人気ゲーム開発者が、新作開発でやらかした“痛恨のしくじり”を詳しく打ち明ける。計画に反し「約6年・開発費約3000万円」もかかったのはなぜか


人気ゲーム『Tangledeep』を手がけた開発者が、新作発売までの6年間を振り返って“しくじり”をつまびらかに語っている。予想外の開発費・開発期間肥大化を招いたのは、「グラフィックスタイルの選択ミス」「ジャンル設定のミス」など複数の理由だったとのこと。

今回ゲーム開発中のあやまちについて語ったのは、インディースタジオ・Impact Gameworksの設立者であるAndrew Aversa(通称Zircon)氏だ。同氏が手がけた『Tangledeep』は、Steamにて約半年間の早期アクセス期間を経て正式リリース。PS4/Nintendo Switch向けにも展開され、日本国内プレイヤー含め人気を博した(関連記事)。同作は全プラットフォーム累計で25万本以上を売り上げるヒットとなったそうだ。

『Tangledeep』

そしてImpact Gameworksは、今年9月26日には新作『Flowstone Saga』をリリース。同作もなかなか好調な滑り出しと見られるものの、その開発中にはさまざまな“しくじり”があり、当初の計画を遥かにオーバーする支出と開発期間がかかったという。今回Redditのゲーム開発コミュニティにてAversa氏当人が、「新作開発で、具体的になにをどうしくじったか」を事細かに明かしている。

Aversa氏の投稿によれば、2019年に開発始動された『Flowstone Saga』が、リリースに漕ぎ着けるまでの開発期間は実に約6年、予算にして20万ドル(約2840万円)以上を費やしたという。同氏はそうして初期の予想より遥かに多く開発リソースを消耗した主な理由について、5つを振り返り紹介している。なお、Aversa氏は『Flowstone Saga』開発にあたり、リードプログラマー・共同デザイナーなどの役割を兼ねていたとのこと。

『Flowstone Saga』




1.作品にあわないグラフィックスタイルで作り込んでいた

Aversa氏によれば、開発期間のうちおよそ2年間は、2Dの横スクロールスタイルを想定してのグラフィックアセット制作に費やされていたという。カットシーンも横スクロール画面で展開されるようになっていたそうだ。なお、そうした描画スタイルは、当時のゲーム設計における探索可能エリアに限って実装予定だったという。

しかし、開発陣が後になって見下ろし視点スタイルを試してみたところ、そちらのほうが遥かに見た目もさわり心地もよくなったという。そうした結果を受けて、今まで横スクロールで制作されていた部分も見下ろし視点へと切り替え。何百時間と費やしたアートデザインを破棄し、「すべてを最初からやり直す」羽目になったという。Aversa氏は、「100%グラフィックのスタイルが正しいと確信を得られるまで、そのスタイルで大量のアセットを作るのは止めた方がいい」と総括している。

初期段階の『Flowstone Saga』グラフィック
現在のグラフィック




2.間違った方向にアピールしていた

『Flowstone Saga』の作品メインコンセプトは、「落ち物パズルと(J)RPGの融合」だ。ただ、開発陣はこのコンセプトの伝え方を当初しくじっていたという。本作は開発開始の翌年・2020年には『Puzzle Explorers: A Tangledeep Story』とのタイトルでKickstarterキャンペーンを実施、2万ドル(現為替レートで約284万円)を目標額としていた。当時の作品の見せ方としては、落ち物パズル要素にフォーカスし、パズルゲーム好きに向けてアピールしていた。

しかし、Aversa氏によればこうしてパズルゲームファンにアプローチする方向性は失敗だったという。上述のKickstarterキャンペーンは、目標額の約半分にしか届かずキャンセルに。そこで開発陣は、本作のパズル要素ではなく、いわゆるJRPG(日本産RPG)風の要素を強めることに舵を切ったそうだ。

具体的には、地点ノードを選んでマップを移動するシステムを取りやめ、探索可能なエリアやダンジョンを拡充。キャラビルドやスキル/ジョブシステムのほか、サイドクエスト要素などを盛り込みアピールしていったという。

そうした要素を押し出し、2021年に実施された2回目の本作Kickstarterキャンペーンは遥かに好調に進行。前回と同じく2万ドルを目標額としたところ、キャンペーン終了まで余裕をもって目標を達成した。最終的には、目標額の2倍以上となる4万4186ドル(現在の為替レートで約627万円)を集めることとなった。Aversa氏は、こうした流れについて「パズルファンはもっと違うゲームを求めていたのだろう」と分析。オーディエンスの好みをもっとよく研究し、早期から正しい見せ方をするべきだったとした。




3.開発とテストが難しいジャンルを選んだ

Aversa氏によれば、JRPG風ゲームはインディースタジオが開発するにあたり、ほかジャンルより比較的開発難易度が高いという。テキスト・カットシーン・マップ・キャラクター・アニメーション・アイテムなど大量の制作を要求され、なおかつアセットの再利用も難しいからだそうだ。

またAversa氏は自身の見解として、JRPGはリニアなデザインが多く、ベータテスターなどに繰り返し遊ばせてフィードバックを貰うのが難しいジャンルだと考えているとのこと。結果として、同氏は“お金で解決”する道を選ぶことに。料金を支払い、QAサービスの助けを借りたという。一連の施策の結果、本作のウィッシュリスト数は発売前で約1万8000に。Aversa氏は、セールス的には恐らく赤字にはならないものの、苦戦するだろうと推測。「成功しやすいゲームジャンルを選ぶ」ことが大事であると説いている。




4.「開発ツールの開発」が遅すぎた

Aversa氏によれば、本作には300以上のカットシーンが含まれるという。それらはすべて普通テキストによるスクリプトで記述されており、デザイナーやライターらが苦労して制作したとのこと。「テキストエディターでスクリプトをいじり、読み込んでカットシーンを一から見直す」といった大きな手間がかかったとのこと。

そうした状況を受けて、本作開発後半にはエンジン内で動作するカットシーンエディターが数か月をかけて開発されたという。しかし、機能が貧弱かつ、作業者はみんな既にテキストエディターでのカットシーンづくりに慣れきっており、開発されたカットシーンエディターは使われることがなかったそうだ。Aversa氏は、「ゲーム開発では往々にして、開発専用ツール作りに時間を使うのはやめた方がいい」という前提を伝えつつも、「必要なツールはもっと早く作っておくべきだった」との反省を示している。




5.開発期間が長すぎた

そしてAversa氏らは、根本的に本作開発プロジェクトの規模を見誤っていたという。いくつかの要素を削ったものの、開発期間は幾度も伸びに伸び、当初2022年にリリースするつもりだった本作は、最終的に2024年9月26日リリースとなった。複数の難易度・戦闘モードがあり、プレイヤースキルも絡むゲームの開発は難易度が高く、なおかつImpact Gameworks自体がこのジャンルの作品を手がけたことがない点も問題に。予算や開発スケジュールの正確な予測ができず、結果的に開発が長引くこととなったそうだ。

Aversa氏は、こうした“しくじり”を列挙しつつ「物事のいいところばかり見て、自分を慰めても得はない」と語った。一方で、同氏は完成した『Flowstone Saga』を誇りに思っており、よい出来栄えになったと自信をもって伝えている。

また同氏は一連の出来事における学びの総括として、「2作目のゲームを開発する際には1作目の経験を活かせないようなまったく別の作品にはしない方がよい」とコメント。「私のような苦労は味わわないでほしい」と締めくくった。なお、Aversa氏はほかにもさまざまなゲーム開発にまつわる質問に回答しているので、気になる方は該当スレッドをチェックしてみてほしい。

『Flowstone Saga』は、PC(Steam)向けに発売中。10月4日までは、20%オフの1600円(税込)で購入できる。ゲーム内は日本語表示にも対応している。2025年には、Nintendo Switch向けにも展開予定だ。