Nintendo Switch/Steamダンジョン管理ゲーム『Legend of Keepers』は、ほかのゲーム開発者にはどう映ったか。『クラフトピア』溝部拓郎氏が語る同作の魅力

Goblinz Studioは4月30日、『Legend of Keepers』のPC版(Steam/GOG.com/Epic Gamesストア)を正式リリースした。あわせて、Nintendo Switch版の配信も開始されている。ローグライトなダンジョン管理ゲームの魅力を、『クラフトピア』開発者の溝部氏が語った。

フランスのゲームスタジオGoblinz Studioは4月30日、『Legend of Keepers』のPC版(Steam/GOG.com/Epic Gamesストア)を正式リリースした。あわせて、Nintendo Switch版の配信も開始されている。『Legend of Keepers』は、雇われダンジョンマスターとして、冒険者たちを返り討ちにするダンジョン管理ローグライトストラテジーゲームである。プレイヤーは、ダンジョンカンパニーで働くことになったダンジョンマスターだ。ダンジョンには金貨と栄光が待ち受けていると、宣伝によって信じた、愚かな冒険者たちがやってこようとしている。プレイヤーはダンジョンの管理者として、ダンジョン内の各部屋に従業員のモンスターたちや罠を設置。会社の資産を守るため、戦略をもって冒険者たちを倒していく。

本作は、ダンジョン管理ゲームでありながら、ローグライト系のゲームでもある。Steamレビューでは「非常に好評」と高く評価されているものの、さまざまな要素を併せ持つがゆえに、どのような魅力があるのか、ひとめではわかりづらい側面もある。ということで、本作の発売に際して、ポケットペア代表であり『オーバーダンジョン』や『クラフトピア』といったタイトルを手がけた溝部拓郎氏に、同作について所感を述べてもらった。毛色は違えど、『オーバーダンジョン』は『Legend of Keepers』のようにローグライク要素も盛り込まれた作品なので、同要素の開発経験者としての視点も含まれている。

溝部拓郎氏





───自己紹介をお願いします。

溝部氏:
ポケットペアの代表、溝部拓郎と申します。代表作は『オーバーダンジョン』と『クラフトピア』です。元々はゲームシステムを考えるのがすごく好きだったんですが、最近はどうやったらユーザーにゲームを一番楽しんでもらえるかをよく考えています。

『Legend of Keepers』


ダンジョンカンパニーへようこそ

───最初にプレイした時、本作『Legend of Keepers』はどういうゲームだと感じましたか?

溝部氏:
最初は、『Slay the Spire(以下、StS)』系のゲームかなと思っていたんです。プレイし始めてキャラクターを育てるゲームだとわかり、士気ゲージの存在や戦闘のビュー、ゲーム全体を通したダークファンタジーの雰囲気から、テイストは『ダーケストダンジョン』でテーマが『ダンジョンメーカー』や『ダンジョンキーパー』なのかなと理解しました。

───本作では、ダンジョンカンパニーに雇われたダンジョンの管理者として、ダンジョンを管理します。世界観についてはどのように感じましたか?

溝部氏:
「ダンジョン経営を楽しんでほしい」という開発者の意思を感じました。現実味がありすぎるタスクがたくさん出てくるので、ダンジョン管理者よりもダンジョン経営者という表現が正しく、もっと言うと、原題にもあるようにダンジョンカンパニーが近いイメージですね。チュートリアルは多少わかりづらい部分もあるんですが、フレーバーは最初にしっかり説明してくれるので、世界観や雰囲気はかなり伝わってきました。


───ゲーム内で、特にフレーバーが強く感じられた箇所はありますか。

溝部氏:
特に各種イベントが魅力的ですね。モンスターをどこかへ出張させたり、徴税官がやってきたり、セラピストがやってきたり、何かと面白い演出が用意されています。印象的なものとしては、徴税官のイベントでしょうか。徴税官なので税金を取られるのかなと思ったんですが、やってきたのがヴァンパイアで、お金ではなく血を差し出すとむしろお金をくれました。経営者が直面する一般的な出来事を、ダークな雰囲気のファンタジーで表現していて、いかにも経営らしい感じが面白いと感じましたね。

ランダムイベントでは、さらにユニークなイベントが発生します。人間がやってきて、アーティファクト(※)を寄越せと迫ってくるイベントがあったんですが、選択肢が「バラバラにする」「切り刻む」「八つ裂きにする」といった内容で、どれを選んでも結果が同じなんですよ(笑)基本的にランダムイベントはコメディ寄りになっていて、そういったちょっと面白いことが起こっています。

※ アーティファクト
レリックやアーティファクトと呼ばれる、特殊効果をプレイヤーへ付与する特殊な装備品。本作では、単体攻撃の範囲を広げたり、モンスターの死亡をトリガーにバフを獲得したり、全耐性が減少したりなど、戦略的な効果が付与されている。

またゲームプレイ的には、ランダムイベントがちょっと強めの選択肢になっています。本作には、モンスターやマスターのトレーニング、罠や新しいモンスターを購入する商人など、ユニットと施設を強化する選択肢が幾つかあります。でも、強化にはリソースが必要なので、ギリギリまでリソースを溜めて、我慢してからまとめて行くのがお得です。ランダムイベントではリソースが獲得できることが多いので、自然とランダムイベントを選択するような設計になっています。ランダムイベントが強めに設定されていることからも、イベントを通してゲームの世界観を楽しんでほしいという開発者の意図があるのかなと感じました。

ちなみに『ダーケストダンジョン』の場合は、プレイヤー側にストレスというパラメータがありますが、このゲームの場合は士気というパラメータが敵の冒険者側にあります。モンスター側には士気を下げる攻撃もあり、士気ゲージを削り切ると敵が退却してくれるので、一度士気ビルドも組んでみようと思ったんです。でも、士気ビルドを組んでいて、対策した敵に当たってしまうとそれで終わってしまうので、私は結局ちゃんとした士気ビルドは組めませんでした(笑)


───溝部さん自身も経営者ですが、経営者としてのあるあるネタなどは本作にありましたか。

溝部氏:
たとえば、従業員であるモンスターの喧嘩イベントは面白かったですね。そのイベントでは、ヘアブラシの取り合いからモンスター同士の喧嘩が発生して、経営者としてどうするかを選択するんですよ。選択肢としては、お金を払ってヘアブラシを買ってあげて解決するか、無視するかを選択するんですが、私は当然そんなことにお金を払いたくなかったので、喧嘩を無視しました。特に何も起きなかったので、「やっぱり無視した方がお得じゃん!」と思っていたのですが、次のランダムイベントで、喧嘩をしていたモンスターの片方が死んでしまって(笑)そういう細かいところがしっかり作られていてとても面白かったです。

───ゲームとは関係なく、溝部さん自身が経営者として困ったエピソードなどはありますか。

溝部氏:
リアルな話をすると、ちょっと生々しい大変な事は沢山ありますが……(笑)
よくある困った事はやっぱり板挟み系で、クライアントとの板挟みになったり、従業員同士の喧嘩の板挟みになったり、そういう管理職の大変さみたいなのはよく経験します。『Legend of Keepers』のイベントで発生する分には笑えるんですけどね(笑)現実だとなかなか笑いごとじゃないですね。


豊富な属性と、スタックを活かしたデザイン

───ここからはもう少しゲームの要素に踏み込んでいこうと思います。本作は、週ごとの行動の選択肢を選ぶ探索と、冒険者と戦う戦闘で構成されています。まずは探索で気になる箇所はありましたか。

溝部氏:
探索部分で特徴的だと感じたのは、選択肢の種類が17種類と多いことですね。たとえば『StS』では戦闘/ショップ/宝箱/エリート/焚き火ぐらいで、ゲームデザインとしてあくまで選択肢はシンプルに設計されています。でも本作では17種類も用意されているので、最初はそれぞれの場所で何をするのかわからないんです。実際私も試すまでは、どこで何が起こるのかわかりませんでした。

───17種類も用意されているのは、なぜだと思われますか。

溝部氏:
種類が多いことで、ワクワク感はありますね。選択肢にはダンジョン経営者らしいフレーバーが用意されていて、それぞれ内容が違うので、何が起こるかわからない楽しみはありました。とはいっても、もし最初から内容を知っていたら選ばなかったものもありました。私がお気に入りの選択肢は、出張です。出張では、だいたいアーティファクトが得られる選択肢が用意されていて、モンスターを1体出張に行かせれば、アーティファクトが手に入ります。本作では17種類の選択肢が用意されていることも含めて、フレーバーが重視されているんじゃないかなと思います。


───戦闘については、どのように感じられましたか。

溝部氏:
戦闘に入る前に、どの難易度の敵と戦うか選ぶことができます。大きくは、冒険者/ベテラン/チャンピオンの3段階でわかれていて、選択肢ごとに違う報酬が用意されていたりします。私がプレイしている限りでは、強い相手を選んでも難易度の差をさほど感じなかったですね。

選択肢を選んだ後は画面が切り替わり、いくつかの部屋で構成されたダンジョンを、冒険者は順に辿って突破しようとしてきます。冒険者に対して、ダンジョン管理者であるプレイヤーは、マスターとして一番奥の部屋に鎮座して、待ち構えます。途中の部屋の順番は、戦闘ごとに少し変わりますが、罠部屋の罠やモンスター部屋のモンスターの配置を戦闘開始前に決めて、冒険者を迎え撃つのがこのゲームのメインです。ちなみに戦闘後の報酬については、アーティファクトをメインに選んでいました。

───戦闘のデザインについて、特徴的だと感じた部分がありましたか。

溝部氏:
戦闘の部屋ルールから、実際の戦闘まで、あらゆる点で状態異常スタックを活かすようなゲームデザインになっていました。戦闘の基本としては、とにかくバフ/デバフをコントールして、スタックを溜めていくゲームになっているんです。直接ダメージもあるんですが、本作ではスタックを重要な要素にすると決めたあと、部屋の仕組みでもスタックを活かすようなゲームデザインにしたのではないかと思いました。

最近のゲームでは、状態異常やバフ/デバフがスタックし、スタック数に応じて継続ターン数やダメージ量が変化する仕組みが採用されてきています。ただし、バフ/デバフはかかっている状態ならスタックの多さに関わらず効果は一定であることが多いんです。一方で、本作の激昂は、1スタックごとに与ダメージ/士気ダメージ量が+10%する仕組みになっていて、10スタック溜めると+100%与ダメージになります。これは良い意味で狂った設定だと感じました(笑)それとダンジョン内には、マスターが冒険者に遠隔で1回攻撃するだけの部屋があります。その部屋も含め、冒険者が部屋を移動するごとにターン経過により状態異常ダメージが入るようになっているんですが、状態異常によってダメージが入る仕組み自体にこだわりを感じましたね。

また、属性効果の種類が多いことも特徴ですね。このゲームでは、7種類もDoT(時間経過ダメージス)が用意されています。そのうち、毒や出血は『StS』と同じようにスタック量によってダメージ量も増える状態異常。やけどや凍傷は、スタック数によって効果時間だけが伸び、一定の割合ダメージを与えるものになっています。出血と毒は属性は違えど同じ仕様なんですが、ゲームデザイン的に全属性が同じだと面白くないので、ある程度の違いを出しつつ、各属性の要素を状態異常も含めて表現したかったのではないかと思っています。


───ちなみに、状態異常スタック制を採用すると、どういったメリットがあるんでしょうか。

溝部氏:
状態異常などがスタックすることで、戦略性が増やせるんですよ。RPGの歴史上、特に昔のゲームほど状態異常やバフはスタックしないのが基本でした。

ただ、それでは状態異常の与える効果を段階的にできないんです。そうなってしまうと、強いと分かっている状態異常を戦闘開始時に1回全部かけて、終わりみたいになりがちです。

最近のゲームは、そうした状態異常へのアプローチは変わり、本作と似たように、凍傷3ターンの敵に凍傷5ターンのデバフをかけた場合は、少なくても凍傷8ターンがかかるように変わってきています。私が近年プレイした限りでは『StS』の毒はさらに一歩進んでいて、単に効果時間が伸びるだけではなくて、スタックの数に応じて毒のダメージ自体が変わるので、状態異常ダメージを指数関数的に増やすデッキ構築も可能になっていました。本作は『StS』の毒のような効果は勿論、状態異常スタックの数字そのものを操作するような技もあるので、さらに工夫の余地があります。


ダークファンタジーコメディで彩られた、安定したゲームプレイ

───本作をプレイしてみて、ずばり感想を教えてください。

溝部氏:
革新的に新しい要素はありませんが、安定して楽しめるゲームだと感じました。部分的に新しい要素はあり、冒険者が部屋を順番に攻略していく感じや、戦闘開始時に部屋にモンスター/罠を置く仕組みは珍しく、見たことのない仕様だなと思います。このテイストのRPGが好きな方は、しっかりと遊べるのではないでしょうか。

システム面については、戦闘中に選ぶ行動がキャラクター(配置するモンスター)ごとにある程度固定化されがちだったりはします。ただ、敵が隊列をランダムに入れ替えるスキルなどを使ってくることもあるので、本当の意味での戦略性はすごくあるゲームだと思いますね。属性も相当数ありますし、属性の耐性も敵ごとに違います。そうした部分はしっかり作られていて、凝ろうと思えば戦略的にさまざまな行動ができるので、奥は深いです。


───改めて、フレーバーやアートについては、どのように思われましたか。

溝部氏:
ランダムイベントが圧倒的に面白くて、イベント以外でも選択肢マスは全体的に面白かったです。低俗なフレーバーが多く、ダークファンタジーをコメディチックに描いていることも面白いなと思います。ファンタジーの世界は、キラキラした世界として描かれがちじゃないですか。本作では世俗的な、下世話な出来事を描くことによって、モンスターたちの生きる姿を描くというか、モンスターたちの暮らす社会が描かれていて、身近に感じられました。そうしたフレーバーのテイストもあり、本作を説明する時にはコメディや下世話といったキーワードが似合うと思います。『ダーケストダンジョン』やフロム・ソフトウェアの作品は世界観をすごく練り上げていますが、そういった凝った世界というよりは、ちょっと笑っちゃうようなフレーバーが魅力でした。だって、従業員のモンスターがエロ本読んで疲れを取ってるんですよ(笑)流石に笑っちゃいますね。

アートについては、特にアニメーションは凝っているなと思いましたね。エフェクトも技ごとに違っていましたし、基本的にしっかり作り込まれています。開発者として見ると、ここ表示順番おかしいんじゃないかな?というようなちょっと粗い部分もありましたが、細かい粗はありつつも、全体としてアートはしっかり作られていて凝っていると思います。

───開発者としては、本作の難点をあげるとすれば。

溝部氏:
プレイするのがやや大変ですね。序盤から専門用語がでてきますし、ゲームシステムも独特で、チュートリアルもそれほど親切ではないので、慣れるまで少し時間がかかります。また本作は効果説明のテキストが少し長いんです。それらも雰囲気を楽しむためのデザインだとは思うので、魅力にも難点にもなるのかなという印象ではあります。

まとめると、本作はダンジョン経営者としてのフレーバーを表現したいゲームだと思いました。仮にフレーバーの表現が開発者としてやりたいことで、企画として売れるものだった場合、この作り方は満点だと思いますね。ゲームシステム部分も、一般的にゲーム開発で新しいゲームシステムを取り入れると、整合性が合わない事がたくさん起きるので難しいのですが、本作はコアゲームループは既存の『StS』ライクにすることで、安定の設計になっています。その上で、ゲームプレイ面では部屋を順番に過ごすシステムをチャレンジとして採用しているので、ゲームデザインの設計の仕方としては満点だと思いました。


──最後に、改めて本作がどういった人に向いているのか、教えていただけますか。

溝部氏:
TPRGのリプレイを読むような方は、好きだと思います。テキストを読むのが好きで、重厚ファンタジーよりは、少しコメディ要素が入ったようなものが好みの方ですね。ダンジョン経営者としてのフレーバーがしっかり描かれているので、そうした部分に期待すれば間違いないと感じます。

───ありがとうございました。

『Legend of Keepers』は、Nintendo Switch/PC(Steam/Epic Gamesストア/GOG.com)向けに販売中だ。

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