大手開発ホラーゲームにて、多数スタッフがクレジットから除外されていたとの報道。 “忠誠心”が足りなかった罰との証言も

『The Callisto Protocol』のクレジットから、スタッフの名前が消されたとする証言が報道されている。その中には長期間開発に携わった中核スタッフもいるといい、問題提起されている。

The Callisto Protocol』のクレジットから、スタッフの名前が消されたとする証言が報道されている。同作クレジットには、作品に携わったにもかかわらず名前の載らなかったスタッフが約20人いるそうだ。その中には長期間開発に携わった中核スタッフもいるといい、問題提起されている。GamesIndustry.bizが伝えている。

クレジットとは、その作品に携わった人々の名と役割をユーザーに伝える表示のことだ。映画におけるエンドクレジット(スタッフロール)や、ゲーム作品のクリア後などに閲覧できるクレジット映像がこれにあたる。

『The Callisto Protocol』は、海外向けに先月12月2日に発売されたサバイバルホラーゲームだ。国内向けにはCERO(コンピュータエンターテインメントレーティング機構)のレーティングを通過できなかったため、発売中止となった。開発を手がけるのはStriking Distance Studios。スタジオCEOであるGlen Schofield氏は、かつてVisceral Gamesにて『Dead Space』のエグゼクティブ・プロデューサーを担当した人物である。


なぜ除外されたのかもわからない

GamesIndustry.bizの調査によると、本作のクレジットには開発に携わったさまざまな部門のスタッフ約20人の名前が含まれていなかったという。同誌はクレジットから除外されたとする元Striking Distance Studiosスタッフ5名を取材。クレジットが除外された理由に関する各々の見解や、開発元の実態を訊いている。

今回クレジットから除外された開発者の中には、開発に大きく貢献した上位役職のスタッフや、Striking Distance Studiosの以前からSchofield氏と仕事を共にしてきた人物も含まれていたとのこと。もちろんそうしたスタッフたちは、長期間スタジオに在籍して開発に参加してきたそうだ。当該スタッフたちはクレジットから除外される旨を伝えられておらず、なぜ除外されたのかも定かではないという。

一方で取材を受けた元スタッフの一人は、クレジットに載ったスタッフたちの選定基準のひとつに「上層部の“お気に入り”かどうか」といった要素があったと断言。さらに元スタッフたちは今回の取材において、Striking Distance Studiosの厳しい職場環境についても証言している。


労働環境についての報告

まず挙げられたのは労働時間についてだ。Striking Distance Studiosの経営陣は、本作をAAA(大規模開発)ゲームを超える「Quad A」ゲームにするという方針を掲げていたそうだ。それが圧力になってスタッフたちは過酷な労働環境、いわゆるクランチ状態におかれていたとのこと。

また開発メンバーを急激に増やしたことで、チーム間で進捗を確認し合う会議も増加。会議により業務時間が圧迫され、人によっては自分の仕事をこなすだけで過度な残業をせざるを得ない状態にあったという。取材を受けた元スタッフの一人は、そうした状況下でも必死に開発に尽力し続けたメンバーでさえ、「製品出荷前にスタジオを抜けた」といった理由により、クレジットからの除外という形で罰せられたのではないかと述べて問題視している。

ほかには、クレジット除外されたスタッフはスタジオ上層部から「“忠誠心”が欠如している」とみなされたのではないかとの推察もある。ある元スタッフは、スタジオで過ごした時間に満足していたと語る。Schofield氏を含めスタッフたちとも良好な関係を築いていたものの、退職に際して何らかの形で軋轢が生じてしまったそうだ。結果としてスタジオを去った同スタッフの名は、クレジットに載ることがなかったという。

【UPDATE 2022/1/10 21:23】
スタッフの証言などに関する記述を修正

なおSchofield氏は過去にスタジオ内の過酷な労働環境を示唆し、ユーザーや業界人から批判を寄せられたことがある(関連記事)。後に撤回したものの、同氏は長時間労働はゲーム業界の常であるとの旨を述べていた。『The Callisto Protocol』におけるクレジット除外の基準は定かではない。しかしながら、元スタッフたちの語ったような過酷な労働環境が存在した可能性はある。


業界で議論され続けるクレジット問題

ゲーム開発に尽力したスタッフが作品にクレジットされないケースはしばしば指摘され、議論を呼んでいる。国内においては、そうしたケースが開発者個人からたびたび報告されているほか、クレジット意識の強い海外でも同様の事例は存在。たとえば『メトロイド ドレッド』では、開発元MercurySteamの元スタッフ複数名がクレジットへの未記載についてメディアを通じて証言。自身らが手がけたアセットやアニメーションが作品に用いられているのにも関わらず、クレジットに名前が載っていないと嘆いた。一方のMercurySteamは、未記載のスタッフがいることを認めつつ、「クレジットとして掲載するのは、一定開発期間携わったスタッフのみである」として弁明していた(関連記事)。

こうした問題の一因として、ゲーム業界のクレジット作成における明確な共通基準が設けられていない点があるだろう。この実態を受けて非営利団体・国際ゲーム開発者協会(International Game Developers Association・IDGA)は、ゲーム開発者のクレジット作成におけるガイドラインを策定している。たとえば開発期間の全工程の5%以上あるいは30日間開発に貢献したスタッフは、会社やプロジェクトを離れた場合でもクレジットされるべきであると定めている。一方でこのガイドラインに拘束力はなく、あくまでゲーム業界のクレジット作成時の基準となることを目的としたものだ。

そのほかIDGAは今年の4月より、クレジットにまつわる問題に対処するための専門グループを発足。クレジット映像の作成・編集の手間を省く技術的なアプローチが提案されるなど、多角的な状況改善が図られている(関連記事)。クレジットはユーザーにとっては制作者についての情報源となり、スタッフにとってはその作品に携わったことの証明ともなる。ゲーム開発の規模は膨れ上がっており、関わる人数は増え続けている。それぞれの開発者の役割が細分化されてきており、雇用も流動的。だからこそ、新たなプロジェクトに参加するための名刺代わりにもなるクレジットは重要になるだろう。IDGAの取り組みの結実を含め、ゲーム作品に貢献した人々が適切に記録される業界文化を期待したい。

Hideaki Fujiwara
Hideaki Fujiwara

なんでも遊ぶ雑食ゲーマー。『Titanfall 2』が好きだったこともあり、『Apex Legends』はリリース当初から遊び続けています。

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