即販売中止ゲーム『The Day Before』開発元、新作のマップデザインを「ユーザーコンテスト」で募集し疑いの目を向けられる。プロ意識全力の再始動を掲げていた矢先に
先月スタジオ再始動を表明したFNTASTICは10月23日、『ITEMS』なる新作ゲームを開発すると発表。その後、同スタジオの公式Discordチャンネルでは同作のマップを制作するユーザーコンテストがおこなわれているという。
スタジオ閉鎖前のFNTASTICでは、ボランティアスタッフの扱いが問題視されていた。また再始動後にはプロだけで運営するといった方針が掲げられていただけに、“マップのアイデアをユーザー任せにする施策”として冷ややかな目を向けられているようだ。海外メディアTheGamerが報じている。
再始動直後のつまずき
FNTASTICは、『The Day Before』を手がけたスタジオだ。同作はパンデミック後のアメリカ東海岸を舞台とするオープンワールドサバイバルMMOと標榜されていた。幾度も発売延期を重ねながらも2023年12月8日にPC(Steam)にて早期アクセス配信開始。しかしサーバー問題や不具合の多さ、品質の低さなど課題を数多く抱えていた点からすぐさま不評が殺到。そうした中で開発元のFNTASTICは12月12日に同作の開発を中止し、スタジオも閉鎖すると発表。あわせてSteamでの本作の販売も停止され、購入者への返金がおこなわれた。
そこから約9か月を経て、FNTASTICは先月9月27日にスタジオを再始動させることを表明し、『Escape Factory』なる新作の開発資金をクラウドファンディングキャンペーンで募ると発表(関連記事)。しかし同キャンペーンは10月23日時点で目標額約230万円のうち約36万円しか資金が集まらず、中止となった。
FNTASTICによれば、『Escape Factory』は適切な時期が来るまで開発を中断するとのこと。そして代わりに新作『ITEMS』を開発することを明らかにしていた(関連記事)。『ITEMS』は、かくれんぼ系(prop hunt)アクションホラーゲームとして構想されているという。今度はプレイアブルなデモ版が完成してから、新たにKickstarterでのクラウドファンディングを実施するか、あるいは別の方法を検討するとのこと。また開発資金を集めるために、別のモバイルゲームアプリをリリースする計画だそうだ。
マップはコンテストで募集
そんな『ITEMS』のマップのひとつは、“ユーザーコンテスト”で決定されるようだ。FNTASTICの公式Discordチャンネルにて10月29日、コミュニティマネージャーがユーザーコンテストの開催を告知。TheGamerが報じたところによると、『ITEMS』におけるマップのデザインを、チャンネル内でユーザーから募集するコンテストだという。2Dのイラスト、あるいは3Dモデルなど制作方法はユーザーの好みとのこと。マップのテーマやレイアウト、バランスにおける考慮点なども併記して応募するように案内されている。
優勝者のマップは実際のゲーム内に完全に実装されるとのことで、マップのどこかに優勝者の名前も盛り込まれるという。また優勝者には『ITEMS』のSteamキーが贈呈される予定だそうだ。コンテストの実施期間は現地時間11月28日までとなる見込み。
こうした施策は一見すると、ユーザーからアイデアを募りゲーム内に実現するというファンサービスにも見える。とはいえ、FNTASTICが「コンテンツの開発をユーザーに任せるようなキャンペーン」を実施している点には、冷たい目も向けられている様子だ。
過去の問題ゆえに
というのも、FNTASTICは『The Day Before』開発当時、ボランティアスタッフの扱いを巡って物議を醸したことがある。同スタジオでは“パートタイムボランティア”と呼ばれるスタッフが、ローカライズやコミュニティのモデレーション、そして「ユニークなスキルを活かしたプロジェクトの改善や、新しい特別要素の制作」、バグ探しやチート対策などを担当。スタジオ規模にもよるものの、本来なら金銭報酬が支払われうるような業務であるにもかかわらず、金銭報酬ではなくソースコードや「貢献証明書(participation certificates)」というかたちで報いられていたという。フルタイムのスタッフに採用される場合もあったとされるものの、「無償で働けば正規雇用する」という不適切な構造になっていた可能性があり、波紋を広げていた(関連記事)。
一方、スタジオの再始動にあたってFNTASTICは、「FNTASTIC 2.0」と題したスタジオの“リカバリープラン”を発表。その中で外部のボランティアを参加させる慣行を取りやめ、プロフェッショナルとしてのアプローチに全力で取り組むと明言。業界のプロや専門家を集め、既存のスタッフのスキルを向上させると掲げていた。
そうした中でおこなわれた今回の『ITEMS』のマップ募集コンテストは、FNTASTICがゲーム開発をまたもや“有志”に頼ったようにも見える。あくまで優勝者のマップ1種類のみが『ITEMS』に採用される予定とみられるものの、“プロフェッショナリズム”をアピールする再始動後のスタジオ方針とは食い違う施策といえるかもしれない。そうした施策がFNTASTICにてさっそくおこなわれた点には疑念も生じているようだ。
なおFNTASTICは、昨年12月のスタジオ閉鎖発表の翌月となる今年1月に、閉鎖を伝えていた投稿を削除しつつ、スタジオに向けられた“匿名の情報源”による批判への反論を投稿。しかしすぐさまその声明を削除するなど、一貫性に事欠く対応をしていた(関連記事)。『The Day Before』の品質だけでなく、さまざまな混乱を巻き起こしていたことからも、業界やユーザーからは厳しい目が向けられ続けている状況だろう。再始動を掲げる方針にブレも見えるなか、そうした疑念を晴らせる日は来るのだろうか。