ゲーム開発者の「力業実装テクニック紹介」が賑わう。鏡の反射用に“キャラと背景そのままコピー”などかなり大胆

ゲーム開発者が技術・コスト的な制約があるなかで風変わりな工夫で実現した、“力業実装”を紹介し合う流れが賑わいを見せている。

ゲーム開発の現場においては、技術・コストなどの観点から本来実装が難しいメカニクスや表現が、さまざまな工夫によって実現される例も多々存在する。今回、ゲーム『The Walking Dead』におけるとある工夫が紹介され、SNS上で注目を集めている。開発者や業界人が別の“力業実装”を紹介し合う流れも発生しているようだ。

『The Walking Dead』は同名のコミックを原作としたアドベンチャーゲーム。DCコミックス作品のゲーム化などで知られるスタジオ・Telltale Gamesが2012年にリリースし、2019年にかけて4シーズンにわたって展開がおこなわれた。シーズン1の主人公のリー・エヴェレットは妻の不倫相手を殺した罪で捕まるが、警察に護送されている途中、車両は交通事故を起こしてしまう。しかし目を覚ますと世界はウォーカーで溢れかえっており、命からがら脱出。その後リーはクレメンタインという名の少女と出会い、ともにゾンビアポカリプスを生き延びるために奔走する。

7月27日にコンテンツクリエイターのShesez氏がXに投稿したポストでは、本作シーズン1の冒頭のシーンに施された工夫が動画で紹介されている。主人公を乗せた警察車両のルームミラーには、運転しているアトランタの警察官の顔が反射しているように見えるが、実はこのルームミラーは実際に風景を反射しているわけではない模様。警察官の上半身と車の内装の一部、そして筒状に切り出した背景の木々が車両前方に配置されており、プレイヤーはそれらをルームミラーの形をした穴を通して覗き見ているにすぎないようだ。

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なお元となった動画は、Telltale Gamesで本作シーズン1のプロジェクトリーダーを務めていたJake Rodkin氏が2018年に旧Twitterに投稿していた動画とみられる。運転手の上半身が車のボンネットに乗せられているという、外から見るとなんとも滑稽な見た目。疑似的に反射を表現した“力業”とも呼べるテクニックが明らかとなり、ユーザーからは驚きの反応が寄せられている。

こうした実装がおこなわれた背景には、当時の技術的な制約が存在するようだ。3Dゲームが急速に進化していった1990年代後期から2010年代初頭にかけて、反射を再現するさまざまなレンダリング技術が出現。風景の画像を貼り付けることで疑似的に反射を表現する「環境マッピング」にはじまり、リアルタイムの反射表現としては、シーン全体を反転させて描写する「平面反射」や、画面に映った情報から反射を計算する「スクリーンスペース反射(SSR)」などが登場した。ただし、動的な反射表現は処理負荷が高く、ハードウェア的な限界や実装の難しさなどから利用が避けられる状況もあった模様。そうしたなかで、特に半透明な床などを用いた場合には解像度を落としたテクスチャを利用しやすいということもあり、モデルを物理的にコピーして配置する手法は裏技的に多用されていたそうだ。

たとえば、2011年にPlayStation Vita向けに発売された『アンチャーテッド 地図なき冒険の始まり』に携わったという環境アーティストのJustin Kimball氏は、洞窟内の湖における水面反射を実装するにあたり、洞窟の大部分を複製して配置することで表現したと報告している。制約のなかでどのように美しい反射を実現するか考え抜いた末に採用された、かなり実用的なテクニックというわけだ。

ところで、軽量化のためのテクニックとしては、Bethesda Game Studiosが手がけた宇宙RPG『Starfield』にて、キャラクターの周囲にだけ降る局所的な雨なども話題になったことがある。そのほか同社の過去作『Fallout 3』においても、地下鉄に乗るシーンにて、実はキャラクターが頭に列車を装着して移動しているという仕掛けも明らかとなっていた(関連記事)。あくまでプレイヤーの視点だけで“それらしく見える”ようにして、描画を簡略化し処理負荷を低減するという事例は多い。

ちなみにコンテンツクリエイターのSynth Potato氏は、『The Elder Scrolls IV: Oblivion』などにおける、キャラクターの装備を三人称視点で映したインベントリ画面を紹介。一見するとゲーム中で操作しているキャラクターそのものに見えるが、なんと地面の奥深くに埋まった“もう1人の自分”が利用されているのだという。プレイヤーと同じ装備を着た別のモデルを真下の地中に配置し、背景画像とともに表示。プレイヤーの動きに合わせてついてくるように設計されているそうだ。キャラクターモデルを描画し直すことなく、カメラ位置の切り替えだけで済むため、素早くインベントリ画面とゲームプレイ画面が行き来できるとみられる。

*『The Elder Scrolls IV: Oblivion Remastered』でもインベントリ画面は同様の仕組みとみられる


たとえば鏡面反射であれば、昨今では光線の反射・屈折をシミュレートするレイトレーシングなど、高負荷な描画処理技術も採用されるようになってきた。一方で特にマシン性能の低かった過去のゲームにおいては、工夫を凝らしてそうした表現が実現されていた模様だ。また先述した『Starfield』の雨のように、見えない部分を簡略化する手法はパフォーマンス向上を狙って最近のゲームでも取り入れられているとみられる。プレイヤーが気づきにくい部分にさまざまな工夫が張り巡らされ、自然な表現とゲームプレイの快適さの両立が図られているのだろう。

Shion Kaneko
Shion Kaneko

夢中になりやすいのはオープンワールドゲーム。主に雪山に生息しています。

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