台北街歩きRPG『Dusk Diver 2』から日本人と台湾人が考える、台北の現在。この世界情勢下で“観光地の台北”はどう変化しているのか?
本日2022年2月24日、Justdan InternationalからPC(Steam)/Nintendo Switch/PlayStation 4向けに『Dusk Diver 2 崑崙霊動(以下、Dusk Diver 2)』というゲームがリリースされたことはご存知だろうか。台湾随一と名高い繁華街「西門町」を舞台に、主人公のヤン・ユモを操作し厄禍(わざわい)と戦う台湾発のアクションゲーム。2019年に発売された『Dusk Diver 酉閃町』の続編となるシリーズ第二作目だ。
前作『Dusk Diver』では”西門町”と呼ばれる若者文化の中心地を舞台に物語が繰り広げられた。続編である本作ではその周縁部、”台北101”や”迪化街”といった人気の観光スポットにまで物語が広がる。前作では高校生だった主人公ユモも今作では大学生、当然ながらその行動範囲も広がった。彼らの生活の広がりが、そのまま作品の広がりとなってゲームにも現れているということだ。
前作で好評だった実在店舗とのコラボも強化され、食べ歩きによってキャラクターを強化していくシステムももちろん健在。アクション部分も前作の戦闘スタイルをベースに爽快さを増しており、あらゆる面から見て、『Dusk Diver 2』は「街歩きゲーム」としての前作『Dusk Diver』を正統進化させた作品といえる出来に仕上がっている。
前作を遊んだことのない方は是非下記記事を読んでいただきたい:
『Dusk Diver 酉閃町』グルメ42品攻略記。台湾・西門町を舞台としたゲームは、実際の食文化をどれほど再現しているのか?
https://automaton-media.com/articles/columnjp/20191024-103992/
ただ一点、前作と今作には、手触りがまったく変わってしまっている部分もある。新型コロナウイルスの蔓延が生み出した、台湾と、世界との、物理的な距離の差だ。今台湾に足を運び観光することは極めて難易度が高くなっている。
『Dusk Diver 2』という「街歩きゲーム」を観光客の視点から評価出来る日は、まだ当分先のことになるだろう。では、今、このゲームを遊ぶとして。実際にこの街で暮らしている人々の視点からでは、『Dusk Diver 2』という「街歩きゲーム」はどんなゲームに見えているのだろうか。そこで本記事では台北在住の、日本を愛するOL台湾人のイクさんという方に協力を仰いだ。彼女に『Dusk Diver 2』の舞台を散策してもらい、ゲームと現実の街並みの違いを語ってもらったのだ。
赤野工作:
作家兼ライター。おっさん。台湾をこなよく愛する。台湾訪問経験あり。『Dusk Diver 2』は先行プレイ済み。
イク:
普通のOL。台北在住の台湾人。今回は、『Dusk Diver 2』に登場するさまざまな施設を訪問。
筆者である赤野が、ゲーム内の西門町をイクさんに案内する。
台湾在住のイクさんが、現実の西門町を筆者に案内する。
二人の案内する西門町の違いが、皆さんのゲームプレイの道しるべになれば幸いだ。
『Dusk Diver 2』は、PC(Steam)/PS4/Nintendo Switch向けに発売中である。
赤野:
本日はよろしくお願いします。
イク:
よろしくお願いします!そして日本の皆様、初めまして、私は魏と申します。苗字はちょっと覚えにくいし、書くことも難しいと思います。ちょうど下の名前の中に「郁」という字があって、友達によくイクちゃんと呼ばれています。私は台湾出身、台北で生まれて、台北育ち、完全に都会っ子です(笑)
大学を出てから、仕事しながら日本語を勉強していました。その後、ワーキングホリデーで日本に一年間在住しました。大学としては歴史学科を卒業しました。いろんな場所を観光したり、美術館と博物館を見学したり、よく建築巡りとして旅行します。日本から台湾に帰ってきて、展覧会関係の会社で働いています。
① :萬年商業大樓~時代の推移を色濃く示す、西門随一の老舗ビル~
赤野:
『Dusk Diver 2』は、台北・西門町のさまざまなエリアを移動できるのが魅力です。前作は西門町の中心部エリア、いわゆる歩行者天国みたいになってる一帯を中心に物語が進みました。でも、成都路や西寧南路みたいな大通りを渡って向こう側の区画は、景色としては見えてるけど行けなかったんですよ。それが今作だと一部の通りを渡って、いけるようになってるエリアが増えてるんです。……たとえば、大型商業施設の「萬年商業大樓」 (Googleマップ) とか。イクさん萬年商業大樓は遊びに行かれたことありますか?
イク:
あります。萬年商業大樓、昔は豪華な劇場だったんですが、その後商業ビルに改築され、今では100ほど店舗があります。1970年代にもっとも有名だったのは「氷宮」で、当時の若者がアイススケートやデートをするために集まりました。
赤野:
西門町ってそれくらいの頃からもう若者の町としての原型が出来上がってたんですね。しかしあのわちゃわちゃしたビルの中で屋内型のアイススケート場やってたとは凄いな……。
イク:
人々のアイススケート離れにしたがって、「氷宮」も映画館に転用されました。
赤野:
アイススケート場から映画館はもっと凄いな!まぁでも西門町って映画の町としても有名ですもんね。ゲーム中でも映画館がいくつか再現されてますけど、今でもたくさんの映画館が営業している。1930年代から映画館街として作られていて。1980年代に改めて映画の街として見直されていくみたいな歴史的経緯があって、街と共に建物の歴史も変わっていってたのを感じますね。あ、ちなみに。
イク:
はい?
赤野:
西門町って、今ではゲームやアニメ文化の発信地としての側面もあるじゃないですか。ゲーム中にもアニメイトが出てきますけど、現実にもそういうお店が多いし。それで言うとこの萬年商業大樓って日本の一部のゲーマーに有名で、昔からゲームショップがたくさん入居しているビルでもあるんですよ。私、実は台湾に遊びに行くと毎回このビル行くんですよね、で、ゲームいっぱい買って帰ってくる!
イク:
最上階にゲームセンターもありますよね。
赤野:
ありますね、そっちも結構足しげく通いました。台北滞在中は毎晩遊びに行ったりとか。
イク:
ゲームセンターは若者が集まる場所でもありますが、意外にも、ゲームをするためにここに来る父親と子供たちもいます。
赤野:
面白いですね。台湾のいろいろな世代の人たちにとって、いろいろな西門町の姿がある。そのどれもが肩を寄せ合いながら集まってできているのが今の西門町って場所なのかなと、お話を聞いてると思います。……実は、『Dusk Diver 2』ではそのゲームセンターにも行くことができるんですよ。
イク:
え、そうなんですか。
赤野:
これはですね……、ゲームを注意深く遊んでいると、「あ、これってそういうことなのかな」と多分気づくんじゃないかなぁと思います。まぁ、そこは遊んでみてのお楽しみと言うことで!
② :レコードショップ~レコードファンの集まる街としての西門~
赤野:
ちなみに、イクさんは西門町に遊びに行くときってどんなところに行ってたんですか?
イク:
私、実はジャニーズが好きなんですよ。きっかけは、私が大学を卒業したときです。就職の面接がうまくなくてすごく落ち込んでいたときに、小学生の頃からの大親友が嵐の番組を紹介してくれたんです。そのときの嵐は今ほど人気グループではなくて、深夜番組に出ていたアイドルグループのひとつでした。
アイドルとはいっても、メンバーたちはいわゆるアイドルのキャラを作らないし、変な顔をする時もある。私の知っているアイドルとはちょっと違いました。変な顔をしている嵐のメンバーを見て、本当に癒されました。でも、コンサートなどで真面目なときはキラキラしてる状態もあります。その落差が好きです(笑)
赤野:
そっちの人でしたか(笑)
イク:
西門は若者が集まる場所で、10代〜20代の学生たちはよくここに来ます。この辺りにいくつかレコード店があり、以前CDの時代に私もよくこの辺にCDを買いに来ることがありました。
赤野:
CD漁り、楽しそうですね。この近辺で結構有名なCDショップがいくつかあります。『Dusk Diver 2』ではおそらく「五大唱片(Google Map)」と思われるお店が出てきますよね。ここでゲーム内の音楽とか聴けるようになってるんですよ。
イク:
いいですね!昔から五大唱片はとても有名なレコード店です。昔はたくさん店舗があり、若者もここに集まっていました。J-POPが好きな人も、K-POPが好きな人も、よくここでCDを買いますね。
赤野:
イクさん、もしかして、当時五大唱片によく行ってたりしました?
イク:
五大唱片は以前私がCDを購入していたお店ではありませんが、お店に足を踏み入れるとすぐに思い出が蘇ってきますね。それと、今回このお話をもらって実際お店行ったときに気づいたことがあります。
赤野:
ほう?
イク:
今回レコード店に入った時、すぐに多くの若者がJ-POPに注目していることに気づきました。
赤野:
へー、なんだろ。台湾の若い人って今は日本のどんなアーティスト聴いてるのかな。
イク:
J-POPが好きな人は、大体は米津玄師の曲が好きです。最近ではYOASOBIとAimerも大人気ですね。ロックと言ったら、すぐに思い浮かべるのはOOR(ONE OK ROCK)ですよね。ただし、CDを買うことはまた別の話かもしれません。ちなみに最近、AdoのCDが販売ランキングに入ってました。
ちなみに、私が好きなロックバンドのランキングで1位はラブ・サイケデリコ、2位はKing Gnu、3位はOORです(笑)
赤野:
面白いなー。
イク:
面白いですか?
赤野:
面白いですよ。だってこれって、僕たちがゲーム内で見る「ユモがCDショップに行くシーン」って、台北の人たちにとっては世代を超えて何気ない日常の一コマになってるってことじゃないですか。そういう生活の一部としての音楽がゲームシステムに落とし込まれてるってのは、実際にそれをやってる人に言われてみないとなかなか気づけないですからね。
③ :紅楼茶房~古跡の中にある最新のカフェ~
赤野:
話を戻します。今回道向こうの区画に行けるようになったことで、萬年商業大樓ともう一か所「紅樓」にも行けるようになりまして。紅樓と言ったら西門町のシンボル的な存在じゃないですか。
イク:
1908年に建てられてから今までもう100年以上が経ちました。元々台湾で初めて政府が建設した公営市場で、今は全国古跡市場になってます。当時、西門紅樓(Google Map)が建設完成したときは日本人がこの辺に移住し、さまざまな住民がこの辺に集まってきて、そしていろんな演劇、芝居もここで盛んに行われていました。
赤野:
当時はお芝居の街として賑わっていた歴史が、巡り巡って後の映画館の街としての西門町にもつながっていくわけですから、やはり今なお重要な建物ですよね。
イク:
リニューアル後は、建物の中で、1階はいろんなクリエイターに店舗を提供し、2階はギャラリーとして使用されています。週末のときに建物の外で手作り市がよく行われています。だからこそ、最近文芸系の若者もよくここに集まっていますよね。
赤野:
紅樓周辺って、陳腐な言い方になっちゃいますけど、お洒落なエリアなんですよね。カフェがあって、バザーがあって、昔ながらの歴史的建造物があって。文芸系の若者が好む開放的な雰囲気に充ちてる。紅樓自体でも一階でお洒落なカフェが営業してるじゃないですか。
イク:
ありますね、紅楼茶房というお店です。紅楼に入ってすぐ、お店が右の方にあって。目の前に現れるのは暖かい木の色のカウンターです。窓側のテーブル席に座って、玄米緑茶とマンゴーアイスティーを頼んで。静かでいい感じのお店です。
赤野:
実はあのお店、そっくりそのままゲーム内に出てくるんですよ。
イク:
あ、本当だ、そのままですね。
赤野:
ええ、ゲーム中で頼めるのは不知春ウーロン茶、阿里山金萱ウーロン茶、カモミールウーロン茶、玄米茶、ヘーゼルナッツラテでしょ。あと焼きたてガーリックトーストと新鮮果実のジャムトーストも頼めます。……イクさん、この中で食べたことあるものありますか?
イク:
玄米茶飲みましたよ。あっさりして、玄米の匂いがどんどん出てきます。
赤野:
いいな……。
イク:
あと、ゲーム中では頼めないんですが私はハニーアップルティーがお勧めですね。ベースは緑茶ですが、中にアップルのジャムが入っています。ジャムは少しリンゴの酸味があるけど、ハニーの甘さがリンゴの酸味を中和させてくれます。誰でも簡単に試せる飲み物ですよ。
赤野:
話してるだけでお腹減ってきた……。
④ :牡丹~”紅楼周辺”文化を作り上げる立役者~
赤野:
実は私、『Dusk Diver』の1ファンとして、前作に紅樓が出なかった理由を、勝手に妄想してまして。
イク:
勝手に妄想……?
赤野:
前作の時点だと、主人公のユモは高校生だったんですよ。
イク:
はい。
赤野:
今作は前作から一年後が舞台ですから、ユモは大学生になってるんですね。
イク:
はい。
赤野:
台湾は、18歳から飲酒可能じゃないですか。
イク:
あー、なるほど。
赤野:
紅樓の裏手ってオシャレなバーが立ち並ぶエリアとしてものすごく人気じゃないですか。多分ですよ、私の推測する限り、ユモもお酒が飲める年齢になったことによって紅樓裏手のエリアまで行動範囲が広がって、その結果としてゲームでもバーが出てくるようになったんだってメタ的に読んでるんですよ……! 実際、ゲーム内も「百合」ってバーが出てきますしね。
イク:
おそらく、それは実在の「牡丹」(Google Map)というお店がモデルなのでは?と思いますね。紅楼の近くにあるとても特別な露天バーです。この店の店頭にはたくさんレインボーフラッグが掲げられていて。
赤野:
紅樓周辺エリアは昔からLGBTの人々の交流の場としても知られていますよね。
イク:
実は私、元々この牡丹というお店は知らなかったんです。紅楼の後ろにバーがあるのは驚きですね。赤野さんが紹介してくれたので、初めてこの店を知りました。このお店はなんか不思議な感じです。賑やかなのに、落ち着く感じがして、リラックスできます。照明も紫のパーライトで、まったりすることができます。
赤野:
専門のショップやホテルも多いし。それこそ先ほどお話しした”映画の街”としての側面にも繋がっていて、1970年代にポルノ映画とかが上映されていた時代があって、そこから徐々に同好の人々が集まるようになった……みたいな話を聞いたことがあります。今、コロナ禍で、人出はどんな状況なんでしょう?
イク:
私が行った時は開店したばかりなので人が少なかったです。焼き鳥とカクテル一杯を頼みました。
赤野:
焼き鳥!
イク:
わさび味、柚子胡椒味、タレ味三種類があって、どれも美味しいですよ。特に柚子胡椒の味が好き!
赤野:
いいな……。お酒の方はどうでした? ゲーム中だと西門アイスティー、クローバー・バー、パール・マティーニ、アペロールレモンという四つのカクテルがお願いできるのですが。
イク:
紅楼夢という名前のカクテルを頼みました。紅楼夢のベースは赤ワインで、グレープリキュール、ドラゴンフルーツ、レモンジュース、はちみつで出来たカクテルです。その中に赤ワインの香り、グレープリキュールとドラゴンフルーツの甘みがあって、たぶん女性はこのタイプのお酒が好きかもと思いますね。
赤野:
おっさんの私もそのタイプのお酒は好きですね!
イク:
バーテンダーもかっこいいし、食べ物とカクテルも美味しいので、ぜひ日本の人たちにも行ってみてほしいお店ですね。
赤野:
バーテンダーが、かっこいい?……もしかして、ゲーム中に出てくるこの人ですか?
イク:
……このキャラは店員さんには似てません(笑)
赤野:
流石にそこはゲームの西門町と現実の西門町で違ったか。
⑤ :手信坊~1922年創立、台湾和菓子の老舗チェーン~
赤野:
現在西門町のコロナ対策はどのような状況なのでしょう。日本ではまん延防止措置が取られており、飲食店は20時には閉店していますが。
イク:
今の台湾の対策としては政府の指示に従って、どんなお店に入る前に必ずQRコードをスキャンします。携帯で国民の連絡先を登録するために、必ずQRコードをスキャンする。携帯をもってない人は、お店が紙、ペンを用意して、個人情報を書いてもらうことが必要になります。国民の動きを把握しているんでしょうね。
飲食店(特に伝統的な店)は午後2時くらいにオープンします。閉まる時間はお店によって、それぞれ違いますが、21時くらいに閉まるところが多いですね。飲食店はそもそも閉店しているところも多いです。
赤野:
そうでしたか。西門町は観光地でもあると思うので、実は結構心配してたんですよね……。日本でも観光地は今かなり苦しい状態ですから。今は町の人はどんな感じですか?
イク:
観光客はあまりいないですね。たまに見た目的に外国人のような人も見かけますが、たぶん台湾に住んでる外国人だと思います。
正直、コロナのせいで観光地としての台湾の印象は薄れていると思います。コロナ前の西門町だと、いる人の半分が観光客というほどでした。特に夏休みや年末は、半分以上観光客になります。
赤野:
なるほど。う~ん、心配だなぁ。それこそ、前作に出ていたお店は大丈夫なのかなって心配してたんですよ。今作だとお土産物屋さんに近いお店も新たにコラボしてて。
イク:
どこですか?
赤野:
手信坊です。台湾の人にとっては多分「和菓子のお店」というイメージだと思うんですけど、ゲーム内ではヌガービスケットやパイナップルケーキを販売していて、日本人の私たちからしてみると「ゲーム内で定番の台湾土産が買える!」って感じに見えるんで。
イク:
ああ、西門店舗は営業休止になりました。
赤野:
うわ……やっぱりそういう例もあるのか……。COVID19の影響ですか?
イク:
そうですね。公式サイト上でも感染拡大による休業中、ということになってます。
赤野:
分かってはいたことなのですが、いざこういうゲームと現実との違いの例を目の当たりにすると、きついですね……。ゲームの中の元気な西門町が早く戻ってきてくれるといいのですが。いやゲームの中の西門町はそれはそれで大きなトラブルに巻き込まれてはいるけど!
⑥ :大稲埕~港から続く商人文化の中心地~
赤野:
話が少し逸れてしまったのでゲームのお話に戻します。『Dusk Diver 2』は物語もかなりボリュームアップしていて。前作だとほとんど西門町の中でお話が完結していたんですけど、今作からは台北MRTで他の駅まで移動できるようになったんですよ。北門とか、台北101とか。中でも結構大きく取り扱われているのが、双連にある「迪化街」ですね。ちなみにゲーム中だと大稲埕という地名になってます。
イク:
大稲埕は広い地名で、迪化街は大稲埕の中の一区画と言う感じですね。日本統治時代の台湾では、大稲埕付近でお茶の貿易がとても盛んでした。この地域には大勢の商人が集まって、商売して、経済も発達してます。ですので。
赤野:
ですので?
イク:
この辺の人はだいぶミドルクラスです。中流層が集まってる。
赤野:
やらしいな!……まぁでも仰ることはなんとなくわかります、昔ながらの商人の街で問屋が多く集まってるんですよね。下町って感じだし、西門町とはまた別種の活気を持つエリアですよね。
イク:
迪化街に入るとバロック様式2階建ての建築が立ち並んでいて、派手な浮き彫りがあるんです。
赤野:
ゲーム内でも街並みが再現されてますよね。イクさんはこの辺りに遊びに来ることは?
イク:
漢方のお店と旧正月食品専門店があって、旧正月を迎えると、沢山の人が正月食品を買いに来ますよ。
赤野:
なるほど、そういう意味でも台北の人々の生活に根付いた町なんですね。
⑦ :永楽市場~百年続く庶民の衣装箪笥~
赤野:
迪化街のランドマークというと、やっぱり永楽市場ですかね。
イク:
そうですね。1908年に設立されて、最初の名前は「永楽布業市場」でした。日本政府の時期に「永楽町」と呼ばれてました。歴史のある布問屋街です。
赤野:
営業開始からすでに100年が経ってるんですね。
イク:
19世紀半ばに台湾が貿易のために港を開いたとき、大稲埕区は商人でいっぱいで、商売や貿易で活躍していました。そのため、ここでは生地貿易市場が徐々に形成されたといわれています。今でも大型の布帛市場で、2~3階までは生地の市場、4階以上は、今は閉まってます。地下1階はフードコートです。
赤野:
100年前から同じ形態の商売が成り立ってるってのも面白いな。
イク:
生地市場にはさまざまな種類や柄の生地があり、手芸好きの人は必ずここで宝物を掘りますね。
赤野:
あっ、そういうことなのか……。
イク:
なにかありました?
赤野:
前作『Dusk Diver』でユモ達に助けられた設定の「ヤウェン」ってキャラクターが出てくるんですよ。ファッションデザイナーになるのが夢ってキャラクターで。
イク:
ファッションデザイナーに憧れている女性なんですか?えー、ちょっと意外ですね。服装と髪型のイメージ的に、漫画が好きな子かなと思いました。
赤野:
そうなんです!今作だとこのキャラクター、念願かなって大稲埕にお店を出すんですよ。服をデザインしていている彼女が大稲埕にお店を持つことが、巡り巡って今作の着替えシステムにも繋がってくるんですが……。
イク:
あーなるほど。
赤野:
これって、繋がってますよね?
イク:
繋がってると思います!
赤野:
やはりですか。
⑧ :漢方店~台北人にとっての”昔ながら”~
赤野:
先ほどイクさん、この付近だと漢方のお店が有名って仰ってたじゃないですか。ゲーム内にも漢方のお店があっていくつかお菓子が買えて、このお店なんですけど。
イク:
多分、このお店はここがモデルだと思いますね。
赤野:
そっくりですよね。ちなみにゲーム内で売ってるものは、サンザシ菓子、プラムビスケット、ローゼル、八仙果、ドライプラムの5つです。実際の店舗でも買えますか?
イク:
このお店だとプラムビスケットが売ってないので買えませんね。小さな昔ながらのお店だと昔はよく売っていた覚えがあるんですが、ちょっと見かけませんでしたね。
赤野:
残念。お店の人にオススメとか聞いても面白いなと思ったんだけどな~。それで、ゲーム内でもそれを食べてみる、みたいな。効能がゲームと現実で同じかは分かりませんが!
イク:
ああ、それは聞いてみましたよ。でもお店の方は、「人々の好みよって、それぞれの製品を好む顧客がいるので、どれがおすすめとは言えないな」って仰ってました。ただ、サンザシ菓子は確かに大人と子供とも良く買う人気商品だそうです。
赤野:
サンザシ菓子か、確かにおいしいですよね、あれ。
イク:
私も子供の頃からずーっとサンザシ菓子を食べてます。甘酸っぱいです。食欲不振の時に食べると、食欲が増すらしくて。
赤野:
他のお菓子には何か思い入れはありますか?
イク:
八仙果ですね。
赤野:
おお、八仙果。日本で言うのど飴みたいな食べ物ですね。
イク:
八仙果は私にとって、おばあちゃんとの思い出です。八仙果は薬味が強いので、子供はあまり好きではありません。私も子供のときは食べられなかったんです。
赤野:
爺さん婆さんの食べるお菓子を小さい子が嫌がるのは万国共通だ。
イク:
でも、おばあちゃんが八仙果をよく食べてて。気付いたら、いつのまにか、私はこの薬味の強い八仙果も食べることができるようになった。だから、おばあちゃんとの思い出の味なんですよね。
赤野:
凄い良い話を聞かせてもらっちゃったな。
イク:
そうですか?
赤野:
多分普通にこのゲームを遊んでたら、日本のプレイヤーの大半は八仙果を見ても「ゲーム内の効果は何だ!?」としか思わないじゃないですか。でも今の話を聞いたら、ゲーム内の効果は関係なく「なんか食べてみよっかな」って思う人もいるんじゃないかと思いますよ。ほかにも似たような食べ物はありますか?
イク:
杏仁茶なんかはそうかもしれませんね。
赤野:
高齢の方が飲んでるイメージはあるかも。ゲーム内でも露店が出てます。
イク:
あ、実はこの場所の杏仁茶の露店は、今は営業していないです。その代わりに、別の杏仁茶のお店に試食に行きました。ですので、食感は説明できますよ。
赤野:
おお、杏仁茶ってどんな感じのお茶なんです?
イク:
まずはプリンみたいな杏仁がめちゃくちゃなめらかですね。「茶」の部分は本物の杏仁で作られた杏仁茶ですので、杏仁の匂いが凄く濃厚なんです。
赤野:
ほほう……。
イク:
店に入るとずーっと杏仁の匂いが漂ってるくらいですよ。杏仁好きな人はぜひ一度飲んでみてほしい。
赤野:
いいな……。なんか今日こればっかり言ってる気がしてきた……。あ、ちなみになんですけど。
イク:
はい?
赤野:
「状態異常にかかわる確率を20%減らし」そうでしたか?
イク:
え?
赤野:
いや、ゲーム中での杏仁茶の効果がこういう効果なんですよ。呑むと「状態異常にかかわる確率を20%減らす」。どうでした、状態異常にかかわる確率を20%減らしそうでしたか?
イク:
まぁ……美容と健康に良いとは昔から言われていますね。
赤野:
じゃあやっぱり20%減らすのは間違いなさそうだな。
イク:
(笑)
⑨ :露店群~活気あふれる商人たちと、疫病の今~
イク:
こうして、現地で撮った写真と『Dusk Diver 2』のスクリーンショットを見比べてみると。
赤野:
はい?
イク:
このゲーム、本当に実際の街に忠実に作られていますね。だからこそ逆に違いが分かるというか。
赤野:
そう思います。
イク:
たとえばゲームに永楽台南[魚土]魠魚焿(Google Map)ってお店が出てるじゃないですか。このお店、現実にもちゃんとあるお店なんですよ。ゲーム内で売られてるメニューはカジキスープビーフン、サワラのとろみスープ、四神湯、担仔麺、イカのとろみスープ。ちなみに、実際のお店では四神湯は売られてません(笑)でも四神湯自体は他のお店でも出していて、結構有名です。
赤野:
一つ一つのお店もそうですが、なによりそこで暮らしている人々も含めて、町全体の雰囲気を再現しようと頑張ってるなと感じるんですよね。『Dusk Diver』シリーズ。
イク:
ちなみに、お店の看板には「台南サワラ」って書かれてますので、サワラのとろみスープ食べてきました。サクサク揚げた魚肉、スープはとろとろなんですけど、味は爽やかなんです。
赤野:
サワラ有名ですもんね。トリップアドバイザーにお店の紹介がありますが、またすごいローカルな名店だこりゃ……。実在店舗のコラボでここをチョイスした開発陣を素直に褒めたい。
イク:
あともう少し先に行ったところにある枝仔冰城なんですが。
赤野:
アイスクリームのお店ですか?
イク:
ここはもう閉店して別のお店になってますね。
赤野:
町の移り変わりが早い!Google Mapだとまだ営業してたのに!
イク:
スイーツは競争が激しいですから。あと、その奥にある永楽車輪餅の屋台なんですが……。
赤野:
ま、まさかこのお店ももう今はないとか……。
イク:
いえ、行ったとき屋台を見つけられなかったんですけど。隣のお店の人に聞いてみたら、旧正月までお休みしてるそうです。
赤野:
うわ~良かった!
イク:
このように、たった少しの時間のずれですが、実際の町とゲームに違いがあるんですよね。
赤野:
かたや100年以上も残り続けている場所があって、かたや数年スパンで入れ替わっていく場所があって。そういう積み重ねが街を作ってると。やっぱりこのゲームって台北での生活の一部を切り取ったゲームなんだな~と、なんか当たり前のことを改めて思っちゃいましたね。
⑩ :台北霞海城隍廟~拠り所としての街の神<城隍>~
イク:
そういう視点から見ると、迪化街はやはり台北霞海城隍廟(Google Map)を中心とした街ですね。
赤野:
台湾ならではの古くからある”廟”ですよね。
イク:
1856年から150年余りの歴史を持っています。
赤野:
祀られているのは恋愛の神様……でしたっけ?
イク:
はい。それも一つですね。今でも縁と仕事の運を求める若者が多く参拝に訪れています。コロナ前には毎年多くの観光客がここに来て縁結びを祈っていました。恋愛と商売にご利益がある神様なんです。
赤野:
“城隍廟”というとちょっと日本の読者には馴染みがないかもしれませんが、中華圏の古い街にはその都市ごとに守り神がいる。大昔の中華圏の街は、多くがこう外周をぐるっと城壁で囲われていましたから。その中にいる人々を守る神、という信仰が根付いているんですよね。
イク:
ここでお祈りするには結構手順が複雑で。
赤野:
どんな感じなんです?
イク:
まずお線香と金紙を買って、台に置きます。
線香3本に火をつけて、天の神様に参拝する。この時自己紹介をして、願いごとを伝えます。
赤野:
なるほど。
イク:
そのあと、城隍爺及び他の神様に参拝する。もう一度自己紹介をして、願いごとを伝えます。
赤野:
一つの廟に参拝する神様がいっぱいいるんですね。
イク:
で、そのあとは義勇公に参拝。そのあとは、城隍の奥様にも参拝。
菩薩に参拝。
赤野:
奥様も菩薩もいらっしゃる!道教の廟だけど仏教的な信仰も含めているんですね。
イク:
最後に香炉に線香を立てて平安茶を頂くんですが……、お茶はコロナの影響でいったん中止になっているので、金紙を箱に入れて完了ですね。
赤野:
ありがとうございます。想像以上に複雑、というか沢山の神様に守っていただいているし、祀られているんですね……。イクさん自身はプライベートでお参りに来られたことはありますか?
イク:
今回が初めての参拝です!今回の仕事のおかげで、台北霞海城隍廟での参拝の初体験を達成しました。本当に特別な経験です。
赤野:
なるほど。そうかあ。私、『Dusk Diver』シリーズの面白いところって、人間界と崑崙の関係性を描いた物語というか設定にあると思ってて。
イク:
はい。
赤野:
前作でも今作でも、リーオウおじさんや店長含め崑崙界の「人ならざるもの」達が、人間たちの知らないところでみんな必死になって町を守ってるんですよね。
イク:
そうですね。
赤野:
もちろんゲーム内の崑崙界は物凄く発達してて、厄災退治もシステムで守ったりしてるし。ご利益も超常現象じゃなく、格闘技で相手をねじ伏せるみたいなこともしてますけど。
イク:
(笑)
赤野:
日本にも似たような信仰はありますけど。こういう土地の神様というか、「実際のところは分かんないけど何者かに自分たちは守られてるんだよ」という伝承の感覚って、実際現地に住んでる人でないとその存在との距離感が分からないものじゃないですか。
イク:
そうかもしれないですね。
赤野:
私たち日本人からすると、『Dusk Diver』の物語は知らない街の不思議な物語なんです。台北に実際に住んでいる人、例えばイクさんから見たとき、『Dusk Diver』の物語って、神様という点でどれくらい現実味があると感じてます?
イク:
私自身は神様をそれほど信じていません。ですが、半分以上の台湾人にとって、城隍神は存在してると思いますよ。だって、毎日参拝に行く人はとにかくいっぱいいますからね。恋の悩みとかお金の運勢も慎重に祈っていますね。
赤野:
ありがとうございます、興味深いです。
⑪ :最後に
赤野:
長くなりましたが、本日は最後までお付き合いいただきありがとうございました。……イクさん、『Dusk Diver 2』について、ここまで話を聞いてみてどんな印象を受けましたか?
イク:
台湾のことをしっかり表現しようとしている点はかなり面白いです。そのほかでいうと、ストーリーやキャラクターのデザインが好きです!好きな女の子は、ユモとユシャです。ふたりとも、髪型や服装はカジュアルなんですが、女性としての魅力もあるという……(笑)
私はゲームは下手なんですが、公式サイトの最新PVの動画を見て、今回の話を聞いたことで、プレイしたくなりました!!
赤野:
その感想を聞けて良かったです。2022年2月24日発売ですので、良かったらイクさんも是非発売日に買ってゲーム内の台北を冒険してみてください。
イク:
それなら、私からも一つ良いですか?
赤野:
はい? なんでしょう?
イク:
赤野さんからゲームの台北散策に誘っていただいたので、私がゲームを遊び始めます。私も実際の台北散策に赤野さんを誘いますので、いつかまた実際の台北に来てみてください。出来れば読者の皆さんも、このゲームを遊んで台北に来てもらえると嬉しいですね。
赤野:
なるほど、そうきたか。
イク:
まだいつになるかはわかりませんが。
赤野:
そうですね。分かりました、お約束します。自分もいつかまた台北まで行きます。それまでは。
イク:
それまでは?
赤野:
それまでは、まずゲームの中の台北を救おうかな、と。
イク:
是非、そうしてください(笑)
『Dusk Diver 2』は、PC(Steam)/ /PS4/Nintendo Switch 向けに発売中である。