『バイオハザード』非公式リメイクチームのオリジナル新作『デイメア:1994』は、「堅実さ」と「新鮮さ」のバランスがすごい。サバイバルホラーを研究した者たちの極地

『デイメア:1994』は、三人称視点のサバイバルホラーゲーム。「堅実さ」と「新鮮さ」のバランスが絶妙で、サバイバルホラーを研究したことがうかがいしれる。

パブリッシャーのBeep Japanと4Divinityは8月31日、Invader Studiosが手がける『Daymare: 1994 Sandcastle(デイメア:1994)』をリリースした。対応プラットフォームは、PC(Steam/GOG.com)/PS4/PS5/Xbox One/Xbox Series X|SPS5版はパッケージの発売がされており、通常版は税込6028円。特典などを含んだ限定版は税込7678円となっている。

『デイメア:1994』は、特殊捜査部隊 「H.A.D.E.S.」の特別捜査員「ダリラ・レイズ」の視点から描かれる三人称視点のサバイバルホラーゲーム。舞台となるのは大統領直属の特殊部隊が管轄する謎多き軍事基地。H.A.D.E.S.は、軍事基地に潜入し、施設に起きたある謎の事件を究明する作戦「Sandcastle」を実行する。しかし、トラブルにより施設内でチームが離散。孤独になってしまったレイズは仲間を見つけるため、そして任務を遂行するために謎多き施設を探索するが、そこで怪奇な現象に遭遇してしまう。

三人称視点のサバイバルホラーゲームといえば、『バイオハザード』シリーズが同ジャンルの代名詞的な存在として挙げられるだろう。実は、本作を手がけるInvader Studiosは、過去に『バイオハザード2』の非公式リメイクの開発を行っていた経緯を持つゲーム会社だ。非公式リメイクは紆余曲折を経て開発中止。非公式リメイクの開発は断念されたものの、ファンゲーム開発チームから、正式なゲーム会社へと形を変え、オリジナルタイトルの制作へと進む(関連記事)。2019年に初オリジナル作品、『デイメア:1998』をリリース。そして今回、『デイメア:1998』の前日譚にあたる『デイメア:1994』がリリースされる。


筆者は、ゲーム、映像作品などを含め、ホラーというジャンルが好きだ。特にゾンビやクリーチャーが登場するようなサバイバルホラー作品は、人並み、もしくはそれ以上に遊んでいる自負がある。そんな筆者でさえ、『デイメア:1994』のプレイ中は常に緊張感を持って遊べたし、声を出すほど驚く瞬間もあれば、気分が高揚してしまうような瞬間もあり、濃度の高いゲーム体験を味わえた。開発者がインタビューで語っていた、サバイバルホラーを熱心に研究し、安定した土台づくりと新鮮な要素の導入を試行錯誤した結果が筆者の目を通してしっかりと感じ取ることができたのだ。

サバイバルホラーとしての必要なもの

本作を存分に楽しめた理由として、筆者が考える「サバイバルホラーとして楽しいところ」のハードルをしっかりと超えてくれたところにある。サバイバルホラーはホラーというジャンルの中でも、恐怖体験にフォーカスされきっていない作品が多い。クリーチャーや怪奇現象などの恐怖本来の怖さというよりは、クリーチャーとの戦闘の面白さや、その体験をとりまくストーリー展開に注目されがちだ。恐怖にフォーカスされきっていない分、ホラーとしてライトに楽しめることが魅力であるが、その分ストーリーの面白さや、探索パートにおける緊張感がないと、プレイヤーも退屈してしまいがちである。そういった面で、『デイメア:1994』は堅実だと思えるくらいに、サバイバルホラーとして楽しい部分をしっかりと作り上げてくれた印象だ。

まず、本作のストーリーを楽しむうえで、前作である『デイメア:1998』をプレイする必要はない。本作『デイメア:1994』は、『デイメア:1998』の前日譚にあたるため、世界観こそ共有しているものの、両作に直接的なつながりはなく、前作『デイメア:1998』は町で起こったゾンビアポカリプスを体験する、いわゆる定番のゾンビもの作品。一方、本作は、奇妙な施設で起こる怪奇現象と対峙し、事件解決に向かうというSFミステリーホラー的な作品へと仕上がっている。なので、本作が『デイメア』シリーズ初挑戦でも安心してゲームの世界に入りやすいのもポイントだ。

本作のSFミステリー要素として、プレイヤーは、主人公「ダリラ・レイズ」となっていくつかの怪奇現象に遭遇することとなる。レイズは特殊捜査員でありながら、科学者としての一面を持っており、その豊富な知見で怪奇現象の謎を突き止めていく。施設で起こる謎の現象から始まり、国家の隠ぺい工作や、実験を進める組織の存在など、ゲームを進めるたびにストーリーは拡大していく。ありがちでない、SF設定をうまく入れ込んだストーリーと、謎が謎を呼ぶ展開はゲームを遊ぶうえで大きな推進力となっている。

レイズの勇敢なキャラクター像も魅力的だ。


基礎の上にある、恐怖感

そして、本作の探索パートの演出の数々は巧みで、筆者もプレイ中思わず驚きの声を漏らす瞬間があったほどだ。怪奇現象による恐怖の演出はもちろんのこと、度々起こるライティングや音を使った演出は、プレイヤーのすぐ隣になにか恐怖があるのかもしれないという不安がつきまとい、常に緊張感を漂わせる。また、施設内には巨大な実験装置や、ステルス飛行、大型船などが置かれており、「なぜここにこんなものが……?」とレイズも思わず声を漏らすほど、不思議な場所だ。いつ怪異が起こるかわからない恐怖に加え、国が何かを隠ぺいしているという“見てはいけない背徳感”を刺激するような要素もあり、恐怖を感じながらも、エリアの至るところまで探索したくなる。演出によって緊張感を漂わせながらも、ステージのいたるところに謎を残すことによって、怖いけど先に進みたい感情を自然と湧き上がってくる。


また、本作の各種インターフェイスはシンプルなつくりとなっていて、最小限のUIでゲームが進行するというのも特徴の1つだ。これによって探索パートの恐怖演出が際立ちやすく、没入感を生み出してくれる。

本作は、怪奇現象だけに頼らない恐怖感のある雰囲気づくりと、SF要素を巧みにつかったストーリー展開や探索パートによって、長くゲームを続けたくなるようなつくりとなっている。これにより常に退屈せず、程よい緊張感を持ちながらゲームを楽しむことができた。こういったサバイバルホラーとしての土台が安定していることで、後述する要素も純粋に楽しみやすかったのだ。

安定した土台の上に成り立つ、新鮮なアイデアたち

本作のゲーム全体における安心する土台づくりに堅実さを覚える一方、本作のゲームプレイは斬新なアイデアがいくつか盛り込まれており、新鮮な気持ちで楽しむことができた。特に印象的だったのは、見たことがないようなクリーチャー像と、緊張感を生み出す戦闘システムだ。

ホラー作品におけるクリーチャー像は、その作品に対する評価に隣接している部分でもある。1968年公開の映画「ナイト・オブ・ザ・リビングデッド」では、初めて「噛まれたら感染する」ゾンビを生み出し、後年のホラー作品に多大なる影響を残し、ホラー映画の新時代を築いた作品だと定義づけられている。前作『デイメア:1998』は、どちらかというと先代のゾンビパニック作品にリスペクトを持った作品であった。しかし、続編である『デイメア:1994』は、他のホラー作品でも見たことないような新たなクリーチャー像を見せてくれた。


そもそも敵の異物感がすごい

本作に登場するクリーチャーは、電気エネルギーをまとった人間体の生物。体には電気を帯びており、レイズを走って追いかける。何よりも恐ろしいのが、倒した死体から発生する電気体だ。なんと、電気体は転がっている別の死体に向けて移動をし、寄生することで蘇生し、増殖させていくのだ。また、電気体は死体に付くだけでなく、生きたほかのクリーチャーにも近づき、肉体をさらに強化させる。電気により十分に強化されたクリーチャーは、体に赤い電気を帯び、何度倒しても復活するのだ。これがもし、何かの事故や事件で施設の外に出てしまったらということを考えると、ゾンビの存在に慣れきった筆者でさえも思わず身の毛がよだつほど恐ろしく感じてしまう。


これまでのサバイバルホラー作品に出る敵の中でも、かなり強力で厄介に感じる本作の敵だが、もちろん対抗策が用意されている。それがレイズの背中に装備された特殊兵器「フロストグリップ」だ。フロストグリップは、背中に液体窒素を溜め込み、発射することで特定の物体を凍らせることができる兵器。これにより、復活するクリーチャーを凍らせ、粉々にして二度と復活できるようにするだけでなく、移動する電気体も冷気で消すことができる。

「冷気を使う」という変化球アプローチ

恐ろしいクリーチャーにフロストグリップで対抗する本作の戦闘システムは、ゲーム体験を新鮮なものにした大きな要因だ。遠くに冷気の塊を放つ「フロストバレット」や、周囲一体に液体窒素を開放する「フロストサージ」など、豊富な技を使いこなし、クリーチャーたちを上手にさばいていく。もちろん液体窒素も容量があり、むやみやたらと使うことができない。サバイバルホラーゲームにおいて銃弾をはじめとするリソースの管理は、戦闘を左右する大事な要素だが、本作はそれに加え、液体窒素をうまく管理する必要があり、それが緊張感を生み出す。同時に、素早いクリーチャーに対し、1mmも動くことができないほどの液体窒素を浴びせ、粉々にする爽快感は他のホラーゲームではめったに味わうことができないだろう。


そして、ゲームを進めるとさらに恐ろしい新種のクリーチャーたちが立ちはだかる。特にSparkerというクリーチャーは、一目みただけでも忘れることはないおどろおどろしい出で立ちと、不意をつくような攻撃を容赦なく行う、化け物といって間違いない存在だ。ゲームに慣れてきた筆者も、Sparkerだけは出会った瞬間、手に汗が溢れ出すほどに恐ろしい。しかし、フロストグリップもそれに対抗するために強化が可能。強力なクリーチャーと戦う前に万全の準備をして挑みたいところ。

襲われたときは思わず叫んでしまうこと必至なクリーチャー「Sparker」


見たこともないようなクリーチャー像やフロストグリップを使った戦闘をはじめとする斬新な要素たちは、まさしくサバイバルホラーの形式の進化を感じるものであった。しかし、こういった要素が新鮮に楽しめるというのは、本作がサバイバルホラーとしてしっかりとした土台が作られていたからだろう。安定した土台のうえでこそ、こういった要素は輝きを見せるのではないだろうか。


『デイメア:1994』は、ゲーム全体の安定した土台づくりと、新鮮なゲームプレイを兼ね備えた、サバイバルホラーの「進化」が味わえる作品だ。開発者インタビューにて、Invader Studiosは、同ジャンルを研究し、作品づくりに活かしたと語っていた。その研究への熱心さは、同スタジオが長年『バイオハザード』のファンとして非公式リメイクを作っていたファン心に由来されるのではないだろうか。ゲーム会社になった後にもその心を燃やして研究を続けていたからこそ、本作のような作品が作れたのだろう。こうした熱心な研究の成果が、ゲームプレイに安心と驚きを連発させてくれた。『デイメア:1994』はサバイバルホラーへの愛までも感じさせるほどの完成度を誇る作品だ。たくさんの怪奇現象と対峙しながら、筆者はその心に感動していた。

デイメア:1994』は、PC(Steam/GOG.com)/PS4/PS5/Xbox One/Xbox Series X|S向けに発売中。PS5版はパッケージも発売されている。

Tamio Kimura
Tamio Kimura

エンタメ大好き系ゲーマー。COOPゲームが大好き、クライム系だったらなおよし。

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