『Fallout: New Vegas』、1年半の特急開発だった。不具合も多かったが「自由度の高さ」にこだわった結果


Fallout: New Vegas』の開発チームは同作発売当時、バグの多さを指摘されたり、『Fallout 3』との類似性を批判されたりといったユーザー反応を覚悟していたという。実際そうした指摘が寄せられたことに心苦しさもあったものの、短い開発期間で「自由度の高さ」を確保するという譲れない方針があったようだ。同作の開発を率いたJosh Sawyer氏が海外誌Edge Magazineに向けて伝えた内容を、GamesRadar+が報じている。

『Fallout: New Vegas』は、2010年10月にリリースされたRPG『Fallout』シリーズの第4作だ。ゲームエンジンやシステムはBethesda Game Studiosが手がけた2008年リリースの『Fallout 3』をベースにしつつ、新たに独自の要素もさまざま盛り込まれたゲームとなっていた。


『Fallout: New Vegas』の舞台となるのは核戦争後のアメリカ南西部「モハビ・ウェイストランド」。主人公は、ある物をニューベガスに届ける任務を与えられた運び屋だ。しかしニューベガスまであと一息のところで謎の男たちに襲われ、荷物を奪われて瀕死の重傷を負ってしまう。田舎町グッドスプリングスの医師に助けられた主人公は、勢力争いの只中にあるモハビ・ウェイストランドを放浪することになる。

本作を手がけるのはObsidian Entertainment。シリーズ第1作『Fallout』および第2作『Fallout 2』を手がけたBlack Isle Studiosを前身とするスタジオだ。


“最後かもしれないチャンス”と厳しいスケジュール

今回、本作のディレクター兼リードデザイナーを務めたJosh Sawyer氏が、海外誌Edge Magazineのインタビューにて、本作の「バグの多さ」について振り返っている(GamesRadar+)。まず同氏によれば、本作の開発についてBethesda Softwareと契約が結ばれたのは思いもよらぬチャンスだったという。同氏にとっては(元Black Isle Studiosのスタッフも多くいたObsidian Entertainmentが)ふたたび『Fallout』IPに携わるという、貴重なチャンスだと考えていたようだ。また同氏には、同IPに携わる最後の機会になるかもしれないという覚悟もあったという。

一方で、『Fallout: New Vegas』の開発期間は約1年半しかなかったという。比較としてたとえば2008年10月に発売された『Fallout 3』は、2004年7月に開発が発表。本格的に開発が始動したのは2006年3月に発売された『The Elder Scrolls IV: Oblivion』の完成後とされるものの、それでも少なくとも2年半程度の開発期間があったとみられる。一方『Fallout: New Vegas』では世界観の構築なども含め、プリプロダクション段階から1年半で作り上げる必要があったのだろう。かなり厳しいスケジュールだったようだ。


そのため開発においては先述のとおり『Fallout 3』をベースにしつつ、Bethesda Game Studiosから共有された技術も活用されたという。これは、当時のJosh氏が使用したことのあるどのエンジンやツールセットよりもコンテンツを迅速に制作できるほど強力な開発環境だったとのこと。

とはいえスケジュール通りに『Fallout: New Vegas』を完成させることは難しく、結果として本作はバグを多く抱えた状態で発売に至ったようだ。Josh氏によればバグの多さの指摘ほか、「『Fallout 3』の焼き直し」といった批判は開発チームとしても想定していたものの、発売後に殺到した点は非常に心苦しかったとのこと。


譲れなかった方針

しかし開発チームとしては、開発中にそうした課題点よりも優先して取り組んでいたことがあったそうだ。それは、クエストや本筋の攻略アプローチにおける複雑さと自由度、そして味方する勢力を選べるところだという。本作ではニューベガスにたどり着いた後、どの勢力に与するかに応じて、ストーリーラインが大きく分岐を見せる。

また各クエストの攻略方法も異なり、そもそもメインクエストを飛ばして攻略フローを大きくスキップすることも可能だ。たとえば本来ゲーム序盤に用意されたさまざまなメインクエストや導線をたどりながら訪れるはずのニューベガスにも、開始直後から直行して、レベル1でたどり着くことさえ可能となっている(関連記事)。


そうした作りは、ユーザーが初回プレイではあまり意識しないかもしれないものの、時間を経て繰り返し遊ぶことで、分岐や攻略自由度の幅広さに気づいてくれることを信じていたという。Josh氏によればプレイヤーが好きなようにゲームを攻略できる自由度は、本作の開発にて重視されていたと振り返っている。

つまり、限られた開発期間のなかで、「自由度の確保」が優先されていた方針はあったようだ。そのため発売にデバッグが間に合わなかった背景もあるのか、先述のとおり本作は、発売後にバグやフリーズの多さが目につくとする批判も多く寄せられ、特にコンソール版についてはかなり苦しい状況にあった。当時複数回のパッチで修正が実施されたものの、特にPS3版ではいまだに不具合やパフォーマンスの問題が残っているとされる(関連記事)。

当時はJosh氏も「PS3版の不具合についてはメモリ容量の問題である」と伝えるなど対処に真剣に取り組んでいた。1年半というスケジュールのなかで開発されたものの、結果としてバグの多さから必要な対応が増えてしまった可能性さえありそうだ。

とはいえ本作はそのリプレイ性の高さからか、非公式Modコミュニティも賑わいを見せるなど、長きにわたり遊ばれ続けてきた。短期間で作られたスピンオフ的立ち位置の作品としては、かなり根強い人気のある作品といえるだろう。そうした評価の背景には、開発期間が限られているなかでの苦肉の策として、力業で優先順位が付けられたことが功を奏した側面もあるかもしれない。


ちなみにObsidian Entertainmentからは『The Outer Worlds』や『Pentiment』といった作品がリリースされ、高い評価を得ている。早期アクセスとして開発された『Grounded』も含め、しっかりとした開発期間がとられているとみられ、『Fallout: New Vegas』の開発当時と違ってブラッシュアップしてからリリースする方針があるのだろう。

直近のスタジオ新作としては、ファンタジーRPG『Avowed』が来年2月18日にリリース予定。また宇宙RPG『The Outer Worlds 2』も開発中だ。Josh氏は過去に、このうち『Avowed』に「携わっていない」ことを明言しており、別のプロジェクトを開発中であると伝えていた。『Pentiment』以来の同氏が手がける新作についても、続報に注目したい。