ゲームにおける「開発者がスタッフクレジットに載らない/作るの大変」問題に、団体から新提案。鍵を握るのは工数削減か

 
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ゲームに携わった人々の名前を伝える「クレジット」。しかし、そこには必ずしも作品に携わったすべてのスタッフの名前が乗るとは限らない。時には開発者から不満の声があがるケースもある。そうしたクレジットにまつわる問題解決に取り組む、業界団体の専門グループが、技術的アプローチからの状況改善を提案しているようだ。

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クレジットとは、その作品に携わった人々の名と役割をユーザーに伝える表示のことだ。映画におけるエンドクレジット(スタッフロール)や、ゲーム作品のクリア後などに閲覧できるクレジット映像がこれにあたる。そうした映像では、ディレクターからスペシャルサンクスまで、作品のさまざまな段階に携わったスタッフや企業がクレジットされる。大規模な作品では数百人単位の名が列挙されることも珍しくないだろう。ユーザーにとっては制作者についての情報源となり、スタッフにとってはその作品に携わったことの証明ともなる、無くてはならない存在だ。

一方で、クレジットについては「開発に携わったにもかかわらず、名前が載らなかった」などの開発者の声があがることもある。たとえば『メトロイド ドレッド』では、開発元MercurySteamのスタッフ複数名がクレジットへの未記載について証言している。自身らが手がけたアセットやアニメーションが作品に用いられているのにも関わらず、クレジットに名前が載っていないというのだ。一方のMercurySteamは、未記載のスタッフがいることを認めつつ、「クレジットとして掲載するのは、一定開発期間携わったスタッフのみである」として弁明していた(関連記事)。この件に限らず、ゲーム開発に尽力したスタッフが作品にクレジットされないケースはしばしば指摘され、議論を呼んでいる。

『メトロイド ドレッド』

NPO団体国際ゲーム開発者協会(IGDA)は今年4月、そうしたクレジットにまつわる問題に対処するための専門グループ(Special Interest Group/SIG)を発足させている。ゲーム作品に適切なクレジットがなされるよう、取り組みを進めるグループだ。米IGNは8月11日、同SIGの取り組みについて報道。そのなかで、クレジット問題を緩和しえる新たなアプローチについて、SIGのメンバーより語られている。そのひとつが、「技術的にクレジット編集を簡単にすることで、スタッフの追記作業などのハードルを下げる」という提案だ。

クレジットを便利にする技術的アプローチについて語ったのは、Katie Golden氏。『Forza Horizon 3』以降の同シリーズ作品や『Destiny 2』などに携わり、現在はRiot Gamesにてプリンシパル(主要)プロデューサーなどを務める人物だ。Golden氏はまず、現状のゲームクレジット制作においてしばしば用いられるという、「動画ファイル形式」のクレジット映像についての問題点を指摘している。

もちろん、ゲーム作品によってクレジットの表示方法は違う。たとえば、ゲーム内の会話テキストなどと同様に、データをもとに映像としてレンダリングする方法があるだろう。一方で、クレジット映像上の演出などを含めて、「ひとつの巨大な動画ファイル」として制作し、それをゲーム内で流す手法もしばしば用いられる。ただし前述の通り、大規模ゲームタイトルには数百人単位でスタッフ名が列挙される。それだけの数のスタッフを列挙した映像となれば、動画ファイルサイズも再生時間も肥大化することになる。つまり動画ファイル形式のクレジットでは、開発メンバーを1名追加したり、名前を変更・削除するだけでも、長大な動画ファイル編集と出力の手間がかかるわけだ。

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Golden氏が語ったのは、そうした手間を省くことで、クレジットの編集を容易にしようというアイデアだ。たとえば、テキストなどで記述されたリストのファイルを入力してワンクリックするだけで、クレジット映像としてゲーム内に反映される仕組みを提唱している。Unreal EngineやUnity上の開発ツールのように、簡便にクレジットの編集ができるような仕組みを思い描いているようだ。アプローチとしては、「データを元にしたレンダリング手法」と同様だろう。同氏は、そうした手法がより手軽に利用できるようになるべきだと語っているわけだ。

またGolden氏は、「クレジット専門の担当者を設ける」といった取り組みの必要性についても語っている。というのも、同氏の個人的な経験として、現在のゲームにおけるクレジットシーンはエグゼクティブ・プロデューサーなど上位役職のスタッフが、多忙の合間に手がけているケースが多いという。その理由については、「重要なクレジットを手早くまとめて完成させる権限をもつ役職であるため」との見解が語られている。そうした状況において、クレジットされるスタッフに偏りが発生するようなケースも考えられるだろう。クレジットを専門に手がける体制が整えば、そうした弊害も避けられるということのようだ。

同SIGのメンバーたちは、ほかにも「性・名の前後の違い」「名前が変わった際の変更」「辞職したスタッフなどの追記漏れ」といった、クレジット編集を大変にする要素について語っている。クレジットにおける表記ミスや名前の割愛には、多忙極まる上位スタッフが、クレジット動画編集にまで手が回らないという現実的問題もあるのだろう。そうした状況を包括的に変えていくのが、同SIGの目的のようだ。

*IGDA公式サイト内の「Game Credits」ページ

一方で米IGNの記事では、そうしたクレジット制作フロー上の問題のほかにも、「契約社員など弱い立場の開発者が、クレジットに記載されない」といった問題についても触れられている。ほかにも、マーケティングやサポート業務など作品に必要不可欠な業務や、退職したスタッフなどがクレジットから省かれるケースもあるとのこと。ゲームに携わった人々の実績が適切に記録されるにあたっては、各企業の体質や掲載基準の見直しも必要となることだろう。