基本プレイ無料PC/Switch/PS生活シム新作『リリのワールド』は、(個人的)待望の高純度癒やしゲーム、“小さくなりたい欲”を叶えるユートピア
『リリのワールド』はPC(Steam/Epic Gamesストア)/Nintendo Switch 2/PS5向けに開発中。基本プレイ無料作品としてリリース予定で、ゲーム内は日本語表示に対応する。

SNSを眺めていると、毒のある言葉や炎上の合間に、子どもの無垢な一言や小動物の動画がよく流れてくる。それに癒され、羨ましくなるのは、現代人が無意識に“穢れのない時間”を求めているからかもしれない。
――「小さくなりたい欲」とでも呼ぶべき憧れ。『リリのワールド』は、その欲を徹底的に叶えてくれる。『リリのワールド』はPC(Steam/Epic Gamesストア)/Nintendo Switch 2/PS5向けに開発中。基本プレイ無料作品としてリリース予定で、ゲーム内は日本語表示に対応する。
『リリのワールド』では、醜い競争はなく、あるのは“純度100%の癒し”に振り切ったユートピアだ。小さな雑貨の中で暮らし、純粋な住人「リリ」たちと過ごす時間は、涙が出るほどやさしい。
今回、弊誌は東京ゲームショウ2025で本作を試遊する機会に恵まれた。本稿では試遊から感じた、癒しの非日常体験をお届けしたい。
巨大なものに包まれる“安心感”
『リリのワールド』は生活シミュレーションゲームだ。本作の主人公はある日突然小さくなり、「リリ」と呼ばれる小さな住人たちが暮らす不思議な世界へ迷い込む。プレイヤーは彼らと共に生活し、自分の街を少しずつ作り上げていく。
試遊で最初に心を掴まれたのは、巨大な日用品に囲まれるスケール感だった。目覚まし時計が自分の身長ほどの大きさで、ヘッドホンが建造物のように鎮座している。普通なら不安や異世界の恐怖を煽るシチュエーションだが、『リリのワールド』では真逆だった。

どの物も丸みを帯び、暖色で彩られている。視界いっぱいに広がる窓やカーテンは、現実の自分の部屋を思い出させつつも、どこか童心を呼び起こす。差し込む陽光は柔らかく、まるで「安全な場所に守られている」という感覚がある。大きなものに包まれているのに、怖くない。むしろ安心して癒される。それがこのゲームの第一印象だった。
ミニチュアを並べる感覚が癒される建築
拠点となる「ホーム島」では、自宅と外どちらにも自由に家具を配置できる。家具を配置していると、だんだんと気持ちが落ち着いていくのを感じた。イヤホンで作られたスピーカーを壁際に置き、目覚まし時計をくり抜いたソファに腰かける。何の変哲もないクリップも、この世界では壁掛けのおしゃれな装飾だ。世界観を活かした小さな雑貨たちは統一感があり、どれもかわいらしい。その絵本的な世界に物を並べる行為は、大規模な建築というより、ミニチュアをちまちまと作り上げていく感覚に近い。

気づけば配置の細部にこだわりたくなり、気に入った家具の位置を何度も調整してしまう。ゲーム的な実用性、あるいは承認欲求を満たすためのものではなく、自分がいいと思うかどうか。そんな良い意味で自己満足だけの空間を作り上げる時間は豊かで、ずっと浸っていたくなる中毒性や癒しを備えていた。
ちなみに試遊時に担当してくれた方によれば、本作のアートスタイルは日本のカルチャーから影響を受けている部分もあるようだ。絵本やアニメに出てくる、小間物を活用した小さな家などにときめいた経験がある人や、ミニチュアの素朴な可愛さに惹かれる人は、本作の世界観も楽しめるだろう。

純粋なリリたちと過ごす、やさしい時間
スマホで“ウーブ”を呼び出すと行けるフィールド「花の海」で出会ったリリたちは、現実世界での緊張をすっとほどいてくれる存在だった。彼らの言葉には毒が一切なく、ひとつひとつがまるで子どものつぶやきのようだ。
「花の蜜を食べすぎて虫歯が心配なんだ」
「朝市でいいものをたくさん見つけたんだ!」
そんな他愛もない会話を交わしていると、不思議と心が軽くなっていく。特に印象的だったのは、プレイヤーよりも小さなリリがこちらを見上げる視線だ。ぬいぐるみのような体に、大きな瞳でこちらをまっすぐ見つめる仕草。その一瞬に庇護欲が刺激されると同時に、自分もこの世界では童心に帰って、純粋なままでいていいのだ、と肯定されたような気分になり、図らずも泣きそうになってしまった。

なお、仲良くなったリリはホームに招待することができる。リリの好みの家を建ててあげたり、プレゼントを贈り合ったりといった交流も楽しめる。担当者によれば、今後のアップデートでリリの好感度システムや、より多彩なやり取りが楽しめる要素も実装される予定とのこと。かわいらしいリリたちとより深い関係が築けることに期待したい。
穏やかで心地よい採取や探索
ホーム以外のフィールドでは、家具用の素材を集める採取が楽しめる。パチンコで朝露を落としたり、瓶に太陽光を集めたり……アクションはシンプルだが、不思議な心地よさがある。

たとえば「暗き星の深井戸」というダンジョン。ここでは青と赤の小さな生き物「ウーパ」を退治しながら、散らばった星から素材を集めて階層を進んでいく。サイキックというエネルギーが尽きるまでにどこまで深い階層まで潜れるか、というタイムアタック的な要素や、ジャンプで飛び石のような地形を乗り越えていく必要があったりと、ダンジョンはアクションゲーム的な側面ものぞかせる。だが体験としてもっとも心に残るのは、アクションの達成感や爽快感ではなく、「穏やかさ」だ。
夜空のような背景に漂う色鉛筆や画用紙を眺めながら星を探し、次の階層に進む。ファンシーな心象世界を進んでいくうちに、日常の雑念が消えていく。そんな雰囲気の中で素材を集めるのは、家庭菜園の収穫のような穏やかな空気に満ちている。“ゲームを攻略する”というより、“瞑想するように遊ぶ”感覚。アクションが簡単だからこそ穏やかさや、心の余白が生まれる。その静けさが『リリのワールド』の癒しの世界を支えていると感じた。なお担当者によれば、今後はさらに多様なデザインのマップや、新たな種類のウーパを実装する予定だそうで、シンプルさの中にもバリエーションのあるアクションを目指す方針のようだ。さらに、探索や建築をともに楽しめるマルチプレイの実装も予定しているとのこと。ひとりでじっくりと、だけでなく、みんなでワイワイと楽しめるような遊び方もできそうだ。

高純度の癒しがもたらす余韻
本作の試遊を終えたとき、驚くほど心が穏やかになっていた。競争も、大量のタスクも存在しない。そこにあるのは 「安心できる空間」と「純粋な存在との交流」 だけ。

他のミクロな世界を舞台にしたゲーム――『ピクミン』や『Grounded』が「サバイバル」や「冒険」を描くのに対し、本作はあえて「癒し」に一点集中している。その振り切り方は、ジャンル内でも唯一無二だろう。このゲームは、日常に疲れたプレイヤーが「何にも縛られない、純粋な自分」を取り戻すための小さな箱庭だ。家具の配置、リリとの会話、採取や探索、そのどれもが心を浄化させ、胸の奥に澄んだ余韻を残した。正式リリースされ、また『リリのワールド』で“小さくなれる”日が待ち遠しい。


『リリのワールド』はPC(Steam/Epic Gamesストア)/Nintendo Switch 2/PS5向けに開発中。基本プレイ無料作品としてリリース予定で、ゲーム内は日本語表示に対応する。