『ファイナルファンタジータクティクス – イヴァリース クロニクルズ』では「ソースコードが失われたオリジナル版」を徹底再現。“ファンによるデータサイト”まで活用する総力戦

『ファイナルファンタジータクティクス - イヴァリース クロニクルズ』の開発では、オリジナル版のマスターデータやソースコードが失われていたことが大きな困難になったという。

ファイナルファンタジータクティクス – イヴァリース クロニクルズ』(以下、イヴァリース クロニクルズ)の開発では、オリジナル版のマスターデータやソースコードが失われていたことが大きな困難になったという。ディレクターの前廣和豊氏によれば、ファンがデータをまとめたサイトなども活用されたことで「オリジナル版の『ファイナルファンタジータクティクス』を見つけ出す」ことができたそうだ。

本作は、1997年発売のタクティカルRPG『ファイナルファンタジータクティクス』の決定版と銘打たれている。本作では、グラフィックスの進化、UIの全面一新、現代版として大きく加筆・調整されたフルボイス対応のストーリーを楽しめる「エンハンスド」を収録。さらにオリジナル版をできるだけ忠実に再現したという「クラシック」も用意される。

『イヴァリース クロニクルズ』ではオリジナル版を制作した主要メンバーが再集結しており、当時イベントプランナーであったc氏がディレクターを担当。またオリジナル版で脚本・シナリオ・編集を務めた松野泰己氏が脚本への加筆修正および監修に携わり、アートディレクターは引き続き皆川裕史氏が担当している。

このたび8月29日から9月1日かけてアメリカ・シアトルで開催されていたPAX West 2025にて、前廣氏と皆川氏が登壇。本作の開発にあたっての裏話が披露された。

このなかでは前廣氏に向けた、オリジナル版のソースコードについての質問も飛び出した。というのもスクウェア・エニックスの英語公式サイトにて6月に掲載されたインタビュー記事で同氏は、本作オリジナル版のマスターデータとソースコードが失われていたことに言及。当時のゲーム開発は発売後のアップデートなどの必要がなく基本的には完成したら終わりであり、そうしたデータを保持することは一般的ではなかったという。オリジナル版のマスターデータとソースコードがない状態で『イヴァリース クロニクルズ』を開発するにあたり、大きな課題がいくつも生じたそうだ。

前廣氏によると、そうした問題は“純粋な力”で解決されたとのこと。既存のバージョンを解析することでオリジナル版のプログラミングを再構築したほか、オリジナル版をプレイした感覚で解決した部分もあるという。前廣氏は『イヴァリース クロニクルズ』の開発において(「エンハンスド」にて)新機能を取り入れる傍らで、たとえば古いアーケードゲームをファミコンに移植するような作業がおこなわれてきたと説明。携わってくれたスタッフはまさに救世主のような存在であり、感謝してもしきれないと述べていた。

「エンハンスド」
「クラシック」

そして今回のPAX West 2025の檀上では前廣氏が、ソースコードに関してより詳細な説明をおこなっている。同氏によると当時はプログラムやデータの更新を管理できるツールもないため、日本語版に“上書き”するかたちで英語版など別の言語版を開発する方式がとられていたとのこと。そうしたなかで、大本になったオリジナル版のソースコードが失われていったようだ。また後年開発されたPSP版といった移植作品についてはそれぞれのプラットフォーム向けに最適化されており、オリジナル版とは異なっていたという。

とはいえ開発チームは、すべてのバージョンの『ファイナルファンタジータクティクス』を解析。さらに時にはファンがデータ等をまとめたウェブサイトを確認して、「オリジナル版の『ファイナルファンタジータクティクス』を見つけ出す」という工程を踏んだという。非常に大変な工程だったものの、エンジニアチーム、そしてファンの力があってこそ『イヴァリース クロニクルズ』としてオリジナル版を蘇らせることができたと前廣氏は伝えている。

過去の作品がリマスター・リメイクされるにあたっては、当時のマスターデータ等が失われているといった例はしばしば見られる。たとえば同じスクウェア・エニックス作品においては、『キングダム ハーツ』第1作が『キングダム ハーツ HD1.5リミックス』としてリマスター移植される際にも、オリジナルのデータがほとんど失われていたことを野村哲也氏が公式インタビュー動画で明かしていた。この際には完成したオリジナル版のゲームの中からデータを掘り起こして手作業で解析し、足りない部分の作り直しもおこなわれたそうだ。

このほかNaughty Dogが手がけた『クラッシュ・バンディクー』の第1作が、Vicarious Visions(現・Blizzard Albany)により『クラッシュ・バンディクー ブッとび3段もり!』としてリメイクされた際にも類似の問題は発生。ソニー・インタラクティブエンタテインメントとNaughty Dogから提供されたオリジナル版のデータは主に3Dメッシュのみで、そのほかは作り直しになったという(Ars Technica)。

上述したメーカーに限らず、記録媒体の容量や管理ツールが限られていた当時は開発完了した作品のマスターデータをすべて保持することは一般的ではなかったのだろう。そうした背景もあってか復刻にあたってフルリメイクされる作品も多いなか、『イヴァリース クロニクルズ』ではあえて手間暇をかけながら現代向けモードとオリジナル版の忠実再現モードの両方が用意されているようで、注目点のひとつとなりそうだ。

ファイナルファンタジータクティクス – イヴァリース クロニクルズ』はNintendo Switch/Nintendo Switch 2/PS5/PS4/Xbox Series X|S向けに9月30日に、PC(Steam)向けに10月1日に発売予定だ。

Hideaki Fujiwara
Hideaki Fujiwara

なんでも遊ぶ雑食ゲーマー。『Titanfall 2』が好きだったこともあり、『Apex Legends』はリリース当初から遊び続けています。

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