『シン・クロニクル』は、すべてが高品質に磨きあげられたハイクラスRPG。先行プレイから見えてきたこと

セガは3月23日、スマートフォン向け新作RPG『シン・クロニクル』をリリースする。筆者はそんな『シン・クロニクル』の先行プレイを楽しむ機会をいただいた。本作の魅力をお伝えできれば幸いだ。

セガは3月23日、スマートフォン向け新作RPG『シン・クロニクル』を正式リリースする(iOS/Android)。『チェインクロニクル』シリーズの後継作として、多くの意欲的な仕組みを取り入れたタイトルだ。セガとしてのこれまでの運用ノウハウと、モバイルゲームの開発経験が生かされており、多岐にわたる点でリッチに作られている。物語を彩るカットシーンやテンポよく作られたダイナミックな戦闘など、ひとつひとつの要素が豪華さと丁寧さの両立に挑んでいる。また、物語構成としては「一度きりの選択」が特徴。道中の展開はプレイヤーがとった選択肢によって分岐する。そして章の終わりにはプレイヤーをとことん悩ませるような選択が待ち受けている。

古きを大事にしつつ、最新技術を取り込み、かつ意欲的な挑戦をしている『シン・クロニクル』。今回、筆者はそんな『シン・クロニクル』の先行プレイを楽しむ機会をいただいた。本作の魅力をお伝えできれば幸いだ。


滅びに対峙する人々が織りなす人間ドラマ

まずは『シン・クロニクル』の物語について紹介しよう。本作の舞台は滅びが約束された世界・ヘルドラ。ここでは、大陸の中心に開いた巨大な大穴“奈落”から、黒の軍勢と呼ばれる魔物が無限に這い出して地上を脅かし続けている。人類は黒の軍勢に対抗するために奈落を囲む巨大な壁を築き、この壁を防衛する“境界騎士団”を設立する。プレイヤーの分身たる主人公は、そんな境界騎士団の新人騎士だ。黒の軍勢による侵攻が繰り返されるなか、壁と奈落の境界での戦いから物語ははじまる。

本作の世界観は、とても明るいものとはいいがたい。黒の軍勢による大侵攻「蝕」は歴史上幾度となく繰り返されており、人々の暮らしは死と隣り合わせだ。黒の軍勢に立ち向かう防衛組織である境界騎士団も、玉砕を覚悟のうえで志願するような場所である。滅びに抗い続ける人々が、何を守り、何を切り捨てるのか。絶望の淵でも希望を探してあがき続ける人間ドラマが、本作の物語の見どころといえるだろう。


本作の世界観はシビアなものだが、シナリオの雰囲気は重苦しさ一辺倒ではない。本作は会話イベント→探索&バトルパート→キャンプでの会話イベントという流れでストーリーが進んでいく。キャンプでの会話は仲間との絆を深めるための内容が多く、その内容は必ずしもシリアスなものばかりではない。特にクロエやビスケといった明るい性格のキャラクターは場を和ませ、息が詰まるような世界観のなかで清涼剤となってくれる。シリアスな世界観ながら読後感は苦しいものではなく、暗さと明るさのバランスを取りながら物語は進んでいく。

ダイナミックな戦闘

本作のバトルは、シンボルエンカウント方式だ。ダンジョン内には敵シンボルが徘徊しており、接触もしくは攻撃をヒットさせることで戦闘を開始することができる。スマートフォンゲームとしてはやや珍しい。バトルでは素早さに応じて敵と味方の行動順が決定され、味方の行動時はボタンをタップすることで攻撃が可能だ。視覚的にわかりやすいUI構成となっており、ストレスなく爽快感のあるバトルが楽しめる。


バトルでは、キャラクターの行動ターンに与えられるBPと呼ばれるリソースをうまく駆使して敵を殲滅していく。キャラクターによってはBPを消費して味方を回復したり、自分の攻撃力を上げたりできる者も。一度に戦闘に参加できる人数は4人だが、敵の数はそれ以上になることもある。ダンジョン内では連戦になることもあるため、味方のスキルをうまく駆使して立ち回らなくてはならない。本作は回復手段があまり多くなく、敵からのダメージをできるかぎり抑えることが重要だ。敵味方の行動順や弱点を見極め、効率的に敵を殲滅できるよう戦略を考えるのが、本作の戦闘の面白い部分である。

キャラクターごとに設定されたオーバードライブゲージが貯まると、必殺技であるオーバードライブ技を放つことができる。オーバードライブ技を使用するとキャラクターごとに専用のカットインが流れ、どの技も攻撃や支援などの面で強力な効果をもつ。また、筆者はオーバードライブ技の演出が挟まることで戦闘に緩急が生まれ、画面が一気に華やぐ印象を受けた。性能的にも視覚的にも、プレイヤーを楽しませてくれる演出である。


探索&バトルパートで特筆すべきはハクスラ要素だろう。本作では同じ武器同士の掛け合わせや、武器を分解して得た素材を使用しての強化が重要になってくる。強化元となる武器も同じ種類でランクが異なる場合があり、ランクが高い武器では能力値にかなりの違いが出る。武器はダンジョン内の宝箱や敵からのドロップで獲得することができ、周回によってパーティーを強化することが可能だ。

また、本作ではダンジョンをAUTOで進行してくれる機能のほか、一度最高評価でクリアしたダンジョンの道中をスキップし、クリア報酬のみをもらうことができるスキップチケットも存在する。AUTO進行はダンジョンの最短距離を進んでいくため、脇道にある宝箱などは回収してくれない。とはいえ、進行中に画面に触れるだけで進行方向を一時的にマニュアル操作に変更することもできるため、一部は手動であとはAUTOで探索、というプレイをストレスなくおこなえる。AUTO機能はバトルパートにも存在し、味方が敵をターゲットする際の優先度も状況に応じて変更することが可能だ。筆者も攻略中にお世話になったが、本作のAUTOバトル機能は優秀で、眺めていて効率の悪さを感じさせることはなかった。

本作では武器強化が戦力の強化に直結するため、ストーリー攻略で詰まった際は武器を強化するための周回が必要になることもある。しかし、AUTO機能とスキップチケットによって周回におけるストレスは可能な限り排除されており、射幸心の赴くままに強力な武器を求め続けることができる。家事の合間や通勤時間など、画面から目を離さなければいけないことも多いタイミングで周回できるのも利点といえるだろう。


絶望感を引き立てる演出

『シン・クロニクル』の物語は常に絶望感とともに綴られる。前述したとおりの、切羽詰まった世界観。すべてのキャラクターとともに歩むことはできず、選択を迫られるストーリー展開。この絶望感を引き立てるのが、美しいグラフィックの数々である。立ち絵とテキストボックスで構成されたオーソドックスなビジュアルノベル形式は王道のものだが、立ち絵サイズを調整して重ねたり、ぼかし効果をかけたりといった手法で遠近感が演出されている。ビジュアルノベル形式は読み手に紙芝居感を覚えさせてしまうことも少なくないが、本作ではキャラクターの立ち絵へ多様な効果をつけることでプレイヤーを視覚的に飽きさせない工夫が凝らされている。


何より没入感を高めるのが、物語中に挟み込まれるカットシーン演出だ。本作は「絶望的な未来を変えるために、仲間との絆を深めて状況を打破する鍵を探す」という流れで物語が進んでいく。“絶望的な未来”は、主人公が持つ不思議な本“クロニクル”の力によって先んじて見ることができるのだが、未来視のカットシーンにはかなり力が入れられている。味方キャラクターが絶望し、涙を流し、死に抗えず膝を折る場面が、滑らかに動く2Dアニメーションによって美しく描かれるのだ。2月16日に公開されたゲーム紹介トレーラーをご覧いただければ、カットシーンの雰囲気は伝わるだろう。美しいビジュアルによって、本作の物語により一層の彩りが加えられているのである。



やり直しがきかない、自分が選び取った物語

『シン・クロニクル』の物語の大きな特徴として、プレイヤー次第で受け止め方や結末が異なる点が挙げられる。公式サイトには「あなただけの、一度きりの物語」というコンセプトが掲げられており、プレイヤーの選択によって物語は分岐する。そしてこの選択は「結局どちらを選んでも結末に影響はない」というものではない。選んだ結果によって加入するキャラクターや章の結末がまったく異なったものとなるのだ。プレイヤーによって物語の結末が違うという、スマートフォン向けRPGの常識に真っ向から挑戦するような物語構成となっているのである。

物語は章立て形式で、一般的なRPGでも馴染み深いものといえるだろう。しかし、『シン・クロニクル』では、プレイヤーは章の最後に「究極の二択」を迫られることになり、この選択によって、仲間になるキャラクターや展開が大きく変わる。

ネタバレ防止のため一部加工

プレイヤーの選択はダンジョン探索の道中にも存在し、ゲーム体験に影響を及ぼす。こちらは物語の本筋に大きく介入することはないものの、プレイヤーが受ける物語の印象を変えるのに大きな役割を果たしている。たとえば序章から登場するヒロインであるセラとクロエ。ダンジョン内で2人の意見が割れたとき、どちらの意見に同意するかによってシナリオは細かく分岐する。最終的に行き着く先は、章の終わりの「究極の二択」であることに変わりない。しかし、道中に仲間たちとどんな会話をし、どんな戦いを繰り広げてきたかによって、物語の感じ方は異なってくる。


物語に関わってくるキャラクターは、ストーリー上仲間になる、いわゆる“配布キャラ”だけが対象ではない。ガチャによって排出されるキャラクターもまた、個別シナリオやキャンプでの会話によって、プレイヤーの物語への印象を左右する役割を持つ。シナリオの道中でどんな選択をしたか、章の最後の「究極の選択」でどちらを選んだか、ガチャでどんなキャラクターが加入したか、多くの要素が複雑に絡み合い、あなただけの『シン・クロニクル』体験が作られるのだ。

これらの「やり直せない」システムについて、筆者はかなりスマートフォン向けゲームと相性が良いと感じた。選択肢があるゲームにおいて、分岐した結果をすべて見たいと思うゲーマーは少なくないだろう。コンシューマー向けタイトルであればセーブデータを複製して“選ばなかったほう”を容易に見ることができるし、もう一度ゲームを最初から遊び直してもいい。しかし、スマートフォン向けタイトルは“やり直し”に再インストールなどの手間がかかることが多い。また、ガチャなどの不確定要素もあるため、得てきた資産をリセットしたくないという心理も働く。課金をしていた場合はなおさらだ。分岐する物語の内容をすべて見るのは、スマートフォン向けゲームではあまり現実的でないのである。

本作はこの「リプレイが難しい」というスマートフォン向けRPGの特徴を逆手に取り、「一度きりの物語」として押し出した。物語を選択した結果を“唯一の体験”としてプレイヤーに提供する新たな試みだ。それゆえに本作の「究極の二択」は、本当にキャラクターの生殺与奪を握っているかのような緊張感が漂う。筆者自身も章の終わりの選択にあたってかなりの時間をかけて悩んだため、この試みは大いに成功していると感じている。

やり直しがきかないからこそ、SNS時代にマッチする

『シン・クロニクル』で展開される「一度きりの物語」は、プレイヤー間の話題の種にもなることだろう。本作ではストーリーRPGの楽しみ方として、SNSでプレイヤー同士の熱量を共有できるような試みに力を入れている。自分だけの唯一無二のゲーム体験を、ゲーム内機能からSNSで共有することが可能なのだ。

新作RPG『シン・クロニクル』リリース日公開生放送より


本作ではTwitterと連携することで、ガチャ結果やボス攻略の進捗をSNSに気軽に投稿することができる。ゲーム内のスクリーンショットもボタンひとつで簡単に投稿することができるのだ。また、自分のオリジナルのハッシュタグを使用してプレイ日記を投稿するシステムも存在する。オリジナルハッシュタグを使用して自分のTwitterでゲームプレイ日記を作成し、後から見返せるようにしているプレイヤーは珍しくない。しかし、ゲーム側の機能でこの遊び方をサポートするという部分に、筆者は真新しさを感じた。

これらのSNS投稿やフレンドのSNSを見に行くと、ゲーム内にSNSポイントがたまっていく。これらを集めることでゲーム内通貨であるジェムをもらうことができ、交流と実益を兼ねたシステムにもなっている。SNSを通じて“一度きり”の物語を多人数で共有する、新たなストーリーRPGの楽しみ方を提案しているのが『シン・クロニクル』なのである。


以上、スマートフォン向け新作RPG『シン・クロニクル』をご紹介した。セガが培ってきたこれまでの開発経験を活かして制作され、グラフィックや戦闘UIなど、全体的に高品質にまとめられたタイトルである。そして何より、このしっかりとした基盤のうえにある物語の構成は、プレイヤーによって結末が異なるという挑戦的なものだ。運営型のRPGとして、プレイヤーが選ばなければならない「究極の選択」は今後も追加されていく。『シン・クロニクル』がこれから綴っていく新たな試みに、今から期待が高まるばかりだ。

筆者は先行プレイでシナリオを進め、「究極の二択」も体験することができた。しかし、筆者の場合は職業的に究極の二択にはならないかもしれない。先行プレイで選びとった物語は、正式リリース後に改めてプレイすることで“やり直せてしまう”からだ。本作の思い出を「一度きりの物語」とすべく同じ選択でプレイするか、それとも「分岐を回収したい」タイプのゲーマーとしてもう一方の選択をするか、非常に迷っているところだ。スマートフォン向け新作RPG『シン・クロニクル』は3月23日に正式リリースされる(iOS/Android)。あなただけの唯一の物語体験を、本作を通じて楽しんでいただければ幸いだ。


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Aki Nogishi
Aki Nogishi

ポストアポカリプスとドット絵に心惹かれます。AUTOMATONではFF14をメインに担当します。

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