Steamの2024年「ゲームの価格別売上データ」など示す市場調査報告。売上上位のタイトル間で「数十億円単位での売上差生じる」分析データも
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ゲーム開発者向けのマーケティング調査機関GameDiscoverCoは2月19日、2024年のPC(Steam)におけるゲームの売上を分析した記事を公開。分析では、総収益が売上上位の少数のタイトルで占められている傾向や、高価格帯のゲームについて、売上上位にランクインしている割合が多い傾向にあることなどが示されている。
少数のタイトルに集中する売上
今回GameDiscoverCoがおこなった分析では、同社の独自集計によるSteamの総収益に基づき、2024年にリリースされた新作ゲームについての統計情報が公開されている。まず2024年発売の新作ゲームのうち、トップ25位にランクインした作品の収益は総額3350万ドル(約50億9200万円)であることが明らかとなった。
また250位の新作ゲームは143万ドル(約2億1700万円)の収益を、500位のゲームは45万7000ドル(約7000万円)の収益をあげたとのこと。なおこの収益は売上高であり、ここからプラットフォームの使用料や付加価値税、払い戻しなどが差し引かれるため、純粋な利益としてはさらに低い値となるだろう。さらに順位を下っていくと、2500位に位置する新作タイトルで、およそ1万1000ドル(約170万円)の収益をあげているとのことだ。
なおSteamでは2024年に約1万9000本のタイトルがリリースされているそうで、売上が2500位以上のタイトルは上位13%にあたる。収益25位のタイトルと2500位のタイトルを比較すると、50億円以上の開きが存在。グラフによれば、25位のタイトルと50位のタイトルでも2000万ドル(約30億円)もの差がある。数少ない上位の作品のなかでも、収益の獲得状況には極端な偏りがある傾向を表しているといえる。
【UPDATE 2025/2/21 8:05】
統計データについての記載に誤りがあったため、本文および記事見出しを修正
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*2024年にSteam上でリリースされたゲームの収益ランキング順(横軸)に対する合計収益額(縦軸)
例として一番左の棒グラフは、2024年のSteamにおける売上上位25位となったタイトルの総収益額を示している
こうした傾向は過去に、ゲームマーケティング関連メディアOP Game Marketingの創設者Jordan Brown氏によっても指摘されていた(関連記事)。同氏はSteamにおける「非AAAタイトル」に限った分析をおこなっていた。分析では一定の区分に基づいた分類の約1万8000本のタイトルのうち、500ドル以上の収益をあげた作品は6509本、つまり約36%に相当することが明らかにされている。Brown氏はこの結果をもって、商業的に成功することがいかに難しいかとの見解を示していた。
ゲームの値段と「成功率」
加えてGameDiscoverCoは、価格帯に応じて、最低でも1000プレイヤー、および1000件のダウンロードが確認できたタイトルをカウント。さらにそこから上位250タイトルとなる、143万ドル以上の収益をあげたタイトルの占める割合についても調査している。平たく言うと、価格帯別のゲームタイトルの「売上上位率」を算出しているわけだ。
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*2024年にリリースされたSteam向けタイトルのうち売上上位250本を、価格帯ごとに分類したグラフ
5ドル未満のゲームについては、1000ダウンロード/プレイヤーを達成したタイトルは計1927本。そのうち1.7%となる33本が上位250位にランクイン。ちなみに具体的な数字は明かされなかったものの、ランクインしたタイトルは主に基本プレイ無料の作品だったという(Mainly F2P titles, obviously.)。その他の価格帯で1000ダウンロード/プレイヤーを達成した作品数と、上位250作品の割合については以下に示すとおり:
5ドル以上10ドル未満(約750円~1500円):2%(796タイトル中16タイトル)
10ドル以上15ドル未満(約1500円~2250円):3.4%(587タイトル中20タイトル)
15ドル以上20ドル未満(約2250円~3000円):6.3%(474タイトル中30タイトル)
20ドル以上30ドル未満(約3000円~4500円):19.2%(297タイトル中57タイトル)
30ドル以上40ドル未満(約4500円~6000円):24.5%(102タイトル中25タイトル)
40ドル以上(約6000円~):62%(111タイトル中69タイトル)
*なおSteamでの販売において、常に最新の為替レートで値段が換算されるわけではないことには留意したい。
このようにデータを比較してみると、「タイトル数」では価格帯のばらつきがあったものの、一定のプレイヤー数/ダウンロード数を有するゲームにおける「割合」では高価格帯になるほど売上上位に占める割合が大きくなることがうかがえる。なお低価格帯のゲームは、基本的には大規模なゲームに比べ開発・宣伝コストが低い傾向にあるため、そもそも母数が多くなり売上上位率も低くなりやすい可能性は考えられる。対して、大規模なタイトルの方がマーケティングにより多くの資金を費やす傾向はあり、人口に膾炙して売上額を伸ばすタイトルの割合が大きいのだろう。
とはいえ低価格帯のゲームにおいては、ユーザーレビューなどによって広まる、口コミの効果も見逃せない。たとえば横スクロールアクションゲーム『A Highland Song』では、Xユーザー・ロッズ氏の、ゲームプレイの気持ち良さに対する感嘆の言葉を交えた動画の投稿がバイラル化。一時は日本国内での売上で38位にまでランクインした(関連記事)。またショップ経営RPG『Final Profit: A Shop RPG』では、あるプレイヤーの7000字にもわたるユーザーレビューが投じられたことを受けて、同作品で過去最高の売上を達成した事例なども見られた(関連記事)。ゲームプレイ配信やSNSといった各種メディアでの口コミや拡散を狙う施策をおこなうことで、低価格帯(低予算)なゲームでも売上を伸ばせる可能性はありそうだ。
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果たして「売上すなわち成功」なのか
また一方でGameDiscoverCoは、一見「成功率」の高いようにみえるフルプライス(高価格帯)のゲームについて、「採算が取れていない可能性がある」との分析をおこなっている。先述の分析においては、ROI(Return on Investment)、すなわち投資に対する利益率が算出されていない。そのうえ、成功したタイトルとしてのボーダーラインは、ゲームの価格帯に関わらず143万ドル(約2億1500万円)の固定額となっている。
要するに、同じ143万ドルの売上を記録したタイトルだとしても、開発・宣伝費に応じて同額の売上でも利益が変わってくるだろう、という見立てだ。一例として『Alan Wake 2』では、売上が200万本に到達してようやく開発費を回収したという(関連記事)。大規模なタイトルにおいて高騰する開発費やマーケティング費用は、もはや143万ドル“程度”の売上では回収しきれないという事態もあるのかもしれない。
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“AA級ゲーム”の台頭を予見する声
今回のGameDiscoverCoの調査では、SteamにてAAA級ゲームに多くみられる高額なゲームほど売上上位に食い込む傾向も示された。一方で、高額なゲームが利益を出しマーケティング面で“成功”できるかどうかは別の話といえそうだ。昨今では実際にゲーム業界に身を置く開発者たちからも、AAA級タイトルのような高額費用で開発するタイトルの抱えるリスクを避けたいとする意見がみられる。たとえば約13年にわたりゲームデザイナーとして『World of Warcraft』の開発に携わったChris Kaleiki氏は、さまざまな理由をあげつつ、「持続可能ではない」という観点からAAA級タイトルよりも低予算で規模の小さい、AA級タイトルに取り組みたいとする考えを明らかにしていた(関連記事)。
またインディースタジオBad Rhino StudiosのCEOを務めるRyan Manning氏は、2023年から2025年にかけてゲーム業界の苦境が続いているという見立てを説明。レイオフなどが相次ぐ厳しい情勢では、予算削減や持続可能な開発を目的とした結果、中規模なAA級タイトルが台頭するという状況が今後6年~8年ほど続くだろうといった見方を示している。
「売上総額は上位の少数タイトルに占められている」といった傾向のほか、価格帯ごとの売上上位率なども示された、今回のGameDiscoverCoの市場調査データ。特に高価格なゲームは一見すると高い売上を誇っていても利益が出ているとは限らないとみられ、“成功”をおさめた作品は売上上位のタイトルのうちさらに少数に絞られるかもしれない。そうしたなかでは業界のスキマを縫う中規模開発ゲームの台頭を予見する開発者も見られ、今後も同様の市場調査における数値の変化は注目されるところだろう。