“ロシア版Steam”構想を、ロシア政府の支援受ける団体が提案。軍事利用も視野に入れた、ロシア主導のゲーム産業活性化

経済誌Forbes Russiaは3月10日、ロシア政府が支援を行なう現地非営利団体Internet Development Institute(インターネット開発研究所・ИРИ/IRI/IDI)が、Steamに代わる新たなゲームプラットフォームの構築を画策していることを報道。UNITED24 Mediaなどが英語圏向けに伝えている。IDIはこれを、ロシアを含むBRICS諸国を欧米の“破壊的なコンテンツ”から守るための策だとしている。
IDIは、ロシア国内のインターネットコンテンツの促進および規制を担当する組織。国内のゲーム開発の支援センターとしての役割も果たしている。同組織はロシア政府から多額の援助を受けていることが知られており、近年には、日本円換算で年数百億円単位の資金を獲得しているとされる。
そんなIDIが目指すのは、PCゲーム市場を独占的に支配しているSteamからの脱却のようだ。今回の報道によると、IDIはBRICS(ブラジル・ロシア・インド・中国・南アフリカの5か国を中心とした国際会議)向けに、Steamに対抗するゲーム配信プラットフォームを築く構想を伝えているという。いわば、“ロシア版Steam”と表現できそうだ。目的としては「破壊的なコンテンツ(деструктивной информации)」からユーザーを守ることだとされている。また、IDIは「欧米の一企業に依存する現在のゲーム産業では、国家間で平等なパートナーシップが確保されていない」と主張。BRICS諸国が独自の基準でゲームコンテンツ配信を行なえるようにしたいという。

IDIの副事務局長であるBoris Edidin氏は、現代においてはBRICS諸国におけるゲーム市場の規模が増大しており、消費者が最もお金を落とす場所、すなわちビジネスの中心地はBRICS諸国に移っているのだと見解を示している。「コンテンツを消費する国がその市場を管理するべきだ」という考えもあるのだろう。
また、ロシアによるウクライナ侵攻を契機にロシア政府は、国内での情報統制を強化。YouTubeやFacebookなどビッグテックのサービスに関して、国内利用の規制を強めてきた。また、同時期からは西側諸国からのロシアに対する制裁・規制もおこなわれた。Steamといったゲーム配信プラットフォームも、ロシア国内向けサービスの停止・規制を強めている。
そうした背景もあってかここ数年、ロシア政府によるゲーム産業への関心の高まりがたびたび報じられてきた。たとえば昨年、同政府はカリーニングラード州政府に対して自国産のゲーム機を開発するよう命じている(関連記事)。ゲーム産業においては、近年中国などが急速に存在感を増しているものの、欧米諸国が中心である状況はいまだ打開できていない。ロシアは欧米諸国による情報からロシア国民を遠ざける「情報鎖国」の政策をとってきており、IDIが提唱する「BRICS諸国向けプラットフォーム設立による“破壊的なコンテンツ”の規制」もそうした情報統制の延長線上としてのアイデアと考えられる。

しかし、Steamの競合プラットフォームを立ち上げることには、ロシア国内からも懐疑的な意見が上がっているようだ。ロシアのゲーム開発会社Astrum Entertainmentは、「中国での煩雑な販売プロセスの簡略化などはメリットとなるかもしれない」との旨をForbes Russiaに語った。しかし、“ロシア版Steam”開発にあたってはBRICS諸国全てでの法改正などの大規模で複雑な作業が必要であるとし、すぐに実現される可能性は低いだろうと否定的な見方を伝えている。また、ロシアのデジタル開発省はこういったIDIの取り組みを認識しながらも具体的な提案は受け取っていないとしており、まだまだ構想段階の域を出ていないようだ。
さらに、IDIはゲームにおけるVR/AR技術の軍事分野への応用、いわゆる「デュアルユース(軍民両用)」にも言及している。同組織は、ロシアはVRやARの技術に関して西側諸国に大きな後れをとっていると指摘。もしこの分野が成長すれば、兵士たちの射撃訓練の効率化やコスト削減のほか、実際の動員時などにおいても人員のスキル向上などに大いに役立つのではないかという思惑があるようだ。ロシアによるウクライナ侵攻が続くなか、ゲームの関連技術が軍事利用されることについては懸念されるところだ。