事件(関連記事)も、(おそらくビジネスライバルによる)政府への告発が原因である。
また、ゲームとは関係ないが、今年中国のインターネットで大炎上した「AO3ブロック」事件も、告発の威力を示す良い例。この事件では、中国の某アイドルのファンたちが、このアイドルが登場する同人小説にある性的な表現に不満を持ち、この同人小説が投稿されたサイトArchive of Our Own (AO3)を政府に告発。政府にこのサイトへの接続をブロックさせた。近年中国で発生した、コンテンツがBANされた事例は、例外なく一般のユーザーによる政府への告発がトリガーとなっている。
過去事例を見るとわかるが、中国政府からBANされたものが「もとに戻る」ケースはほとんどない。中国PS Storeも、サービスが再開する可能性は低いだろう。これは中国正規版PS4を購入したユーザーには、とても不利益なことである。
告発システムが存在する限り、中国国内のユーザー、企業は常に自分の言動に気をつけ、自主規制をするのだろう。他人を検挙しようとする人々がいる限り、告発はなくならない。だが本当の問題は、このシステムを承認・利用し、権力をより細かく発揮しようとする中国政府にあると言えるかもしれない。