戦争系ゲームの動画と共に“イスラエルの戦闘機をイランが撃墜”とのデマが広まる。雑編集・悪質フェイク
『Arma 3』や『War Thunder』といったゲームのプレイ映像が、現在発生しているイスラエル・イラン間の軍事衝突の映像と偽って拡散されているようだ。

イスラエルとイランの間では6月13日より軍事衝突が発生。本稿執筆時点でも戦闘、対立が続いている。そんな中、SNS上では現地の様子として戦闘の映像などが共有されることもあるが、『Arma 3』や『War Thunder』のゲーム映像が、現実の戦争の映像と偽って拡散されているようだ。PC Gamerなどが報じている。
イスラエル軍は6月13日、イランの核開発に対応するためとして先制攻撃を実施。イラン中部に位置するナタンツの核施設や軍事施設などに対し、数十か所に攻撃をしたとしている。イラン側はこれに対し報復攻撃を実施。弾道ミサイルを発射し反撃の姿勢を強めている。軍事衝突にあたっては、民間人が巻き込まれ犠牲になるなどの被害も多く報告されている。
そうした中、ミリタリーゲーム『Arma 3』や『War Thunder』の映像が、イスラエル・イラク間の戦闘における映像として誤って拡散され、混乱を招いている。たとえば「イラン軍がイスラエル軍の戦闘機を撃墜した」という説明で投稿されたポストには、『Arma 3』の映像が用いられている。
上記のXポストは、2022年にYouTube上に投稿された、MiG-29をCounter-RAMで撃墜する映像の切り抜きだ。元動画のキャプションでは、映像が『Arma 3』にて撮影されたシミュレーション映像であることが明記されている。しかしXポストによって“現実の映像”として拡散されるなかでは、こうした注釈が省かれ、イラン軍とイスラエル軍の戦闘映像であるかのように説明されている。
またイスラエル軍のF-35をイラン軍の防衛システムが迎撃し、破壊したとする映像では、そもそもF-35が登場していない。元動画では、『War Thunder』にてF/A-18Cを短距離防空ミサイル9K33 オサーが撃墜するものとなっている。Xで偽情報として拡散されている動画では、元動画の「This video is gaming content, just for fun!(この映像はゲームコンテンツです。ただ楽しむためのものです!)」というテロップに上から字幕を被せるという強引な編集で、意図的に戦闘映像に誤認させようとする悪質なものとなっている。
これらの映像は本稿執筆時点ではすでにコミュニティノートやリプライなどで指摘、背景情報の追加がおこなわれている。しかし、そうした指摘がなければ、実際の戦闘映像であると誤認するユーザーも出てしまうだろう。
今回映像が悪用されることになった『Arma 3』は、Bohemia Interactiveが手がけるサンドボックス型のミリタリーFPS/TPSゲームだ。ゲームプレイでは、プレイヤー自身で作戦を組み立てて目標を攻略する。ゲーム内には架空の銃を含むさまざまな銃器や、軍用車両・航空機が登場し、本格的なミリタリー要素を楽しめる。ユーザーによるMod制作も盛んで、実在の銃器や車両、航空機を再現したModも多くあり、過去の戦場や今後想定される戦場をある程度模することも可能となっている。
そして『War Thunder』はGaijin Entertainmentが手がけるMMOコンバットゲームだ。大戦期から21世紀初頭までの実在した航空機・戦車・艦艇を操り、チーム戦などをプレイすることができる。その種類は2000種にも上り、2014年の時点で「もっとも多くの機体が搭乗するフライトシミュレーションゲーム」としてギネスに登録されるほどの豊富さを誇る。
こうしたリアルな描写や表現、実在の兵器、機体などが登場するゲームの映像が、虚偽のニュースとして用いられたかたちだ。ちなみに『Arma 3』のゲーム映像は過去にもたびたび戦争のフェイクニュースとして悪用されたことがあり、ロシアのウクライナ侵攻の映像と偽って拡散されたり、イスラエルとイスラム組織ハマス間の戦闘における映像として公開されたりしたことがある(関連記事1、関連記事2)。これを受けて、『Arma 3』開発元のBohemia Interactiveは、フェイクニュースの見分け方で目安になるポイントを公開するといった対応も取っている。
今回のイスラエルとイランにおける軍事衝突を偽る映像でも、そうした見分け方が有効となりそうだ。もしSNS上で戦闘映像と称するものを発見しても、複数の情報源での確認や、信頼できる発信元か、といった情報も踏まえつつ、慎重に判断したい。