「2024年もっとも成功した“インディーゲーム”は『黒神話:悟空』と『パルワールド』」との調査報告。インディーかどうかはともかく、非AAA業界はぐんぐん成長


ロンドンのゲーム市場リサーチ機関Video Game Insights(以下、VGI)は、2024年の9月30日時点におけるSteamでのリサーチ結果をレポート形式で報告。レポート内では「2024年でもっとも成功を収めたインディーゲーム」としていくつかのタイトルが挙げられており、その推定売上本数がデータで示されるなど興味深い内容となっている。

VGIはロンドンに拠点を置くゲーム市場のリサーチ機関。サードパーティーから発表されたデータソースと同社が独自に調査した一次データの両方を利用し、主にSteamにおける市場データの分析や、ゲームの売上本数の予測といった分析結果をゲーム開発者、パブリッシャー、および投資家向けに提供している。

そんなVGIによって、現地時間10月13日、「Global Indie Games Market Report 2024」というタイトルの記事とレポートが無料で公開された。同レポートでは、2024年にSteamでローンチされたタイトルのなかで、「もっとも成功を収めたインディーゲーム」として、推定売上本数などのデータと共にいくつかのタイトルを報告している。なおデータは9月30日時点のもの。本レポートにおける「インディーゲーム」の定義について、VGIは「独立系スタジオが開発し、予算がAAAゲームにはるかに及ばないもの」としている。

『黒神話:悟空』と『パルワールド』が双璧をなす

image credit:Global Indie Games Market Report 2024

レポートによると、「2024年で最も成功したインディーゲーム」の第1位はGame Scienceがリリースした『Black Myth: Wukong(黒神話:悟空)』。その売上本数はVGIの調べでは約2060万本となっている。プレイヤーの平均プレイ時間は43時間で、高評価レビューの割合は96%であることも報告されている。同作のリリースは8月20日。かなりの短期間のうちで爆発的に売り上げを伸ばし、驚異的な記録を打ち立てている。

そして2位は、1月19日に早期アクセス配信を開始した、ポケットペアによる『パルワールド』。その総売上本数は約2010万本となっている。平均プレイ時間は43時間で、高評価レビューの割合は96%。数々の話題を巻き起こした本作であるが、その売上がインディーゲーム市場において記録的なものであることは間違いないようだ。

『パルワールド』

続けて3位には、Slavic Magicによる『Manor Lords (マナー・ロード)』が売上本数約330万本でランクイン。4位には、Keen Gamesから1月24日にリリースされた『Enshrouded~霧の王国~』が売上約300万本で名を連ねている。両作とも独立系デベロッパーの作品ながら、Steamにて早期アクセス開始後さっそく絶好調のスタートを切るなど話題を集めた作品だ。

そして5位にはLandfall Publishingから4月2日にリリースされた『Content Warning』がランクイン。売上本数は約300万本となっている。同レポートの売上本数には無料で配布された数も含まれているとのこと。同作は発売直後の期間限定の無料配布で大きく話題を集めており、そうした施策も同レポートの数字には反映されているのかもしれない(関連記事)。

ここまでの上位5タイトルを見ると、『黒神話:悟空』と『パルワールド』の両作が文字通り桁の違う売上本数となっていることが分かる。またレポートでは、2023年度のインディーゲーム市場の総売上額が約27億ドル(約4000億円)に対して、2024年はレポート公開時点で既に約40億ドル(約6000億円)を突破し、インディーゲーム市場が大きく伸び続けていることも報告されている。またレポートによれば、Steamにおける総売上高で、インディータイトルの売上高が占める割合は48%にまで上昇しているとのこと。AA・AAAタイトルの占める割合に対して史上最も近くまで迫り、ほぼ同等の売上を計上しているかたちだ。同レポートでは2024年のインディーゲーム市場の躍進を、『黒神話:悟空』と『パルワールド』による売上が大きくけん引したとの見立ても示されている。

『黒神話:悟空』

なお本レポートにおけるSteamでの売上本数については、VGIが独自の方法で算出した推定値であることには留意されたい。その予測にあたってはSteamレビューの倍率や、機関独自のアルゴリズムなどを組み合わせてできるだけ正確な売上本数を算出しているとのこと。なお同社によって行われた予測の精度測定として、プレスリリースなどで売上本数が公開されている55のタイトルをサンプルとして抽出し、VGI独自の予測値と実際の売上を比較。結果として、84%のタイトルにおいて±15%の誤差範囲内であったことなどが発表されている。詳細についてはVGIが公開している調査結果に関する記事を確認されたい。

「インディー」の定義の難しさ

しかしここまで挙げた数々のタイトルについて、「インディーゲーム」と呼ぶべきか疑問に思った読者もいるかもしれない。それについては同レポートでも言及されており、インディーゲームとAAAゲームを定義し区別することが難しくなってきているとの見方を同時に示している。その理由として、VGIは“AAAゲームに匹敵する規模の品質”、“大手パブリッシャーによる影響”、“巨大なIPによる認知度向上”の3点のいずれかの要素を持つインディーゲームの台頭を挙げている。

本稿にて最初に述べた通り、VGIは「予算がAAAゲームにはるかに及ばないもの」をインディーゲームとして定義している。しかし時には、インディーゲームの予算がAAAゲーム級の予算に匹敵する例も散見される。例えば本レポートで「2024年で最も成功したインディーゲーム」とされた『黒神話:悟空』も、その制作予算は約7000万ドル(約100億円)であると報告されている。VGIはAAAゲームの定義を「通常1億ドル(約150億円)以上の予算をかけて開発される」としているものの、同作はそれに見劣りしない巨大な規模で開発されたインディータイトルとなっているわけだ。

Image credit:Global Indie Games Market Report 2024

また、開発会社自体は小規模であるものの、大手ゲーム会社がパブリッシャーにつき資金面などで強力にサポート、影響力を発揮するインディータイトルの例も挙げられている。たとえば『デイヴ・ザ・ダイバー』を手がけた開発会社ミントロケットも小規模なチームであるが、発売当時は大手ゲーム会社ネクソン内のサブブランドであった。なお現在はネクソン傘下の関連子会社として独立している(関連記事)。

ほかにも『ヘルダイバー2』を手がけたArrowhead Game Studiosも、規模としてはインディーもしくはAA規模の開発会社。しかし同作のパブリッシングを担当するのはゲーム業界において非常に大きな規模を誇るソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)だ。SIEより販売されている同作は1200万本以上を売り上げる大きな成功を収め、5月時点で、すでにソニーグループの利益に大きく貢献したとの見立ても示されている(関連記事)。

そして小規模なインディースタジオでも、巨大なIPを使うことで作品の認知度を上げ、商業的な成功を収めることもある。その例として本レポートでは『バルダーズ・ゲート3』の名を挙げている。開発を務めるLarian Studios は『Divinity』シリーズのヒットなどで元々高い評価を受けていた会社であるものの、『バルダーズ・ゲート3』によって売上面でも爆発的なヒットを収めた。結果として2023年のGOTYを受賞するなど、数々の賞も受賞。同レポートでは『バルダーズ・ゲート』シリーズの知名度、およびベースとなった「ダンジョン&ドラゴンズ」のファン人気が本作の知名度向上に大きく貢献し、その売り上げを後押ししたとの見立てが示されている。

Image credit:Global Indie Games Market Report 2024

また、同レポートではゲーム業界全体が低迷している状況にも関わらず、「インディーゲーム市場」の売上拡大が、年々増加してきているとの報告も上がっている。先述した“大成功タイトル”の存在がありつつも、市場全体でも成長が見られるかたちだろう。

さらに興味深いのは、2024年における売上の多くは、比較的大規模なインディースタジオが占めているという。そしてその割合は2024年で大きく増加している。今後も「インディースタジオが大規模化していく」というような傾向が見られるかもしれない。そういった点もあり、年々インディーゲームか、AAAゲームかの区別が難しくなっている状況があるようだ。

なおAAAクラスに匹敵するほどのスタジオが「インディースタジオ」に分類される点については懸念も考えられる。昨年には先述した『デイヴ・ザ・ダイバー』の開発元ミントロケットが、ゲームの祭典The Game Awardsにてインディー部門でノミネートされ、同チームがネクソン傘下にあることから物議を呼んだ一幕も見られた。たとえばそうしたアワードで “大規模なインディースタジオ”の作品がノミネート枠を埋めてしまえば、広告に予算を割けないような小規模スタジオが作品の周知の機会を失うといった事態も考えられるわけだ。ちなみに『デイヴ・ザ・ダイバー』については、ミントロケットを率いるファン・ジェホ氏も、同作をインディーゲームではないと考えているとのこと(関連記事1関連記事2)。

今回のレポートでは近年の「インディースタジオ」の在り方の変化についても触れられており、今後は「インディー」という呼称やその分類方法についても変わっていくこともあるかもしれない。とはいえ、「インディーゲーム市場」全体としては大きく成長を続けているというデータは興味深く、同市場をめぐる動きは引き続き注目されるところだろう。