あるゲーム開発者が新作ゲームサブスク施策に失敗、「ゲームのサブスク入りは発売後1年間禁止にした方がいい」と警鐘を鳴らす

「ゲームは発売後1年間、サブスクリプションサービスに入ってはいけない業界ルールを設けるべき」との持論をある開発者が述べ、注目を集めている。

Raccoon Logic Studios(以下、Raccoon Logic)の開発者Alex Hutchinson氏が明かした、Xbox Game Passなどのサブスクリプションサービスに関する見解が注目を集めている。同氏には「ゲームは発売後1年間、サブスクリプションサービスに入ってはいけない業界ルールを設けるべき」といった持論があるという。

Raccoon Logicは、カナダに拠点を置くゲーム会社だ。SFアクションアドベンチャーゲーム『Journey to the Savage Planet』を手がけたことで知られ、後継作となる『リベンジ・オブ・ザ・サベージプラネット』が5月9日に発売された。同作はPC(Steam/Epic Gamesストア/GOG.com)/PS5/Xbox Series X|S向けにリリースされ、発売初日からPC/Xbox Game Pass向けにも提供されている。

本作は日本時間5月9日に発売され、5月20日にはプレイヤーが100万人を突破。人気作『Journey to the Savage Planet』の後継作として発表時から注目されており、Game Pass向けにも初日から提供されていたこともあってか、大きな盛り上がりを見せている。


Game Pass効果を実感できず

そんな本作を手がけるRaccoon Logicの共同設立者兼クリエイティブディレクターであるAlex Hutchinson氏に対し、海外メディアGamer Social Clubがインタビューを実施。このなかでは同氏により、ゲームのサブスクリプションサービスに関する興味深い見解も語られている。

まずAlex氏によれば、本作は『Journey to the Savage Planet』よりも遥かに速いスピードでプレイヤー数を伸ばしているという。Game Passでも多くのプレイヤーに遊ばれているものの、売上も好調とのこと。ウィッシュリスト登録者数も増加しており、今後も着実に売上が成長していくことが期待されているそうだ。

好調ぶりもうかがえる一方で、Alex氏によれば本作をGame Passに提供した“狙い”は果たされなかったという。というのも同氏によると、Game Passによって露出を増やしつつ、プレイヤーがDLCを購入したりフレンドにほかのプラットフォーム版をオススメしたりといった効果を見込んでいたそうだ。ただ同氏いわく、本作では今のところそうした影響が見られないという。

またAlex氏によれば数年前はGame Passへの提供で開発元に支払われる契約金は十分な額であったものの、現状では大型IPではない限り、契約金はそれほど大きくはない(it isn’t much)そうだ。同氏はマイクロソフトについては素晴らしいパートナーだとしつつも、(そうした契約金に満足できる)小規模開発ゲームではない限り、元を取るのは難しいことを示唆している。

そのためAlex氏は個人的な考えとして、業界全体で「発売後1年経ったゲームだけがサブスクリプションサービス入り可能」という合意が必要だと提唱。ゲーム開発には莫大な費用がかかるため、サブスクリプションサービスにおける知名度向上とビジネスの持続可能性のバランスを考慮したうえで、そうした考えに至ったそうだ。現状の発売初日にサブスクリプションサービス入りする構造が続けば、パブリッシャーのいないスタジオは深刻な打撃を受けることになるだろうと警鐘を鳴らしている。


Game Passに期待する効果の差

とはいえGame Passでは、過去にはたとえば2022年12月に『High On Life』が発売初日にPC/Xbox Game Passにて提供され、大きな成功を収めたことが報告されていた。直近でも今年3月に『Atomfall』が発売初日からPC/Xbox Game Passに配信され、大盛況となっていた(関連記事1関連記事2)。そうした過去の事例も含めて、Game Passでの配信がプレイヤー数を増やすだけでなく、エンゲージメントや関心の獲得に繋がり長期的な売上成長をもたらすという見解が業界では広く見られる。

対して今回の『リベンジ・オブ・ザ・サベージプラネット』はDLCの売上と、口コミでの新規層獲得という、より短期的な効果を見込んでGame Passへの提供がおこなわれた様子。追加クエストや装飾アイテムを求めるユーザーや、クロスプラットフォームプレイでフレンドを誘うようなユーザーが期待されていたわけだろう。『Journey to the Savage Planet』の後継作として元々一定の知名度があったこともあり、上述したようなGame Pass配信タイトルとは異なる狙いがあったようだ。

ただGame Passをはじめとするゲームのサブスクリプションは、ゲームを購入せず気軽に試したいというニーズも想定されたサービスといえる。そのため少なくとも発売後すぐにDLCを購入したり、フレンドに“布教”したりといった熱心なユーザーは、Game Passの主要な想定顧客層とは異なっているかもしれない。また同氏は長期的な目線では売上成長が見込まれていることも述べており、Game Pass提供による関心の高まりがそうした効果をもたらした可能性はある。


とはいえいずれにせよ、Alex氏はGame Passに本作を発売日から提供した結果について満足していない様子もうかがえる。ただ同氏が解決策として考えるような“1年待機ルール”は、解決策として現実的ではない。サブスクリプションサービスの運営側にとっては、利用者を集めるためにもなるべく新鮮な作品を提供しなければ立ちいかないだろう。

一方でAlex氏の発言からは、過去と比べてサブスクリプションサービスの契約金の相場が変化し、新たな悩みが生じていることもうかがえる。特に“中堅スタジオが手がける人気IP”は、発売初日のサブスクリプションサービス入りによって見込まれる売上損失と、得られるメリットとのバランス取りが難しくなった状況はあるようだ。

『リベンジ・オブ・ザ・サベージプラネット(Revenge of the Savage Planet)』はPC(Steam/Epic Gamesストア/GOG.com)/PS5/Xbox Series X|S向けに発売中。PC/Xbox Game Pass向けにも提供されている。

Hideaki Fujiwara
Hideaki Fujiwara

なんでも遊ぶ雑食ゲーマー。『Titanfall 2』が好きだったこともあり、『Apex Legends』はリリース当初から遊び続けています。

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