あるベテランゲーム開発者が「Game Passは業界を潰しかねない」と提唱して議論勃発。“ほかと共存できない”ビジネスモデルとして
Arkane Studiosの創設者であるRaphael Colantonio氏はXbox/PC Game Passのビジネスモデルを痛烈に批判し、注目を集めている。

マイクロソフトにて、約9000人のレイオフが実施されることが7月2日に明らかとなった。この発表を受けて、Arkane Studiosの創設者であるRaphael Colantonio氏はXbox/PC Game Pass(以下、Game Pass)のビジネスモデルを痛烈に批判し、注目を集めている。PC Gamerなどが報じている。
Raphael Colantonio氏は、1999年にArkane Studios を設立し、『Dishonored』や『Prey』など複数のゲームでクリエイティブディレクターを務めた人物だ。同氏は 2017年にArkane Studiosを離れており、Arkane Studiosは2020年に親会社のZeniMax Mediaとともにマイクロソフトに買収されている。買収後のArkane Studiosからは『DEATHLOOP』、『Redfall』が発売され、いずれも発売初日からGame Passにて配信中だ。

Colantonio氏は7月5日、Game Passに関して「なぜ明らかな問題について誰も語らないのか」とXアカウントにて投稿。この投稿に先だって、7月2日にはマイクロソフトより、ZeniMax Mediaなどのゲーム部門も対象とした9000人規模のレイオフが実施されることが明らかとなり、複数の大型プロジェクトの開発中止も報じられていた(関連記事1、関連記事2)。このレイオフを受けて、Game Passについて問題提起する投稿のようだ。
ビジネスモデルとして持続不可能?
そんなColantonio氏はユーザーの問いかけに返答するかたちでGame Passについての持論を展開。「Game Passは持続不可能なビジネスモデルであり、10年ほど(正確には8年間)マイクロソフトの“無限の資金”によって支えられながら業界にダメージを与え続けてきた」と主張。そしてGame Passが他のビジネスモデルと共存できるとは思えないとして、「他のビジネスモデルをすべて潰すか、撤退するかのどちらかになるだろう」との考えを伝えている。つまりGame Passがこのまま勢いを伸ばせば、買い切り型の従来のビジネスモデルなどは存続できないと考えているようだ。
また、続く返信で同氏は現状のGame Passについて「あまりにもお得なサービスなのでゲーマーだけが好んでいる」とも言及。とはいえ、ゲームへの悪影響が表れたときに、「最終的にはゲーマーでさえもGame Passを嫌いになるだろう」との見解を伝えている。具体的にどのような影響があるかは説明されていないものの、Game Passが独占状態となった際の市場を憂慮しているわけだろう。Game Passというビジネスモデルが業界に与える影響について、かなり批判的に見ている様子だ。
Game Passへの提供だけで“食いつなぐ”難しさ
さらに、Larian Studiosにて『Baldur’s Gate 3』のパブリッシングディレクターを務めたVery AFKことMichael Douse氏もColantonio氏の投稿に対して返信している。 Douse氏の周囲では、(Game Passの)“無限の資金”がなくなったらどうなるのかが最も懸念されており、これがGame Passに頼ったビジネスモデルに移行しない主な理由だという。つまり契約金などを頼りに、Game Pass向けにゲームを提供し続けて事業を存続させることは現実的ではないという考えだろう。
実際のところ、これまでにはGame Passにおけるメーカーへの契約金が減少傾向にあることも垣間見えた。2023年にはDevolver Digitalがサブスクリプションサービスへのゲームの提供を、今後慎重に判断していく方針を表明している(関連記事)。当時、サブスクリプションサービスにおいてソニー・インタラクティブエンタテインメントやマイクロソフトから契約メーカーに支払われる金額はかつてほど多くはなくなっており、Devolver DigitalやtinyBuildといったパブリッシャーがその影響を受けているとするアナリストの見解も報じられていた。
また直近ではRaccoon Logicの共同設立者兼クリエイティブディレクターであるAlex Hutchinson氏が海外メディアGamer Social ClubのインタビューにてGame Passについて言及。数年前まではGame Passへの提供で潤沢な契約金が提供されていたものの、最近では大型IPではない限りあまり大きな額は支払われなくなっていると伝えている。そしてこのまま発売初日に作品を提供する構造が続けば、パブリッシャーのいないスタジオは深刻な打撃を受けることになるだろうと警鐘を鳴らしていた(関連記事)。
なお今回のDouse氏とColantonio氏のやり取りの中でも、新作をGame Passに提供することによる、売上への影響についての懸念が示されている。一方でSIEが提供しているPlayStation Plusではフリープレイやゲームカタログとして、発売から一定期間が経過したタイトルが追加されてきた点にも言及。発売初日の配信でなければ、サブスクリプションサービスが与える売上の食い合い(cannibalization)による業界への悪影響も少ないのではないかといった見解も示されている。
Game Passの成長面での不安
多種多様なタイトルが配信されてきたGame Pass。直近でも『The Elder Scrolls IV: Oblivion Remastered』や『Clair Obscur: Expedition 33』といった話題作が発売初日から提供されている。ゲーマーにとっては魅力的なサービスであり、Colantonio氏の意見には特にユーザーからは賛否が寄せられている。その一方で、一部業界人は新作ゲームを発売初日からサブスクリプションサービスに配信するというビジネスモデルの定着に危機感を覚えている様子だ。
なお、過去にはマイクロソフトのゲーム部門のCEOで、Xbox事業を率いているPhil Spencer氏が海外メディアPolygonの取材に対し、コンソール市場の成長の頭打ちへの懸念を示していたこともある。Game Passについても、Phil氏が特にコンソールでの加入者数の成長が停滞していることを過去に明かしていた(The Verge)。特に契約金を目当てにGame Passにゲームを提供するメーカーにとっては、今後さらに“旨味”が少なくなりうる可能性もうかがえる。
Game Passの恩恵を受けるスタジオ
一方で、直近においても契約金とは別の形でGame Passの恩恵を受けたとするスタジオも存在。2025年3月に『Atomfall』を発売したRebellionのCEOであるJason Kingsley氏は、本作が同スタジオ史上最大のローンチであり、Game Passが認知度の向上に繋がっているとして、長期的には開発費を回収して黒字になる見立てがすでにあるという(関連記事)。同氏はまずは知られることが重要というスタンスを示しており、Game Passユーザーの口コミにより、そのほかのユーザーにも購入してもらえるという狙いが成功しているようだ。
また、小規模スタジオにとってはGame Passなどのサブスクリプションサービスへの提供で支払われる契約金が“命綱”であるとする声もある(関連記事)。『Citizen Sleeper(シチズン・スリーパー)』の開発者Gareth Damian Martin氏によれば、Game Passは普段遊ばない特徴的なジャンルをユーザーが試す機会となっており、小規模なインディースタジオにとっては効果絶大だという。同氏はGame Passが多くのインディースタジオを存続させているという見解を示している。スタジオの規模や、Game Passに期待する効果によっては依然としてメーカーにとって魅力的な選択肢となっているようだ。
ちなみにPhil氏は今年4月にVarietyのインタビューにて、コンソールにおけるGame Pass収益の安定感に言及しつつ、PC・クラウドでの成長を見込んでいる方針を伝えていた。先述したようなコンソール事業での頭打ちを懸念しつつも、PC・クラウド、そして先月発表された「ROG Xbox Ally」と「ROG Xbox Ally X」など、プラットフォームに依存しない事業成長を見込んでいるわけだろう。今後のGame Passに作品を提供したメーカーが受けられる恩恵がどうなっていくのかも含めて、実際のところ“業界において持続可能かどうか”はそうした事業の行く末次第といえる。
ただいずれにせよ、今回マイクロソフトで大規模レイオフが実施され、ゲーム部門も少なからぬ影響を受けたことが報じられている。レイオフの原因については不明ながら、部門や地域を問わず実施されているということから、ゲーム部門の不振ではなくマイクロソフトの経営方針が影響した可能性も考えられるだろう(関連記事)。とはいえ特にGame Passに投じられているとみられる“資金”について、一部業界人の間ではマイクロソフト経営陣の方針次第で揺らぎかねないといった懸念にも繋がっているようだ。