『ARC Raiders』開発チームは、多脚ロボAIが“勝手に進化”して困っていた。「急に二足歩行」「サーバー破壊ジャンプ」など人間vsズル賢い機械学習の知られざる争い
『ARC Raiders』には、ロボティクス分野の機械学習研究を応用した独自技術が使用されているという。

Embark Studiosは12月6日、ドキュメンタリーシリーズ「The Evolution of ARC Raiders」のエピソード3を公開した。今回のテーマは、本作の象徴ともいえる巨大ロボットたちだ。彼らがどのように歩き、転び、被弾に応じて部位が破壊されても動き続けるのか。その裏側には、従来のゲームAIとも、現代の生成AIとも異なる、ロボティクス分野の機械学習研究を応用した独自技術が存在するという。
『ARC Raiders』はPvPvE形式の脱出シューターで、ソロまたは最大3人で挑むことができる。舞台は謎の機械「ARC」によって荒廃した未来の地球。プレイヤーはならず者の「レイダー」として地表に出撃し、巨大ロボットや敵対プレイヤーと交戦しながら物資を集め、地下居住区「スペランザ」へ持ち帰ることを目指す。
エピソード1では純PvEからの方向転換が(関連記事)、エピソード2では基本プレイ無料モデルからの決別が語られたが(関連記事)、エピソード3ではいよいよ機械を表現するための技術に焦点が当てられている。
機械学習で巨大ロボを動かす
本作には空を飛ぶタイプから地上を移動するタイプまで、さまざまなARCが登場する。空中タイプとしては、軽量で動きの激しいワスプやホーネット、周囲をロケットで制圧するロケッティアといったドローン群が存在。一方、屋内戦を想定した地上タイプとしては、球体で転がりながら炎を吹きつける「ファイアボール」、素早く貼り付いて仲間を呼び寄せる「ティック」などが実装されている。
そしてこれらの敵は、一つひとつのパーツに至るまで、すべてが物理演算に基づいて動いているのだそうだ。各部位に質量や重力が設定され、被弾すればよろめき、パーツを失えば挙動が変わる。こうした仕組みについて、開発陣は本作を『ダークソウル』などの作品と比較している。同作のように敵の決まった行動パターンを作り出すことはできないという点で、ゲームデザインと衝突することも多いそうだ。ただ、たとえば敵のエンジンを吹き飛ばしたらそれがそばの他の敵に当たって墜落するといったように、まるで映画のような瞬間が意図せず自然に生まれることを目指したとのこと。

ただし、ビルほどのサイズの機械に物理演算を適用するのはまったく別次元の困難だという。ゲームエンジンや物理シミュレーションの特徴として、大きな質量を正しく処理することは難しく、足一本が数トンといった設定では不自然な挙動が発生したり、自重を支えきれずに横転したりしてしまったとのこと。巨体を動かすための力を与えつつも自然に見えるという丁度いいバランスを求めて、Embark Studiosは長い調整を繰り返してきたそうだ。
思い通りに動かないロボットたち
そこでEmbark Studiosが挑んだのが、機械学習による歩行制御(ロコモーション)だそうだ。敵が「どこへ向かうか」という判断はゲーム側のロジックが指示する一方で、「どう歩くか」「段差をどう越えるか」「脚を失ったときどう適応するか」といった動作そのものは、機械学習によって作られた“脳”が担当する方式となっているとのこと。現実で実際におこなわれているような機械学習を使ったロボットの訓練にも似ているが、『ARC Raiders』に登場するロボットはより大型で脚の数も多く、しかも戦闘中に部位破壊が起きる環境にも適応し続けなければならないというハードルが存在する。

一方で機械学習は、人間の想定外の“解決策”を出してしまうことも多かったそうだ。たとえば素早く移動するために地面に2本の脚以外を浮かせて走ったり、サーバーが処理できないほどの速度で脚を地面に突っ込んでジャンプしたりといった“抜け道”を学習してしまったとのこと。一度学んでしまった脳を調整するには長い時間が必要で、ゲームデザインチームと機械学習チームの作業がかみ合わないことも多々あったそうだ。
開発陣によれば、現状では機械学習によるロコモーションは当初の構想どおりには運用できておらず、ゲームの一部に組み込まれている程度だという。「当時の我々には少し早すぎた」と振り返りつつも、現在ではそうした技術に慣れてきたそうで、依然として野望を抱いていると語っている。

ドキュメンタリーの最後で開発陣は、予測不能な市場環境にあっても、ジャンルの既存の枠にとどまらず、ゲームプレイと技術の両面において積極的にリスクを取り続けるスタジオの姿勢を語った。今回紹介された機械学習ロコモーションもまだ完成形には達していないものの、さらなる挑戦に目を向けているようだ。『ARC Raiders』と『THE FINALS』の二作を通じて“実験的”なゲーム開発を続けてきたEmbark Studiosの今後にも期待したい。
『ARC Raiders』はPC(Steam/Epic Gamesストア)/PS5/Xbox Series X|S向けに発売中だ。
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