あるゲーム開発者が「メタスコアのせいで綺麗だけどつまらないゲームが作られやすくなった」と投じ、議論白熱。バグがない綺麗なゲームがいいor後から直す野心作がいい

あるゲーム業界のベテランが、メタスコアによって「粗がないけどつまらないゲーム」が生み出されやすくなる可能性を問題提起し、大きな議論を呼んでいる。

あるゲーム業界のベテランが、メタスコアによって「粗がないけどつまらないゲーム」が生み出されやすくなる可能性を問題提起し、大きな議論を呼んでいる。メタスコアでの減点を恐れるあまり、開発においてゲームの本質ではなく、発売時点でのゲームの“粗の少なさ”が重視されうる状況が危惧されているようだ。

メタスコアとは、Metacriticがユーザーレビューのスコアとは別に掲載している数値だ。各種メディアのレビュー/点数を集めたうえで、平均とは違う独自計算にて100点満点で算出されている。ゲームメーカーによっては投資家向けに高得点を報告する例も見られるなど一定の権威を獲得しており、“ゲームの点数”として扱われることもある。

*2024年発売のメタスコア上位9タイトル(本稿執筆時点)

今回メタスコアに関して一石を投じたのはRaphaël Colantonio氏。Arkane Studiosの創設者のひとりであり、約18年にわたって社長を務めあげた人物だ。また『Dishonored』や『Prey』といった作品に、クリエイティブディレクターやゲームシステムデザイナーとしても携わってきた。2019年からは同スタジオを離れ、新スタジオWolfEye Studiosにて社長を務めている。また同スタジオの初開発作品となる一人称視点のアクションRPGに、クリエイティブディレクターとして携わっているという。


メタスコアが「綺麗だけど面白くないゲーム」を生むとの考え

そんな業界のベテランであるRaphaël氏がXアカウントにてとある考えを投じ、議論を呼んでいる。同氏は、レビュー集積サイトMetacriticによって形成された業界環境(eco system)が、開発者に安定しつつも退屈したゲームを作らせることを促している、との見解を投稿。発売時にゲームが洗練されていれば(バグや最適化不足・バランス調整不足がなければ)、どんなにつまらないゲームであってもメタスコア80点が保証される、という考えを示した。

つまりRaphaël氏としては、ゲームの「粗の少なさ」がメタスコアで高得点を得るための大きな要因になっていると考えているようだ。ただメタスコアのもとになっているのは先述のとおり集計対象であるメディアによるレビュー/点数であり、評価基準はメディア方針や担当ライターによってまちまちといえる点には留意したい。実際にはバグや調整不足といった“粗”ではなく、ゲームプレイが評価基準として重視されるレビューも多くあるだろう。


「『S.T.A.L.K.E.R. 2』のメタスコアは不当」

なおRaphaël氏はこうした考えを投じた背景として、11月21日に発売された『S.T.A.L.K.E.R. 2: Heart of Chornobyl』(以下、S.T.A.L.K.E.R. 2)のメタスコアが伸び悩んでいることを示している。同作はウクライナの開発元GSC Game Worldにより紆余曲折を経て開発がおこなわれた、人気のサバイバル・ホラーFPS『S.T.A.L.K.E.R.』シリーズの15年ぶりの最新作だ(関連記事)。

『S.T.A.L.K.E.R. 2』に向けては、発売後に不具合の多さや最適化不足についてのユーザー報告も寄せられている。メディアによるレビューでもゲームプレイは評価を受けつつも、そうした点がネックとなり評価/点数は伸び悩みを見せており、PC版のメタスコアはRaphaël氏の投稿時点で73点(本稿執筆時点で74点)となっている。好評ではあるものの、少なくともメタスコアだけを見るとトップクラスの高評価とはいえない数値だろう。

一方で『S.T.A.L.K.E.R. 2』ではシリーズの持ち味である荒廃した世界観が受け継がれている点や、無駄がなくシビアなバランスなど、ゲームプレイ面では評価を受けている。またGSC Game Worldは発売時に、本作が同スタジオにとって未曽有の大規模開発作品であったことに触れ、粗が残っている可能性も示唆(関連記事)。フィードバックに目を光らせてブラッシュアップを進めていくとしており、11月24日には次回アップデートで修正予定の項目も紹介されている

そうして今後磨き上げられていく見込みがあることも踏まえてか、Raphaël氏は『S.T.A.L.K.E.R. 2』の73点というメタスコアについて「不当であり、誤解を招く(Unfair, misleading)」数値であるとの見方を示している。つまり『S.T.A.L.K.E.R. 2』はもっと高い評価を受けるべきだという考えだろう。


バグを直してもメタスコアは上がりにくいゆえに

一方、メタスコアが“粗は少ないもののつまらないゲーム”の増加に繋がるといった、Raphaël氏の投稿には、ユーザーからの反論も寄せられている。「バグを残したまま発売されるゲームを肯定するのか」と疑義を呈する声もあるようだ。ほか、進行不能バグのせいでそもそも正当な評価が下せないといった事例が考えられることも指摘されている。業界人の意見も含めてさまざまな反応が寄せられており、賛否両論集まっている様子だ。

とはいえRaphaël氏としては、あくまでメタスコアは「バグのないつまらないゲーム」の方が「バグは残っているけど素晴らしいゲーム」よりも高い評価を獲得しうる仕組みであるとして、ゲームの本質が考慮されていないとの考えから問題視している様子。メタスコアの仕組みが、野心的なゲームではなく、発売までにブラッシュアップしやすい無難なゲームづくりに繋がるとの考えがあるようだ。

また同氏は、発売後にアップデートが実施されブラッシュアップされたとしてもすでにレビューを出したメディアの評価/得点が変わるとはかぎらないことも指摘。結果としてメタスコアが改善されにくく売上を挽回しづらい状況があることも問題点として示している。特にメディアは発売前のプレビューに基づいてレビューをおこなうことも多く、これもメタスコアがゲームの発売前・直後の状態に左右されやすい状況に拍車をかけているかもしれない。


「メタスコア以外」が参考にされる傾向も

“ゲームの点数”のように扱われることもあるメタスコア。過去にはグラスホッパー・マニファクチュアの須田剛一氏が海外メディアGamesIndstry.bizのインタビューにて「メーカーがみんなメタスコアを気にしすぎている」との考えを示したことが話題を呼んでいた。売上や業界評価にも繋がる点から、特に経営的な観点では、作品のメタスコアを無視しづらい状況もあるようだ。

ただもしRaphaël氏のいうような「粗がないほど高得点になりやすい」といった傾向があるとすれば、特にバグの少なさやバランスの良さを重要視するユーザー目線ではメタスコアは有益といえる。業界的に一定の権威をもつだけでなく、ユーザーにとっても購入を検討する際に参考にされる指標のひとつとなっているだろう。

とはいえその点でいえば、発売後のブラッシュアップがメタスコアに反映されにくいことは課題かもしれない。これまでには『No Man’s Sky』や『サイバーパンク2077』のように、発売後に何度もアップデートやコンテンツ拡張を重ねてユーザー評価が回復するゲームもあった。業界にて影響力をもつだけに、そうした事例もカバーできるような算出方法が求められている状況もあるのだろう。

ちなみにRaphaël氏が“不当に低いメタスコアが付いているゲーム”として例にあげた『S.T.A.L.K.E.R. 2』については、発売の翌日に売上が100万本を突破したことが報告されている。不具合などから伸び悩みを見せたメタスコアの数値ではなく、シリーズの持ち味やゲームプレイについて評価する口コミが売上に繋がった可能性はありそうだ。

Larian Studiosのパブリッシング・チーフであるMichael Douse氏は、このことについて「昨今のユーザーはピカピカに磨き上げられた売り物よりも、興味をそそられ、集中できる体験に飢えている」との見解を示している。また同氏は、昨今ではパッケージ版ではなくデジタル販売の重要性が増しているとして、ユーザーが直接ゲームに手を伸ばせるようになったと言及。つまり、メディア評価などの前情報やその宣伝を知ってから小売店で購入するのではなく、気になったゲームをすぐに買う、あるいはオンラインストアのユーザーレビューから“生の声”を参考にしつつスムーズに購入されるようになったということのようだ。

Michael氏はこの状況を従来のパブリッシング方法では対応しきれない傾向だと言及。ゆくゆくは開発元がメディアといった“中間業者(middle-men)”を満足させる必要はなくなり、ユーザーが喜ぶコンテンツの制作に集中できるようになることを望んでいるとコメントしている。

昨今ではユーザー評価の傾向がひと目でわかるSteamユーザーレビューのステータスなど、メディアレビューやメタスコア以外の指標も存在感を増している。このほかSNS上での口コミも一定の影響力はあり、メタスコアの高さだけが“ゲームの点数”として認識され、売上に繋がるとは言い切れないだろう。またベータテストやデモ版の配信がおこなわれるゲームも開発規模を問わず増えており、ユーザーが購入時に参考にする情報も多様化しているとみられる。現状問題視されているようなメタスコアが開発方針に影響を与えうる状況も、将来的には緩和されていくかもしれない。

Hideaki Fujiwara
Hideaki Fujiwara

なんでも遊ぶ雑食ゲーマー。『Titanfall 2』が好きだったこともあり、『Apex Legends』はリリース当初から遊び続けています。

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