サイコロジカルホラー『MADiSON』は、Nintendo Switchの中でもトップクラスに怖い。夏を目前に、背筋を凍らせながら書いた体験記

『MADiSON』は、Nintendo Switchの中でもトップクラスに怖い。舐めた態度でゲームを始めた筆者は、その本気の怖ろしさに仕事を受けたことを軽く後悔する羽目になったのであった。

人はなぜ、ホラーゲームをプレイするのだろう。その動機はプレイヤーによってさまざまだろうが、筆者の場合「現実ではできない恐怖体験をしてみたい」「スリルやカタルシスがほしい」といった理由でホラーゲームを遊ぶことが多い。びっくり系よりも精神的に追い詰めてくるタイプのホラーが好きで、物語に考察の余地があることに恐怖を感じ、嬉しくなるタイプである。

そんな筆者が今回、Nintendo Switch版『MADiSON』プレイの機会をいただいた。Steamにて2022年にリリースされた本作だが、今年7月4日にコンシューマー向けに発売されたことで、より幅広いホラー好きが手に取りやすいタイトルとなった。そろそろ夏が始まる。背筋をヒヤリとさせて涼を取りたいところだが、本作の怖さはいかほどか。……などと、舐めた態度でゲームを始めた筆者は、その本気の怖ろしさに仕事を受けたことを軽く後悔する羽目になったのであった。


MADiSON』はアルゼンチンのBLOODIOUS GAMESが開発した、一人称視点のホラーゲームだ。記憶を失った主人公・ルカは不気味な館の一室で目を覚ます。プレイヤーはルカを操作し、状況もわからないまま見つけたポラロイドカメラで周辺の写真を撮りながら、館で起きた悲惨な事件を紐解いていくことになる。ジャンルとしてはサイコロジカルホラーやサバイバルホラーに該当し、館の謎を解きながら主人公の身に起こったことを解明していくのが目的となる。

本作の舞台となる館には、ギミックや謎解き要素が満載だ。『バイオハザード』を始めとしたクローズドの謎解きホラーによくある、「設計者は何を考えてこんなギミックだらけの建物を作ったんだよ!」と言いたくなるタイプのアレである。実際のところかなり暮らしにくいのではないかと思うのだが、筆者としてはそういった“お約束”も含めて好きなタイプの舞台設定だ。

謎解きはヒント少なめで歯ごたえがあり、さまざまなアイテムを駆使して解いていくのは達成感があった。戦闘要素がないため謎解きに集中でき、じっくりと恐怖に向き合うことができるのも嬉し怖いポイントである。なお、謎の中にはランダム生成で毎回答えが変わるものも。勇気ある(あるいは酔狂な)プレイヤーは、何度でもこの館の恐怖を新鮮に楽しめるというわけだ。

ポラロイドカメラがキーアイテムに

本作は全体的にライティングが暗めで、場所によっては何も見えないことすらある。震える指でスティックを傾けて扉を開け、何も見えない場所を覗き込んでいると聞こえてくる不穏な環境音に、「ここから先には進みたくない……」と宙を仰がされることもしばしばあった。しかし、泣きべそをかきながら足踏みをしていてもゲームは進まないし、どれだけ暗かろうと探索は続けないといけない。そんなときに頼りになるのが、キーアイテムであるポラロイドカメラだ。

主人公・ルカへのプレゼントとして入手できるこのカメラは、謎解きのヒントを記録することはもちろん、そのフラッシュは光源としても役に立つ。真っ暗な館のなかでは、何度もフラッシュを焚きながら、その光を頼りにに進むことも重要になってくるのだ。

また、写真を撮ることがトリガーとなって謎解きが進展することもある。奇妙な配置のオブジェクトを見つけたり、壁に貼られている写真を見つけたり、とにかく“妙なもの”があったらとりあえずシャッターを切りまくるのがおすすめだ。もちろん、いきなり“何か”が映り込んで悲鳴を上げるまでがワンセットである。


カメラはポラロイドのため、現像するために写真をパタパタと扇ぐ必要がある。ただでさえ暗く、ギシギシと嫌な音が聞こえてくる館だ。早く脱出のための情報が欲しいのにパタパタしなければならないのが本当に怖かった。パタパタしている最中に何かに遭遇したらどうしてくれると、常に気を張りながらプレイしていた。これがデジカメやスマホのカメラだったら、この恐怖感は味わえなかっただろう。

とにかく音がずっと怖い

『MADiSON』のプレイ中は常に嫌な音が聞こえてくる。ざわざわと響く環境音、床が軋む音、落ちている皿の破片を踏む音、突然の雷など、枚挙にいとまがない。筆者は最初のうちはヘッドホンでプレイしていたが、恐怖にずっと取り囲まれている感覚に押しつぶされそうになっているさなか、突然聞こえてきたNintendo Switch本体のバッテリー低下警告音にすら心臓が飛び跳ねてしまい、もう勘弁してくれとスピーカーに切り替えてしまった。本作の音はそれくらい怖い。


音にこだわりがある本作だが、「振り向いたらいる」系のジャンプスケアはそこそこあったものの、「突然大きな音がする」系のジャンプスケアは思ったほど多くない印象だった。もちろん、大きな音でこちらをびっくりさせる演出が少ないわけではないので、ジャンプスケアが苦手な方は注意してプレイしたほうがいい。しかし、基本的に本作では音はじわじわとこちらを追い詰めるための道具として作用しており、プレイヤーの心臓が押しつぶされる手助けをしてくれる。筆者がヘッドホンでのプレイをギブアップしてしまうくらいには。

本作にはBGMがなく、プレイヤーはずっとその世界の音と向き合わなければならない。しかし、床の軋む音と雷鳴に怯えながら進んでいくと、道中に音楽に出会うことも。美しい旋律だが、禍々しい空間に突然響いてくる歌声というのはなかなかどうして恐ろしい。誰が居るのだろうとすくみあがってしまい、筆者はしばしの間、歌声を聞きながら放心してしまった。環境音から音楽まで、『MADiSON』はプレイヤーを聴覚から恐怖に陥れる演出が実に匠で、人を不安にさせるような音の使い方が上手い作品なのである。

考察の余地がある良質なストーリー

筆者はホラーにおいて、すべてを語り尽くしてしまうことは無粋だと考えている。断片的な情報から何が起こっているのかを想像するから、ホラー作品というのは恐ろしいのだ。人間の想像力とは逞しいもので、直接的に顛末を語られるより、何があったのかを薄ぼんやりと察してしまったときのほうが上質な後味の悪さを感じさせられるからだ。

『MADiSON』の語り方は想像を掻き立てるようなやり方で、主人公の身に起きたことや館を取り巻く現状についてをプレイヤーに教えてくれる。拾ったカセットテープや日記などの内容から何が起こっているのかの輪郭を掴み、何が起きているのかさっぱりわかっていない様子の主人公と一緒に困惑しながら館をさまよう。

そして、主人公は気付くのだ。館の悪魔は決して自分と無関係ではないことに。物語の点と点がつながっていき、館に起こった事件の顛末を解き明かしたときのカタルシスはとても気持ちが良いものだった。それまでに味わった恐怖のぶんだけ、解放感もひとしおというわけである。もう二度とこんな屋敷に足を踏み入れたくはないが。


以上、サイコロジカルホラー『MADiSON』についてご紹介した。じわじわと心臓を握りしめてくるような恐怖表現と良質な謎解きホラーを味わいたい方は、ぜひともプレイしていただきたいタイトルだ。

MADiSON』はNintendo Switch/PS4/PS5/PC(Steam)にて発売中だ。

Aki Nogishi
Aki Nogishi

ポストアポカリプスとドット絵に心惹かれます。AUTOMATONではFF14をメインに担当します。

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