「人間ではなくなった」少女の居場所はどこにあるのか?天狗の国を舞台にマイノリティの痛みと生きることを描く和風学園ファンタジー『みすずの国』を今こそ遊んでみよう

『みすずの国』は困難を乗り越え、以前の自分を取り戻すことだけを描いたわけではない。「思い通りにならなかった境遇の先にも人生が続いていく」ことも描かれた作品だ。

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Steamでは日々数多くのゲームがリリースされている一方で、個人や少人数チームによる国産タイトルには大作の話題に隠れながらも、独創的なアイデアや強いこだわりを持つ作品が少なくない。本連載「見逃してない? 国産Steamタイトル発掘録」では、同人・インディーゲームを中心に、国産Steamタイトルを毎回1本ずつピックアップして魅力を伝えていきたい。

「人間ではなくなった」少女が天狗の国へ

連載第10回となる本稿では、Kazuki氏による同人サークル「STUDIO・HOMMAGE(スタジオ・おま~じゅ)」が手がけた『みすずの国』を紹介する。Kazuki氏は『雪子の国』『ハルカの国』などを制作してきたクリエイターで、アニプレックスのノベルゲームブランド「ANIPLEX.EXE」では『たねつみの歌』の企画・シナリオを担当している。

Kazuki氏が長年作り上げてきた「国シリーズ」は、「もしも日本の領土に、天狗の国があったなら」というIFの世界観を出発点に、文化・地理・歴史・法律まで作り込んだ架空の日本を舞台とする連作ビジュアルノベル。『みすずの国』『キリンの国』『雪子の国』『ハルカの国』と異なる人物の物語に焦点を当てながら、一つの国の趨勢を浮かび上がらせていくのが特徴だ。

『みすずの国』は「国シリーズ」の処女作として2014年に公開されたフリーゲームで、第10回ふりーむ!ゲームコンテストではノベルゲーム部門の金賞を受賞した(なお、『キリンの国』は最優秀賞を受賞)。2025年4月にリメイク版がSteamで発売され、ビジュアルとサウンドが一新されたほか、シナリオにも細かな加筆が施されている。選択肢のない一本道のノベルゲームで、プレイ時間は約2~3時間と比較的短い作品だ。

物語の主人公は、北国で暮らす14歳の少女・美鈴。ごく普通の人間として生活していた彼女は、ある日、神通力に関する検査を受けることに。作中世界では、人間の神通力が基準を超えると「超過者」として、法律上の扱いで人間ではないと判定される。美鈴も検査によって超過者とされ、それまでの生活を続けることができなくなってしまう。超過者となった美鈴に示された道は、一生を政府の監視下で暮らすか、天狗の国へ行くかの二択だった。医者を目指す夢のあった彼女は、天狗の国で神通力を学び、法の制限が緩和される「優良超過者」を目指して、京都にある愛宕特別行政区へと留学する。

そこで出会う人物のひとりが、鞍馬の国の姫であるヒマワリだ。生まれながらの天狗として育ってきた天才肌の彼女に対し、美鈴は人間の超過者として天狗の国へやってきた存在だ。ルームメイトとなった二人は、ともに愛宕の地にやってきた「異邦人」という共通点を持ち、似た者同士として関係を深めていくことになる。

また「国シリーズ」は各タイトルで一人の主人公の物語を完結させながら、背後では一つの国の歴史も進んでいくのも特徴。例えば『みすずの国』『キリンの国』と『雪子の国』では描かれる時代に約15年の隔たりがあり、作品をまたぐことである時代には当たり前だったことが別の時代には変化している。シリーズを読み進めるほどに世界自体への理解が深まっていく骨太な構造が魅力だ。

「マイノリティ」というテーマを天狗という設定で描く

本作が興味深いのは、天狗というファンタジー的な設定を使いながら、描いている問題が極めて身近な「周囲と違うこと」に結びついている点だ。公式は作品の紹介として「マイノリティ(少数派)という烙印の痛み」や「みんなと同じにはなれなかった口惜しさ、悲しさ、不自由さ」を掲げている。

美鈴は自分が望んで周囲と異なる存在になったわけではなく、本人からすれば昨日までと何も変わっていないのに、社会から見た立場だけが変化し、人間としての生活を手放さなければならなくなった。新たに天狗の国へ移った後も簡単には馴染めず、生まれながらの天狗ではない「人間あがり」として蔑まれて生活することになる。

Kazuki氏は、第10回ふりーむ!ゲームコンテストの受賞コメントで「国シリーズ」について「勝つことのできなかった人や、運の悪かった人を肯定する物語」と語っている。本作は困難を乗り越え、以前の自分を取り戻すことだけを描いた作品ではない。プレイヤーが選択肢を選んで美鈴の人生を導くのではなく、超過者となった彼女が天狗の国へ向かい、何を経験するのかを見届けていく。思い通りにならなかった境遇の先にも人生が続いていくと、美鈴の歩みを通して描いているのだ。

なお、今回紹介したSteamでリリースされたリメイク版では、ビジュアルとサウンドが現代的に刷新され、心情描写がよりわかりやすく加筆されている。初めてプレイする人はもちろん、フリー版を遊んだ人にとっても再発見のある仕上がりだ。「国シリーズ」の入り口としても最適で、「みんなと同じにはなれなかった」人間が生きていく物語としても、今こそ触れてみる価値のある一作だろう。

リメイク版『みすずの国』は、PC(Steam)向けに配信中。

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Yuuki Inoue
Yuuki Inoue

RPGとADVが好きなフリーのゲームライター。同人ノベルゲームは昔から追っているのでそこそこ詳しい。面白ければジャンル問わずなんでもプレイするのが信条。

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