とあるヒットインディー開発元CEO、「うちはもう規模拡大しない」ときっぱり。生き残り、挑戦するための選択肢

『REMATCH』や『Sifu』などを送りだしてきたSloclapは、リリースタイトルで相次いで成功を収めたにも関わらず、スタジオの規模拡大は望んでいないようだ。

『REMATCH』や『Sifu』などを手がけるデベロッパーのSloclap。同社は『REMATCH』を100万本売り上げるなどの成功を収めているが、社の方針としてこれ以上の規模拡大は望んでいないという。『REMATCH』のディレクターで同社CEOのPierre Tarno氏がGamesRadar+のインタビューで語っている。

Sloclapはフランスのゲームスタジオだ。2015年に設立され、デビュー作であるオンラインアクションゲーム『Absolver』は2017年にリリース。そして2022年には高難度カンフーゲーム『Sifu』をリリースした。2025年6月にはオンライン肉弾サッカー『REMATCH』を発売し、いずれも好評を博している。『REMATCH』はプレイヤー数が300万を超えたと発表されており、『Sifu』に至っては400万本の売上を突破したと伝えられている。いずれのタイトルも、高い人気がうかがえる。

『REMATCH』

今回GamesRadar+は、相次いでリリースタイトルにて成功を収めたSloclapにインタビューを実施。同社の共同設立者でCEOのPierre Tarno氏に向け、Sloclapの展望などを訊いている。

Sloclapは『Sifu』の成功を受け、従業員の数をそれまでの約70人から約130人へ増やし、2倍ほどとなる人員確保をおこなった。しかしTarno氏によれば、『REMATCH』の成功を受けて少しずつ成長することはあっても、先述の『Sifu』リリース後のような大きな規模拡大はもはやおこなわないとの方針を明かした。

『Sifu』

Tarno氏の考えでは、Sloclapはこれ以上成長する必要性を感じていないようだ。というのも、Sloclapにおいて、(現在の約2倍の規模となる)250人チームで開発するようなプロジェクトは作りたくないからだとのこと。同社が手がけるタイトルは、“創造的なリスク”を冒す余地を残しておきたいという。

死ぬと年老いて、攻撃力が上がる代わりに体力が減るといった「加齢」システムを採用した『Sifu』や、ファウルなしというサッカーのルールとしてアグレッシブなスタイルながら、試合ではさまざまなテクニックが求められる『REMATCH』。これらは「ほどよい規模」でリスクのあるアイデアを実際に形にできる環境だからこそ実現したのだろう。Tarno氏は、規模が大きくなることで、開発における小回りが利かなくなることを懸念しているようだ。

またTarno氏は、大規模になることで開発費用が膨れ上がる点にも言及。なかには開発に5000万ドル(約74億円)から1億ドル(約150億円)かかるようなプロジェクトもあり、Sloclapがそのように規模を拡大するとアイデアをかたちにする冒険がしづらくなってしまうとしている。特にAAA級のタイトルは開発期間も長大になる傾向があり、そのうえで失敗してしまうと取り返しがつかなくなる可能性がある、と経営上のリスクについての見解も示した。

『REMATCH』

ゲームスタジオの肥大化、あるいは開発タイトルの費用増大といった点はたびたび海外スタジオを中心として話題になることがある。たとえば現在ソニー・コンピュータエンタテインメント(SIE、旧SCE)傘下にあるNaughty Dogは、2001年に当時のSCEに買収された理由を「開発費の増大」にあるとし、スタジオとしても予算を確保しなければならないというプレッシャーに苛まれていたと明かしていた(関連記事)。また近年では特にマシンスペックの向上の副作用もあってか、開発予算、そして開発期間がかさみがちである、という調査結果も報告されている(関連記事)。そうした情勢を鑑みて、Tarno氏はSloclapの規模拡大に慎重な姿勢を示しているのだろう。

Tarno氏いわく、ゲーム業界においては、生き残ることそのものがすでに目標であるとの考えを持っているようで、今回Sloclapのスタジオ規模の拡大は念頭に置いていないことが明かされた。Sloclapとしては、何はなくとも経営を続け、「情熱を注げるゲーム」を作ることが望みだといい、これからもユニークなタイトルが手がけられていくのかもしれない。

Kosuke Takenaka
Kosuke Takenaka

ジャンルを問わず遊びますが、ホラーは苦手で、毎度飛び上がっています。プレイだけでなく観戦も大好きで、モニターにかじりつく日々です。

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