
Steam壮絶ADV『泣き叫ぶ雁』は「過酷」で有名な前作から過酷大増量で、ひたすら重い。虐殺・狂気・三角関係、それでも最後に待つのは“日の光”(ネタバレなし)
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パブリッシャーの2PGamesは4月3日、ZerocreationGameが手がける『泣き叫ぶ雁』をリリースした。対応プラットフォームはPC(Steam)で、日本語表示に対応。また日本語ボイスも後日のアップデートで追加予定となっている。
筆者は『泣き叫ぶ雁』の発売を心から楽しみにしつつも、同時に恐れていた。それは前作の『飢えた子羊』をプレイした際、精神的にかなりのダメージを受けた経験があるからだ。重すぎるテーマ。主人公とヒロインの微妙な関係の変遷。そして各種エンディングのなんとも言えない後味。どれを取っても忘れ難く、数週間は尾を引いた。個人的に近年遊んだノベルゲームの中でもトップクラスで印象に残っている作品である。
そんな思い出深い作品の続編ということで、筆者は不安を抱いていた。期待値が高すぎて自分で勝手に怖くなっていたのだ。しかしそんな心配は筆者の杞憂だった。本作は前作以上に重く、玄妙で、人の心を容赦なく抉っていく。これを書いている今も、筆者の精神にはかなりのダメージが残っている。『泣き叫ぶ雁』で筆者が受けた衝撃は、間違いなく前作以上だった。
本作は発売初日にさっそく5万本以上を販売したという。ノベルゲームとしてはあまり類を見ない、かなりの初速で売り上げを伸ばしている。本稿では、そんな人気を集める『泣き叫ぶ雁』について、前作との違いなどを絡めつつ、前作からさらに深化している『泣き叫ぶ雁』の物語の過酷さについてお伝えしていく。なおネタバレには極力配慮しているが、序盤の展開などを含め、公式より発売前から発信されていた情報は記事中で引用・言及している。特に何の事前情報もいれずに遊びたいと思われている方は、くれぐれもご留意いただきたい。

まずは序盤のあらすじを含め、本作の概要を紹介しておこう。『泣き叫ぶ雁』はノベルアドベンチャーゲームだ。前作『飢えた子羊』の世界観を受け継いでおり、前作のキャラクターも登場する。しかし基本的に新キャラクターたちを中心とした、独立した物語が展開される。前作をプレイしていなくても楽しめる作品だ。
本作の舞台となるのは西暦1645年の中国。主人公は書生の「方知宥(ホウ・チユウ)」である。彼は若くして科挙の院試に合格したが、小説家として身を立てることを志し、科挙の道を捨てる。しかし幼なじみの「蘇憐煙(ソ・レンエン)」がある日、橋から身を投げて自殺。その衝撃で方知宥は心を病んでしまう。一部の記憶を失ったうえ、時折人の顔が動物に見える奇病「獣視病」を発症したのだ。失意の方知宥は筆を折り、酒浸りの日々を送ることになる。
幼なじみの死から数年が経ったある日、飲みすぎた方知宥は路上で眠り込んでしまう。そして目覚めた方知宥は、獣の顔をした兵士たちが、街を蹂躙している光景を目の当たりにする。驚いた方知宥は、自身が妖怪の世界に迷い込んだと思い込む。さらに驚いたことに、彼は死んだはずの幼なじみに瓜二つの少女「小雁(シャオエン)」と出会う。混乱の極みに達する方知宥だが、「自分が守らなければ小雁は殺されてしまう」と思い至り、生きる気力を取り戻す。そうして方知宥と小雁は過酷な占領下の街を生きのびるために奔走する。

本作の物語は「揚州十日(揚州大虐殺)」という歴史的事件がモチーフになっている。大都市・揚州が攻め落とされ、十日間に渡って住民が殺戮されたという凄惨な事件だ。そんな歴史に残る虐殺の真っ只中に放り込まれた一人の人間として、ひたすら生き抜くのが本作の主要な物語になる。あまりに容易に、あまりに多くの人が死んでいく、暗く残酷な日々が描かれるのである。
前作の『飢えた子羊』はタイトル通り“飢え”がひとつのテーマとなっており、飢饉にあえぐ貧しい人々の惨状が描かれた。多くの人が死に瀕する、過酷な状況だ。凄惨な描写もかなりある。しかし飢饉が深刻だったのは過去編のことで、本編の時間軸においては、社会はある程度の安定を保っていた。死と隣り合わせの過去編と、殺伐とはしているが多少の秩序も感じられる現在編という構造だったわけだ。基本的には過去より現在の方がマシな状況で、そこには一種の救いもあった。
一方、本作『泣き叫ぶ雁』のメインテーマは“虐殺”である。妖怪の軍に占領された街には、もはや秩序は存在しない。妖怪たちの気分次第で、いつでも殺戮がおこなわれる。住民は逃げ隠れしながら耐え続け、いつか妖怪たちが自分から去るのを待つしかない。そんな状況が本編の現実だ。一方、本作でも過去編が定期的に挿入され、そこではまだ平和だったころの街の暮らしぶりが描かれる。過去と現在が対比される構成は前作と同様だが、前作と違うのは、本作で地獄と化しているのは現在の方ということだ。過去から状況は悪くなる一方であり、希望は見当たらない。
また前作『飢えた子羊』の物語は、“旅”がひとつの主軸となっていた。主人公は食い詰めて人買いに子どもを売りに行く盗賊という最悪の設定だが、どことなくロードムービー的な作りであり、「少なくともどこかには向かっている」という一種の開放感があった。しかし『泣き叫ぶ雁』の物語には行き場がない。主人公らは妖怪が跋扈する恐ろしい街に閉じ込められており、どうにかして耐え忍ぶしかないのだ。なんとも閉塞感極まっている。

そして『泣き叫ぶ雁』の主人公は、前作よりかなり頼りない。前作の主人公は頭はそこまで切れるわけではなく、ぶっきらぼうで口下手だが、少なくとも剣の腕は立ち、それなりに世慣れているので荒事には強かった。そしてヒロインは非常に頭がよく、底知れなさすら感じさせる少女。状況が絶望的すぎるので楽観視はまったくできなくとも、「この二人が同じ方角を向いているあいだは、大抵の問題は乗り越えていくだろう」という信頼感もないではなかった。
しかし本作の主人公・方知宥は小説家志望の書生である。頭はいいが、戦闘能力は低い。そして幼なじみの死の記憶に苦しむ方知宥は、正気を失っている。プレイヤーの視点から状況を客観的に見ると、街を支配する妖怪の軍勢は幻覚で、現実には敵兵に占領されているのが明らかなように見える。しかし虚実入り混じる世界に生きる方知宥は、そうは受け取らない。彼は自分が妖怪の世界に迷い込んだと信じている。彼は狂気をはらむ、信頼できない語り手なのである。方知宥が、自分より非力な少女である小雁を守ろうとする決意は美しくもあるが、彼自身も非力で危うい。そんな主人公だ。

そして本作の物語は、いわゆるダブルヒロインになっている。メインヒロインにあたるのは、主人公の幼なじみの芸妓・蘇憐煙および、彼女に瓜二つの少女・小雁。現代編では小雁と、過去編では蘇憐煙と、主人公の繋がりが描かれる。さらにもう一人重要なヒロインとして、娼婦の「林翩翩(リン・ヘンヘン)」が登場。主人公と彼女たちは、公式が表現するところの三角関係を形成する。
“三角関係”という言葉それ自体、かなりの緊張感が漂う単語だが、さらに悪いのが、物語開始時点でこの三角関係の結末が提示されていることだ。「蘇憐煙は自殺し、その衝撃で主人公は正気を失う」というのは、ストアページの最上段に堂々と書かれている基本設定。プレイヤーはこの情報を頭に入れたうえで遊ぶことが当然想定されている。つまり過去編の過程において何があろうと、この三角関係は最悪の結末に終わることになっている。どれだけ心温まるイベントが起ころうが、後の悲劇の前振りにしか見えなくなってくるだろう。

このように本作の救いのなさは徹底しており、逃げ場がない。しかし驚くべきことに、本作のシナリオを手がけたZerocreationGameの嵇零氏によると、『泣き叫ぶ雁』の真のテーマは「撥雲見日」であるという。厚い雲の隙間から日の光が差すように、最終的にはプレイヤーが前向きになれる感情や力を得られるような、そんな作品を目指したそうだ。「ここまで心が抉る要素を散りばめておいて、そんな馬鹿な」とも言いたくなるが、そうなのだという。つまり救いのない旅路の果てには、なんらかの光が待っている。嵇零氏はそこを目指したわけだ。
ちなみに本作の総字数は、前作のおよそ1.5倍と謳われている。またCG枚数は差分や背景含め100枚以上と、前作よりかなりボリュームアップ。より長く濃密になった話を楽しめる。長く濃密とはつまり、光が待っているという結末への道のりが長くなっていることも意味する。しかし、暗闇が濃く夜が長いほど、そこから抜け出たときの光は眩しく見えるものであろう。

ちなみにストアページでも紹介されているとおり、本作には前作主人公の良と穂が登場。ふたりの前作エンドの“その後”を描く外伝的な章が用意されている。冒頭で述べたとおり本編は独立した話のため前作知識は特に必要ないが、この外伝を遊ぶ際はあらかじめ前作をプレイしておくことをオススメしたい。
さて、以上が『泣き叫ぶ雁』の紹介である。文弱の徒にして狂気に侵され、虐殺の十日間を生きる哀れな方知宥は、壮絶な旅路の果てにいかなる光を見出すのか。それは遊んでみてのお楽しみである。少しでも気になった方はプレイして、ぜひともその目で確かめてほしい。きっと忘れられない旅になるはずだ。
『泣き叫ぶ雁』はPC(Steam)向けに配信中だ。ゲーム内は日本語表示に対応している。また日本語ボイスも後日のアップデートで追加予定だ。
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