多数ゲームに用いられる有名フォントサービス「LETS」の“迷走”、親会社の経営事情も原因か。揺らぐフォント大手の“その場しのぎ”
フォントサービス「LETS」の、ゲーム組込オプションのライセンス契約更新が打ち切りとなり、物議を醸してきた。この方針転換の背景については、運営元の親会社の内部事情と関連付けて推察されている。

さまざまなゲームに活用されているフォントサービス「LETS」の、ゲーム組込オプションのライセンス契約更新が打ち切りとなり、物議を醸してきた。12月9日には一時的な更新延長も発表されたものの、延長はガイダンスの見直しおよび改善案の検討をおこなうまでの措置とされている。実質“数十倍”の値上げとなる点でも話題になっており、そうした突然の方針転換は、サービス運営元の親会社であるMonotype Imagingの内部事情と関連付けて推察されている。
Monotype Imagingは書体デザインなどを手がける企業だ。さまざまなフォントライセンスを提供しているほか、フォントの組み込み技術や、Webサイトやアプリなどに組み込めるMonotype APIなどを提供していることでも知られている。
“実質数十倍”値上げ
そんなMonotype Imagingは2023年に、日本企業のフォントワークスを買収。フォントワークスはその後Monotype株式会社へと商号変更している。フォントワークスは年間契約方式の「LETS」(Leading Edge Type Solution)を提供しており、Monotypeも共にLETS契約サービスを提供していた。『Fate/Grand Order』『ペルソナ5』など多数の作品のゲーム内テキストなどに活用されてきたサービスだ。

このLETS契約について、今年9月4日に「フォントワークス LETS アプリ・ゲーム組込オプション」「フォントワークス LETS軽量化オプション」「Monotype LETSゲーム組込みオプション」のオプションライセンス契約の販売、提供を終了することが発表。2025年11月29日をもって契約が更新不可能になり、同様のサービスを契約しようとすると実質“数十倍”もの費用がかかるとして物議を醸していた。
というのも「フォントワークス LETS」にゲーム組込オプションを付属させると、1ライセンスあたり年間約6万円でゲーム向けに多彩なフォントを適用できた。しかし同サービス終了後に同様のサービスを契約しようとすると、公式サイトの記載によれば年間で約2万ドル(約312万円)もの金額がかかるとみられる。実質的に大幅な値上げが強引におこなわれたかたちであり、発表時や契約更新終了時にはSNS上で大きく話題となった。
そうした反応を受けてMonotypeは、「フォントワークス LETS」および「Monotype LETS」のゲーム組込オプションについて2026年1月中に契約更新の再受付を実施すると発表し、更新期限を2026年3月31日まで延長すると告知した。オプション契約打ち切りについて、従来のプログラムをグローバル基準に合わせる取り組みの一環としての変更だったと説明しつつも、サービスを利用中のユーザーに対する移行についての十分な説明や明確さが欠けていたと言及。変更の影響などを訊く問い合わせも寄せられており、ガイダンスの見直しおよび改善案の検討をおこなうまでの措置としている。
そのため一時的に延長されるとはいえ「フォントワークス LETS」および「Monotype LETS」のゲーム組込オプションについても、いずれは契約更新は終了される可能性もなくなったわけではない。すでに別のサービスやフリーフォントなどに切り替えたといった報告もみられ、Monotypeの突然のサービス方針変更には引き続き批判も寄せられている。
経営事情も影響か
そうしたなかでは、親会社となるMonotype Imagingの経営体制にも一部ユーザーから注目が集まっている。Monotype Imagingは元々公開会社であったが、2019年10月にプライベート・エクイティ企業HGGCにより買収され非公開会社となった。その後はFontSmith、URW Type Foundry、Hoefler & Co.を買収し、数多くの著名なフォントの権利を獲得。先述したとおり2023年にフォントワークスを買収して、さらにそのラインナップを増やしていたかたちだ。
そんなMonotype Imagingの内情については、Monotypeの従業員であるMayur Pahwa氏が複数回にわたり報じてきた。たとえば9月には社内メールで通達された以上に大規模な人員削減がおこなわれ社内に動揺が走ったという。社員の証言からはそうした“秘密裏のレイオフ”が継続的に実施され、社員たちも不信感をあらわにしていることが報じられている。
そしてそうした人員削減に踏み切っている背景には、Monotype Imagingが近年AI技術に傾倒してきたことがあるようだ。同社は近年、出版・デザイン業界におけるAI支援ツールに関する研究成果をたびたび報告しており、この裏では多額の資金とリソースを注ぎ込んでいたという。しかしPahwa氏が社員証言として伝えるところでは何百万ドルも費やした挙句、何も得られなかったとのこと。その失敗のツケを人員削減で支払っている状況だと証言は伝えている。

近年のMonotype Imagingは実質的に権利の買収を通じて成長してきた傾向がある一方、市場をけん引するオリジナルの製品・サービスを生み出すことには苦戦していたという。Pahwa氏によると、親会社であるHGGCは複数回にわたりそんなMonotype Imagingの売却を試みてきた。しかし買い手候補からは成長性のあるビジネスではなく、フォントの権利という資産の集合体としてみなされており、売却はとん挫してきたそうだ。
AI技術への注力はそうした状態を脱却するための施策だったようだが、それも失敗したとみられ、先述したような継続的なレイオフを招いている模様。Pahwa氏によると、長期戦略や社員の幸福ではなく短期的な財務会計の見栄えを重視して運営されているという認識も社内で広まっているという。同氏はその後も継続的にMonotype Imagingにおけるレイオフの内情や、Monotype Imagingによるいわば“フォントの独占状態”に対するデザイナー業界の懸念の声などを伝えてきた。
そうした過去の報告を踏まえて、今回Monotypeが「フォントワークス LETS」において突如打ち出した「従来のプログラムをグローバル基準に合わせる取り組み」についても、親会社の経営状態の悪化が背景にあるのではないかと推察されている状況だ。非公開企業ということもあり、Monotype Imagingの経営状況については上述したような内部情報から垣間見ることしかできない点には留意したい。
なお今回のライセンス契約終了については、先述したとおり同様のサービスへの移行を余儀なくされるユーザーにとっては実質“数十倍の値上げ”であり、長期的なユーザー定着に繋がるものではない。多数の著名フォントの権利を有する企業がその場しのぎの強気な施策を続けていくことも懸念視されており、Monotype Imagingの今後にも注目が集まる。
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