『グランド・セフト・オートV』を「実物の自動車を改造したコントローラー」でプレイする人現る。ただし“両方”で安全運転はできない
“自動車”をコントローラーに改造して『グランド・セフト・オートV』をプレイすることを試みる動画を投稿したYouTuberが現れた。

“自動車”をコントローラーに改造して『グランド・セフト・オートV』(以下、GTA V)をプレイすることを試みる動画を投稿したYouTuberが現れた。試行錯誤を重ねながら自動車をコントローラー化する模様が収められている。
今回自動車のコントローラー化に挑んだのは、YouTubeチャンネルCarl Does Tech Thingsを運営するCarl氏。同氏が12月6日に投稿した動画には、2026年11月19日に発売予定のシリーズ最新作『グランド・セフト・オートVI』が発売されるまでに、自身の車を専用のコントローラーとして使えるようにするというチャレンジの顛末が収められている。同氏はゲーム用のコントローラーとしてすでに存在するハンドルコントローラーやペダルを挙げつつ、車両保険や交通状況があったり、また同乗者から運転について口出しされたりするような“本物の車”ではないと語る。そこで同氏は、本物の自動車をコントローラーに改造してゲームをプレイしたいという発想に至ったそうだ。自動車の運転のみで完結するレーシングゲームやドライブゲームではなく、なぜ『GTA』を題材に選んだのかは謎である。

まずCarl氏は、車のハンドルの下に存在するOBDポートを使って車の情報を取得する方法を検討することにした。OBDポートとは多くの車両に搭載されている故障診断用のコネクター。車の故障原因を解析したり、カメラや各種センサーなどの値を読み取ったりすることができる。OBDポートに接続するマイコン(小さなコンピュータ)を作ることで、ゲームのコントローラーとして活用しようというのが同氏の作戦だ。
OBDの通信規格を間違え、一から作り直しになるアクシデントもありつつ、同氏はArduino Nanoのマイコンでプログラムを作成。車とマイコン間の通信が可能になったが、OBDで取得できる情報には限りがある。アクセルの踏み込み度合いを示すスロットルポジションやエンジンの回転数などについてはデータが取りやすい一方で、ハンドルの回転やブレーキペダルの位置といった、OBDのプロトコルで標準化されていないデータを取得するためにはリバースエンジニアリングが必要となってしまう。そのため、同氏はアクセル以外のデータについて、別途カメラやセンサーを導入して解決を目指すことにした。

まず、ブレーキには超音波センサーを使用。このセンサーには2つのスピーカーがついており、送信側から出た音波が物体に跳ね返って受信側に届くまでの時間を計測することで、物体までの距離を測る仕組み。これをブレーキペダルの裏面に貼り付けることにより、どれだけ踏み込んだかをアナログデータとして検出できるようになった。なお『GTA V』では、ブレーキの入力を続けることで後退してしまうため、最終的には普通のブレーキではなくハンドブレーキを使用することに。ハンドブレーキを割り当てたボタンをペダルの踏み込み量に応じた頻度で連打させるような仕様に変更している。
次にハンドルだ。当初はモーションキャプチャーなどで用いられるような、ドットをマーカーとしてハンドルに貼り付ける方法を試したのだという。しかし、この方法ではカメラでマーカーを上手く検出・追跡することができなかった。しまいには、貼り付けたテープによりハンドルの表面素材が剥がれてしまうという始末。他にもABS(アンチロック・ブレーキ・システム)から回転角度を検出する方法なども検討したようだが、大量のリバースエンジニアリングを要するためこれも断念した。

解決策に行き詰まる中、Carl氏は一本の論文を発見。それは「Camera-car Video Analysis for Steering Wheel’s Tracking(ハンドルトラッキングのための車載カメラ映像分析)」という、まさに同氏がやりたいことを表したぴったりのタイトルであった。そこで説明された手法によれば、まずカメラの映像に対して「ハフ変換」を用いてハンドルの中心と半径を検出する。次に「Shi-Tomasi法」と呼ばれるアルゴリズムを使ってハンドルの特徴点を分析。そこに「Lucas-Kanade法」を用いることでオプティカルフロー、すなわちフレーム間での移動量を計算する。これにより算出された角度を足し合わせていくことで、ハンドルがどれだけ回転しているかを検出可能という仕組みだ。Carl氏は試行錯誤の末、ついにハンドルの回転をコントローラーの入力へと変換できるようになった。

そしてテストを重ね、ついにデバイス一式が完成した。ブレーキ用のセンサーとハンドル用のカメラ、そしてOBDポートからのケーブルをともにUSBでノートパソコンに接続。そして肝心の『GTA V』を起動していざアクセルを踏み込む。見事アクセルとブレーキ、そしてハンドルの操作をゲーム内の車と連動させることに成功したのだ。なお、AT車などにおいてアクセルを踏んでいなくても進む「クリープ現象」を再現するために、ゲーム内では常に少しの加速がかかるようにするといった調整もおこなっているとのこと。

ところで、Carl氏が操作しているのは、実際に走行可能な自動車。つまりこの“コントローラー”を操作するためには、現実の車も走らせなければならないのだ。動画の11分ごろからは本当に道路を運転しながら操作される様子も収められており、リアルの運転に集中しなければ間違いなく事故を起こす状態であるため、もちろんゲーム画面を見る暇はない模様。少なくともコントローラー化した車でも現実では普通に運転はできるようだが、ゲーム内ではとんでもない暴走を繰り広げている。また上述したような改造を施した車を運転することが、同氏の住む地域の法令的に問題ないかどうかは不明である。
結果としてここまでコントローラーをやたらと本格的に作ってきたCarl氏は動画の終盤で、実際にハンドルを回すのではなく、「ハンドルに見立てた段ボール」を用いて運転する方法も試している。幸い段ボールの回転がハンドルの回転とみなされるようで、車の運転をせずにゲーム画面を見つつ『GTA V』をプレイすることに成功した。段ボールを使うくらいなら普通のハンドルコントローラーではだめなのかという疑問は浮かぶものの、いずれにせよ自動車のコントローラー化自体には成功したといえるかもしれない。
ただ、完成したコントローラーを試すなかでは、普通のブレーキボタンを使わず後退できなくした分方向転換に苦戦しており、リバースがあればいいのにとつぶやく場面も。現状ではコントローラーとしての欠陥まで抱えている模様だ。
過去にもゲームにあわせて奇妙なコントローラーが発明される例はさまざまあり、たとえば多種多様なコントローラーを制作してきたSuperLouis64氏は『ファイナルファンタジーVII リメイク』向けにバスターソード型のコントローラーを作成。かなり重かったようで、プレイ途中から持ち上げるのにも一苦労する様子が動画にて公開されていた(関連記事)。また『World of Tanks』では戦車の操縦席のような大掛かりなコントローラーが制作され注目を集めた例もある(Game*Spark)。
それぞれ快適なプレイができるかどうかは別として、ゲームにちなんだコントローラーを作って没入感を高めようとする試みは、一部のゲーマーの挑戦心を掻き立てるのかもしれない。とはいえ今回の自動車のコントローラー化は、どちらか一方で安全運転するためには没入感が大きく削がれる発明となってしまったようだ。
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