『スーパーマリオ64』RTAにて、今になって“尻スライディング”新テクニック編み出される。超難度壁抜けケツワープの代わりとして期待高まる
『スーパーマリオ64』のスピードランの、特に「1 Star」カテゴリーにおいて有用な、新たな壁抜けテクニックが発見されたようだ。

『スーパーマリオ64』のスピードランにおいて11月22日、新たなテクニックが見つかったようだ。特に「1 Star」にて有用なテクニックとなるとみられ、大きな話題となっている。
『スーパーマリオ64』は1996年にNINTENDO64向けに発売された3Dアクションゲームだ。同作は広く人気を博し、任天堂の他機種に向けてもリメイク/移植などがおこなわれてきた。
またSpeedrun(スピードラン)とは、日本ではRTA(リアルタイムアタック)とも呼ばれる、ゲームクリアなどの目標を達成するまでの時間を競いあう競技だ。スピードランの対象となっているゲームやレギュレーション、世界記録ランキングなどはSpeedrun.comをはじめとした集計サイトで確認することができる。

今回スピードラン走者のFramePerfection氏とCrackhex氏によって、11月22日に発見されたというテクニックは「Crackslide」と呼ばれるものだ。目隠しスピードランで知られるBubzia氏が詳細や発見された経緯を動画にまとめて投稿したことにより、話題となっている。このテクニックはピーチ城の地下にある、開放にスターが30枚必要な扉を無理やりスキップするために用いるものだ。
なお、「ほのおのうみのクッパ」ステージなどに向かうこの扉をスキップする手段としては、従来まで「SideBLJ」と呼ばれるテクニックが用いられていた。BLJ(Backwards Long Jump)は壁や段差といった場所に向かって後ろ幅跳びを連続でおこなう、いわゆる“ケツワープ”に相当する動作。通常は階段の段差などに対して垂直方向に跳ぶが、SideBLJでは水平方向に跳ぶ。レギュレーションによっては、乗り越えるべき“壁”の数が異なるため難易度には差があるものの、そもそも階段に対し水平にBLJを決めること自体が難しい。そのため記録を残す走者でも、近くの手すりに引っかかってしまうことは珍しくない。
「Crackslide」はそんな扉越えを単純なセットアップで突破する新たなテクニックだ。本テクニックでは、“ケツワープ”を用いず、壁側に伸びる手すりの上に乗り、「C上ブースト(C-Up Slide)」と呼ばれる既存テクニックを用いて手すり上で加速。十分に速度を確保したらジャンプし、扉に向かって飛んでいくことで壁抜けが可能になる。
本テクニックが注目されているのは、実行の容易さにある。先述の通り、SideBLJによる壁抜けでは、特定の角度や速度を確保することが求められ、フレーム単位での入力を複数回要求される。一方でCrackslideでは、そうした所定の位置や方向を、簡単なセットアップで調整することが可能になっている。C上ブーストによる速度確保のフェーズでは一定の精度が必要だが、SideBLJと比較すると“簡単”と言って差し支えないだろう。
そうした実行の容易さをBubzia氏は大きく評価。「多くのカテゴリーに革命をもたらす(This will revolutionize many categories)」とまでコメントしている。というのも、『マリオ64』RTAにおける一部カテゴリーでは、現状SideBLJの利用が必須となっている。Bubzia氏が主に挑戦している目隠しスピードランにおいても同様で、目測の確認ができない状態での複雑なセットアップと実行難易度には同氏も手を焼いていたようだ(関連記事1、関連記事2)。そのため、理論上は最速とは言えずとも、安定した壁抜け手法が求められていた背景があるのだろう。Bubzia氏は、非常に高難易度なSideBLJをこなす必要がなくなったことで、「1 Star」におけるランの敷居がぐっと下がったとの見解を示している。「120 Star」やその他カテゴリーにおいて採用される可能性もあると考えているそうだ。

Crackslideが発見された後、Bubzia氏はコミュニティに向け本テクニックをお披露目することになった。同氏は同テクニックが簡単であることを証明するために事前練習無しで取り組んだようだ。最初の数日間は失敗がかさむことも覚悟していたようだが、なんと試走では1発成功。あまりに簡単だったためか、Bubzia氏は思わず大笑い。そして興が乗ったとみられるBubzia氏は、数か月振りの目隠し「1 Star」スピードランに挑戦。ブランクもあってかミスが多発する走りだったものの、Crackslideによる“時短”の結果、同氏のもつ現行世界記録の10分32秒から1分も離れない、10分58秒を記録した。
今回発見されたテクニック「Crackslide」は、すでに用いられているテクニックから大幅に時間を短縮する類のものではない。むしろ理論上では、従来テクニックのSideBLJが早いとも目されている。一方でセーブ&ロードのきかない、通しでの挑戦となるスピードランでは、多少遅くなったとしても安定感のあるテクニックを採用した方が、かえって記録短縮の可能性があるというのは興味深い。発売から29年を迎えた本作ながら、いまだに最適解の開拓は進められているようだ。また新たな“武器”を手に入れたBubzia氏の「目隠し 1 Star」記録更新にも期待がかかる。



