新たなソウルライク『Lies of P』は高難易度を「攻め全開」で遊べる一作。山盛り強化でピノッキオを“育てる”面白さ際立つ

新作ソウルライク『Lies of P』は同ジャンルとして手堅くまとまったシステムを備えており、ソウルライク入門編として最適な1本と言える。本稿では本作独自の個性を含め、内容を紹介していく。

世に多くのゲームが出回るようになり、なかでも高難易度ゲームの躍進が目覚ましい昨今。自分も高難易度ゲームに挑戦したいが、ハードルが高いと手をこまねいている人もいるだろう。ならばその最初の一歩をピノッキオと共に踏み出してみてはいかがだろうか。『Lies of P』は「ソウルライク」ジャンルを遊び慣れた筆者の目から見て、手堅くまとまったシステムを備えており、入門編として最適な1本だと言える。また、山盛りの強化・カスタマイズ要素を通じた、独自の個性も備わっている。このたび本作を先行してプレイする機会に恵まれたため、作品の内容を含めて紹介していきたい。


『Lies of P』は童話「ピノッキオの冒険」を原作とした高難易度3Dアクションゲームだ。対応プラットフォームはPC(Steam)/PlayStation 4/PlayStation 5/Xbox One/Xbox Series X|S。価格はスタンダード・エディションが8360円。限定キャラクタースキンが付属するデラックスエディションは9360円となっている(いずれも税込)。本作は韓国のRound8 Studioが開発を担当している。

プレイヤーは謎の声によって呼び覚まされた人形「ピノッキオ」として、殺人人形が跋扈する街「クラット」を冒険し、その謎を解き明かすことになる。物語の中では「ウソをつく」か「真実を伝える」かという選択肢が随時提示され、その選択によって、のちの物語に影響が出るようになっている。


質実剛健、手堅くまとまった戦闘スタイル


『Lies of P』は「ソウルライク」と呼ばれる、フロム・ソフトウェアが制作した高難易度3DアクションRPG群のシステムをベースとした内容に仕上がっている。ソウルライクと形容される作品の多くは、強力な攻撃手段をもった雑魚敵を押し引きの選択による判断を通じてさばきながら、“初見殺し”とお宝満載のフィールドを探索していくゲームになっている。最奥に待ち受けるボスは雑魚敵が比較にならない程の強力な攻撃手段をもち、モーションを観察することでこれを回避。多くの試練を乗り越え鍛え上げたキャラクターのステータスと武器で、彼らを打倒していく。

敵を倒すことで得られる経験値は、ゲーム内において通貨や武具の強化素材としても利用できる。消費することでレベルを上げ、ステータスを高めるのか、戦闘をサポートするアイテムを仕入れるのか、武具を強化していくことのか、プレイヤーに選択を強いる。経験値はゲームオーバー時に失われてしまい、倒された地点へ回収に向かわなければならない。ゆえに、道中そもそも敵と戦わず安全策をとるのか、攻めに出るのか、といった選択も行う必要がある。度重なる「間違った選択」を通じて「正解」を選ぶことに成功したとき、プレイヤーは成長の実感だけではなく、最高の充実感と達成感を獲得することになる。これがソウルライクというゲームデザインの大きな特徴であり、醍醐味である。


そうした「ソウルライク」作品の中でも『Lies of P』における基本的な戦闘システムは質実剛健、手堅くまとまっており遊びやすい。本作は敵の攻撃を受けた際、一定時間内に反撃することでHPを回復できる。それだけでなく、敵の攻撃を防ぐにあたって、回避のほかにガードが用意されている。ジャストタイミングでガードを行うことで、敵の攻撃を完全に防げるほか、特定の敵に対しては永続的な弱体化を狙うことができる。たとえば敵の武器をへし折ることで、攻撃範囲を狭めることが可能だ。継続して攻撃を与え続ければ、溜め攻撃からダウンをとり、超高火力な致命の一撃を決めることもできる。

反撃を通じた回復システムと、強固なガードの存在により、敵に可能な限り肉薄することで積極的な攻勢を作り上げることが『Lies of P』における戦闘形態である。本作は敵の観察を通じて攻略するゲームだが、このスタイルのお陰でゲームオーバーになりにくく、よって攻略がしやすい。「ソウルライク」に馴染みのない人でもとっつきやすいデザインになっている。例のごとく回復アイテムは回数制だが、使い切ったとしても攻撃をし続けることでゲージを溜めて、ストックを1個だけ回復できる。ふたたび使い切った際にも同様で、死ぬかチェックポイントにたどり着くまでこれを繰り返しながら攻略を進める形になる。攻勢を緩めず戦い続けて勝機を掴む、本作らしい仕様と言えるだろう。強固なガードと回復のしやすさにより、「ソウルライク」ジャンルの入門編としての適性も獲得している。


気分はまるでゼペットじいさん、カスタマイズ要素が山盛り


そして本作はただの遊びやすいソウルライクに収まっている作品ではない。『Lies of P』はゼペットじいさんがピノッキオを作り上げたように、豊富な強化・カスタマイズ要素を通じて自分だけのピノッキオを作り上げることができる。まず紹介したいのは戦闘体験の軸となる武器のカスタマイズだ。本作に登場する武器は「刃」と「柄」の部分に分かれており、2つを「調合」し組み合わせることで1本の武器として振るうことになる。刃と柄にはそれぞれ「フェーブルアーツ」というゲージを消費して発動する技が設定されているほか、刃は主に攻撃力に関する数値や攻撃の範囲、得意とするモーションが設定されている。柄にはステータスを通じた攻撃力補正とモーションが設定されており、これら要素を自由に組み合わせることで、自分オリジナルの武器を制作し戦っていくのだ。

デカい刃に大振りなモーションをもつ柄を組み合わせることで極大の範囲をもつ武器を作るのもいいし、突きのモーションを得意とする炎の短剣の刃に回避のフェーブルアーツと突きを手早く出せる柄を組み合わせ、手数で戦う戦法を作り上げるのもいいだろう。刃と柄はそれぞれ強化することができ、刃についてはソウルライクにお馴染みの専用アイテム消費を通じて強化を行う形式になっている。柄も同様に専用アイテムを使用するが、強化内容としてはステータス補正の変動が主になっており、刃の長所を更に伸ばすことが可能となっている。まさにお気に入りの一振りを作り出すためのシステムとなっていることが分かる。


本作の戦術を形成する要素は何も手に持つ武器だけではない。ステータスを高めるアクセサリーも存在するほか、ピノッキオの左腕「リージョンアーム」は属性攻撃などを繰り出せる武器となっている。攻撃は専用のゲージを消費することで行い、使いたい属性に応じて腕を付け替える必要がある。またリージョンアームは段階的に強化が可能だ。さらに本作には、攻略を快適にする能力を開放していくスキルツリー要素も存在する。

そして武器の強化を含め、これらのキャラクター強化要素は限られた資源を使用することにより、不可逆な形で行っていく。つまり、選んだことが間違いだったと後になって引き返すことはできない。だからこそ「何を選び強化するのか」という選択が直接プレイヤーの個性としてピノッキオに反映されていく。ピノッキオがあなたの息子になっていく。山程ある選択肢を通じ、手間ひまかけてピノッキオの才能を磨き上げる体験は、画面に映るキャラクターを、単なるプレイヤーキャラという認識から愛する我が子へと変えるのだ。これは星の数ほど存在するソウルライク作品の中にあっても眩しく輝く作品の個性として成立しており、『Lies of P』ならではの体験と言える。


「ウソ」によって紡がれるピノッキオの冒険


「ウソ」をつけることは人間の証明である。『Lies of P』では選択肢に混ぜられた「ウソ」をつくのか否かが鍵となる物語が展開されていく。殺人人形が跋扈し、狂気がそこら中に蔓延した世界で「ウソ」は幻の救いをもたらし、「真実」は破滅を目前に差し出す。腐りきった現実を前にあなたは何を語るのか。ゲーム中に与えられる選択肢の中で、ウソをつけばつくほどピノッキオは人間性を獲得し、同時にサブイベントやメインストーリーの内容に変化をもたらす。果たしてピノッキオは混乱の元凶を打ち倒し、人形から人間になれるのか。それは人間に幸福をもたらした結果なのか。彼の物語が人生として認められるか否かはあなたの手にかかっている。

美しい本作のアートワークにも注目したい。フランスの19世紀末「ベル・エポック」時代をモチーフとした『Lies of P』では、産業革命を通じ発達した資本主義の影響により、近代的に発達した市街地を中心とする、多種多様な背景美を鑑賞することができる。時代背景を端的に反映する工業施設や、ダークファンタジーにお馴染みの古びた協会、フランスには欠かせない劇場など、さまざまなダンジョンが登場。それぞれの美しさと“初見殺し”のギミックでもって私たちをもてなしてくれる。そこにうごめく殺人人形たちは、街灯や月光に照らされ表面の鉄がぬめりと光り、建造物とはまた違った美しさを魅せてくれる。ダンジョンによっては謎の怪物たちも登場するが、こちらは所謂「ゾンビ」のような外見の中に、当時流行した象徴主義的な、負の感情が腐り落ちたドロドロとした世界観を内包しているイメージを漂わせている。目をよく凝らしてみれば、原作である「ピノッキオの冒険」へのオマージュもゲーム各所で見つかることだろう。

さらにアイテムに記載された豊富なフレーバーテキストは、優れた美術によって描かれる世界観や物語を補強し、プレイヤーを考察の迷宮に誘う。堅実にまとまった戦闘システムだけでなく、ナラティブな要素にもフロム・ソフトウェア作品へのリスペクトが感じられる。


ゲーマーにとって2023年はここ数年の中でも粒ぞろいの年となった。そうした中で、『Lies of P』もまた十分な個性を放っている。遊びやすくまとまった戦闘システムと盛り沢山なカスタマイズ要素、それを彩る美しいアートワークの数々により、本作は「ソウルライク」ジャンルの入門編としても最適と言える。高難易度作品が立て続けに発売され、人気を勝ち得ている昨今において、挑戦してみたいが手をこまねいている人もいるだろう。ならばピノッキオと共に、ウソと欺瞞に満ちた旅路へ一歩踏み出してみてはいかがだろうか。

Lies of P』はPC(Steam)/PlayStation 4/PlayStation 5/Xbox One/Xbox Series X|S向けに発売中だ。

Takayuki Sawahata
Takayuki Sawahata

娯楽としてだけではなく文化としてのゲームを知り、広めていきたい。ジャンル問わず死にゲー、マゾゲー大好き。

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